複雑系
Complex System
はじめに
おそらく皆さんが、これまで数学や物理で学んだ「予測」の手法は、以下の2つのタイプに分類されると思います。
- 決定論的なもの
状況の変化が、数式によって決定的に定まるもので、誤差がほとんどない決定的な「予測」が可能です。
例:等加速度運動をする物体のt秒後の位置の予測
- 確率論的なもの
数式モデルで記述するには問題が複雑なため、例えば100回のうち10回は、事象Aが起こる・・・といった確率の問題として「予測」がなされます。
例:サイコロの出る目の予測
で、複雑系とは、その中間にある現象と位置づけることができます。
複雑系(Complex System)
複雑系とは、数式(漸化式:recurrence formula )による決定的な記述ができるにも関わらず、そのふるまいが複雑で、予測がつけにくい(決定論的な系におけるカオス現象)。また、わずかな初期値の変動が結果に大きく影響するような現象・・ということができます。私たちの身の回りにある多くの現象に、複雑系の性質が見られます。
- 気象、地震
- 生態系、生物圏
- 脳、神経系、免疫系
- 経済現象、社会システム などなど
線形と非線形
- 線形の漸化式: \(X_{n+1} = a \cdot X_n + b\)
- 非線形の漸化式:
\( X_{n+1} = a \cdot X_n(1 - X_n) \)
- 0 < a < 1 のとき:一定値 X = 0 に収束
- 1 < a < 3 のとき:一定値 1 - 1 / a に収束
- 3 < a < 3.57… のとき:振動
- 3.57… < a < 4のとき:予測不能な複雑な動き(カオス的領域)
- 4 < a のとき:予測可能な減少
参考:シミュレーションしたグラフ(JupyterNotebook)
複雑系の特徴
- 開いた系であること
- 非線型性(小さな初期値の違いが大きな違いを生む)
- フィードバックループの存在
- 自律分散協調性
- 創発性
- 入れ子にできる (複雑系の要素はそれ自身複雑系)
- 動的ネットワークの多様性
- 境界の決定が困難であること MandelbrotSet
- 系の変化の履歴(記憶)をもつ
Keywords
- 微分方程式 漸化式
- 相転移 分岐=カタストロフィー
- ポテンシャル障壁 ダイヤ→炭 紙→炭
- 非平衡開放系の自己組織化現象
- 散逸構造:エネルギーの絶え間ない散逸の中から立ち現れる構造
- 鹿おどし:エネルギーの流れの中に置かれた開放系が持続的なリズムを生む
- リズム:時間軸上にあらわれる周期的秩序
- 同期(シンクロナイぜーション)ホイヘンスの発見した振り子時計の同期
- 概日リズム(サーカディアンリズム)
外部環境は24h、人間は放置すると25h。24hに強制同期されている。 - 捕食者と被捕食者の関係は、その増減の速さの差から、つねにシーソーゲームのようなリズムを生む
付記:カオスがなくなったら
カオスとは何かを説明するには、カオスがなくなったらどうなるかを考えるとわかりやすい。
- 木の葉は同じように落ちる
- 雲は完全な幾何学パターンとなる
- パチンコは、初期値の差に影響を受けなくなるために、永遠に玉が出続ける
参考
関連ページ
- 再帰図形
- マンデルブロ集合
Web
文献
- 酒井 敏, 京大的アホがなぜ必要か - カオスな世界の生存戦略 -, 集英社新書, 2019
- 蔵本由紀, 非線形科学, 集英社新書, 2007
- 金子邦彦, カオスの紡ぐ夢の中で, 小学館文庫, 1998
- 吉永良正, 「複雑系」とは何か, 講談社現代新書, 1996
- 吉成真由美, サイエンスとアートの間に - フラクタル美学の誕生 -, 新書館, 1986
- 山口昌哉, カオスとフラクタル - 非線形の不思議 -, Blue Backs, 1986