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Homeostasis のバックアップ(No.1)


Homeostasis


ホメオスタシス(恒常性)とは、アメリカの生理学者 W.キャノンが提唱した生物学上の概念*1 で、生体がその内部環境を一定の状態に保ちつづけようとする傾向のことです。

ホメオスタシスには、主に自律神経系による神経性の調節と-ホルモンによる体液性の調節があり、気温や湿度など外部環境の変化や、体位・運動などの身体的変化に対して、体温、血液量や血液成分などの内部環境を生存に適した一定範囲内に保持します。生体恒常性の異常、すなわち体温や血糖値の正常範囲外への逸脱は「病気」を意味し、また逆に「自然治癒」は生体恒常性の働きによるものと理解されます。 高等動物の生理学的研究から生まれた概念ですが、現在では生物群や個体群の「動的状態」の説明にも、幅広く使われています。



内部環境と外部環境

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内部環境と外部環境を「膜」で隔てたシンブルな概念モデルは、生物個体から生物群、地域社会、地球環境まで、様々な現象の説明に使うことができます。


逆ホメオスタシス

人類は個体レベルで環境に適応することから、個体を取り巻く環境を調整することへと生存戦略を逆転させました。服を着る、ストーブを焚いて室温を上げる。特定の場所に定住し、周囲のものを作りかえていく(デザインする)。つまり、内部と外部を隔てる「膜」の位置を「個体表面」から「衣服」>「住居」>「都市」>「社会」へと拡大していったのです。結果として、個体として他の生物のように自然界に適応する能力は退化しています。

この逆ホメオスタシス現象こそ<過剰なる文化>がもつ両刃の剣であった。
外界の対象を迂回させることは、自らが迂回する能力の退化を並行する、
外なる自然の征服は内なる自然の破綻を呼ぶ。
文化は本能が退化したためにこれを補填すべく作り出されたものではなく、
その逆に、人間は文化をもったが故に、本能の歯車を狂わせたのである

丸山圭三郎, 生命と過剰,1987

文明のホメオスタシス?

異文化という言葉はありますが、異文明という言葉はありません。つまり、文化には多様性が想定されていますが、文明はグローバルな標準化が前提となっているのです。文明のホメオスタシスは「拡大・成長」しつづけます。歯止めのない成長は癌細胞と同様に、最後には自分自身を滅ぼします。

文化は排他的所有には馴染まない共有財産ですが、文明はハードウエアである点で排他的な所有が可能です。文明のホメオスタシスは、一部の「所有者」の意向によって、その「膜」のサイズをどんどん大きく拡大させています。外部がなくなれば破綻する・・ということを視野に入れなければなりません。




APPENDIX

ガイア仮説

ガイア仮説とは、地球を恒常性のある「巨大な生命体」と見なす仮説で、NASAのジェームズ・ラブロックによって 1960年代に提唱されました*2

気温、酸素濃度・・地球は確かに生命のごとく恒常性を保っていますが、産業革命以後の人類のふるまいは、それを破壊しかねないほど大きなインパクトを持つようになっています。

人新世(ひとしんせい)|Anthropocene

人類の活動は、地球の歴史の中で「新生代・第四紀・完新世」*3に始まって、現代まで続いています。しかし産業革命以後の約200年間、人類が地球環境に与えた影響はあまりに大きく、ドイツの化学者パウル・クルッツェン(ノーベル化学賞受賞者)は新しい時代区分としての「人新世」という言葉を提案しました*4

波打ち際・川辺・水際・なぎさ vs 堤防・コンクリート護岸

陸に棲む私たちにとって、海は外部であり、その境界は様々な「交換」の場でもあります。私たちは、津波や水害対策のために堤防やコンクリート護岸を築いてきましたが、それは陸と海・河川のゆるやかな交換を阻害する存在であることを忘れてはならないでしょう。

大津波の際の記録では、堤防近くの住人や、堤防沿いを走る車が「海の様子が見えなかった」ために逃げ遅れる・・というケースが多発しています。

境界を設けて外部を見えなくすること、それはすなわち、私たちの意識から内部(セルフイメージ)をも消滅させてしまうことを意味します。

開放系

熱力学では、外界とのエネルギー移動の観点から以下のように系を分類します。生物は熱力学的には定常開放系(散逸構造系)で、ホメオスタシスはこれを基礎としています。

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