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情報デザイン概論/2022/1226

第14回 音楽

情報デザイン概論/20222022.12.26  

CONTENTS


はじめに

事務連絡

対面授業 特設演習

インターネット上のトラブル事例について

(補講回のアンケートより)

今回は音声・音楽がテーマです

我々ホモ・サピエンスにとって、文字よりも歴史が古く、最も身近に存在して、人と人をつないでいる情報、それが「音楽」です。これを機会に、音楽との関わりを深めていただければ幸いです。




音声

人は声帯を振動源として(男声約110Hz〜・女声約220Hz〜)、また喉から唇までの声道を共鳴腔として、複雑な音声を構成して情報を発することができます。
声帯は声の基本周波数を決め、声道(特に口の開きぐあいと舌の位置)が共鳴の性質を決めます。例外として、ささやき声の場合は声帯は振動せず、空気の流れを雑音源として共鳴のみで音を作っています。そしてもちろんその情報の大半は、話し言葉としての言語情報です。

我々は通常、話し言葉を構成する音節を単独に生成・識別することができます。
つまり音韻的な音色についての絶対音感をもっているわけで、たとえば日本人の場合、約100種類の日本語の音節による音韻体系をもって、言語情報を生成処理しています。参考までに述べると中国では400 以上、英語だと3000 以上と言われます。

この話し言葉の単位音節の生成・識別には、特に母音のホルマント(Formant、音を特徴づける成分音)の存在が重要で、例えば「イ」の音では 300Hz と2000Hz、「エ」の音では500Hz と1700Hz の成分が特に強いというような特徴があります。歌声(Singing Voice)の場合も、この特徴成分の発振を保持すれば、音程とは無関係に「イ」・「エ」の発声ができるというしくみです。
 その意味では歌声は、一種の楽器として捉えた場合、音の出しかたの自由度が大きい、非常に可能性の大きい楽器であると言えます。

我々は、このような音韻体系を聴覚系の形成と並行して(遺伝的ではない)習得し、生後18ケ月ごろにはほぼその基礎的な生成・識別能力を獲得しています。

MEMO:コンピュータによる音声合成




楽器

楽器(生楽器)は、弦振動や気柱管振動を利用して周期的な振動波を放射するものと、衝撃による自由振動波を放射するものとに分類されます。前者はいわゆる「楽音」として旋律や和声を形成するメロディー楽器群を意味し、後者は(振動に周期性がないため「音程」をもつことができない)「非楽音」を発生するリズム楽器群を意味します。

さて「ピアノ の音色」とか「バイオリンの音色」とか言う場合の音色ですが、これは時間軸上にグラフ化すれば「波形」として、周波数を軸としてグラフ化すれば、スペクトルパターンとして物理的に捉えることができるものです。

我々の耳が聴き分ける楽器の音色というものは、基本周波数とその倍音列*1の強度分布によって特徴づけられるもので、電子楽器がピアノに似た音やギターに似た音を生成する場合も、この倍音の分布パターンを様々な方法 でコントロールすることによってそれが実現されます。

以下、一般的な分類(管楽器・弦楽器・打楽器)にしたがって概説します*2

弦振動と打弦楽器・撥弦楽器・擦弦楽器

一般に弦の振動周波数は f = √(T/m)/(2L)で求まります。Tは張力、mは単位長さあたりの質量、L は長さです。この式の意味するところは、弦長 L が長く、また単位長さあたりの質量 m が大きい(つまり弦が太い)ほど周波数 f は低くなり、張力 T が大きいほど周波数 f が高くなるということです。身近な楽器であるギターをイメージすると理解 しやすいでしょう。弦が細いほど、弦を強く巻くほど音程は上がります。また、ギターの12フレット目は、弦の長さの半分の位置にあります。よって周波数は2倍、つまり音程が1オクターブ高くなります。

弦振動は、基本振動以外にもその2倍(中央に振動の節)、3倍(1/3のところに振動の節)‥といった倍音を含むことで様々な音色を作り出します。したがって弦楽器の音色は、振動の腹や節の位置に関わる「弦をはじく場所」や「弦に触れる場所」を変えることで様々に変化させることが可能です。

弦楽器はこのような弦振動により音を生成するのですが、弦そのものは表面積が小さい(すなわち放射抵抗が小さい)ため、直接大きな音を出すことはできません。そこで、この弦の振動を駒(ブリッジ)を介して共鳴板に伝え、この板を強制的に振動させることによって音を放射させます。
 いわゆるアコースティックな弦楽器では、この共鳴板が適当な容積をもつ箱に結合して、箱の中の空気をも共鳴させるかたちで音を放射しています。エレク トリックな弦楽器の場合は、弦と共鳴板(ソリッドボディが大半)の振動を、電磁形変換器やピエゾ抵抗変換器などで電気的な振動に変換して利用します。いずれの場合もボディの質量・形状・材質などがその音質に大きく影響します。

気柱管振動と管楽器

開管の共鳴周波数は、最も低いもの(基本周波数)が、 f = c /(2l) で、この整数倍の周波数の発振が可能です。c は音速、l は管長であり、管長が短いほど共鳴周波数は高くなります。(閉管の場合は f = c /(4l) で、この奇数倍の周波数が発振可能)。

管楽器の振動は、基本的には息を吹き込むという直流エネルギーの供給によって持続する振動で、これを自励振動といいます(自励振動は管楽器の他、バイオリンのような擦弦楽器にも見られます)。

管楽器はその大半が両端が解放された開管で、気柱の縦振動が音源となり、指孔や管端から音波を外部へ放射します。管の一端には直流のエネルギーを振動エネル ギーに変換するきっかけをつくるリード(Reed)が必要で、その種類によってエアリード楽器・ダブルリード楽器・シングルリード楽器・リップリード楽器 に分類されます(ちなみに、シングルリード楽器は閉管とほぼ同様で奇数倍音列の発振となります)。

一般に、リップリードの楽器を金管楽器、その他を木管楽器といいます(金管と木管の区別は振動源によるもので、材質の違いではありません)。

剛体・膜の振動と打楽器

すべての「物」は力学的な衝撃を加えると振動し、音を出します。弦や管が発生する「楽音」以外のこの衝撃音はみな「非楽音」で、打楽器はこれを原理としています。一般に体鳴楽器と膜鳴楽器に分類されますが、前者の振動体は棒・板・塊、後者の振動体は膜です。それぞれ例えば、トライアングル・シンバル・鐘・カスタネット・ウッドブロック、ドラム・鼓などが、それに該当します。

この種の楽器が発生する「非楽音」は、周期性のない振動を基にしていて、音程は特定できず、スペクトルパターンも広範囲の連続的な分布かあるいは非整数倍の成分を多くもつ離散的な分布をなします。「楽音」のように整数次の倍音が並ぶものではないため、いわゆる和音も濁ったものになります。

特殊な音響楽器

電気楽器

楽器の作る振動を、ピックアップ等で電気信号として取り出し>処理>出力・・という仕組みを持つ楽器を「電気楽器」といいます。

電子楽器 テルミン

1919年にロシアの発明家レフ・セルゲーエヴィチ・テルミンが発明した世界初(?と言われる)の電子楽器です。2本のアンテナを利用し、空間中の手の位置によって音高と音量を調節して演奏します。僅かな静電容量の違いが反映するので、安定した演奏は難しく、一般的な音楽に利用されることは稀です。

シンセサイザー 

シンセサイザー(音を総合するという意味)は電子楽器の代表的存在で、音色を特徴付ける二つの要素、スペクトルパターンと時間経過パターンを制御することで、無限の音作りを可能にした楽器です。 音源として専用のICチップをもつものをハードウェア・シンセサイザー、特別なハードを持たず、音の波形データや、生成アルゴリズムから音を作り出すものをソフトウェア・シンセサイザーといいます。

音作りには、大きく「スペクトルパターン」と「時間経過パターン」という2つの特徴制御が必要です。

スペクトルパターン

音色は複数の倍音の分布構成(スペクトルパターン)によって特徴づけられるのですが、その生成には以下のようなものがあります。

実際には、非整数次の倍音成分が音色を特徴付ける場合も多いため、より個性的な音作りをするには、わずかにチューニングを狂わせた倍音などを 合成する必要もあります。さらにドラムのような「非楽音」の場合は、連続スペクトル、すなわち「楽音」のように倍音が等間隔に並ぶ離散的スペクトルとは 異なる音色が必要で、その生成には発振音を変則的に変調するなどの工夫が必要です。

一般に、発振器(Oscillator)・フィルタ(Filter)・増幅器(Amplifier)の3つのブロックがあって、発振器から出た様々な倍音を含む信号が、フィルタによって加工処理(一般的には通過制限)され、最後に増幅されて出力されるという流れになっています。

時間経過パターン

時間経過パターンとは、音の鳴 り始めから鳴り終わりまでの音量(厳密には音程や音色も含む)の時間的な変化の問題です。音の立ち上がり、減衰の早さ、余韻の残り方などもその「音」を 特徴付ける重要な要素で、例えばピアノの音を真似ようとした場合、単に倍音構成を真似るだけでなく、特に音の立ち上がり部分の倍音構成の時間変化パターンを上手く真似ないと「ピアノらしい」音にはなりません。

シンセサイザーの各ブロックには EG(Envelope Generator)による時間経過パターンの制御がかかります。例えば発振器にかかれば音程(Pitch)の時間変化、フィルタにかかれば波形(Wave Form)の時間変化、増幅器にかかれば音量(Amplitude)の時間変化というように音を制御できます(それぞれを PitchEG FilterEG AmplitudeEG といいます)。

この EG は一般にADSR という四つの時間区分を用いるもので、A:Attack は立ち上がり 、D:Decay は減衰、S:Sustainは伸び、 R: Release は残響と、それぞれの設定によって、音程・波形・音量それぞれの時間経過パターンが制御されます。

LFO

さらにLFO(Low Frequency Oscillator)を各ブロックにあてることで、ヴィブラート、ワウ、トレモロに相当する効果をかけることも可能で、以上のすべての要素の総 合的な制御によって、あらゆる自然楽器のシミュレーションはもちろん、自然楽器では生成できない音も加工生成することが可能となるのです。

かつてアナログ回路しかなかった時代には、発振・フィルタリング・時間経過パターンの制御、いずれも技術的に制限があったため、音のバリエーションはそう多くはありませんでしたが、現在では原波形をサンプリングで得られることと、デジタル回路による演算加工の自由度の高さとが相まって、無限の音作りが可能になっています。

MEMO:打楽器音の再現について
もともと周期的な振動をつくる発振回路からでは、楽音以外の音をうまくコントロールするのはむずかしいため、今日では、もっぱらサンプリング音源が利用されています。シンセサイザー等で一般のメロディー楽器とドラム音が別扱いとなる理由の一つもこの点にあります。

サンプラー

音声を録音(サンプリング)し、そのデータを利用する楽器です。いわゆるPCM音源をもつシンセサイザーは、プリセットされたサンプル音源を利用している点でその機能を含んでいると言えます。鍵盤その他のMIDIコントローラから演奏情報を受け、サンプルのピッチを変更するかたちで演奏する楽器です。

MIDIについて

ここで補足的にMIDI(Musical Instruments Digital Interface)にも触れておきましょう。MIDIは、シンセサイザーやPCなどのデジタル機器において音楽情報を交換するための規格(1983制定)で、これを用いると、タッチの強弱を含む発音のON/OFF・ベンド・音色切り替えなど、リアルタイムでの演奏制御が可能になります。MIDIのデータは、ステータスバイト(情報の種類)とデータバイト(内容)の二つをセットにした計2バイトが一単位で、通信速度 31,250bps で送受信されます。

これによって、様々な電子楽器間での演奏情報のリアルタイム交換や、楽曲のデジタルファイル化などが可能になりました。楽器を直接演奏できない人にも、作曲や自動演奏を楽しむ機会が与えられることとなり、絵の苦手な人にとってのCGと同様、創作活動におけるハンディを解消するものとして、非常に意義のある存在です。その後、各種のメディアにおける演奏情報の統一の必要性が生じたことから、GM規格が制定(1991年)され、共通音源仕様(異なる機種でもほぼ同じ音色で演奏が再現される)が確立されています。

さらに今日では、PCの処理速度の向上と音楽ソフトウエアの機能充実によって、MIDIデータ(楽譜データ)とサウンドデータ(直接的な音声波形データ)を統合して処理・演奏する環境が実現し、安価なパーソナルのDTM(Desk Top Music)機材だけでも、作曲からレコーディングまで可能になりました。伝える中身と伝え方の問題は別として、ただ単に市販品のかたちにできるかどうかというレベルでは、もはやプロとアマチュアの境界はなくなっています。

Wikipedia:MIDI




Digital Audio Workstation

デジタル・オーディオ・ワークステーション(略称DAW)とは、音声の録音、編集、ミキシングなどの一連の作業を担うソフトウエアのことです。音声情報(Wave)と演奏情報(MIDI)の両方を同時に制御できるものが一般的です。

DTM(DeskTopMusic)に必要なもの

現在では、PCやタブレット上にソフトウエアキーボードが表示されるので、PC,タブレット,スマホなどの本体とDAW(ソフトウエア)があれば作曲が可能ですが、外付けのハードウエアがあることで、より本格的に環境が整います。

DAWの例

音声情報と演奏情報

DAWでは、大きく2種類のデータを扱います。

GarageBandでは、リアル音源(Vocal)とギタートラックが扱うデータがこれにあたります。

GarageBandでは、ソフトウエア音源(piano、base、brassなど)のトラックに記録されるのが、この演奏情報です。



音声の出力装置

電気的な振動(交流電流)を物体の振動に変換し、最終的に空気の粗密波としての音を生成するには、スピーカ(電気音響変成器・継電器)が必要です。

スピーカ

スピーカには、コイルをつけた振動板を磁場に置いて電流に応じた振動をつくるという動電型(ダイナミック型)と、電圧によって伸縮する圧電型とがあり、スピーカ・ヘッドホンの大部分は動電型、効率重視の携帯電話や薄さが必要になる壁掛けスピーカなどには圧電型が用いられています。動電型の場合、電気から音響へ、また音響から電気への相方向への変換が可能で、例えば動電型のスピーカはマイクロフォンとしても利用できます。スピーカを形状で分類すると、コーン型・ドーム型・ホーン型・リボン型などがあり、また再生帯域に関して分類すると、人間の可聴域(20Hz~20000Hz)を一つのスピーカーユニットでカバーする「フルレンジスピーカー」と、可聴域を帯域別に分けて、各帯域を専用に振動させる「スーパーウーファ(超低音用)」・「ウーファ(低音用)」・「スコーカ(中音用)」・「ツイータ(高音用)」などがあります。

再生のシステムには、モノラル・2元ステレオ(立体音響)・多元ステレオ(5.1チャンネルが主流)などがありますが、2元ステレオが最も一般的な方法です。2系統の音を2個のスピーカから出すというこの方法は「音場に立体感ができる」・「音源の移動が再現できる」などの理由で1950年代以降普及しはじめ、あらゆる音響機器もそれに伴なって2チャンネル(L⇔R)を基本とするようになりました。

音は聴覚がとらえ得る範囲の空気の振動です。この厳然たる事実がある以上、音を生成する楽器や音響機器の基本的な仕組みは変わりません。子どものころに作った糸電話を思い出してみましょう。基本に立ち返れば何か面白い発想も浮かんでくるのではないでしょうか。




楽音

ピッチと周波数

まずは基本の確認ですが、周波数というのは、単位時間(1秒)当たりに繰り返される振動回数のことで、その単位としてはHz(ヘルツ)を用います。
 
音楽における音の高さ(ピッチ)というのは、音の基本周波数のことで、例えば A4(ラ)の音は 440Hz。一秒間に440回 空気を振動(縦波)させています。

基音・倍音

楽器の奏でる音の大半は、単一の周波数(基本周波数)だけではなく、その2倍、3倍、4倍・・・様々な「倍音」を含んでいて、その混ざりぐあいで、同じ「ラ(A4)」の音でも、これはバイオリン、これはサックス・・・といった「音色の違い」を生んでいます。ちなみに、基本周波数だけで倍音を含まない音を「純音」といいます。

楽音と非楽音

一般に基本周波数とその整数次倍音からなる音は、基本周波数のピッチを感じさせるもので、そうした音は、はっきりとしたメロディーや和声をつくることができます。これを「楽音」といいます。

逆に、整数次の倍音以外の周波数成分を含むと、ピッチを感じづらくなります。振動に一定の規則性がない打撃音や太鼓の膜の振動音などがその典型で、これを「非楽音(噪音)」といって楽音とは区別します。ラップスタイルの歌声は、音高を特定しずらく、楽譜にメロディとして記述するのは難しいという意味では、こちらに属します。



音程と周波数

1オクターブとは

基本周波数の比が 1:2 となる音程間隔を1オクターブといいます。 ギターでは、弦長のちょうど半分(中央)の位置に12フレットがあって、そこで開放弦の音程の2倍の周波数の音が出ます。管楽器の場合は気柱管の長さを半分にすると1オクターブ上の音が出ます。
リコーダー(縦笛)などの実際の管楽器では、気柱管の長さというより、音孔(トーンホール)の大きさ、音孔の位置、管の内部の形状(メンズール)の3つが密接に関係するので、押さえ方が複雑になります。

ちなみに、人間の耳に音として聞こえる周波数帯は 約 20Hz - 20,000Hzです。20Hz の1オクターブ上は 40Hz その1オクターブ上は 80Hz その上は160Hzというぐあいに2倍、2倍・・・されていくので、10オクターブ(2の10乗=1024)で約1,000倍の 20,000Hz に達します。これはつまり、人間の耳にはせいぜい10オクターブしか聞こえない とうことを意味しています。

音程の基本単位 半音=100セント

我々の身近にある楽器は大半が 12音階、ギターでいうと 12 のフレットで1オクターブを区切る音階の各音が出せるようになっています。

1オクターブすなわち2倍、これを 12 に区切る際には、等差ではなく、等比で(周波数比が一定になるように)区切ります。つまり、各フレット間の(半音の)音程が、どこでも同じ周波数比になるように区切るのです。このように各音を調整した楽器を「平均律楽器」といいます。代表的なものがギターです。

では、半音の周波数比とはいくつになるのでしょうか?
半音の周波数比をPとすると・・12 段上がったところでちょうど 2倍 ですから
p x p x p x p x p x p xp x p x p x p x p x p = 2 となる値、
すなわち 2の12乗根で、 pの値は約 1.059 となります。
つまり半音上げるというのは、周波数で言うと 1.059 倍することを意味します。

半音の音程を100セントといい、1オクターブは1,200セントになります。
セントという単位を使うと、さらに変則的な音程も扱えることになります。

補足:微分音
半音よりさらに細かく分けられた音程として、微分音(びぶんおん)という概念があります。一般的な商業音楽には無理かと・・。Wikipedia:微分音

音律

音律(おんりつ)とは、音程の相対的な関係を規定するルールのことです。先に触れたように、私たちの身の回りの大半の音楽は、音程の周波数比について、ギターに代表されるような12階の等比を用いる「平均律」を用いていますが、音程の選び方は、等比ばかりではありません。

代表的なものにピタゴラス音律があります。音楽科学の祖、ピタゴラス Pythagoras(紀元前 582-496年)は、「万物は数である」と考え、心地よく響く和音の音程が、簡単な整数比で表されることを発見しました。現在の「ドレミファソラシド」にあたる音階のはじはりは、このピタゴラス音律(Pythagorean tuning)にあります。大学における自由七科に音楽があるのは、それが数学的存在であり、幾何学と同様の学問の対象であったからです。




音名と階名

音名

音名とは、絶対的な音の高さ、つまり物理的周波数が対応するものです。

1オクターブ上のものには、同じ名称が与えられますが、例えば、ピアノの中央ドは C4、その1オクターブ上は C5 などと区別します。ピアノの中央ド(C4)の上のラの音が、A4 = 440Hz で、調律に使う音叉はこの 440Hz が一般的です。

階名

主音に対する相対的な高さを意味するもので、日本では、イタリア式音名をそのまま階名として使っています(「移動ド」といいます)。

Do (ド)  Re (レ)  Mi (ミ)  Fa (ファ) Sol (ソ)  La (ラ) Si (シ)

主音がC(音名)ならC-D-Eがド-レ-ミ、主音がG(音名)ならG-A-Bがド-レ-ミということになります。

主音(root音)とは、音階(scale)の最初の基準音で、一般的に楽曲のメロディーは主音で終わることで終止感が得られます。 つまり、ドレミで歌えば、大半の楽曲は「ド」の音で終わります。

楽器のキーについて

ピアノの「ド」と、アルトリコーダーの「ド」は違います。ピアノの「ド」は音名では(物理的には)C、アルトリコーダーの「ド」は音名では(物理的には)F です。このような違いを説明するために、一般に「アルトリコーダーのキーは F である」、「アルトリコーダーは F管である」などと言います。

したがって、アルトリコーダーで ド-レ-ミ・・とやるときは、ピアノは ファ-ソ-ラ(音名で F-G-A・・・)と弾かないと合いません。

同様に、アルトサックスのキーは E♭、ソプラノサックスやテナーサックスのキーは B♭ です。同じド-レ-ミ(階名)でも、出ている音名(物理的な周波数)は異なっているのです。



音階(Scale)について

ここからは、別窓で musictheory.net の Pop-up Piano を開いて、実際に音を出して確認すると。理解がスムーズになります。

メジャーダイアトニックスケール

現在我々の身近にある音楽の大半は、ドレミファソラシ、つまり基音から順に、
全音 - 全音 - 半音 - 全音 - 全音 - 全音 - 半音 という間隔の音階(スケール)を使って作られています。これをメジャーのダイアトニックスケールといいます。ピアノはまさにこのステップを視覚的に表現したもので、以下のように「ミとファの間」と「シとドの間」は半音(黒鍵が無い)になっています。

keyboard.jpg M-Scale.jpg

ギターでは1フレット分が「半音」にあたるので、任意のフレットを基準(ド)として、そこから、 - 2Flet - 2Flet - 1Flet - 2Flet - 2Flet - 2Flet - 1Flet と進めていくと、メジャーダイアトニック、つまりドレミファソラシドと聞こえる音階が得られます。模式図で書くと以下のようになります。

|◯|ー|◯|ー|◯|◯|ー|◯|ー|◯|ー|◯|◯| 

◯が押さえて弾くところ、ーは弾かない。

ダイアトニックスケール上の音は「ハモる」、つまり、「各音の整数次倍音に共通要素が含まれる」という物理的な性質を持っています。だからこそ、それが耳にも気持ちよく、世界中でこれだけ普及しているわけですが、しかし、音楽を楽しむのにそれが大前提・・・というわけではありません。音と音がハモる「和声」を前提としない音楽であれば、どんな音を使っても構いません。幼少期からピアノや5線譜を基準に音楽教育を受けたために、私たちはそれを特別視してしまいがちですが、本来はもっと自由なものである・・と考える方が理解がスムーズになります。

クロマチックスケール

ギターのような弦楽器には1オクターブ、つまり例えば「ド」から上の「ド」までの間に 12個のフレットがあります。これを全部使う音階、12音階のことをクロマチックスケールといいます。すべての間隔が半音なので、そのステップには「はじまり」や「おわり」がありません。こういうのを「調性が無い(無調)」といいます。

で、ダイアトニックスケールよりは、この12音階の方が、よりプレーンなものと考えることができます。というのは、音楽の大半は、基本この12音の中からいくつかの音をセレクトして作った音階セットを使っているからです。

様々なスケール

12の音からどれを選んでどうに並べるかによって様々なスケールが成立します。
以下、そのいくつかの例を示します。

つまり、12種類の音の中から、いくつかを選んで、音のセットをつくると、そのセットごとに、雰囲気(ジャンル)のまったく異なる音楽をつくることができる・・・ということです。

完全にオリジナルな音楽を作りたいときは、まずは、12の中から「これとこれとこれ・・・」と決めて、その音だけを使えば、他には無い新規性の高い曲が作れる・・・ということです。もちろん、それがダイアトニックスケールほど多くの人に受け入れられるかどうかは別ですが・・・

コード

コードとは高さが異なる複数の音を重ねた「和音」のことです。ポピュラーミュージックでは、歌詞の上に「C」とか「G」といったコードだけを書き込んだ「コード譜」がよく用いられます。この音楽の教科書では隅の方に追いやられているので馴染みの無い方も多いようですが、音楽を気軽に楽しむには非常に便利なものです。

以下、代表的なパターンを紹介します。

Major Triad

◯ーーー◯ーー◯

例えば、コード譜で C と書いてあった場合
CーーーEーーG という3つの音を鳴らせばいい・・ということです。
EーーGーーーーC でもいいし、 GーーーーCーーーE でも構いません。
これらは「転回形」といいます。

で、さらに例えば、コード譜で Eb と書いてあった場合は
E♭ーーーGーーB♭ という3つの音を鳴らせばいい・・

要するに、コードネームにある音名を根音として、
同じ音程関係にある3つの音を鳴らせばいい…というわけです。
したがって、C, C#, D, D#, E・・B まで、12種類のMajorTriadコードはすべて
間隔を保ったまま位置をずらすだけ。 本当はとても簡単な話なのです。

ピアノの場合、白鍵と黒鍵という本来物理的に同等のもの*3を不平等に配列しているので、白鍵だけでまとまる C, F, G のような和音と、白鍵と黒鍵が入り交じる C#のような和音とでは、ずいぶん難易度が異なりますが、ギターのような楽器の場合は、弦間の音程関係はどのフレットでも同じなので、開放弦を使わない押さえ方の場合は、例えば、F と F# とは、押さえ方は同じで、1フレットずらすだけです。 どの弦に根音をあてるかによって押さえ方の形は数種類ありますが、要するに覚える必要があるのはその数種類の形だけで、あとは位置をずらすだけです。

Minor Triad

◯ーー◯ーーー◯

例えば、コード譜で Cm と書いてあった場合
CーーE♭ーーーG という3つの音の構成です。あとは、上記の話と同じです。

Diminished Triad

◯ーー◯ーー◯


Augment Triad

◯ーーー◯ーーー◯


Sevens Chord

◯ーーー◯ーー◯ーー◯ 7
◯ーーー◯ーー◯ーーー◯ M7
◯ーー◯ーーー◯ーー◯ m7
◯ーー◯ーー◯ーーー◯ m7-5


Nines Chord

◯ーーー◯ーー◯ーー◯ーーー◯ 9


その他の和音

和音の物理的根拠

音と音が調和する(俗にハモる)とはどういうことか? それは、音と音の周波数比が単純な整数比になる・・つまり、それぞれの倍音に共通成分が存在するという物理的な根拠によるものです。

例えば、完全5度の音程、つまり「ドとソ」や「レとラ」の間には、周波数比で 2:3 というきれいな整数比の関係があって、ドの音の3倍音は、ソの音の2倍音と等しくなります。同様に、ド・ミ・ソ、ファ・ラ・ド、ソ・シ・レといった3和音は、いずれも4:5:6という周波数比になります。これがハモるということの物理的な理由です。

完全5度ドとソ2:3※ドの3倍音とソの2倍音が等しい
完全4度ドとファ3:4※完全5度と裏返しの関係です
長3度ドとミ4:5※ドの4倍音とミの5倍音が等しい
長2度ドとレ8:9
オクターブドと上のド1:2

補足
周波数の比が単純な整数比になる…というルールで規定される音律を純正律(Just Intonation)といって、例えば、Cを基準とした場合、純正完全5度(2:3)と純正長3度(4:5)を用いて、「Cの3度上がE、5度上がG」、「次にGの3度上がB、5度上がD」、さらに「Cの5度下がF、Fの3度上がA」といったぐあいに音を調整して1オクターブを構成します。平均律とは異なり、物理的にきれいな調和した響きが得られます。

一方、12ステップを単純に等比間隔で作っている平均律(ギターはその代表)では、和音を構成する音程間隔がきれいな整数比にならないので、きれいな響きは得られません。特に長3度の周波数比などは、4:5 からかなりズレていているので、響きは汚くなります。これは平均律楽器の宿命です。





コード進行

私たちに馴染み深いポピュラーミュージックでは、旋律を包み込むフレームとしてのコード(和音)が、一小節あるいは半小節を基本的な時間単位として変化していきます。

和音の機能

ダイアトニックスケール上にできる和音は、基本的に以下の7種類。

 I IIm IIIm IV V VIm VIIm-5  

似た構成音を持つものを進行上の役割でグルーピングすると、結果的に以下の3+1種類となります。

コード進行の定番パターン

コード進行には、ある程度音楽的な必然性があって、結果として、いくつかのパターンに集約されます。例えば、1-6-2-5進行(I-VIm7-IIm7-V7)や、カノン進行(I-V-VIm7-IIIm-IV-I-IV-V)など、私たちがよく耳にする音楽には、よく用いられる典型的なパターンがあります。

コード進行パターンそれ自体は著作権の対象となるものではありませんので、はじめて作曲にチャレンジする場合などは、まず典型的なコード進行をまねてみる…というところからスタートするのもひとつの方法です。

12Bar Blues

ジャズやロックでブルースと呼ばれる楽曲は、ブルース進行と呼ばれる一定のコード進行に従っています。曲の流れが決まっているので、例えば、初対面のミュージシャン同時でも「Aのブルースで・・」と決めて、リズムのきっかけをつくれば、あとは適当、いきなりセッションを始めることができます。

コード進行しない?楽曲

Miles Davisの「So What」という曲は、「モード奏法」の代表的なもので、コードとしては Dm7 ひとつ(正確にはEm7→Dm7の繰り返しで、転調もあり)だけで私達が耳慣れている J-Pop のようなコード進行はありません。

したがって、Dのドリアンスケール上の音(レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・レ)のみを使うという制約にしたがって即興的に演奏することができます。

ふつうのJ-Popでは、適当に音を拾うだけでは即興的に曲に合わせるのは無理ですが、この曲の場合、「Dのドリアンスケール上の音」であれば、どのタイミングでどの音を鳴らしても無理なく聞こえます(もちろんリズムには乗る必要があります)。「Dのドリアンスケール上の音」…というと難しく聞こえますが、要するに、普通のドレミを「レ」を基準にするだけなので、ピアノで言えば、白鍵ならすべてOKという、極めて簡単な話になります。

実際の楽曲は変化をつけるために転調する部分がありますが、ピアノの白鍵に指を置いてお試し下さい。

参考

付録|音の波形について

音の物理にさらに興味のある方は、以下もご参考下さい。

振動を数式で理解する

波形.png

A sin( 2πf t + φ)
これは振動を描く基本的な式です。

t すなわち時刻をパラメータとした式で、

ちなみにこの式は「純音」で、音色を特徴づける要素は存在しません。

さて、2πf t という表現ですが、これは例えば f = 1 の場合、
t = 0 〜 1 で 値が 0〜 2π、つまり、1秒間で1回振動することを意味します。
右上のグラフは、1Hzの波形ということになります。

SIN関数は弧度法を使います。半径1の円の弧の長さを角度に見立てたもので、2πでちょうど一周分、つまり360°を意味します。式の括弧内の「2πf t 」は、「一秒間で f 回転」を表現するためのものです。

参考:SINだけでなぜ振動する > 単位円による三角関数の定義
参考:三角関数を使って円を描くプログラム


倍音合成

周波数 f を基準として、その2倍の周波数 2f をもった音を2倍音といいます。また同様に3倍音・4倍音・・も考えられます。

楽器の音(シングルノート)は、基本周波数の f に加えて複数の倍音が同時に鳴ることで、その楽器特有の音色をつくっています。倍音の混ざり方で音色がかわることを波形で見てみましょう。以下、Googleのグラフ機能を使ったものです。表示倍率がそれぞれ異なっていますが、横軸xの値が 0〜1 の間でちょうど1回振動、つまり基本周波数は1であることがわかると思います。

数式からGoogleグラフへもリンクしています。数字を変えて再検索すると、波形が変化する様を直感的に確認できます。

2倍音.png

A sin(2πft) + 0.5A sin(2π2ft)
2倍音を半分の振幅で
重ね合わせたものです。


3倍音.png

A sin(2πft) + 0.5A sin(2π3ft)
3倍音を半分の振幅で
重ね合わせたものです。


整数次倍音.png

A sin(2πft) + 0.6A sin(2π2ft) + 0.3A sin(2π3ft)
2倍音を60%、3倍音を30%の振幅で
重ね合わせたものです。




音のハモり

ハモるとは、物理的には、高さ(基本周波数)の異なる複数の音で、その整数次倍音に共通の周波数が含まれる場合に成立します。別の言い方をすれば、それらの周波数比が簡単な整数比になることを意味します。

例えば、5度の音程「ド」と「ソ」では、「ド」の3倍音と「ソ」の2倍音が同じ周波数の音になります。言い換えれば、ドとソの基本周波数の比は2:3という簡単な整数比になっています。

また例えば、長3度の音程「ド」と「ミ」の周波数比は4:5なので、いわゆるメジャートライアド「ド」「ミ」「ソ」は、4:5:6という比率になり、可聴周波数帯の範囲に複数の共通する倍音を持つことになります。

和音.png

A sin(2π4ft) + A sin(2π5ft) + A sin(2π6ft)
周波数比4:5:6の3音の重ね合わせ。
音に周期性が見られます。


非和音.png

A sin(2π4ft) + A sin(2π5.1ft) + A sin(2π7.7ft)
複雑な比率の音の組み合わせ。
当然ですが、周期性がなくなります。


ちなみに完全8度、すなわち1オクターブの音程は1:2ですから、「ド」の音を3倍して1オクターブ下げれば「ソ」の音が得られ、その「ソ」を3倍して1オクターブ下げれば「レ」が得られます。このようにして得られた音程調律は「純正律」と呼ばれるもので、倍音のうなりを伴わない、きれいな和音が得られます。一方、1オクターブを単純に等比的に分解する調律を「平均律」といいますが、平均律の楽器(ギターが典型、現代のピアノも)は厳密にはきれいにハモりません。





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*1 音程のある「楽音」は、通常基本周波数の振動と、その2倍の周波数、4倍の周波数など、整数倍の周波数の振動が重なっています。つまり、同じラ(a3)の音といっても、具体的な楽器の音では、440Hz, 880Hz, 1760Hz・・と複数の振動の組み合わせになっていて、我々の耳は、その各成分の強さの分布の違いを聞き分けることで、それがピアノの音かバイオリンの音かを識別しているのです。
*2 かつて中国では、楽器をその素材によって、金・石・糸・竹・匏・土・革・木の8種類に分類して、これを「八音」と呼びました(日本の雅楽も同様)
*3 これは、音律が一般的な平均律の場合の話ですが、白鍵と黒鍵の間には、いずれも平等に約1.059倍の周波数比があります。ただし、Cを基準に純正律で調律されたピアノの場合は、音程間隔は均等ではないので、同等とはいえません。
Last-modified: 2022-11-02 (水) 12:26:58