組織のソーシャルデザインに寄与する
CMSの構築(2)
CONTENTS
- 1. 研究の背景と目的
- 2. COVID-19 感染拡大下の現状
- 3. Wiki の導入について
- 4. 大学内の組織における活用事例
- 5. 学会組織における活用事例
- 6. Wiki サイト活性化への提言
- 7. 最後に
1. 研究の背景と目的
- 本研究は 2019 年度からの継続研究で、組織・団体等における CMS(特にWiki)による情報共有の可能性を探るものです。
- その目的は、当該組織・団体等における 1) 情報の一元化、2) 取組の可視化、3) 作業の効率化、4) ノウハウの共有、5) 報告・ 記録のアーカイブ、そして 6) 人間関係の活性化にあります。
- 本発表では、この一年間の取り組み報告と、導入に向けた提言を行います。
2. COVID-19 感染拡大下の現状
リモートワーク、オンライン授業。2020年は COVID-19 の感染拡大の影響で、情報通信技術の活用が一気に加速する年となりました。
2つの授業形態
- 同期型(リアルタイム双方向)
「時間」を拘束するとともに、事実上「場所」も拘束 - 非同期型(オンデマンド)
「時間」と「場所」からの開放
3つのメディアタイプ
- 動画:最も効果的?(資料画像に加え講師の顔が映る方が「伝わる」)
- 音声:動画には劣るがデータが軽量となる点でデータダイエットには効果的
- 文字:受講者は能動的に理解しようとする。情報が複製しやすい。
3. Wiki の導入について
2020年度、ヒトとモノを動かせない状況を追い風に、遠隔・非同期の情報共有を実現するツールとして Wiki を積極的に活用することを各所で試みました。採用したシステムは、いずれもオープンソースの MediaWiki と PukiWiki です。
MediaWiki:https://www.mediawiki.org/
- 標準のテンプレート Vector を利用。変更点はロゴ、メニュー構成のみ
- 参加者は個別のアカウントを利用するが、全ページの編集が可能
PukiWiki:https://pukiwiki.osdn.jp/
- カスタマイズ済みのテンプレートを利用。変更点はロゴ、メニュー構成のみ
- 参加者全員が共通アカウントを利用し、全ページの編集が可能
4. 大学内の組織における活用事例
以下、筆者が導入に関わった事例について、その経緯と現状を報告します。
4.1. 九州産業大学 ソーシャルデザイン学科
https://design.kyusan-u.ac.jp/socialdesign/
2016年度から PukiWiki を用いて運用継続中(1 日平均 350 セッション)で、学科の在校生全員が個人のページを持ち、プロジェクトや授業の成果、また個人的な趣味の情報を公開しています。新入生を対象とした活用講習は1時間程度。
4.2. 九州産業大学 危機管理対策特設サイト
COVID-19 対策に関わる危機管理情報の一元化を目的に 2020年3月、PukiWikiを利用して立ち上げました(1 日平均 60 セッション)。しかし組織の規模が大きく「Web に Pull アクセスする習慣がない」、「情報の開示を好まない人がいる」、「MarkDown 記法が難しく感じる」、「情報を簡潔にまとめる発想がない」など、Wiki 本来の強みである「共同編集」が機能していないのが現状です。
4.3. 九州産業大学内のその他の組織
生命科学部、情報科学研究科、経済ビジネス研究科、人間科学部スポーツ健康科学科、大学評価室等、Wiki の導入を求める個人的な問い合わせを契機に複数のサイトを立ち上げました。導入協議において、CMSの候補としては、WordPress、MediaWiki、PukiWiki がありましたが、すべてのケースで PukiWiki が選ばれました(DB不要・管理・編集が簡単・・が理由)。
5. 学会組織における活用事例
5.1. 芸術工学会
- 2008 年から PukiWiki を用いて運用
- 大会案内、採択論文概要、議事録、理事会検討事項等の情報を一元化
2020 年度の夏期大会では、奨励賞の展示を A1パネルから Web 掲載へと移行するなど活用の幅も広がっています。長期間に渡る継続的な運用によって「窓口」として定着し、日平均 100 セッション程度のアクセスが確認できます。
5.2. 日本デザイン学会 第5支部
https://design.kyusan-u.ac.jp/jssd5th/
- 2019年度から MediaWiki を用いて運用
- 発表概要をPDFからWikiページへ移行し、発表者自身が直接サイト上で編集
Wiki 上に編集ガイドを掲載するとともに、発表原稿の雛形を事前投入することで、技術的な問い合わせもなく、すべての原稿が出揃っています。
導入検討から運用まで最も短期間で関係者全員の同意と共同編集が実現された珍しいケースで、2020年度は開会式・閉会式のみ同期型(Zoom)、発表と質疑応答はすべて動画とテキストのみによる遠隔・非同期型で実現しました。
6. Wiki サイト活性化への提言
これらの導入事例から見えてきた、Wiki による情報共有活性化の条件は・・
- 組織(の構成員が)がオープンなマインドを持っていること
- 利用者全員がお互いを「信用」する関係にあること
- 利用者全員が編集に必要な IT スキルを有すること
- Wiki のビジュアル・操作性が「標準的」であること
- Wiki が「みんなのホワイトボード」として機能すること
- Wiki 上に利用者全員の個人ページが存在すること
- Wiki 上に初心者のための雛形・編集ガイドがあること
7. 最後に
情報デザインとは
人類の画期的発明のひとつである「文字」について・・
- 文字は 遠隔・非同期 のコミュニケーションを可能にした
- 文字に代表される「情報体」は、複製によって共有資源としての価値を担う
オープンソースソフトウエアの背景には CopyLeft という思想があります。
優れた情報デザインの条件を簡潔に語るとすれば、「情報体を遠隔・非同期的に複製されやすい状態にすること」だと言えるのではないでしょうか。
組織の意識改革
今、組織に求められるのは、情報の管理方法に関する抜本的な意識改革
Wikiシステムを含むCMSは、「記事」を含むあらゆる情報をデータベース化し、そこから必要な情報を「問い合わせ」によって表示するシステムと言えます。
Webデザインは一般にグラフィックデザインの電子版のように捉えられがちですが、CMSによるWebサイトは、データベース管理システムのビジュアル版として理解する方がわかりやすいのかもしれません。
従来のように「書類をバインダーに綴じて棚に整理する」という発想ではなく、「書類に関連タグを付けて保管しておけば、あとはシステムが自動的に引き出してくれる」、つまり「片付ける必要はく、機械に探させればいい」という発想の転換をすることで、情報の管理は非常に楽になるではないかと思います。
組織の人事管理も同様、ツリー型の組織図で管理するのではなく、各メンバーに関係するプロジェクト名をタグ付けして保管する。部署別の「室」や名簿は作る必要はない・・というふうに視点を逆転させるとよいのではないでしょうか。
ツリー型の組織が内部ストレスで悲鳴を上げる中、ネットワーク上のオープン・コミュニティーが新たな知の基盤となって世界を動かしています。
人が日常的に「群れる」都市生活が多くの苦難を強いられる中、「『ケ』の日常は遠隔・非同期で働き、『ハレ』の日にのみ対面に集う」という「田舎暮らし」が、Web の活用で持続可能な未来のライフスタイルを実現しつつあります。
本研究は「組織のソーシャルデザイン」という目的を掲げていましたが、2020年の状況下において CMS の導入と運用を進める中で明らかになったのは、「組織そのもののあり方を見直せ」、「群れる日常を見直せ」ということ。すなわち、データベースとインターネットという新たな情報共有基盤の存在を前提として、現代人の「常識」を見直す必要があるということでした。