第8回 文字とタイポグラフィー
情報デザイン概論/2022|2022.11.21
対面授業 特設演習
CONTENTS
はじめに
学期末レポートについて
- テーマ: 情報環境の未来
ICTの進化、AIの導入、リモートワークの導入など、世界は大きく変わりつつあります。文献、ネット等にある知見を参照しつつ、情報環境がどのように変わるのか、またそれはどのようにデザインされるべきかについて、みなさん自身の視点で語って下さい。
- 形式:A4サイズ 1ページ(文字+図版)> PDF形式(.pdf)
- タイトル(中央揃え)
- 学籍番号と氏名(中央揃え)
- 本文(2段組 9pt程度)
- 序論:「問い」を発して、レポートの目的を明確にして下さい。
例:2030年、AIは我々の生活をどのように変えるのだろうか・・ - 本論:具体例を交えて話題を展開して下さい(図版の挿入も可)。
- 結論:はじめの「問い」に対する答えを、簡潔に記して下さい。
- 文体(である調、ですます調)については、自由とします*1。
- 序論:「問い」を発して、レポートの目的を明確にして下さい。
- 参考文献(7pt程度)
- 執筆年月日(右寄せ)
- 締切:12月26日(月) 授業最終回の日
- 提出先: inoue.ko ※ ip.kyusan-u.ac.jp (※ → @)
- 提出ファイル名:学籍番号.pdf 例:20DR000.pdf
割り付け参考イメージ:report.pdf
文字
文字は特殊な情報伝達媒体で、視覚情報であると同時に聴覚情報でもあります。
目は文字のゲシュタルトの連鎖から言葉をとらえ、 耳は音のゲシュタルトの連鎖から言葉をとらえる
人間の用いる言語の最大の特徴は二重分節で、文字の羅列によって、伝達できる情報の量は無限大です。
遠隔・非同期ツールとしての文字
文字は、人類最古の「遠隔・非同期」コミュニケーションツールです。
- 記憶の外在化と蓄積・保存 > 情報のモバイル化
- 情報の時間差伝達を可能に > 非同期コミュニケーション
数万年前 | 言葉の発生 | 情報の交換・リアルタイムコミュニケーション |
BC4千年紀 | 文字の発明 | 情報の蓄積・非同期コミュニケーション |
105年 | 紙の発明 | 情報のモバイル化 |
1440年頃 | 活版印刷 | 情報の拡散 |
1945年 | コンピュータ | 情報処理の自動化 |
1989年 | WWW | 情報共有のグローバル化 |
文字体系
文字には音が連動するものと、そうでないものがあります。
- ピクトグラム 絵文字
- 表語文字 漢字
- 音節文字 かな
- 音素文字 アルファベット
参考:英語の音、中国語の音
- http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2012-02-12-1.html
- https://cn-seminar.com/chinese-pronunciation-difficult-16771
文字の歴史
そもそも「文字の誕生」を境に「先史時代」と「歴史時代」が分かれるので、歴史は文字とともにある・・ということになります。
古代文明の文字
メソポタミア文明は楔形文字、エジプト文明はヒエログリフ、インダス文明はインダス文字、黄河文明は漢字・・4大文明はいずれも特有の文字を創り出しました。そしていずれも最後は滅びました。
- シュメール(メソポタミア)の楔形文字 紀元前3,500年
- エジプトのヒエログリフ 紀元前3,000年
- イランのエラム文字 紀元前3,000年
- インドのインダス文字 紀元前2,500年
- 中国の漢字 紀元前1,500年ごろ(甲骨文字)
アルファベット(紀元前1500年頃〜)
漢字 > 仮名文字
- 日本では4〜5世紀ごろ中国から入った漢字が文字利用のはじめ
- 漢字に単純に音を対応させた「万葉仮名」が7世紀ごろには成立
カタカナはその漢字の一部をとるかたちで成立 - 仮名文字は、奈良時代にめばえ、平安時代には運用されていたとされますが、諸説あって、成立時期がはっきりしない・・というのが実情です。
一般には平安時代の初期に作られたとされていますが、誰かがある時期に、計画的(政治的)に制定したものではないようです。 - 仮名書きの有名な文は、古今和歌集仮名序(紀貫之)
文字と社会
起源は農耕革命
文字は、農耕・文明のはじまりと同時期に誕生しています。それは広大な土地の支配、「富」の分配に関わる記録などに何らかの記号が必要になったためだと考えられます。くさび形文字の原型は、シュメール人の日用品や農産物について、その数を表すトークン(粘土の玉)を粘土板に押し付けて記録する行為から派生したと考えられています。
獲ったものをその場でシェアする狩猟採集社会では富の記号化・記録は不要です。その証拠に、現在も狩猟採集生活を続けるサン、ハッザ、アボリジニ、ヤノマミ・・いずれも「文字」をもちません。
格差は文字にはじまる
言語文法は自然発生的ですが、多くの文字は恣意的・政治的に発生しています*2。言葉・音楽・絵画、いずれも見よう見まねで習得することが可能ですが、文字は恣意的に作られたものであるため、個人が文字の読み書きを身につけるには「文字の仕組みの開示」あるいは「教育」が必要です。結果、それを読み書きできる人とそうでない人との間には、大きな「情報格差」が生まれました。古代社会では一部の人間が文字を独占することで支配者となり、一方で、文字の効用を知らなかった(気づかなかった)人々は、支配される民となったのです。
農耕革命は、文字と「格差」と「教育システム」を生み出したと言えます。
神話・宗教と文字
- 世界のどこをみても「神話」を持たない民は存在しません。神話の誕生は文字以前で、文字の誕生までは基本的に口承(口頭のみで後世に伝えられる形態)で受け継がれたものと考えられます。
- 宗教は一般に「教祖」と「経典」すなわち文字で著された書物を持ちますが、日本の神道*3は特異な存在で「教祖」も「経典」もありません。*4
バベルの塔
神は言語の一元化に No! をつきつけました。昨今の自動翻訳システムは文化の多様性と文明の成長の双方を実現するツールと言えるかもしれません。
日本の言葉と文字
日本の文字文化の特殊性
- ひらがな、カタカナ、漢字。3種類も混在する。
- 文字数が多い分、一文字を符号化するのに大きな情報量が必要
- 日本語の符号化には2B(16bit:216 = 65536)必要
現在は文字コードとして UTF-8 を使うため、実質的には一文字3バイトです。 - アルファベットの符号化は1B(8bit :28 = 256)で十分
- 日本語の符号化には2B(16bit:216 = 65536)必要
- 2バイト文化圏ではフリーフォントに限界。大半は有料かつ高額
- 文字変換の煩わしさが日本のIT化の足枷となっている
ただし、日本の識字率は江戸時代から高い(地域格差あり - 日本語は母音中心の言語
虫の声は欧米人にはノイズでも、日本人には「声」 - 日本の紙面には「縦組み」と「横組み」がある
やまとことば
太古より日本人が使い続けてきた言葉。日本語の文章の中の、漢語、外来語、また「〜する」という形の動詞以外のもので、一般に「訓読み」のもの
- 訓読み:音を聞いただけで意味が定まる → 歌詞、キャッチコピー
- 音読み:漢熟語、同じ音でも複数の意味(じしん:自身、地震、時針・・)
俳句について
- 世界最小の芸術 その情報量は、3B x 17 = 51B
- 時間情報(季語)を必須とすることで、空間と時間を総合的に伝える
- 七五調は、8beatの音楽
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タイポグラフィー
タイポグラフィーとは、一般に文字による表現全般、またはその技法のことを言います。現在では「文字を読みやすく、美しく配置すること」と「文字をデザイン要素として用いる手法」という2つの意味で使われています。
可読性や視認性はもちろん、書体、ウェイト、行間(レディング)、字間(カーニング)、そして全体のレイアウト文字に関わるデザイン要素を総合的にデザインする技術が求められます。
組版
組版とは、文字を一定の規則に並べ、印刷用の体裁を整えることを意味します。関連するキーワードについて概説します。
- 縦組・横組
日本の文字組には縦組みと横組みがあります。結果、日本の文字は正方形ベースでデザインされたものが多くなります。
- 一行あたりの最適な文字数は・・
- 横組:18 - 30字/行
- 縦組:15 - 40字/行
- 文字サイズ
文字のサイズとは 文字を囲む「仮想ボディー」の大きさです。- ポイント 1pt = 1/72 inch = 0.3528mm > 72pt = 1inch
アメリカンポイント(JIS) = 0.3514
ディドーポイント(ヨーロッパ) = 0.3759 - 級と歯 1Q = 1H = 0.25mm > 4Q=1mm 12Q=3mm
- emとは 全角一文字分のサイズ 活字の大文字Mに由来
- enとは 半角一文字分のサイズ
- ポイント 1pt = 1/72 inch = 0.3528mm > 72pt = 1inch
- 文字サイズの目安
小説などの本文は・・ 一般:9pt ( ≒13Q ) こども向け:12pt ( ≒16Q )
- 字間:文字と文字の間
和文の書籍では、字間0の「ベタ組み」が基本
- 行間:行と行の間
行間は、一般に文字サイズの 2/3 ~ 3/3 が一般的
- カーニング
文字間の調整 単位は、em : 1/1000 文字 (100em= 1/10 文字)
- トラッキング
複数文字の間隔の一律調整 単位は em
- 行揃え
左(頭)揃え / センタリング / 右揃え / 行頭行末揃え / 強制割付
通常は、行頭行末揃え(ジャスティファイ・箱組)
- 禁則処理
日本語の組版では、約物が行頭にあってはいけません。
それらを回避するための字詰め等の処理を総称して禁則処理といいます。
一般に、日本語に対応したソフトウエアでは自動的に処理されます。
- 約物とは
文章記述に使用する記号の総称。句読点・疑問符・括弧などの記号類
フォント
フォントとは一般に、同サイズ、同デザインの活字の一揃いのことで、
現在では、アウトラインがデジタル化された文字セットを指します。
- 書体とフォント
- 書体:同じデザイン要素をもつ文字の集まり
- 和文の場合 明朝、ゴシック、丸ゴシック、楷書・・
- 欧文の場合 ローマン、サンセリフ、スクリプト・・・
- フォント:書体を印刷用にデータ化したもの
- 書体:同じデザイン要素をもつ文字の集まり
- ちなみに「字体」とは
文字の骨組み形状のことで、旧字体・異字体の区別に使う言葉です。
例)「学」と「學」は字体が違います。「學」は旧字体です。
- 明朝体とゴシック体 / セリフ体とサンセリフ体
- 和文では、ウロコのあるものを明朝体、ないものをゴシック体と呼ぶ
- 欧文では、セリフのあるものをセリフ体、ないものをサンセリフ体と呼ぶ
ウロコもセリフも、筆やペンで書かれていた時代の名残りです。
- 読ませる文字 と 見せる文字
- セリフ系は「可読性」にすぐれる >「読ませる文字」
- サンセリフ系は「視認性・誘目性」にすぐれる >「見せる文字」
- 等幅とプロポーショナル
- 文字の幅がすべて同一にデザインされたものが等幅フォント
- 文字ごとに幅が最適化されたものがプロポーショナルフォント
- ウエイト
文字の太さ、肉厚のことです。EL L R M B H など
- 機種依存文字
機種依存文字とは、文字変換の際に警告マークが出る文字のことです。閲覧者の環境によっては正しく表示されない場合があります。
Google:機種依存文字 一覧
Webフォント
こちらのページで解説します。> WebFonts
APPENDIX
参考リンク
- フォントフリー
- フォントブログ
- フリーフォント最前線
- FONTS2Uオンラインコンバータ フォントの形式変換が可能です。