第12回 映像情報
情報デザイン論/2022|2022.07.06
AGENDA
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- 17号館6F ゼミ室のPCを利用して視聴
- 15102教室(所定の教室)にてスマホ・タブレット・PC等で視聴
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CONTENTS
> Recording
映像の歴史
映画略史
- 1894年 キネトスコープ エジソン(のぞきからくり)
- 1895年12月28日 シネマトグラフ リュミエール兄弟(映写と映画館)
- 1895 リュミエール 「工場の出口」 記録
- 1902 メリエス 「月世界旅行」 物語
- 1903 エドゥイン・S・ポーター「アメリカ消防士の生活」「大列車強盗」
- 1916 D.W.グリフィス 「イントレランス」 クローズアップと「編集」
- 1930年代~ トーキー
- 1960年代~ カラー化
- 2013年 富士フイルム 撮影・上映用映画フィルム生産終了
日本では
- 1903年 浅草の電気館が映画館の初め。
- 1961年 全国に7457館とピークを迎え・・
その後、TVの普及、家庭用VTR普及で激減。 - 1993年 全国えで1734館まで落ち込む。
2000年以降、館数ではなく、スクリーン数によるカウント - 2001年 2,585スクリーン
- 2019年 3,583スクリーン
- 2021年 3,648スクリーン(増加傾向)
参考:日本のスクリーン:http://www.eiren.org/toukei/screen.html
テレビ略史
- 1936年 TV放送実用化 米
- 1953年 日本のTV放送開始 NHK
- 1960年 カラー放送
- 1964年 普及率83% (東京オリンピック)
参考:4大マスメディア:新聞 / TV / ラジオ / 雑誌 - 1989年 衛星放送開始
- 2000年 衛星デジタル放送開始(BSAT-1b のちにBSAT-2a)
- 2002年 CS スカイパーフェクTV!2 放送開始
- 2003年 地上デジタル放送開始
- 2006年 ワンセグ放送開始
- 2011年 アナログ放送終了(7月24日)
- 2018年 BS/110度CSを使った衛星放送で4K・8K放送スタート
パッケージメディア略史
- 1956年 ビデオの実用化
- 1964年 家庭用オープンリール
- 1975・6年 1/2インチβとVHS
- 1985年 8ミリビデオ ソニー Hi-Fi音声 とPCM音声トラック
- 1995年 デジタルビデオ(DV) ソニー
- 1996年 DVD 4.7GB
- 2006年 Blu-ray Disk 1層25GB、2層で約50GB
- 以後、パッケージメディアは衰退 > サブスク(定額制ネット視聴)へ移行
Web動画略史
- Vimeo 2004.11
- Google Video 2005.01 - 2011
- Dailymotion 2005.02
- GyaO! 2005 > U-NEXT 2009
- YouTube 2005(YouTube Live 2011)
- ニコニコ動画 2006(ニコニコ生放送 2007)
- Ustream 2007.03 - 2016
- U-NEXT 2007
- Hulu 2011
- Netflix 2015
- Amazon Prime Video 2016
映像の技術仕様
映画の技術仕様
- 上映方式
- 35㎜:最も代表的な方法。35㎜フィルム幅は映画黎明期の頃から。
画面サイズはスタンダードサイズの 1:1.33。
Wikipedia:35mmフィルム - 70㎜:上記の倍の幅を持つフィルムを用いる撮影方法。1955〜
画面サイズは 1:2.2 のものが多い。
Wikipedia:70mmフィルム - シネマスコープ:フィルムは従来の35㎜を使用。
撮影の際にアナモフィック・レンズにより縦伸びの映像に圧縮
上映の際に同様にアナモフィック・レンズで左右伸長し元に戻す
画面サイズは 1:2.35 (20世紀FOXが1953年「聖衣」で採用) - ビスタビジョン:フィルムは従来の35㎜を使用。
特殊なカメラを用いて横方向に送り、2コマ分の領域に1コマを撮影
上映用には、従来どおり縦方向にプリントしたフィルムを用いる。
画面サイズは 1:1.5 - 1.85 - 2.0(パラマウント社が1954年に採用) - スーパー35方式:フィルムは従来の35㎜を使用。
撮影段階からTVサイズでの収録も考慮したのが本方式。
特殊な撮影機を用いてフィルムのサウンドトラック領域まで撮影
上映用には上下をカットしてシネマスコープ方式のマスターを作成
TV用には上下左右をカットしてマスターを作成 - IMAX(アイマックス):70㎜の3倍面積のフィルムを使用。
超大型スクリーンに映写し、音響もデジタル・マルチチャンネル。最新技術の粋を結集させた豪華仕様の方式である。 - 16㎜:35㎜の半分幅。一部の邦画、かつてのテレビドラマ・アニメ等
Wikipedia:16mmフィルム - 8㎜:16㎜の半分幅。1932年から発売。家庭用・教育用・産業用。
Wikipedia:8ミリ映画
- 35㎜:最も代表的な方法。35㎜フィルム幅は映画黎明期の頃から。
- 映写速度(Frames Per Second=fps)
- 秒間24コマ:一般の映画(トーキーは 24 コマ/秒が基本)
光の明滅に関する臨界融合頻数 30回/秒 >1コマに2回 or 3回シャッターを開けている - 秒間18コマ:スーパー8 とシングル 8
- 秒間16コマ:レギュラー(ダブル)8、無声映画時代のレート
- 秒間24コマ:一般の映画(トーキーは 24 コマ/秒が基本)
テレビの技術仕様
- 地デジ日本方式 ISDB-T Integrated Services Digital Broadcasting - Terrestrial
ワンセグ放送は、このISDB-T方式による携帯端末向けの放送サービス。
アメリカではATSC方式、ヨーロッパではDVB-T方式。
- HDTV
- 地上デジタル 1440×1080i, 29.97fps
- BSデジタル 1920×1080i, 29.97fps
- UHDTV:Ultra-high-definition television
- 4K UHDTV 3840×2160p, 120fps(規格上の最大)
- 8K UHDTV 7680×4320p, 120fps(規格上の最大)
デジタル動画の技術仕様
- 画面のサイズ
デジタルデータとして扱われる動画のピクセル数と画面アスペクト比は事実上無限にあります。現在、流通している主な規格だけでも数十種類存在。
Google: Video Standards
- MP4(MPEG-4 AVC = H.264)
携帯電話から、ネット上の動画、HDTVまで幅広く利用されているコンテナフォーマット。MPEG4は携帯端末やアナログ電話回線のようなナローバンド向けに開発された仕様で、低ビットレートでも再生可能です。MPEG2と同レベルのデータを10分の1で転送することが可能です。
- MPG
mpeg-1(1.5~1.8Mbps)またはmpeg-2(4~15Mbps)形式。DVDをはじめ標準テレビからHDTVまで、幅広く利用されています。
- AVI
Windows用の標準コンテナ*1
- MOV
AppleのQuickTimeで採用されている標準コンテナです。
- OGG
オープンソースのコーデックとしてWikipediaにも投稿できるマルチメディアコンテナフォーマット。動画コーデックにはTheora、音声コーデックにはVorbisが用いられています。
WikimediaCommonsでは、動画資源がこの形式で公開されています。
- VOB
DVD-Videoにおいて、映像、音声、字幕、メニューなどの情報をひとつのオブジェクトにして格納することができるファイルフォーマットです。映像データはMPEG-2*2、音声データはリニアPCMやAC3など。これらに加えてチャプターメニューなどのデータがVOBファイルに格納されているといます。
- WebM
WebMはGoogleが2009年5月に発表したHTML5準拠のオープンソースのビデオプラットフォーム。現在、WebMに対応する主なWebブラウザは、Google Chrome、Firefox、Opera。
映像編集
映画やドラマでは、街の中に見える建物の位置関係や、建物の中の部屋どうしの位置関係がなんとなくわかるのではないかと思います。平面図を見たわけでもないのになんとな く位置関係がわかるのは、個々の映像断片と、それらをつなぐ人物の移動方向が、視聴者の頭の中に架空の空間イメージを形成するからです。しかし、これは送り手が、うまく考えて編集しないと、スムーズには形成されません。一般に素人の作品には、この部分への配慮がないために、見る人が空間構造を理解できずに、「結局どういう状況なのかよくわからない」ということになってしまうのです。
作り手の頭の中にある世界の構造(空間スキーマ)は、見る側の頭の中にはありません。撮影しているあなたは、個々の被写体の位置関係を知っているけれど、 視聴者はそれをまったく知らないのです。
視聴者の頭の中に形成されるのは現実の空間構造ではなく、個々のショットから想像的につくりだされる架空の空間構造である・・この事実をおさえることがはじめの一歩です。
古典的ハリウッド
古典的ハリウッド映画(Classical Hollywood cinema)とは、1917年から1960年代にかけてのアメリカ・ハリウッド映画が培った、映画制作における表現手法(の集成)を指す用語で、現在の映画や、TVドラマにおいては、映像表現上のいわば「慣習」として制作者と視聴者との間に共有されているものです。以下の文献はそれを解説した代表的な書籍です(残念ながら邦訳はありません)。
The Classical Hollywood Cinema.
Bordwell, David; Staiger, Janet; Thompson, Kristin (1985).
New York: Columbia University Press.
以下、古典的ハリウッドにおける重要なキーワードと事例映像へのリンクです。
Shot / Scene / Sequence
- Shot
カメラがまわりはじめてから止まるまで・・を意味する言葉です。ちなみに、ひとつながりの映像のことを日本では「カット」ということがありますが、Shot という語の方が一般的です。
- Scene
いくつかのショットからなるひとつの場面です。
- Sequence
シーンをいくつかつなぎ合わせた、物語構成上の大きな枠組みです。
Continuity Editing / Invisible Editing
物語映像では、視聴者を物語の世界に没入させるべく、編集行為自体を目立たなくすることが求められます。コンティニュイティー・エディティングとは、視聴者に編集点を感じさせない、滑らかな接続を目指す技法全般を指す言葉です。
ちなみに「絵コンテ」の「コンテ」は、コンティニュイティーのことです。
Action & Reaction / Question & Answer
物語映像の編集では、ショット間の接続は一般に「何らかのアクションと、それに対するリアクション」という関係でなされます。投げる>打つ、撃つ>倒れる、ボタンを押す>爆発する・・など、アクションとリアクションの関係が成立するようなショットを接続すると、本来は無関係の素材であっても、それらはつながって認識されます。
- 「人物の視線」→「見られた対象」
- 「照らす」→「照らされる対象」
- 「投げる」→「打つ」
- 「電話のベル」→「受話器をとる人物」
人は様々な物事を「因果関係」で理解したがる生き物です。2つの出来事をバラバラで記憶するより、「ああしたからこうなった」というかたちでまとめて理解する方が「経済的」に記憶できるからです。したがって、因果知覚が生じるようなショットの組み合わせであれば、別の場所で起こった、何の関係もない出来事同士であっても、見る人の意識の中には勝手に「つながり」が生じます。例えば「手を振る動作」と「爆発」をつなぐと、大半の視聴者は、「手を振る動作が原因となって爆発が引き起こされた」という解釈をします。ショット接続の大半がこの因果知覚を利用しています。
「原因と結果」を疑問形にかえると「疑問と謎解き」というかたちになります。疑問に対する答え(として妥当性のあるもの)を提示する・・というかたちで2つのショットを接続すると、本来は無関係なショットであっても、視聴者にはそれらが非常にまとまりのある情報として理解されます。
人間の脳は、内容の価値に関わらず疑問に対する答えが提示される瞬間に快感を感じます。「疑問が解決したときの快感」、逆に言えば、「疑問が解決しないことの不快感」が、人の行動を左右しています。「あの棚の上のヘンな物は何だ?」という、たった一つの台詞でも、主人公がその答えを見出すまでのプロセスで物語作品を1本つくることができます。そう考えれば「作品づくりのネタは無限にある」ということに気づくでしょう。
Parallel Editing / Cross Cutting
平行編集(クロスカッティング) とは、例えば、テロリストが爆弾を仕掛けていくシーンと、警官がその現場を探し歩くシーンを交互につなぐなど、異なる場所で同時に起きている複数の出来事それぞれのショットを交互につなぐ手法です。追うものと追われるものの緊張感を演出します。
Match Cut
ショット間に「一致」する関係をつくる手法です。特に「視線の一致」を利用した「視線つなぎ」は、編集の大半を締めるといっても過言ではありません。
- Eyeline Match 視線の一致
YouTube:Eyeline Match
人物の視線(顔)と、その視線の先(にあるであろう)事物とを接続する際、視線の方向(特に上下)を一致させることで、「人物がそれを見た」という解釈とともに、ショットは接続されます。人物の視線が「疑問(何を見ているの?)」を喚起して、次のショットが「謎解き(見ていたのはこれ)」というふうに考えることもできます。ドラマの中でのショット(カメラ)の切り替えタイミングの大半が、この「人物の視線」を契機としています。
- Matching on Action 動きの一致
YouTube: Cutting on Action
動きの連続性が維持されていれば、異なるポジションからのショットもスムーズに接続されます。特に主人公の体重が移動するタイミングでつなぐと、その接続部分はほとんど意識されません。つまり、見る人は、物語の進行に没頭することができます。
- Graphic Match グラフィックの一致
YouTube:Graphic Match
見る人の視線の動きを妨げないように、画面の中での主たる視覚対象の空間的な位置をコントロールすることで、前後のショットはスムーズに接続されます。
Jump Cut
ひとつながりのショットを、時間を飛ばすようにつなぐ編集。違和感を演出する場合には効果がありますが、一般的には避けられる編集方法です。
180°System ( Imaginary Line )
180°ルールとは、例えば、二人の会話シーンを撮影する場合、二人の人物を結ぶ線のどちらか片側のエリア、つまり 180° の範囲を超えて撮影してはいけない・・という編集上の作法のことです。二人を結ぶ線のことを、イマジナリーラインと呼び、「イマジナリーラインを超えてはいけない」などと説明されます。これは、会話シーンを構成するすべてのショットにおいて、人物の左右の位置関係を保つため、またステレオ音声において話者の左右の関係を維持するため(視聴者の空間認知を混乱させないため)の配慮です。
画像出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:180_degree_rule.svg
Multi(-Angle) Camera / Multi Coverage
マルチカメラ / マルチカバレッジ とは、複数のカメラで同時に撮影して、最終的に各カメラの映像を、時間が連続するように編集する技法です。スタジオ収録におけるスイッチングと同じで、基本的に被写体の動きの連続性が担保されるため、自然につながって見えます。カメラ・フィルムが高価であった時代には難しいことでしたが、現在では、カメラ・記録媒体ともに低価格で高画質なものなりました。iPhoneなどは周りを見渡せば同一の機種が簡単に借りられる状況です。「カメラは一台」という先入観を捨てて、贅沢に撮ってみましょう。
Establishing Shot
エスタブリッシングショットとは、シーンの全体状況を説明するショットのことで「設定ショット」ともいいます。シーンの冒頭で、全体を俯瞰した映像を見せる(つまり、「いつ」・「どこ」を説明する)ことで、見る人に、それ以後に続くショットを空間的に関係付けるための予備知識(スキーマ)を与えます。
YouTube:Establishing Shot
http://en.wikipedia.org/wiki/Establishing_shot
ちなみに「俳句」は、連歌 > 俳諧連歌 > その発句を独立させたものですが、それは、後の物語の場所と時間(季語)を概説するエスタブリッシングショットだとも言えます。
その他の手法
以下、シーン間の接続をスムーズにするために使われる手法です。シーンは混乱しないように明確に分離する必要があります。視聴者から見れば、シーンには、「昼/夜」・「 屋外/室内」といった大まかな区別しかありません。したがって、昼の室内から昼の別の室内へとシーンを変えるような場合、視聴者が混乱しないよう工夫する必要があります。シーンとシーンは基本的に時間と場所が異なるので、様々なつなぎ方が可能です。
- 「類似」や「因果関係」で関連づける
- 同様なグラフィックでつなぐ: 「青い花に蝶」→「海原にヨット」
- 同様な動きでつなぐ:「ブランコ」→「時計の振り子」
- 擬似的な因果関係をつくる:「ボールを投げる」→「物が飛んで来る」
- フェードイン・アウトなどの利用
フェード(ディゾルブ)というのは漸次的にショットが切り替わる処理なので、当然のことですがバラバラには見えず、何らかの「変化」としてつながりが感じられます。
- 様々な「ブリッジ」を用いる
ブリッジとは、直接つなぐと混乱しそうな2つのシーンを、橋渡しのための映像を挿入することで、緩衝材にすることを意味します。- 空抜け(カメラをパン・アップさせて「空」を映す)
- リヴィールフレーム(遮断物によるショットのつなぎ)
- 小道具のアップ 等
音声・音楽について
映像にとって音は非常に影響力の大きな存在で、極端に言えば、まったく支離滅裂な素材の羅列でも、音楽がつくとそれなりに見えてしまいます(音楽に依存しすぎないよう注意が必要)。
映像は自由なタイミングで切ってつなぐことが可能ですが、音声・音楽はもともと時間軸上に成立する情報なのでそれができません。つまり場合によっては、音を優先させなければなりません。後から適当に音をつけるという発想もありますが、一つの楽曲に合わせることが前提であれば、まず全体の尺を音楽に合わせること。そして曲のリズム と映像の動き・編集のタイミングを(シンクロする場合もあえてはずす場合も)調整することが必要です。
付記1:他動詞と自動詞
アクションとリアクションは、他動詞(目的語を要する動詞)と自動詞(目的語を必要としない動詞)の関係で考えることができます。以下の例のように、言葉の上でも、他動詞→自動詞の順に接続された場合に、2つの動作につながり(因果関係)を感じます。
- 「自動詞→自動詞」: 開く と 落ちる 落ちる と 倒れる 倒れる と 回る
- 「自動詞→他動詞」: 開く と 落とす 落ちる と 倒す 倒れる と 回す
- 「他動詞→自動詞」: 開ける と 落ちる 落とす と 倒れる 倒す と 回る
- 「他動詞→他動詞」: 開ける と 落とす 落とす と 倒す 倒す と 回す
- 人間の一般的に動作について・・・
- 部分動作は他動詞 振る たたく 蹴る
- 全身動作は自動詞 歩く 立つ
- 野球中継において・・・
- 投げる 打つ 捕る いずれも ボールを目的語とした「他動詞」*3
- 走る は「自動詞」
付記2:映像と小説
認識レベルの接続は「小説の書き方」にも通じます。
少女は見上げた。空には白い雲
と書けば、主述関係を明示しなくても「少女が白い雲を見た」と解釈されます。
一方、知覚レベルの接続の問題は「小説」では問題にならない映像特有のものです。例えば、2人の会話で、「どちらが右にいるか」や「何色の服を着ているか」は小説では問題になりませんが、映像では「一致」させる必要があります。
映像の特質
映像一般の特質
- 映画館は「他者の視線を浴びることなく、外部の世界を見ることができる(見られずに見ることができる)」人間にとって快適な視覚環境です。
- 映像の素材(ショット)はすべて「具体的」なものです。具体的な素材は、辞書に登録されて整理されることはなく、よって「単語(一般名詞)」として機能することはありません。映像では「犬」という一般名詞を表現することはできず、そこに示されるのは、常に「固有名詞」としての「具体的なその犬」です。
- 映像は言語のような二重分節(音素と形態素)構造を持ちません。
一般に、記号化される情報の大半は有限の「要素単位」(言語でいえば あ、い、う・・)が存在しますが、映像にはそのような単位は存在しません。
- 映像は編集によって「第3の意味」を生成します。
- 例えば、赤い帽子と、青い帽子のショットが接続されれば、赤と青の差異に鑑賞者の注目が集まります(鑑賞者はそこに意味を見出そうとする)。
- また男性のショットと女性のショットが接続されれば、誰でもこの二人の関係を想像する(この二人が無関係と感じる人はいない)。
映像にはできない表現
映像には、そもそも「接続詞」がありません。「しかし」、「または」、「なぜなら」といった意味でショット間をつなぐのは不可能で、また、言語では可能な以下のような表現も、映像で表現することは不可能です。
- 疑問文「この人は誰ですか?」
- 否定文「これはピストルではない」
- 仮定文「もし私が鳥だったら」
- 過去形「それはかつてそこにあった」
映像は常に現在進行形です。
Signifiant / Signifie (能記 / 所記)|F.ソシュール
ソシュールによれば、言語とは、観念を表現する記号のシステムであり、身振り、文字、さまざまな象徴、道路標識や軍隊の信号など、意味を生み出す記号のシステムです。そして、それぞれの記号は他のすべての記号と「差異」と「対比の関係」によって結ばれながら「記号のシステム」を形成するといい、シニフィアンとシニフィエという2つの鍵概念を提唱しました。
- シニフィアン(signifiant)
- 能記。記号表現。意味するもの、表現するもの。
- 例:「鳩」という文字や、「ハト」という音声
- シニフィエ(signifier)
- 所記。記号内容。意味されるもの、表現されるもの。
- 例:鳩のイメージや、鳩という概念・その意味内容
Denotaion / Connotation(外示 / 伴示)|R.バルト
これはロラン・バルトによる概念区分で、簡単にいうと、デノテーションとは字義どおりの意味の伝達。コノテーションは、潜在的な、あるいは字義どおりの意味を超えたところにある意味の伝達のことです。
- デノテーション(denotation)
- 外示。言語記号の顕在的で明示的な意味
- 例:「ハト」→ 鳩
- コノテーション(conotation)
- 伴示。言語記号の潜在的な意味
- 例:「鳩」→ 平和
- 映像の Denotaion / Connotation
ショットの継続時間が短い場合、視聴者が捉える意味は外示的なものになります。逆に継続時間が長くなると、視聴者の意識には伴示的な連想が広がります。たとえば鳩が飛ぶシーンでは、パッと見せるだけだと「鳩がいた」という解釈で終わりますが、それを長時間見せていると「平和」のような抽象的・象徴的な解釈が発生します。
- 写真における Denotation がもたらすもの
写真はその「外示」の強さによって「判示」を隠蔽します。事件現場では時間は連続して流れています。そこから一瞬を切り取る・・その行為は、逆に言えば「都合の悪い部分はカットする」ということなのですが、視聴者は「写真がリアルである」ということによって、それが「事実の全体である」と理解します。報道写真には、カメラマンの意図が隠れています。「外示」の強さによって「伴示」が隠蔽される・・とはそういう意味です。
クレショフ効果
ソビエトの映画作家・映画理論家のレフ・クレショフが行った実験では、編集によってショットそのものには無い「第三の意味(R.バルト)」が生まれることが示されました。
- 1)スープ皿のクローズアップ + 男性の顔 → 空腹
- 2)棺の中の遺体 + 男性の顔 → 悲しみ
- 3)ソファに横たわる女性 + 男性の顔 → 欲望
参考文献等
- Amazon:映画監督術 SHOT BY SHOT スティーブン・D. キャッツ
- Amazon:映像の原則 富野由悠季
- Amazon:映画の文法―実作品にみる撮影と編集の技法 ダニエル・アリホン
- Amazon:映画技法のリテラシー〈1〉映像の法則 ルイス・ジアネッティ
- Amazon:映画にとって音とは何か ミシェル・シオン
- YouTube: Movie Editing
- IMDB|Internet Movie Database
- Wikipedia:インターネット・ムービー・データベース
- 余興:映画に登場する車のDB:https://www.imcdb.org/
- Online Film Dictionary
- Greatest Films
- Wikipedia|映像編集