正規分布
人間社会を説明するモデル:中心と周縁
概要
正規分布とは、身長、体重、成績などの分布グラフでよく見かける、平均値を中心とした山型の分布で、自然界の現象から人間の行動まで、あらゆる現象によく当てはまる標準的な確率分布です。天文観測データの測定誤差がある法則に従うことを数学者C.F.ガウスが見出した経緯もあって「ガウス分布」とも呼ばれます。そのグラフは、右図のように左右対称な曲線になります。
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- 正規分布:N( μ, σ2 )
- μ:平均(全体を代表する値)
- σ:標準偏差(全体の散らばり具合を意味する値)
- 標準正規分布:N( 0, 1 )
確率変数 X が正規分布N ( μ, σ2 )に従うとき、
Xの線形変換 Z =(X−μ)/σ の分布は 標準正規分布:N(0,1)に従います。
特徴
- 平均値と最頻値と中央値が一致する
- 平均値を中心にして左右対称になる( 平均 μ に関して左右対称)
- x軸が漸近線になる
- 分散(散らばり)が大きくなると山は低く、逆に分散が小さくなると山は高く尖った形になる
数式
From Wikimedia Commons
上の式は一般に確率密度関数と呼ばれるもので、全区間で積分すると1になるようになっています。
よく話題になる値
- 偏差値
偏差値とは、( X - μ ) / σ * 10 + 50 で計算される値です
- 平均 μ の位置が偏差値 50 です。
- 平均 μ よりσだけ右の位置が偏差値 60になります。
- 95% of values:- 1.96σ 〜 + 1.96σ
- データがこの範囲に入る確率が全体の 95%
- 人は一般に 「20人に一人」つまり 5% 程度の確率でしか生起しない現象に対して「めったに起こらないことが起こった」と感じます。統計的検定で使用される有意水準 α の値としては、この 5% がよく用いられます
- 99% of values:- 2.58σ 〜 + 2.58σ
- データがこの範囲に入る確率が全体の 99%
- 統計的検定において厳密さが求められる自然科学では、有意水準 α の値として 1% がよく用いられます
- 参考:IQも偏差値と同様です
IQ | 55 | 70 | 85 | 100 | 115 | 130 | 145 |
偏差値 | 20 | 30 | 40 | 50 | 60 | 70 | 80 |
中心と周縁 Center and Periphery
文化人類学者の山口昌男は、その著書「文化と両義性」の中で、「中心と周縁」という二項対立的思考の枠組みを提唱しました。
あらゆるレベルの社会構造は「中心」と「周縁」の有機的な組織化の上に成り立っています。「中心」は秩序、「周縁」はそれを動的に再生産する力です。 人間社会の中心部は、ともすると惰性化・硬直化する傾向にあります。それをゆさぶり、組み替えを促すのはいつも「周縁的な存在」です。それは空間的には、村はずれ、川向こう、峠の向こうにいます。また時間軸で考えれば、夕暮れ時(逢魔時)、夜、そして祝祭日(日常の価値が逆転する日)にあります。
日本の昔話をいくつか思い出して下さい。多くのお話は、この中心と周縁の交流を描いたものであることに気づくはずです。
正規分布における中心と周縁
正規分布を立体的な「山」に例えて、それを上から眺めると右図のような同心円上の形になります。見たまんまですが、真ん中が「中心」そして外側が「周縁」です。
- 中心は決定論的*1な世界
- 1.96σ付近は、複雑系の世界
- 山岳と平地 → 山之辺、湧き水
- 陸と海 → 渚、海岸線
- 周縁は確率論的な世界
- 別のキーワードで例えると・・
- 中心:マジョリティー, 定型(ニューロティピカル)
- 周縁:マイノリティー, 非定型(エイティピカル) Login Required
中心:マジョリティー
- 構造的な特徴
- 偏差が小さく、皆よく似ている
群れたがる。人と同じであることを好む( はみ出すことを恐れる )
- 垂直方向に差異化が進む
垂直方向の差異によるアイデンティティーの確立
競争を好む。勝ち負けに価値を見出す。数値評価を気にする。
「ヨーイ、ドン」というと何の疑いもなく走り出すタイプです。
- 現代マジョリティーの特徴
誰が多くの子孫を残してきたかを考えれば、現代のマジョリティーの特徴がわかります。それは、産業革命以後の資本主義社会に適応した人たちで、法のもとに平等で自由な人格を前提としながら、人格そのものが商品化 (物化) することによって生じる階級関係を基本とする考え方がベースにあります。
- 「価値」は、価格に置き換えられる(需要と供給のバランスで決まる)
価格 = モノの価値、給与の高さ = 人の価値・・・
- 縦の構図の中に少数の資本家と大多数の労働者という境界が存在する
- 奴隷体質(資本家も労働者も「ルール」の奴隷)
奴隷の最大の特徴は、自分自身が奴隷であることに気づいていないこと
- 人は労働者として生産に関わると同時に、消費者としてモノを買う
- 多くの人が、生活に必要なモノは「買うものだ」と思っている
- 定住する・家を所有する
- 思考回路が安定的かつ皆よく似ている
- 常識に洗脳されていて、文字通りその事実には気づいていない*2
周縁:マイノリティー
- 構造的特徴
- 偏差が大きく、バリエーションが豊富(共通の話題が少ない)
独自の世界に住むことを好む(群れることを嫌がる)
- 水平方向に差異化が進む
水平方向の差異によるアイデンティティーの確立
競争を好まない。差異に価値を見出す。他人の評価を気にしない。
「ヨーイ、ドン」というと「何で?」と返すタイプです。
- 現代マイノリティーの特徴
- 「価値」は、独自の価値観にもとづいて測られる
- 差別を受けやすい、いじめの対象となることが多い
- 社会の周辺にはずれたことに劣等感を感じて病むケースが多い
- 自分でモノをつくることを好む
- 移動する、捨てる、逃げる
- 思考回路が柔軟で新規性のあるアイデアを生みやすい
境界領域 Boundary Region
- トリックスター(両義的存在)が世界を活性化する
最高の切り札であると同時に最大のリスク、トランプのジョーカーと同様
- バックパッカーは頂上を目指さず、山裾を歩く
面白いのは、複雑な状況を呈する境界領域
関連ページ
付記
全体を見通す視点に立つこと
我々は一般に集団の内部にいて、集団を内側から見ています。外国旅行をすると日本を相対化して見ることができますが、それでも自らが置かれた社会の常識を俯瞰するのは難しいものです。
組織の問題は内側から変えられない・・。問題の本質がどこにあるのか、それを俯瞰で捉えるには、デザイナーは、常に世界を「引き」で見ることが必要です。
差別やいじめの問題は・・・
差別やいじめは、中心と周縁の間に境界を設けようとする心理によって生まれます。中心がその秩序の維持のに最も簡単な方法は、周縁という対立項を「見える化」することです。人間は「分ける」=「わかる」ことに喜びを感じる生き物で、「対比」や「区別」といったものと根元を同じくする差別やいじめは、人間社会に必然的に生じてしまうのです。
しかし、全体を見通す視点をもつ人は、そのことを知っているので、差別やいじめに加担することはなくなります。「差別される人の気持ちになって考えましょう」というレベルの話はでは視点が低い。「そもそも人はなぜを差別するのか」という視点に立てる人を増やすことが重要です。
差別の起源
生物本来の知性を残している幼児は、遺伝的に異なる性質を持った友達に対して、どうして「◯◯くんは△△なの?」という純粋な疑問をいだく。それを聞いた母親が「そんなこと言うものではありません」といって口をふさぐ。この時、子供は「大人になる」と同時に「異質なものを下に見る」という差別感情の芽生えがおこる。
人間社会ではこれがマジョリティーの大人化のパターンであるが、疑問を投げかけた子供に対しては、別の説明もできる。「そうだよ、みんなそれぞれ違うんだよ。あなただって他のみんなより眉毛濃いでしょ・・」。多様性の承認とはそういうことかと・・
世界が共通言語をもつことは危険
すでに述べたように、「母国語」はそれを使う社会を洗脳しています。生物に多様性が必要であるのと同様、人類の「共同幻想」にも多様性が必要です。社会が「静止」することなく、うごめき続けるには、常に自身を相対化する必要があります。洗脳にゆさぶりをかけることができるのは「他言語の存在」と「芸術」です。それぞれの民族が、独自の言語を絶やすことなく持ちつづけることは非常に重要です。
強いものが生き残るのではありません。変化し続けるものが生き残るのです。