小倉百人一首
小倉百人一首は、藤原定家(1162~1241)が選んだ秀歌撰で、天智天皇から順徳院まで、古い歌人から順に歌番号が付されています。原型は色紙。
和歌をコレクションする、またそれを教養のひとつとして大切にするという知的価値観は、日本人に特有のものです。
- 1番歌
秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ
あきのたのかりほのいほのとまをあらみ わかころもてはつゆにぬれつつ
天智天皇
- 2番歌
春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣干すてふ天の香具山
はるすきてなつきにけらししろたへの ころもほすてふあまのかくやま
持統天皇
- 3番歌
あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む
あしひきのやまとりのをのしたりをの なかなかしよをひとりかもねむ
柿本人麻呂
- 4番歌
田子の浦にうち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ
たこのうらにうちいててみれはしろたへの ふしのたかねにゆきはふりつつ
山辺赤人
- 5番歌
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき
おくやまにもみちふみわけなくしかの こゑきくときそあきはかなしき
猿丸大夫
- 6番歌
鵲の渡せる橋に置く霜の 白きを見れば夜ぞ更けにける
かささきのわたせるはしにおくしもの しろきをみれはよそふけにける
中納言家持
- 7番歌
天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも
あまのはらふりさけみれはかすかなる みかさのやまにいてしつきかも
安倍仲麿
- 8番歌
わが庵は都の辰巳しかぞ住む 世をうぢ山と人はいふなり
わかいほはみやこのたつみしかそすむ よをうちやまとひとはいふなり
喜撰法師
- 9番歌
花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに
はなのいろはうつりにけりないたつらに わかみよにふるなかめせしまに
小野小町
- 10番歌
これやこの行くも帰るも別れては 知るも知らぬもあふ坂の関
これやこのゆくもかへるもわかれては しるもしらぬもあふさかのせき
蝉丸
- 11番歌
わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと 人には告げよ海人の釣船
わたのはらやそしまかけてこきいてぬと ひとにはつけよあまのつりふね
参議篁
- 12番歌
天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ 乙女の姿しばしとどめむ
あまつかせくものかよひちふきとちよ をとめのすかたしはしととめむ
僧正遍昭
- 13番歌
筑波嶺の峰より落つるみなの川 恋ぞ積もりて淵となりぬる
つくはねのみねよりおつるみなのかわ こひそつもりてふちとなりぬる
陽成院
- 14番歌
陸奥のしのぶもぢずりたれゆえに 乱れそめにしわれならなくに
みちのくのしのふもちすりたれゆゑに みたれそめにしわれならなくに
河原左大臣
- 15番歌
君がため春の野に出でて若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ
きみかためはるののにいててわかなつむ わかころもてにゆきはふりつつ
光孝天皇
- 16番歌
立ち別れいなばの山の峰に生ふる まつとし聞かば今帰り来む
たちわかれいなはのやまのみねにおふる まつとしきかはいまかへりこむ
中納言行平
- 17番歌
ちはやぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは
ちはやふるかみよもきかすたつたかは からくれなゐにみつくくるとは
在原業平朝臣
- 18番歌
住の江の岸に寄る波よるさへや 夢の通ひ路人目よくらむ
すみのえのきしによるなみよるさへや ゆめのかよひちひとめよくらむ
藤原敏行朝臣
- 19番歌
難波潟短き蘆のふしの間も 逢はでこの世を過ぐしてよとや
なにはかたみしかきあしのふしのまも あはてこのよをすくしてよとや
伊勢
- 20番歌
わびぬれば今はたおなじ難波なる みをつくしても逢はむとぞ思ふ
わひぬれはいまはたおなしなにはなる みをつくしてもあはむとそおもふ
元良親王
- 21番歌
今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな
いまこむといひしはかりになかつきの ありあけのつきをまちいてつるかな
素性法師
- 22番歌
吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風をあらしといふらむ
ふくからにあきのくさきのしをるれは むへやまかせをあらしといふらむ
文屋康秀
- 23番歌
月見ればちぢにものこそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど
つきみれはちちにものこそかなしけれ わかみひとつのあきにはあらねと
大江千里
- 24番歌
このたびは幣も取りあへず手向山 紅葉の錦神のまにまに
このたひはぬさもとりあへすたむけやま もみちのにしきかみのまにまに
菅家
- 25番歌
名にし負はば逢う坂山のさねかずら 人に知られで来るよしもがな
なにしおははあふさかやまのさねかつら ひとにしられてくるよしもかな
三条右大臣
- 26番歌
小倉山峰の紅葉葉心あらば いまひとたびのみゆき待たなむ
をくらやまみねのもみちはこころあらは いまひとたひのみゆきまたなむ
貞信公
- 27番歌
みかの原わきて流るるいづみ川 いつ見きとてか恋しかるらむ
みかのはらわきてなかるるいつみかは いつみきとてかこひしかるらむ
中納言兼輔
- 28番歌
山里は冬ぞ寂しさまさりける 人目も草もかれぬと思へば
やまさとはふゆそさびしさまさりける ひとめもくさもかれぬとおもへは
源宗于朝臣
- 29番歌
心あてに折らばや折らむ初霜の 置きまどはせる白菊の花
こころあてにおらはやおらむはつしもの おきまとはせるしらきくのはな
凡河内躬恒
- 30番歌
有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし
ありあけのつれなくみえしわかれより あかつきはかりうきものはなし
壬生忠岑
- 31番歌
朝ぼらけ有明の月と見るまでに 吉野の里に降れる白雪
あさほらけありあけのつきとみるまてに よしののさとにふれるしらゆき
坂上是則
- 32番歌
山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬ紅葉なりけり
やまかはにかせのかけたるしからみは なかれもあへぬもみちなりけり
春道列樹
- 33番歌
ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ
ひさかたのひかりのとけきはるのひに しつこころなくはなのちるらむ
紀友則
- 34番歌
誰をかも知る人にせむ高砂の 松も昔の友ならなくに
たれをかもしるひとにせむたかさこの まつもむかしのともならなくに
藤原興風
- 35番歌
人はいさ心も知らずふるさとは 花ぞ昔の香に匂ひける
ひとはいさこころもしらすふるさとは はなそむかしのかににほひける
紀貫之
- 36番歌
夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいずこに月宿るらむ
なつのよはまたよひなからあけぬるを くものいつこにつきやとるらむ
清原深養父
- 37番歌
白露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける
しらつゆにかせのふきしくあきののは つらぬきとめぬたまそちりける
文屋朝康
- 38番歌
忘らるる身をば思はず誓ひてし 人の命の惜しくもあるかな
わすらるるみをはおもはすちかひてし ひとのいのちのをしくもあるかな
右近
- 39番歌
浅茅生の小野の篠原忍ぶれど あまりてなどか人の恋しき
あさちふのをののしのはらしのふれと あまりてなとかひとのこひしき
参議等
- 40番歌
忍ぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで
しのふれといろにいてにけりわかこひは ものやおもふとひとのとふまて
平兼盛
- 41番歌
恋すてふわが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか
こひすてふわかなはまたきたちにけり ひとしれすこそおもひそめしか
壬生忠見
- 42番歌
契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波越さじとは
ちきりきなかたみにそてをしほりつつ すゑのまつやまなみこさしとは
清原元輔
- 43番歌
逢ひ見てののちの心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり
あひみてののちのこころにくらふれは むかしはものをおもはさりけり
権中納言敦忠
- 44番歌
逢ふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をも恨みざらまし
あふことのたえてしなくはなかなかに ひとをもみをもうらみさらまし
中納言朝忠
- 45番歌
あはれともいふべき人は思ほえで 身のいたずらになりぬべきかな
あはれともいふへきひとはおもほえて みのいたつらになりぬへきかな
謙徳公
- 46番歌
由良の門を渡る舟人かぢを絶え ゆくへも知らぬ恋のみちかな
ゆらのとをわたるふなひとかちをたえ ゆくへもしらぬこひのみちかな
曾禰好忠
- 47番歌
八重むぐら茂れる宿の寂しきに 人こそ見えね秋は来にけり
やへむくらしけれるやとのさひしきに ひとこそみえねあきはきにけり
恵慶法師
- 48番歌
風をいたみ岩打つ波のおのれのみ くだけてものを思ふころかな
かせをいたみいはうつなみのおのれのみ くたけてものをおもふころかな
源重之
- 49番歌
御垣守衛士のたく火の夜は燃え 昼は消えつつものをこそ思へ
みかきもりゑしのたくひのよるはもえ ひるはきえつつものをこそおもへ
大中臣能宣朝臣
- 50番歌
君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな
きみかためおしからさりしいのちさへ なかくもかなとおもひけるかな
藤原義孝
- 51番歌
かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを
かくとたにえやはいふきのさしもくさ さしもしらしなもゆるおもひを
藤原実方朝臣
- 52番歌
明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき朝ぼらけかな
あけぬれはくるるものとはしりなから なほうらめしきあさほらけかな
藤原道信朝臣
- 53番歌
嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る
なけきつつひとりぬるよのあくるまは いかにひさしきものとかはしる
右大将道綱母
- 54番歌
忘れじのゆく末まではかたければ 今日を限りの命ともがな
わすれしのゆくすゑまてはかたけれは けふをかきりのいのちともかな
儀同三司母
- 55番歌
滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ
たきのおとはたえてひさしくなりぬれと なこそなかれてなほきこえけれ
大納言公任
- 56番歌
あらざらむこの世のほかの思ひ出に いまひとたびの逢ふこともがな
あらさらむこのよのほかのおもひてに いまひとたひのあふこともかな
和泉式部
- 57番歌
めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に 雲隠れにし夜半の月影
めくりあひてみしやそれともわかぬまに くもかくれにしよはのつきかけ
紫式部
- 58番歌
有馬山猪名の篠原風吹けば いでそよ人を忘れやはする
ありまやまゐなのささはらかせふけは いてそよひとをわすれやはする
大弐三位
- 59番歌
やすらはで寝なましものをさ夜更けて かたぶくまでの月を見しかな
やすらはてねなましものをさよふけて かたふくまてのつきをみしかな
赤染衛門
- 60番歌
大江山いく野の道の遠ければ まだふみも見ず天の橋立
おほえやまいくののみちのとほけれは またふみもみすあまのはしたて
小式部内侍
- 61番歌
いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重に匂ひぬるかな
いにしへのならのみやこのやへさくら けふここのへににほひぬるかな
伊勢大輔
- 62番歌
夜をこめて鳥のそら音ははかるとも よに逢坂の関は許さじ
よをこめてとりのそらねははかるとも よにあふさかのせきはゆるさし
清少納言
- 63番歌
今はただ思ひ絶えなむとばかりを 人づてならでいふよしもがな
いまはたたおもひたえなむとはかりを ひとつてならていふよしもかな
左京大夫道雅
- 64番歌
朝ぼらけ宇治の川霧たえだえに あらはれわたる瀬々の網代木
あさほらけうちのかはきりたえたえに あらはれわたるせせのあしろき
権中納言定頼
- 65番歌
恨みわび干さぬ袖だにあるものを 恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ
うらみわひほさぬそてたにあるものを こひにくちなむなこそをしけれ
相模
- 66番歌
もろともにあはれと思え山桜 花よりほかに知る人もなし
もろともにあはれとおもへやまさくら はなよりほかにしるひともなし
前大僧正行尊
- 67番歌
春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそをしけれ
はるのよのゆめはかりなるたまくらに かひなくたたむなこそをしけれ
周防内侍
- 68番歌
心にもあらで憂き夜に長らへば 恋しかるべき夜半の月かな
こころにもあらてうきよになからへは こひしかるへきよはのつきかな
三条院
- 69番歌
嵐吹く三室の山のもみぢ葉は 竜田の川の錦なりけり
あらしふくみむろのやまのもみちはは たつたのかはのにしきなりけり
能因法師
- 70番歌
寂しさに宿を立ち出でてながむれば いづくも同じ秋の夕暮れ
さひしさにやとをたちいててなかむれは いつくもおなしあきのゆふくれ
良暹法師
- 71番歌
夕されば門田の稲葉訪れて 蘆のまろ屋に秋風ぞ吹く
ゆうされはかとたのいなはおとつれて あしのまろやにあきかせそふく
大納言経信
- 72番歌
音に聞く高師の浜のあだ波は かけじや袖のぬれもこそすれ
おとにきくたかしのはまのあたなみは かけしやそてのぬれもこそすれ
祐子内親王家紀伊
- 73番歌
高砂の尾の上の桜咲きにけり 外山のかすみ立たずもあらなむ
たかさこのをのへのさくらさきにけり とやまのかすみたたすもあらなむ
前権中納言匡房
- 74番歌
憂かりける人を初瀬の山おろしよ 激しかれとは祈らぬものを
うかりけるひとをはつせのやまおろしよ はけしかれとはいのらぬものを
源俊頼朝臣
- 75番歌
契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋もいぬめり
ちきりおきしさせもかつゆをいのちにて あはれことしのあきもいぬめり
藤原基俊
- 76番歌
わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの 雲居にまがふ沖つ白波
わたのはらこきいててみれはひさかたの くもゐにまかふおきつしらなみ
法性寺入道前関白太政大臣
- 77番歌
瀬をはやみ岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ
せをはやみいわにせかるるたきかはの われてもすゑにあはむとそおもふ
崇徳院
- 78番歌
淡路島通ふ千鳥の鳴く声に いく夜寝覚めぬ須磨の関守
あはちしまかよふちとりのなくこゑに いくよねさめぬすまのせきもり
源兼昌
- 79番歌
秋風にたなびく雲のたえ間より 漏れ出づる月の影のさやけさ
あきかせにたなひくくものたえまより もれいつるつきのかけのさやけさ
左京大夫顕輔
- 80番歌
ながからむ心も知らず黒髪の 乱れてけさはものをこそ思へ
なかからむこころもしらすくろかみの みたれてけさはものをこそおもへ
待賢門院堀河
- 81番歌
ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる
ほとときすなきつるかたをなかむれは たたありあけのつきそのこれる
後徳大寺左大臣
- 82番歌
思ひわびさても命はあるものを 憂きに堪へぬは涙なりけり
おもひわひさてもいのちはあるものを うきにたへぬはなみたなりけり
道因法師
- 83番歌
世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞ鳴くなる
よのなかよみちこそなけれおもひいる やまのおくにもしかそなくなる
皇太后宮大夫俊成
- 84番歌
長らへばまたこのごろやしのばれむ 憂しと見し世ぞ今は恋しき
なからへはまたこのころやしのはれむ うしとみしよそいまはこひしき
藤原清輔朝臣
- 85番歌
夜もすがらもの思ふころは明けやらぬ ねやのひまさへつれなかりけり
よもすからものおもふころはあけやらぬ ねやのひまさへつれなかりけり
俊恵法師
- 86番歌
嘆けとて月やはものを思はする かこちがほなるわが涙かな
なけけとてつきやはものをおもはする かこちかほなるわかなみたかな
西行法師
- 87番歌
村雨の露もまだ干ぬまきの葉に 霧立ちのぼる秋の夕暮
むらさめのつゆもまたひぬまきのはに きりたちのほるあきのゆふくれ
寂蓮法師
- 88番歌
難波江の蘆のかりねのひとよゆゑ 身を尽くしてや恋ひわたるべき
なにはえのあしのかりねのひとよゆゑ みをつくしてやこひわたるへき
皇嘉門院別当
- 89番歌
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする
たまのをよたえなはたえねなからへは しのふることのよはりもそする
式子内親王
- 90番歌
見せばやな雄島の海人の袖だにも 濡れにぞ濡れし色は変はらず
みせはやなをしまのあまのそてたにも ぬれにそぬれしいろはかはらす
殷富門院大輔
- 91番歌
きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む
きりきりすなくやしもよのさむしろに ころもかたしきひとりかもねむ
後京極摂政前太政大臣
- 92番歌
わが袖は潮干に見えぬ沖の石の 人こそ知らねかわく間もなし
わかそてはしほひにみえぬおきのいしの ひとこそしらねかわくまもなし
二条院讃岐
- 93番歌
世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海人の小舟の綱手かなしも
よのなかはつねにもかもななきさこく あまのおふねのつなてかなしも
鎌倉右大臣
- 94番歌
み吉野の山の秋風さよ更けて ふるさと寒く衣打つなり
みよしののやまのあきかせさよふけて ふるさとさむくころもうつなり
参議雅経
- 95番歌
おほけなく憂き世の民におほふかな わが立つ杣にすみ染の袖
おほけなくうきよのたみにおほふかな わかたつそまにすみそめのそて
前大僧正慈円
- 96番歌
花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり
はなさそふあらしのにはのゆきならて ふりゆくものはわかみなりけり
入道前太政大臣
- 97番歌
来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ
こぬひとをまつほのうらのゆふなきに やくやもしほのみもこかれつつ
権中納言定家
- 98番歌
風そよぐ楢の小川の夕暮は 御禊ぞ夏のしるしなりける
かせそよくならのをかはのゆふくれは みそきそなつのしるしなりける
従二位家隆
- 99番歌
人も愛し人も恨めしあじきなく 世を思ふゆゑにもの思ふ身は
ひともをしひともうらめしあちきなく よをおもふゆゑにものおもふみは
後鳥羽院
- 100番歌
百敷や古き軒端のしのぶにも なほ余りある昔なりけり
ももしきやふるきのきはのしのふにも なほあまりあるむかしなりけり
順徳院
参考|万葉仮名の事例
百人一首には、万葉集から選ばれたものがあります。表記(読み方)が異なる場合もありますが、万葉集の時代の「万葉仮名(日本語の音を表記するために漢字を借用したもの)」で表記した事例を紹介します。
- 春過而 夏来良之 白妙能 衣乾有 天之香来山
はるすぎて なつきたるらし しろたへの ころもほしたり あめのかぐやま
- 田兒之浦従 打出而見者 真白衣 不盡能高嶺尓 雪波零家留
たごのうらゆ うちいでてみれば ましろにぞ ふじのたかねに ゆきはふりける
- 秋田苅 借廬乎作 吾居者 衣手寒 露置尓家留
あきたかる かりほをつくり わがをれば ころもでさむく つゆぞおきにける
- 足日木乃 山鳥之尾乃 四垂尾乃 永長夜乎 一鴨将宿
あしひきの やまどりのをの しだりをの ながながしよを ひとりかもねむ