正方形 2x2
-芸術工学的「正方形」研究II-
SQUARES 2x2 - Study on "SQUARES" in field of design
1.はじめに
デザインの研究では、個々の領域で与えられた目的・課題に対し、それを満足する形状を探るのが一般的である。しかし「ある特定の形状がどんな場面で活用されているか」という逆遠近法的かつ領域横断的な研究もまた可能である。
1960年ブルーノ・ムナーリ註1)は、その幅広い知見によって「正方形」の活用事例を170項目に及んで紹介したが、今日の調査方法のひとつである「画像検索」を用いて、2×2、3×3 …と正方形をレベル分けしながら順を追って調査を進めれば、世界中の様々な事例から「正方形」の可能性を探ることができるであろう。本稿ではその試みの第一歩として、「2×2」を検索の契機として得られる「正方形」について、その活用事例を報告するとともに、造形的可能性を考察する。
尚、表題の「正方形2×2」は事前にその概念を定めたものではない。ここでは、情報を幅広く収集して考察を加えることを前提に、「平方」のひとつである「2×2」という、「あいまいな」キーワードから見出された「正方形」の事例全体をその枠組みに収まるものと考えている。
2.調査の方法
研究は今和次郎註2)に倣い、「調査の現場において(有効な)統計項目を見出す」ことからはじめる。次に、採集された様々な「正方形」の活用事例について、それらを統計的に分類整理し、後にその特質と可能性について考察を加える。
調査の手順は以下のとおりである。
1)初期キーワードを「2×2」註3)として画像検索と記事の閲覧を行い、連鎖的にターゲットの出現に寄与する2次的なキーワードを見出す。
2)それらのキーワードによって再度検索を行い、最初の数ページに出現する上位200件の画像を対象に、条件に合うものを抽出してデザインの領域別に分類整理する。
検索にはGoogle画像検索註4)を利用した。検索日は2011年8月1日~7日の間。検索地は日本(福岡)である。検索者の趣向が検索結果に影響を与えないようGoogleアカウントはログオフの状態とし、検索オプションについては、画像サイズ、縦横比、画像の種類、画像のソース、色調、ライセンス、ファイル形式、そして対象地域のいずれも「すべて」を選択し、セーフサーチに関しては「フィルタリング(中)」を選択した。
3. 調査に有効なキーワード
「正方形2×2」の出現に寄与するキーワードを表1に示す。表の「含有率」とは、画像検索の結果全体に対する、「正方形2×2」にふさわしい画像の割合で、逆にいえば、人物の顔写真や非正方形の商品画像を除外して残るものの割合である。
調査の過程で見出されたキーワードの中では「4」という数字の貢献度が高い。「4 Squares」、「4マス」、「4つの正方形」をはじめ、「4個」、「4枚」、「4方」など、「4」を含むキーワードからは 多くの事例がヒットした。
その他、日本語の「田の字型」を筆頭に、「格子」、「枠」、「網目」、「織り目」といったグリッド状の造形に関わるキーワードも、「正方形2×2」の出現に寄与することがわかった。
4.「正方形2×2」の活用事例
表2は、「正方形2×2」の検索に有効な8つのキーワード(含有率20%以上)ごとに、検索で現れた正方形の活用事例を、デザイン領域別にカウントした結果である。中には重複した画像も含まれるため、表の構成比が厳密に実態を物語るとは言い難いが、プロダクトデザインの領域における、家具・インテリア、衣類・雑貨、情報デザインの領域における、絵画・グラフィック、図面・概念図に多くの活用事例が見出された。
尚、数学的には不完全な(縦横比が1:1ではない)形も相当数ヒットしたが、いずれも有意義な資料であると判断し、すべてを対象に含めている。
4.1. 空間のデザイン
西洋の庭園に見られる「Four Square Garden」や日本家屋の「田の字型プラン」、また「Four Square」や「十字鬼」といった競技空間の枠組、さらに浴槽や窓枠といったものまで、今回の調査では空間デザインの分野に様々な「正方形2×2」の活用事例が見出された(図1)。
「東西南北」という言葉にも表れているように、我々は空間を2つの軸で上下左右あるいは前後左右に区分ける発想に慣れている。
土地区画の原理を考えれば当然のことであるが、そもそも平方=SQUAREは平面を区画する基本的な枠組みである。人間の項目記憶が「マジックナンバー4±1」註5)に基づくとすると「4つの区分」というのは人の空間感覚において、自然に芽生える分割法であると思われる。
西洋のFour Square Gardenでは、「花」と「ハーブ」と「野菜」と「果物」。日本の民家では、「居間」と「座敷」と「お勝手」と「納戸」。それぞれの空間に異なる役割・意味やランクを持たせているが、面積は平等で、時にそれらは交換可能となる。4つの空間は中心で結んでもよいし、円を描くように隣へ隣へとつないでもよい。それらは噴水や柱といった中心となる構造物のまわりに動的に関係づけられている。
「田の字型プラン」は、古くから日本の民家で採用されていた間取りで、「サザエさん」の家の間取りもそうである。個を尊重する欧米型の価値観で暮らす人には、プライバシーの確保がしずらいプランは好ましくないかもしれないが、限られた面積を効果的に使える(廊下不要)だけでなく、「間仕切り」の使い分けによって、風と光を自由にコントロールできるプランはこの国の風土には最適である。
祭事には間仕切りを取り払って面積4倍の大空間が生まれる…。小さなパーツを連結して大きなものにする発想は、大きなものを作るよりはるかに稼働率が高い。「正方形」の効果的な活用事例としては、典型的といえる。
4.2. モノのデザイン
机や椅子、本棚といった家具、照明器具、箱型の雑貨、さらに玩具やパズル等の造形原理として、プロダクトデザインの分野にも多くの事例が見出された(図2)。
家具は水平・垂直を基本原理とすることから、基本的な外観が矩形となるが、これを同一の部材から能率的に構成しようとすれば、当然正方形を基調とした形になる。縦にも横にも流用可能な家具、パーツの交換が自由にできる家具、柔軟な組み合わせを前提としたものが多い。
図中のワインラックに見られるようなX字型の事例も見出された。正方形を「2×2」に分割するのは垂直・水平の線だけではない。対角線を用いることでも、形・面積とも均等な分割が可能なのである。
パズルの事例としてヒットした「テトロミノ」という概念も特筆すべきであろう。複数の正方形を辺でつなげた多角形を一般にポリオミノ註6)といい、正方形2つでドミノ、3つでトロミノ、そして4つでテトロミノである。ゲーム「テトリス」として有名であるが、L・S・T・O・Iの5つの型が存在し、組み合わせ方次第で、空間を隙間なく充填することができる。
その他、正方形の内部を4つに区分した造形、正方形の4箇所に切り込みを入れたり、折り曲げたりした造形、さらに4つの正方形パーツを立体的に組み合わせた造形など、正方形の概念を板やフレームといった厚みのあるモノに拡張して再構成することで、様々な造形的アイデアが生まれることがわかった。
4.3. 情報のデザイン
抽象絵画やCD・レコードのジャケットグラフィック、企業のロゴ、家紋、さらに企画立案や調査報告における概念図など、情報(ビジュアル)デザインの領域にも活用事例は多い(図3)。
絵画の領域では、カジミール・マレーヴィチの「Four Squares」に代表されるような、正方形の画面を2×2に構成した作品が多くヒットした。
商業グラフィックスでは東西南北や春夏秋冬といった4項目からなる概念を田の字型に図案化したものや、The Beatlesのような4人グループの顔写真を、田の字型に配置したグラフィックが多い。 「4」という要素の数と、円形の内容物をもつパッケージにそれが表れやすいといえる。
ロゴマークも活用事例の多い項目である。縦横様々なレイアウトに対応できる正方形が基調となること、また拡大・縮小に耐えるシンプルな形状が採用されることから、結果的に「正方形2×2」の範疇に入るデザインが生まれる確率は高くなる。例えば、4つの正方形を再構成したIDEOのロゴ、文字を田の字型に配したNeXTのロゴ、いずれもPaul Randによるものである。
日本の家紋にける「正方形2×2」も特筆すべきであろう。特に「四つ目」には「平」「隅立て」「捻じ」「繋ぎ」「市松」などの区別があるだけでなく、余白の広さで「七つ割り」「十一割り」「十三割り」といった詳細な区別も存在する。糸を使った絞り染めの技法「目結染(鹿子染)」の形状に由来する文様で、近江源氏の佐々木一族がこの紋を使用している註7)。
概念図に田の字型が多い点も重要である。一般に平面は横(X軸)と縦(Y軸)に分解して考える。デカルト座標である。上下と左右にプラスとマイナスのベクトルが示され、そこには4つの象限ができる。現実の世界がそうであるか否かに関わらず、我々はあらゆる現象をこの4つの区画に分けて考えるという思考に慣れている。
4.4. その他
その他、食料品や薬品といった、一般にデザインの教科書に載らないジャンルのものにも「正方形2×2」の活用事例が見出された(図4)。
表2では全体でも12件と少ないが、一連の調査を通して閲覧した中では、菓子類の画像が最も多かった。実際に画像が掲載されているページの記事を見ると「4個セット」、「4個入り」という表現がある。日常的に消費される納豆やプリンは「3連」が多いが、今回の調査で見られたものはいずれも高級品で、「3、4人」という家族構成を根拠としたデザインというより、お土産としての高級感を醸し出す形として、正方形状の配置が採用されたと考えられる。
折詰弁当の類にも田の字型のレイアウトが多い。弁当箱というプロダクトの問題でもあるが、料理を4つのエリアに分け、そこにご飯、肉、魚、野菜や果物といった区分を行う行為は、Four Square Gardenのアイデアと同様である。
5. 「正方形 2×2」 の造形的可能性
調査の結果、「正方形2×2」には、様々な活用事例があり、造形展開の方法も多岐にわたることがわかった。そこでこの節では、それらの事例をもとに造形上の分類・整理を行い、それぞれの特質について考察することとしたい。
まずは「正方形2×2」の典型パターンともいえる「田の字型の造形」。二つめは、対角線で4分割した「X字型の造形」。ここまではいずれも全体の外形が「正方形」である(5.1. - 5.3.)。さらに、「4つの正方形を組み合わせた造形」がある(5.4. - 5.6.)。これは「2×2」の直観的なイメージからは離れるが、正方形とデザインを考える上で示唆に富む事例が多い。そこで、その組み合わせ方についても、平面的な構成と、立体的な構成とに分類した上で、それぞれについて細かく考察を加えてみたい。以下、「田の字型」から順に述べる。
5.1. 田の字型の造形
庭園や建築物のプランから家紋まで、あらゆるデザイン領域に応用される典型的な造形パターンがこの「田の字型」である。垂直・水平に2分割しただけのシンプルな構成であるが、図5に示すように、その内部を単純にON/OFF塗り分けるだけでも6通りのパターンがある。上下左右、あるいは斜め45度、135度、225度、315度の4つの向きが考えられるため、回転によって向きを変えたものを別のものとみなせば、図の左から順に1 + 4 + 2 + 4 + 4 + 1 のパターンがあって、全体で16通りになる。
「田の字型」は、個々の要素に対して、様々な「切る・つなぐ」編集が可能である。「襖を取り払ってハレの日の舞台に再編する」ことができるように、となり合う正方形どうしが自由に連結可能な状態にあることは重要である。
田の字型のデザインでは、その中心を共有する内・外接円との親和性も高い。例えば田の字型のフレームに円を外接させると「丸に四つ目」、「丸に井筒」のような家紋ができるし、また円を内接させると「円窓」のような造形ができる。
5.2. X字型の造形
正方形を対角線で分割すると4つの直角2等辺三角形ができる。これも「2×2」のひとつのかたちであり、実際に調査の過程でもそれに相当する形状がいくつか出現した。これには、対角線が垂直・水平となるように45度回転させたものも含まれる。図6は、その2つの様態を示したものである。トポロジー的には田の字型と同じであり、塗り分け方は基本的に6通り、向きを考えれば16通りのパターンがある。
対角線を利用する分割は、2×2、3×3、4×4 …と応用を考えることはできず、2×2の場合にのみ成立する造形パターンである。そもそも正方形に対角線は2本しかなく、45度回転して垂直・水平分割した場合も、3以上の分割では要素間の対称性がなくなる。2×2の場合にのみ対称性が保たれる造形である。
分割された内部要素が三角形になる点で、面としての内部要素を考えた場合は加工が難しくなる(例えば窓が「X字型」ではガラスの加工が難しい)が、対角線が固定されることから、剪断方向の力に弱い「田の字型」と比較して、構造力学的には安定した形となる。
「X字型」も「田の字型」と同様、中心を共有する円を内・外接させることで円形との親和性の高いデザインが可能である。
5.3.田の字型・X字型の展開
応用として、区切る、折る、切るといった操作による造形展開について考えてみたい。
5.3.1.区切る
区切るという操作は、隣のスペースとの行き来を許すか、それとも遮蔽するかで様々なパターンが考えられる(図7)。日本家屋ように、間仕切りを自由に調整できる場合、中心側で開閉することも、周辺側で開閉することも可能である。
田の字型の仕切りの長さを1とすると、X字型の仕切りの長さは√2である。したがって、もし仕切りが、スライド式ではなく十字の回転式だとすれば、田の字の状態で完全に遮蔽(図左上)、X字の状態で4隅を解放(図右下)…となる。壁長に対して1/√2、約30%の開口部となる。
5.3.2. 折る
折りの基本パターンに関して、「2×2」の事例を紹介したのが図8である註8)。
Rectangle Foldが田の字型で、Triangle FoldがX字型、他の2つはその応用である。造形的には、Square Foldから作る「鶴」が最も有名であるが、デザインのテーマとしては、「包み」や「容器」などへ応用する事例が重要であろう。事例にある「コップ」も「箱」も適正な素材を使えば実用に資する。
すでに江戸中期、伊勢貞丈は「包結図説」に多くの事例を示してる註9)。平面から立体が生まれる「折り」という操作は非常に応用範囲が広く、地図、人工衛星、太陽光パネルの折りに応用される「ミウラ折り」註10)もその原点は折り紙である。
我々の身の回りには、紙が豊富にある。その資源を有効活用する意味でも、「折り」の応用は大きな可能性を秘めている。
5.3.3. 切る
紙・布などの造形では、「切る」という操作を加えることで様々な展開が可能になる。図9は「部分が切り落とされないように切り込みを入れた」例である。網本義弘は「デジタル折り紙」註11)の実践を通して、「方眼の直交グリッドに沿って切り込みを入れた紙」から様々な立体造形が可能になることを明らかにした。その豊富な造形事例からは、「デジタル折り紙」の基礎としての「正方形2×2」の可能性が示唆される。
身近な事例としては、「四隅からX字型に切り込みを入れて、頂点を1つおきに中心へ移動させて軸を通す」だけで、実際に回る「風車」ができる(図右下)。簡単かつ実用的な例である。
5.4. 「4つの正方形」を組み合わせた造形
「正方形の組み合わせ方」というものは、どのように整理されるべきだろうか。その方法について、様々な文献やWebサイトを検索してみたが、組み合わせ方を分類して事例を示したようなものは見当たらない。そもそも正方形は「どのようにでもなる」プリミティブな形状であり、よほど条件を絞らない限りは、組み合わせ方は無限にあると言ってよい。
しかし本研究は「4つの正方形」というかなり限定された条件下での議論であるため、ある程度システマティックな分類が可能だと考えられる。高山正喜久(1965)は、造形的発想の展開について、次のように述べている。
「『ここをもって、こう折る』ではなく、『頂点をもって、となりの頂点に重ねる』というふうにやってみると、その言葉からいろいろなことが類推され、『相対する頂点に置く』とか『頂点と頂点の間の辺の上に置く』『辺や頂点の上でないところに置く』というようなことが次々に連鎖的に生まれてくる。」註12) すなわち、要素間の具体的な関係を明示しながら造形の可能性を探ることにより、より多くの展開事例に触れることが可能になるということである。
ここではまず「4つの正方形」による構成を平面的なものと空間的なものと大きく2つに分類する。平面的な構成については「辺と辺の連結」、「頂点と頂点の連結」、「連結のない自由な構成」に分け、立体的な構成については、「立てる・置く」、「吊る・張る」、「組む」など「動詞」に着目して分類した。以下、それぞれの構成について事例を挙げつつ考察を加えたい。
尚、一般に「図形の変換」には、移動・回転・拡大縮小の3つの操作が基本となるが、ここでは、移動と回転のみを視野に入れて考える。拡大縮小を含めると研究の対象が「2×2」のイメージから遠ざかることと、日常的な場面で正方形の部材に対して可能なオペレーションは移動と回転のみだからである。拡大・縮小は部材の変形が必要となる点で一線を画すべきと判断した。
5.5. 「4つの正方形」の平面的な構成
5.5.1. 辺と辺を連結した造形
4つの正方形の辺と辺を連結して作る多角形、すなわちテトロミノには、回転・反転して同じ状態になるものを同一とみなすと、L・S・T・O・Iの5つのパターンがある(図10)。
ゲーム「テトリス」のアイテムとしても登場するこれらのパターンは、パズルのみならず空間やモノを矩形状にパッキングする「省スペース化」のためのヒントとなる。
O型とI型はもちろん、L型も扱いやすく、2個のペアで「4×2」の矩形ができる。S型とT型は単独では矩形にまとまらないが、L型と組み合わせればそれが可能となる。「T型2つとL型1つ」で「4×3」、また「S型1つとL型2つ」で同様の「4×3」の矩形になる。市販のパズルもそうだが、それぞれ2個ずつ(全部で10個)で、「5×8」の矩形に収めることができる。
5.5.2. 頂点と頂点を連結した造形
正方形の頂点間を連結するパターンを図11に示す。1つの連結点で2つの正方形を繋ぐ(連結点が3つになる)方法に5通り(A,B,C,D,E)、1つの連結点に3つの正方形をまとめて繋ぎ、残る1つを別の頂点で繋ぐ方法が2通り(F,G)、そして1つの連結点に4つの正方形を全部繋ぐ方法が1通り(H)、全部で8通りの繋ぎ方がある。尚、図の下段では、3点連結の方法が結果的にA~Eの5通りに集約されることを説明している。
図中にある「LSTOI」などの表記は、その連結パターンから構成可能なテトロミノパターンを示している。テトロミノとの関係からいえば、連結パターンAとBは、すべての型を構成できる完全な連結方法である。Hを除くすべてのパターンでL型の構成が可能で、またFを除くすべてのパターンでO型の構成が可能である。連結点が3つのA~Eに限れば、すべてのパターンでL型とO型が構成できることも銘記すべきであろう。
図12は、これらの頂点連結から可能となる様々な造形パターンの例を挙げたものである。頂点間を連結された状態であっても、様々な造形が可能になることがわかる。図では主に90度回転、45度回転の例を挙げているが、回転角は自由であるから、事実上そのパターンは無限にある。
図13は、個々の正方形が厚みを持った実体としての構造物であると仮定した場合に、それが安定的に姿勢を維持するために必須となる連結点を示したものである。奥行き方向への配置はないものとして、いずれも下向きの荷重に耐えることを前提とした図である。パイプフレームでできたキューブ上の部材が4個あると仮定すると、図のような置き方で遊具を構成することができる。尚、各パターンの一番下にある連結点は、床面への結束が必要であることを意味している。
5.5.3. 連結のない自由な造形
正方形がいかに単純な形態で、数が4つに限られるとしても、拘束のない自由な状態になれば、その構成は多様性を極める(図14)。
4つのサイコロを振ったときの散乱パターンは、それがサイコロのスケールに妥当な範囲内で群化して見えれば、それなりに「絵になる」ということもできるが、造形行為においては、「秩序構成」の大前提として、何らかの「制約」を設けるのが一般的であろう。
正方形の構成を考えるとき、辺や頂点の連結以外に構成を制約する契機となるものは何だろうか。それ自体も無数にあるのだが、「正方形」自体の性質を考えると、「辺の長さ」、「対角線の長さ」、「90度」、「45度」、「内接円」、「外接円」そして、「対称軸」、「中心」、といったキーワードが構成上の制約を成すキーワードとなりそうだ。
例えば、「90度の方向へ」、「辺の長さの1/2の距離だけ」、「平行に移動する」、といった操作や、「対角線上の一点を中心に」、「45度」、「回転する」といった操作は、できあがる造形物に一定の秩序を与える。また、「垂直水平に揃える」、「ある点から等距離に配する」といった、外的な条件を与えることも有効であろう。
わずか4つの正方形素材でも、そうした制約条件を組み合わせて適用することで、造形的秩序を維持しつつ多様な構成の展開を考えることができる。
5.6. 「4つの正方形」の空間的構成
線を基調としたひもやフレーム、面を基調とした紙・布・パネル、そして立体を基調としたキューブ状のもの。正方形を厚みのあるモノと考えると、様々な立体構成の可能性が見えてくる。立てる、置く、吊る、張る、組むなど…、動詞の数だけレイアウトの可能性がある。
5.6.1 立てる・置く × 並べる・重ねる
正方形状の板や木枠はその厚みや摩擦係数の大きさによって、「立て」たり「立てかけ」たりすることができる。一般にそれは正方形が正面あるいは側面を向いている場合で、正方形の面が上向きの場合は「置く」という表現になる。また、お互いの荷重がかからなければ「並べる」で、他の荷重がかかる場合は「重ねる」である(図15)。
物体が「自立する」ことと「倒れる危険がない」ということとは別であるが、一般に物体は「その重心からの鉛直線が底面(あるいは支点を結んだ多角形)の範囲内にある」という条件を満たせば倒れない(図15右:テトロミノの「S」)。つまり重要なのは「形」ではなく「重心の位置」である。日常的には、あらゆるモノの重心が形のほぼ中心にあることから、視覚的にも安定したレイアウトが多くなるが、造形表現の場面では、重心の持たせ方次第で、緊張感のある立て方も可能になる。
5.6.2. 吊る・張る
空間的な構成においては、「吊る」・「張る」といった「引張」の力も利用できる。図16の左と中央の事例は、4つの正方形木枠を3つの連結点で結束し、床と天井の双方から引張って固定したものである。引張の軸を中心とした回転も可能である。
右列は同一事例の全体とアップで、これは天井からの吊りが不要な引張の事例である。個々の正方形枠の外向きのテンションが中を通るワイヤーを引張ることで、全体の張りが保たれて自立する。
自転車のスポークなど日常的に見かける構造であるにもかかわらず、我々は引張の可能性を忘れがちである。材料の強さについても、例えば木材の引張に対する破壊応力は、コンクリートの圧縮に対する破壊応力よりも大きい註13)。引張を圧縮と同等に視野に入れて考えると、造形の可能性はさらに広がりを見せる。
5.6.3. 組む
正方形状の木枠が4つあると、図17上に示すような「組み」が可能になる。ひもで結束するという簡単な方法で、箱状、放射状、蛇腹状の安定した構造を実現することができ、これらは机・椅子やハンガーとしての活用も可能である。
正方形の木枠の中に別の木枠を挿入することで、図の下段にあるような自立する組み合わせも可能である。図では木枠を交差させるような組み方は行っていないが、枠そのものが簡単に分解・再構成できる構造であれば、4つの交差によってさらに展開は広がるであろう。
我々の日常では「木枠」と「ひも」と「板」があればそれで事足りるものも多い。すでに汎用の部材も市販されているが、正方形の木枠であれば廃品の転用も可能である。
6. まとめ
「正方形2×2」の造形的特徴を列挙してみると、
1)垂直・水平、対角線による領域分割との親和性、2)中心を共有する円との親和性、3)全体と要素の相似性註14)、そして4)要素の数がマジックナンバー「4」になること… などが挙げられる。
我々は一般的に空間を直交座標(x,y)で考える(極座標(r,θ)で考える人は少ない)。この直交座標のイメージがまさに「正方形2×2」であり、それが様々なデザインの原理として採用されるのは当然なのかもしれない。また、記憶しやすい「4」という項目の数も、普遍性の一因だと考えられる。「春夏秋冬」、「花鳥風月」、4字熟語の安定感は音節の数にもよるが註15)、項目の数として「無理がない」ということも無視できない(実際「七草」を記銘・想起するには多少努力を要する)。
「正方形2×2」は「単位の組み合わせで2倍の相似形ができる」基本的なセットである。その交換可能性、編集可能性は極めて高く、「折る」や「切る」といった操作まで含めると、その展開の事例は一つの論文では紹介しきれない数となるであろう。単純な切り口ではあるが、そこには大きな可能性がある。
20世紀型の生産は持続可能性がないというだけでなく、人間から「作る楽しみ」や「編集する楽しみ」を奪うものでもあった。人知の及ばない高度な技術に依存した「製品」は、最後は必ず行き場のないゴミと化す。しかし、モノにせよ情報にせよ、それらが簡単な原理に基づく編集可能な存在であれば状況は変わる。Simple & Small。我々の周囲には「生産完成品」ではないが「これでいい」註16)といえる状態のものが存在する。身近な素材と簡単な技術で構成することができ、転用と再利用を経て最後は無に還る。持続可能な社会を実現するためには、そのようなデザインの発想も推進されるべきではないだろうか註17)。
「正方形2×2」のイメージを列挙すると、日常的には同時に並ぶことのない物事が同じ俎上にあがる。領域を横断する視野の中で、新たな知見が得られる可能性も高い。「3×3」、そして「5×5」へ。先行研究の事例に還元することのできない「素数の平方」を前提に調査を継続していきたい。
註
1. ブルーノムナーリ(上松正直訳),1971,正方形-その発見と展開, 美術出版社
2. 今和次郎(藤森照信編), 1987,考現学入門,ちくま文庫,p.399
3. 検索語における「×」は、英数半角の「x(エックス)」を用いている。
4. Googleイメージ検索 http://www.google.com/imghp
5. 一般にジョージ・ミラー(1956)による「マジックナンバー7±2・我々の情報処理能力の限界」が知られるが、後にネルソン・カウアン(2001)は「短期記憶における魔法の数字4・脳の記憶能力の再考」でそれを4±1に修正した。Webデザインの分野では情報のチャンクを5つ以内に収めるのが一般的。
6.寺垣内政一, 2009,ポリオミノの数学,広島大学教育学研究紀要
7. 名字と家紋 http://www.harimaya.com/kamon/
8. Densho ORIGAMI, 2010,講談社インターナショナル
9. 山口信博他, 2009, 新・包結図説, 折形デザイン研究所
10. MIURA-ORI Grooup http://www.miuraori.biz/
11. 網本義弘, 2011, 空間・形態デザイン教育への原理と応用, 九州産業大学芸術学会研究報告Vol.42
12. 高山正喜久, 1965,立体構成の基礎,美術出版社, p.263
13.高山正喜久,前掲書,p.76
14.「正四角形が四つで正四角形」…当然のことのようであるが、同じことは正三角形でも、正五角形以上でも不可能である。
15.安定した2字(2音節)を合わせて、2字+2字=4字(4音節)
16. 金井政明他, MUJI 無印良品,DNPアートコミュニケーションズ,pp.14-17
17.「正方形」研究・序説,井上貢一,2010,九州産業大学芸術学会研究報告Vol.41