デザインサイエンス
関連キーワードの覚書
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はじめに
アートかサイエンスか
デザイン科学の先駈け、ジョン・クリス・ジョーンズは、「デザインはアートか、サイエンスか・・?」という質問に対して、次のように答えています。
最大の違いは「タイミング」である。アーティストも科学者も(現実的・記号的の別を問わず)「現在」存在している物理的な世界に対して働きかけている。一方で数学者は歴史的な「時間」からは独立した抽象的な関係を取り扱っている。他方のデザイナーは、想像された「未来」を現実のものとして扱い、「見たこともない」物事を現実化する方法を突き止めねばならないという宿命にある。
John Chris Jones、Design Method
Doing more with less
バックミンスター・フラーは、クリティカル・パス ―人類の生存戦略と未来への選択の中で、「デザインサイエンス」の概念を提唱しています。
Doing more with less(より少ない資源を使ってより多くのことをす)
フラーによれば、デザインサイエンスとは「人間本来の俯瞰的・包括的な視点で、持続可能な発展に必要なクリティカル・パスを形成する科学」。デザインサイエンスの成果物は、それ自体が実体験を含むかたちで全体的に関連しながら変化、成長、拡大します。
既存の技術・道具は、より少資源・少エネルギー・多機能な新しい技術・道具の登場によって陳腐化するとともに、その陳腐化の期間も加速度的に短くなっていますが(エフェメラリゼーション:Ephemeralization)、持続可能な発展には、その現象が適切に起こることが必要です。
DESIGN:de+sign
- 記号を表出する行為
- 表出された記号自体
- 対象や意味を明確に示す行為
- 他との境界を限定して形状をはっきり示す行為
- 対象や意味に相当する代理物を用意すること
- 複写や記述
- 表示する要素の選択
- 特定の対象や意味に他者の注意を向ける作為
- 感覚器官で捉えられうる刺激の集合によって対象や意味を代替えする行為
参考:記号学大辞典
語源・関連語
- Design の語源はラテン語の Designare
- Designate: 示す、指示する、任命する、名付ける、呼ぶ
- Assign:割り当てる(配属する)
- de-sign :関係を組み替えるべく、ものごとに新たな言葉を与える作業
- de+sign の de:from, out of, descended from, derived from, concerning, because of, according to, in imitation of, などの意味
デザインの評価
ユーザビリティー (usability)
ユーザビリティーとは、使い勝手、使いやすさのことです。ユーザビリティーの評価ポイントは主に以下の五つです(ヤコブ・ニールセン)。
- 学習しやすいか
- 効率はいいか
- 記憶しやすいか
- エラーが少ないか
- 主観的な満足度は高いか
参考:ISO 9241-11におけるユーザビリティーの評価項目
- 有効さ (effectiveness)
ユーザが指定された目標を達成する上での正確さ、完全性 - 効率 (efficiency)
ユーザが目標を達成する際に、正確さと完全性に費やした資源 - 満足度 (satisfaction)
製品を使用する際の、不快感のなさ、および肯定的な態度 - 利用状況 (context of use)
ユーザ、仕事、装置、並びに製品が使用される物理的及び社会的環境
ヒューリスティック評価
ヒューリスティックとは「経験則」という意味。専門家による評価のひとつで、デザイナが既知の経験則に照らし合わせてインタフェースを評価し、その問題を明らかにする評価法です。
ニールセンによる10のガイドライン
- システムの状態がわかるようにする
Visibility of system status - 実際の利用環境に適合したシステムを作る
Match between system and the real world - ユーザーに操作の主導権と自由度を与える
User control and freedom - 一貫性を保ち標準に倣う
Consistency and standards - エラーを防止する
Error prevention - 記憶を呼び起こさなくても、見ただけでわかるようにデザインする
Recognition rather than recall - 柔軟性と効率性を持たせる
Flexibility and efficiency of use - 最小限で、美しいデザインにする
Aesthetic and minimalist design - ユーザーがエラーを認識し、診断し、回復できるように支援する
Help users recognize, diagnose, and recover from errors - ヘルプや説明文書を用意する
Help and documentation
プロトコル分析(ユーザーによる評価のひとつ)
ユーザーテスト(ユーザビリティーテスト)の代表的なもの。ユーザーが課題を遂行するプロセスを観察し、ユーザーの行動、発話からインタフェースの問題点を発見する評価手法です。5人の被験者で問題の85%を発見できると言われます(Nielsen, Jakob, and Landauer, Thomas 1993)。
サーブリック分析(微動作分析)
ギルブレス( F.B.Gilbreth )が考案した動作研究の方法で、基本的な動作を18種類のサーブリック(動素)に分解して分析するものです。
18種類のサーブリックは以下の3類に区分されます。
- 第1類:必要・改善の余地あり
「手を伸ばす」「つかむ」「運ぶ」「組み合わす」「使う」「分解する」「放す」「調べる」。
仕事そのもの、またモノの取扱いなど、動作の基本となるものです。
この中で価値を生む要素は「組み合わす」「使う」「分解する」のみ。
- 第2類:補助的・できるだけ排除せよ
「探す」「見出す」「位置決め」「選ぶ」「考える」「前置き」。
動作を遅れさせる要素です。
道具類の置き方・使い方や材料の置き方に問題がある場合に発生します。
- 第3類:仕事に寄与しない・排除せよ
「保持」「休む」「避けられない遅れ」「避けられる遅れ」。
仕事が進んでいない状態です。
作業動作の両手の不均衡や前後関係の悪さが原因で発生します。
「組み合わせる」「使う」「分解する」という、価値を生む3つのサーブリックを除くと、他の15のサーブリックは、すべて改善すべき対象といえます。
- 事例
- 作業内容:本棚から本を取る
- 動素分解:「探す」・「つかむ」・「運ぶ」
- 改善方法:第2類あたる「探す」を排除するよう改善する
ユーザー調査
- 定量的調査と定性的調査
- 実験室とフィールド
- フィールドワーク(野外観察、現地調査)
- ラピッドエスノグラフィー(簡便な現場調査報告)
- インタビュー
- ファウンドビヘイビア(ふるまい、行動の観察)
関連キーワード
創発デザインと最適化デザイン|上流と下流
デザイン思考のスパイラルでは、上流と下流をぐるぐる回る
- 創 発:目標あいまい 自律分散・ボトムアップ デザインの上流工程
- 最適化:目標あり 中央集権・トップダウン デザインの下流工程
ノンシナリオベースドデザイン
様々なシナリオを想定してデザインを考えるのではなく、想定外のことが起こることを前提にデザインする。そのキーワードは以下。つまり生命に学ぶ。
- 自律分散協調・自己組織化
- 冗長、多様性
- 免疫、ホメオスタシス
参考:「デザイン塾」
ISO13407:インタラクティブシステムの人間中心設計プロセスの5段階
- 人間中心設計の必要性の特定
- 利用の状況の把握と明示
- ユーザーと組織の要求事項の明示
- 設計による解決案の作成
- 要求事項に対する設計の評価
アフォーダンス
アフォーダンス(affordance)とは、アメリカの知覚心理学者 J.J.ギブソンによる造語で、環境が動物に与える「意味」のことです。 英語の afford は、 与える、提供する・・という意味の言葉です。
本来の意味でのアフォーダンスとは「動物と物の間に存在する行為についての関係性そのもの」ですが、D.ノーマンが、デザインの文脈において、モノに備わった「ヒトが知覚できる行為の可能性」という意味でアフォーダンスを用いたことで、知覚されたアフォーダンス(Perceived Affordance)の考え方がデザイン界には広まりました。以下のような文脈で使う言葉です。
ドアノブの代わりに平らなプレートを貼ると、 それはドアを押すという動作をアフォードする
コンセプトメイキング
- ペルソナ
年齢・職種・趣味・趣向などを設定した仮想ユーザー - シナリオ
ユーザーの行動、目的、周辺環境などを時系列に記述したもの - 発想法
- ブレインストーミング
- マインドマップ
- KJ法
- ロールプレイング
デザインスタイル
D.A.ノーマンの「エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために」における3つのデザイン・スタイル
- 本能的デザイン
- 行動的デザイン
- 内省的デザイン
テスラーの複雑性保存の法則
「インタラクションデザインの教科書」という本の中で、Dan Safferが説明していることですが、
あらゆるプロセスには本来備わっている複雑性があり、 それ以上ものごとを単純化することはできない。 デザイナーがどれだけがんばっても「臨界点」があって、 そこから先は、複雑性を移動できるだけだ・・
というものです。
実際パソコンの操作などに関して言えば、人工知能にこちらのやりたいことを推論させる以外、もうこれ以上簡単にはできないように思います。
ビジュアライゼーション
- 情報の構造化
- アイデアスケッチ
- プロトタイピング 試作品をつくる
- アクティングアウト 使用場面を演じてその反応を見る
ヒックの法則
マン・マシン・インタフェースにおけるユーザビリティを定量化するモデルで、以下のようなものです。
ユーザーの意思決定にかかる時間は、 選択行為におけるエントロピー量に比例する。
エントロピー量 H は選択肢の数nによって以下のように表されます。
ただし、すべての選択肢が等確率で選択される単純なケースです
H = log2 ( n + 1 )
上記の法則をこれを用いてモデル化すると、以下のように書けます。
T = a + b log2 ( n + 1 )
T:所要時間
a:意思決定を除く所要時間
b:実験から得られた平均的意思決定時間(一般に150ミリ秒)
項目が増えると意思決定に時間がかかる・・しごく当然です。
で、例えば20項目のメニュー項目を並べる際は、そのまま一列に並べるのではなく、5(メイン) x 4(サブ) にグルーピングして見せると、意思決定は断然早くなります。画面上のボタン配列などで項目が多くなる場合は、まず5つ程度のグループにくくって見せるようにするのが賢明です。
フィッツの法則
マン・マシン・インタフェースにおける人間の動作をモデル化したもので、1954年に ポール・フィッツが提唱した以下の法則です。
対象領域に移動するのに必要な時間は、 対象部までの距離と対象物の大きさの関数となる
例えば、指がボタンに触れる動作や、マウスがアイコンをクリックする動作を考える際に応用できる法則です。
MT= a + b log2( 1 + D/W )
- MT :動作を完了する平均時間
- a :装置の開始・停止時間
- b :デバイスそのものの速度
- D:開始点から対象の中心までの距離
- W:動きの方向に測った対象物の幅
で、簡単に言うと、ターゲットは「近くにあって大きい方がいい」というきわめてあたりまえの話になるのですが、例えば、画面上でのマウスの操作性は、対象となるアイコンのサイズ(つまりW)で大きくかわる・・ということは、特にWebデザイン等では注意すべき重要な知見です。
マイクロスリップ
マイクロスリップとは、私たちの日常の動作で頻繁におこっている「小さな失敗」その「微修正」のことです。自動販売機にコインを入れようとしてうまくいかないと、すぐにコインの持ちかえが生じます。これがマイクロスリップで、動作をためらう「躊躇」、手の向きを変える「軌道の変化」、ちょっと触ってから変える「接触」、手の形状を変える「手の形の変化」があります。
これは、フロイトが「錯誤行為」と呼んだもの、すなわち「言い違い」「読み違い」「書き違い」「勘違い」「物忘れ」といった現象と同様のもので、それは「無意識」によって立ち現れる行動だといえます。
マイクロスリップは自然な現象なので、必要以上にそれを減らすべく努力する必要はないのですが、例えば「状況を整理整頓すること」や「繰り返し訓練をすること」はマイクロスリップを起こしにくくします。デザイナーが意識すべきことがあるとすれば、前者「情報のデザイン」です。
ユニバーサルデザインの7原則
The Center for Universal Design, NC State Universityによる原文
- どんな人でも公平に使えること(Equitable use)
- 使う上で自由度が高いこと(Flexibility in use)
- 使い方が簡単で、すぐに分かること(Simple and intuitive)
- 必要な情報がすぐに分かること(Perceptible information)
- うっかりミスが危険につながらないこと(Tolerance for error)
- 身体への負担(弱い力でも使えること)(Low physical effort)
- 接近や利用するための十分な大きさと空間を確保すること
(Size and space for approach and use)
付記:障害は「欠損」と考えられがちですが、人はそれぞれ異なる身体(ハードウエア)に依存しているわけで、片手が不自由であることも、身長が低いことも、同様に「不便」なことがあります。ユニバーサルデザインで重要なことは、単に標準化するということではなく、様々な事情に柔軟に対応できるようにすることです。
補足:コンピュータ科学のキーワード
デザイン科学とコンピュータ科学には、類似した発想があります。
開発のプロセス
以下、主としてソフトウエアの開発のプロセスですが、デザインのプロセスにあてはめて考えることもできます。
- 基本的なプロセス
- 要件定義(要求分析)
- 外部設計(基本設計)
- 内部設計(機能設計)
- 詳細設計(プログラム設計)
- 製造(プログラミング)
- テスト(単体>結合>システム>運用)
- 運用・保守
- ウォーターフォール型
- 開発は上流工程から下流工程へ
- 工程が上流から下流に順番に流れていくため、管理がしやすい
- 致命的な手戻りが発生する可能性がある
- プロトタイプ型
- システム開発の初期段階で、その機能とインターフェイスを試作。
これをユーザーが評価することでシステムの仕様を確定、開発を行う手法 - 試作品を早期に開発することで、ユーザと開発側との齟齬が減少する
- プロトタイプの開発に時間が掛かり、全体工数が肥大化する傾向がある
- システム開発の初期段階で、その機能とインターフェイスを試作。
- スパイラル型
- ウォーターフォール型とプロトタイプ型をあわせたような開発プロセスで、設計からテストまでを機能単位で区切って、短期間で開発。それを繰り返しつつ完成させる
- ユーザが早期に確認できるため、要件漏れなどのリスクを軽減できる。
- 一定の技術者数で開発を進めるため、各技術者に技術や業務知識が蓄積され、品質や生産性が向上する
- 技術者が確保しやすくなる
- 大規模システム開発の場合、最初の見積もりが難しい
- 各工程で戻りが発生した場合など、ウォーターフォール型よりも時間がかかることも多い
- 複数の開発が並行で進むため、管理が難しい
RASIS(レイシス)
Reliability, Availability, Serviceability, Integrity, Security
RASISとは、コンピュータシステムに関する評価指標の一つで、「信頼性」「可用性」「保守性」「保全性」「安全性」という5つの項目の頭文字をとって表現したものです。
- Reliability(信頼性):故障しにくい
- Availability(可用性):高い稼働率を維持できる
- Serviceability(保守性):障害が発生した場合に迅速に復旧できる
- Integrity(保全性):データが矛盾を起こさずに一貫性を保っている
- Security(安全性):機密性が高く、不正アクセスがなされにくい
中でも最初の R A S の3項目は、評価指標としても重視されています。