生活記録に関する研究

提供: JSSD5th2019
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- 生活時間の観点から -


佐藤亮介 / 九州大学大学院芸術工学府デザインストラテジー専攻
Ryosuke SATO / Graduate School of Design, Kyushu University
田村良一 / 九州大学大学院芸術工学研究院デザインストラテジー部門
Ryoichi TAMURA / Faculty of Design, Kyushu University

Keywords: Schedule of a day, Life log, Lifestyle


Abstract
In order to propose a lifestyle improvement tool for the elderly, we focused on cases and apps, and understood the characteristics of the schedule of a day record. In the case survey, we were able to grasp the record items used in the public. In the app survey, we were able to grasp the recording method from the position of the app in the current market and the functions introduced.


目的と背景

 人々の生活を把握する指標として生活時間が挙げられる。時間の使われ方を通して計量的に把握することができ、生活状態を把握するための手段だけでなく、経済ならびに社会的な政策決定の基礎的資料としても活用されてきた[1]
 また、近年では生活時間だけでなく、歩数や心拍数など生活上のあらゆる情報がライフログ[2]として記録されるようになっており、ウェアラブル端末が普及したことによって、記録や提示が身近に行われるようになった。
 さらに、「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針[3]」では、国民の健康増進を形成する基本要素となる生活習慣の改善が重要であるとされている。
 そこで本研究では、生活習慣を改善する一つの方策として生活のセルフマネジメント、特に生活時間に着目し、高齢者向けの生活習慣の改善を促す生活時間記録ツールの提案の端緒として、記録項目と記録方法のあり方について、既存の事例やアプリケーション(以下、アプリと呼ぶ)の調査から明らかにすることを目的とする。


生活時間調査の事例からみた記録項目

目的

 国内外で行われている生活時間調査の事例から記録方法などを抽出し、公的に行われている生活時間の記録項目を明らかにする。


調査実例の選定

 国内外で実施されている生活時間調査であるHETUS、平成28年社会生活基本調査、2015年国民生活時間調査を対象とした。


記録項目の抽出結果

 記録項目を抽出するにあたり、各調査で記録項目が設定されているか確認を行ったところ、記録項目が既に設定されているプリコード方式、記録項目が設定されておらず、回答者が記入し、集計の段階で定められた記録項目を与えるアフターコード方式の二種類の記録方式がとられていた。
 図表1に記録項目調査の一例としてHETUSの記録項目の一部を示す。
調査の結果、下記の記録方式と項目数が抽出された。

図表1.HETUSの記録項目(一部)

HETUS
 アフターコード方式 大分類10種類、中分類32種類、小分類170種類

平成28年社会生活基本調査
 プリコード方式 20種類
 アフターコード方式 大分類6種類、中分類22種類、小分類90種類

2015年国民生活時間調査
 プリコード方式 大分類4種類、中分類15種類、小分類29種類




生活時間記録アプリの調査

目的

 個人が継続的に生活時間を記録するアプリについて機能の把握を行い、現行市場におけるアプリの位置づけを把握する。

アプリと機能の抽出

図表2.アプリと機能の関係

 Web上のThe App StoreとGoogle Playの2つのアプリダウンロードサイトにて「ライフログ」と「タイムログ」の単語をキーワードとして検索した。アプリ購入画面の紹介画像や説明文から本研究が対象とする条件に当てはまるアプリ20個を選定した。
 選定したアプリを実際に使用し、16個の機能を抽出した。
 抽出したアプリと機能の関係を図表2に示す。



アプリの特徴の把握

 アプリと機能との関係について分析を行った。数量化理論Ⅲ類の結果をもとに固有値の変化から3軸までを捉えることにした。アプリに付与された値をもとに散布図を作成するとともに、クラスター分析を行った結果、3グループに分けることができた。また、機能についても散布図を作成し、アプリの散布図と比較、考察を行った。
 アプリの散布図を図表3、機能の散布図を図表4に示す。

図表3.アプリの散布図
図表4.機能の散布図

 アプリの散布図と機能の散布図を比較する。まず、アプリの散布図において成分1から3の原点に位置しているのが赤枠のグループであり、このグループがライフログ計測アプリとして主流であるグループといえる。それに付随して機能の散布図では多くの機能が原点に集中している。
 続いて、アプリの散布図の青枠のグループは、機能の散布図と比較すると「開始時刻と終了時刻を入力」の計測方法であることや「記録の修正」が可能であること、「自動入力する項目」を有することにより、主流である赤枠のグループに含まれなかったことが考えられる。
 最後に、アプリの散布図の緑枠のグループは、画像などの「時間以外の記録」ができる機能や、「重複記録」の機能を有することで他の生活記録アプリケーションと大きく差があることが考えられる。



まとめ

 本研究では生活時間記録に着目し、生活時間調査の実例と生活時間記録アプリの調査を実施した。生活時間調査の事例では、二種類の記録方式が用いられていることと各調査で用いられている記録項目が明らかになった。本研究が高齢者を対象としていることを考慮するにあたり、2名の専門家[4][5]にインタビューしたところ、「高齢者は毎週の行動はほぼ不変であり、行動の種類は限られている。また、入力が複雑であると間違いが多くなる可能性があるため、簡単な入力方法を採用すべきである」との助言をいただいた。そこで本研究では、プリコード方式を採用し、平成28年社会生活基本調査のプリコード方式版と2015年国民生活時間調査の記録項目を参考に今後の研究を行う。生活時間記録アプリの調査では、現行市場におけるアプリの位置づけや導入されている機能から記録方法を把握することができた。今後は高齢者をターゲットとし、ユーザーが必要とする機能をインタビュー調査で明らかにし、生活習慣の改善を促す生活時間記録ツールの提案を目標に研究を進める。


謝辞

 アプリの調査にあたっては、九州大学大学院芸術工学府デザインストラテジー専攻修士課程1年(当時)の欧紹焜くん、同大学芸術工学部工業設計学科4年(当時)の小原拓也くん、新谷航平くん、宗雲友志くんの協力を得ました。ここに記して謝意を表します。

脚注

  1. 矢野真和,1976,生活時間研究―その適用と展望―,教育社会学研究第31集,p.142-152,日本教育社会学会
  2. 利用者のネット内外の活動記録(行動履歴)が、パソコンや携帯端末等を通じて取得・蓄積された情報(総務省ワーキンググループより)
  3. 厚生労働省,国民の健康の促進の総合的な推進を図るための基本的な方針,https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_01.pdf,2019年10月23日閲覧
  4. 九州大学基幹教育院准教授 岸本裕歩先生 2019年6月12日にインタビュー
  5. 九州大学キャンパスライフ・健康支援センター助教 面高有作先生 2019年8月21日にインタビュー


参考文献・参考サイト

  • 横山淳一ほか,2007,健康意識の変容を促進する情報システムの開発,医療情報学,27巻,4号,p.377-385,日本医療情報学会
  • 横山淳一ほか,2010,生活習慣の自己評価方法の基本設計,日本経営診断学会論集,9巻,p.79-84,日本経営診断学会
  • 河野あゆみほか,1996,虚弱高齢者の生活時間の使い方による生活パターンの類型化に関する研究,老年看護学,1巻,1号,p.21-28,日本老年看護学会
  • 武市泰彦,2014,分単位での生活行動の記録を目的としたライフログツールの開発,四国大学紀要自然科学編,43巻,p.71-83,四国大学
  • 水野谷武志,2010,ヨーロッパ統一生活時間調査(HETUS)の動向と「社会生活基本調査」,日本統計研究所報,39号,p.19-25,法政大学日本統計研究所
  • 総務省統計局,2016,平成28年社会生活基本調査
  • NHK放送文化研究所,2016,2015年国民生活時間調査報告書