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差別の構造

差別の構造

人権・同和教育研修会講演録「まえがき」

 差別はなぜなくならないのか。その理由のひとつは、私たちの思考回路に「差別」を生み出す仕組みが内在しているからではないかと思います。私たちは物事を理解するときに「わかる」という言葉を使いますが、これは「分ける」に由来すると言われます。すなわち、連続分布する物理的な世界を「言葉」によって恣意的に区分けることが「わかる」という脳内現象だということです。この区分けがマジョリティとマイノリティの区分に適用されるとき、そして、自らの存在をマジョリティの側に位置付けるとき、無意識のうちにマイノリティに対する差別的な世界認識が形成されるのではないでしょうか。

 生命は膨大な数の遺伝情報の掛け合わせであり、人それぞれの特徴は、遺伝子と文化の共進化の結果によるものです。人種、性的志向、認知特性、身体能力…、いずれも連続的な分布をなすもので、そこに明確な境界など存在しません。ところが統計的に抽出されたクラスターに何らかの「名称」が付与されたとたん、そのような対象が実在するかのような幻想が生まれるのです。「異常」や「障害」の説明に「二十人に一人」といった表現をよく耳にしますが、それらの多くは多次元的な正規分布の周辺に位置するマイノリティの特徴であり、人類が作り出した「共同幻想」の一部に過ぎません。

 文化人類学者の山口昌男は、中心と周縁というキーワードを使って我々の世界認識のあり方を説明しました。中心とは自らが属する集団の「秩序」であり、周縁とはその外部に排除された「異質なもの」です。ここで注目すべき問題構造は、「中心の秩序は恣意的で不安定な共同幻想であるがゆえに、その動的秩序を保つために、周縁という外部の力を必要とする」ということです。この関係構造を物語る「残念な」事例は多々あります。仮想敵国の存在が国際社会を連合させる。国境と異民族の存在が国民を団結させる。いじめの対象の存在がいじめグループの仲間意識を形成する。マジョリティは、集団の秩序を維持するために、マイノリティを「排除しつつ見える化する」という戦略を採用してしまうのです。私はこれこそが、ヒトの社会に内在する「差別の構造」であると考えます。

 学問としての人権教育では、「差別を無くしましょう。」「相手の立場で考えましょう。」といった問題意識を超えて、「ヒトの社会にはなぜ差別が生まれるのか」というメタレベルの問いを発することが必要であると思います。自らを相対化し、ヒトの社会に内在する「差別の構造」を俯瞰する視点に立つことができれば、偏見や差別といった愚かな行為に加担する確率は、極めて低くなるのではないでしょうか。

 九州産業大学では 1985年、学内に「同和教育推進委員会(現・人権・同和教育推進委員会)」を設置し、以来、人権・同和教育に関わる授業を設置するとともに、教職員・学生、また地域の方々を対象とする研修会を継続的に行なってまいりました。
 この冊子は、本学で開催した人権・同和教育研修会及び学内教員による自主講座「人権」での講演を 1991年度から年度ごとに収録し、発刊しているものです。
 ご講演をいただいた講師の方々には、ご多忙中にもかかわらず御快諾の上、ご協力を賜りましたことに心より厚く御礼申し上げます。 この冊子が、より多くの学生・教職員の目に触れ、人権教育推進の一助となり、人権尊重社会の実現に寄与することを切に願っております。

2018年3月23日



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Last-modified: 2021-03-08 (月) 12:34:47