計画的陳腐化
Planned [built-in] Obsolescence
計画的陳腐化とは
計画的陳腐化とは、製品の寿命を意図的に短く設計したり、機能を制限したりすることで、消費者に新しい製品を購入させようとするビジネス戦略のことです。製品そのものが古くなるだけでなく、ビジュアルや機能が時代遅れに見えたり、新しいモデルの機能に劣るように感じさせることで、買い替えを促します。
これを「デザイン戦略」と呼ぶ方もいますが、少なくとも私が考えるソーシャルデザインにはこのような発想はなく、デザインを学術研究の対象としている身としては、このような行為にデザインという言葉は使ってほしくない・・
計画的陳腐化が行われる理由
- 利益の最大化:新しい製品を継続的に販売することで、企業は利益を最大化することができます。
- 技術革新の促進:新しい技術を導入し、より良い製品を開発するために、古い製品を市場から淘汰する必要があります。
- 競争力の強化:競合他社との差別化を図り、自社の製品を魅力的に見せるために、計画的陳腐化が利用されることがあります。
計画的陳腐化の事例
- 電球:歴史的経緯から筆頭に挙げられるのは「電球」でしょう。1920年代、アメリカの某社を中心とする電球製造メーカーがカルテルを組んで、平均2,500時間の寿命を持つ白熱電球を作る技術があるにも関わらず、これを1,000時間に短縮する協定を・・。これによる利益の急増は、こうした手法を他の産業にも広げる契機となりました。
- 自動車:いわゆる「マイナーモデルチェンジ」というのがその典型です。製造ラインの更新コストを最小限にして、形を若干「リフトアップ」することで、古い型のものをダサいと思わせる手法は、この業界の定番です。
- 一般家電製品:修理ができない「はめ殺し」のパーツが多数。故障した場合、修理とは名ばかりの「パーツの交換」が必要で、パーツの交換を依頼するよりも新製品に買い替えた方が安くなるような製品が多くあります。
- デジタル機器: スマホやパソコンは、毎年新しいモデルが発売され、性能が向上するとともに、古いモデルのソフトウェアアップデートが停止されることがあります。 処理能力やストレージ容量が向上した新しいモデルが頻繁に発売され、古いモデルは性能が不足しているように感じさせられます。
- ファッション:流行が頻繁に変わる(意図的に変える:例えば「流行色」)ことで、消費者は常に新しい服を購入するように促されます。
計画的陳腐化の問題点
- 資源の無駄遣い: 製品が短寿命で回転するため資源消費量が増加
- 廃棄物の増大:旧製品が廃棄物となり、環境負荷を増大させている
- 消費者の負担増: 頻繁な買い替えが必要となり、消費者の経済負担が増加
計画的陳腐化に対する政策
- 世界の動向
計画的陳腐化は国境を越えた問題であるため、国際的な連携による規制の強化が期待されますが、企業が製品を自由に設計し、販売することは、市場経済において重要な要素とされており、過度な規制は、企業の競争力を低下させるとの考えから、具体的な対策には至っていないのが現状ですが・・
フランスでは、消費者の買い替えを促すために故意に機能低下を起こすことは違法とする法律が制定されました。また2022年7には「廃棄禁止及びサーキュラーエコノミーに関する法律」が施行され、商品等の再利用やリサイクルの促進による廃棄物の削減や資源の循環を促しています。また現在、多くの国で「製品の修理可能性を高めるための法律」や「製品に関する情報の公開」、「保証期間の延長」などが検討されているようです。
- 日本の状況
日本においても計画的陳腐化に対する明確な禁止法律はありませんが、消費者庁は、事業者の表示に関するガイドラインを整備したり、消費者トラブルに関する相談に対応したりすることで、消費者の保護に努めているようです。
計画的陳腐化を終わらせる・・
修理可能で長寿命な設計、また、廃棄物を減らすためのリサイクルの促進といったことをメーカーが考えればいいのですが、メーカーからすれば、収益が減ることは明白で、メーカー側の積極的取り組みは期待しづらいと言えます。むしろ、変わるべきは消費者の方。消費者自身が「計画的陳腐化」の実態を知るとともに、製品を選ぶ際に寿命や修理のしやすさなどを考慮して、メーカーの意図を見抜く力を持てば、メーカーのものづくりも健全なものへとシフトせざるを得なくなるでしょう。