ART & DESIGN for a sustainable future
「面白い!」をデザインする
はじめに
- 藝術 という言葉は、もとは リベラルアーツ の訳語(西周)
- アートの本来の意味は「人間がつくったもの」。
- そしてすべての学問の究極は「人間とは何か」について考えることです。
- 大学での学び
- 勉強 ではありません、研究 (study) です。
- 学生と教員は「研究室」をもつ共同研究者です。
- 大学では「卒業式」とは言いません。「学位授与式」と言います。
Art & Design
- アート
- 自分の中に「動機」を見出す
- 自分の表現を追求する
- 既成概念を破る新規性の追求(惰性化した日常を挑発する存在)
- 作品|世界にひとつだけの存在|作家はサインを入れる
- デザイン
- 暮らしの中に「問題」を見出す
- 人と社会のニーズに応える
- 問題を解決し日常を快適にする(時には空気のような存在)
- 製品|設計図にもとづく機械生産|デザイナーは匿名
「面白い!」とは、どういうことか
芸術・デザインの取り組みは「面白い!」ことが大前提です。どんなに重要なことでも、それが楽しく面白いものでなければ、人は積極的には動かないし、また継続もできません。
そこで問題です。人は様々なものごとに対して「面白い」という言葉を発しますが、そもそも「面白い!」とはどういうことなのか。
あらゆる感情現象にいえることですが、どんなモノ・コトを「面白い!」と感じるかは、人により、また状況により様々です。感情はそれを享受する人の脳内で起こる現象なので、作り手(送り手)の創造力だけでデザインできるものではありません。しかし、作家、お笑いタレント、クリエイターなどと呼ばれる人たちの実践を見れば明らかなように、世の中には高い確率で「面白い!」状況を作り出すコツが存在することも確かです。
今日はその秘密を解き明かすきっかけとして「面白い!」「楽しい!」「幸せ!」といった感情がどんな場合に生じるのか、つまり「刺激に対して脳がよろこぶ*1のはどんな場合か」ということについて、考えてみたいと思います。
※ 脳内をかけめぐるのは「情報」です。「面白い!」には、資源つまり「お金」は不要です。
「面白い! 」の2大原理
- 知の体制化(感動する面白さ)
- 知の崩壊と再体制化(笑える面白さ)
以下、それぞれについて考えてみます。
知の体制化(感動する面白さ)
- 言葉の獲得 ・・刺激の対象化 / 私的幻想の共同化
- 知の獲得 ・・理解の成立 / 関係の構築
- 知の組み換え ・・理解の更新 / 関係の更新
「知」の獲得とは、生まれたてのぐちゃぐちゃな脳内結線を、つないだり切ったりして秩序立てていくことを意味します。「分かった!」というときに感じる「面白さ」はその典型的なもので、複雑に絡んだ脳内結線が、文字どおりいくつかのグループに「分かれ」て信号の流れがクリアになる状況*2であると説明できます。
知の体制・脳内回路は組換えが可能です。既存の物事の関係を再「編集」して別の関係に組換えることができれば、「面白い!」は無限に生産可能です。
- 新しいアイデアの大半は「編集」から生まれる
- 名前をつける(区分ける、結界をつくる、記念日をつくる・・・)
- 順序を入れ替える( 地球の水 → 水の地球 )
- 質の異なる情報を組み合わせる( 写真と文字、音楽と映像 )
- 見立てる・見出す( 井戸茶碗 Ready Made )
- 発想を転換する
- 明るくする → 周りを暗くする
- 頑丈なものを作る → 壊れても簡単に修復できるものを作る
- 倒れないようにする → はじめから倒しておく(台風に備えて・・)
- 防災グッズを備える → それを日常的に使う(使い方が身につく)
- 違反者に罰則を与える → 違反しなかった人に宝くじが当たる
知の崩壊と再体制化(笑える面白さ)
- 文脈の崩壊 ・・お笑い(話の文脈に対するボケ, 音程がはずれる瞬間)
- 価値の転倒 ・・祝祭(日常的秩序の転倒)/ 時限付き歩行者天国
既成の概念、常識、我々を縛り付ける思考の回路が寸断されると同時に、それまで異質なもの同士が新たな関係を結ぶ瞬間、人は「笑える」面白さを感じます。
編集してみよう
アイデアの大半は、既存の物事の再・編集によって生まれます。
私たちの思考回路には「常識」のバイアスがかかっているので、例えば、
「ひらがな を ◯◯◯ 」という文における ◯◯◯ の部分には、
ひらがな を 書く ひらがな を 覚える ひらがな を 漢字に変換する
のような、ふつうにつながる言葉しか思い浮かばないようになっています。
ということは、意識的にこれを排除して、ありえない言葉を接続すれば、今までにない発想が生まれる・・ということになります。
単語をつなぐ
2つの単語を非常識な関係で接続してみる。
- ひらがな が 歩く
- ひらがな で 滑る
- ひらがな を 焼く
発想を広げる
2つの単語の関係から思いつく、物語・構造物・商品・イベント・・を発想。
- ひらがなを主人公にした物語・アニメーション作品をつくる。
- ひらがなの形をした遊具(滑り台、ブランコ・・)をデザインする。
- ひらがなの形をしたパンを商品化する(アルファベットチョコの発想)。
みんなでブラッシュアップする
アイデアはひとりの力だけでは具体化できないのが普通です。また「その権利を個人が独占する」という現代の知的財産の考え方も、良い結果を生みません。
- アイデアの様々な展開の可能性をみんなで考える
- 様々な角度からアイデアの問題点を見出し、対応を考える
GoodDesign の大前提は「問題がない」ということです。
講義の最後に
モノ・コトの価値は所与のものではない
- 「紙幣」自体はただの紙切れ。それを信用する社会においてのみ価値をもつ
- 「綺麗な色」があるのではなく、周囲の環境との関係で色は生きてくる
- 「優れた人」がいるのではなく、他者との関係において人の価値は決まる
つまりどんなモノ・コトでも、それをとりまく関係を再編集することによって、新たな価値を産みだすことができるのです。
橋をデザインするのではなく、川の渡り方をデザインする
多くの人が、敷かれたレールの上を歩いていています。しかし、
大人が敷いたレールの50年先の鉄橋は腐って崩れかけているかもしれません。
常識を疑う。一歩引いて、全体を見通せる場所に立つ。
人と社会の未来には、様々な可能性があるはずです。
身の回り半径10mのところから、自分自身の手で変えていく。
「面白い!」とはそういうことだと思います。