「子どもの自然発生的な遊びを支える都市公園空間の研究」の版間の差分
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2019年11月22日 (金) 19:52時点における版
- 堂本竣平 / 九州大学大学院芸術工学府
- DOMOTO Shumpei / Graduate School of Design, Kyushu University
Keywords: Risky Play, Injury Prevention, Outdoor Play, Active Play, Child Development, Playground Safety, Spontaneous Play
- Abstract
- Children grow up healthy both physically and mentally by playing outdoors. And through the invention of play, flexible thinking and imagination are polished. Focus on dangerous play among children’s spontaneous play. The purpose of this study is to clarify the way of urban park space that can reduce the risk of risky play and to acquire learning through the play, and to show the design guidelines. This paper clarifies the characteristics and importance of each category by classifying the relationship between risky play and park components.
目的と背景
子どもの外遊びは心身の健康的な成長のために必要不可欠であり、遊びの発明を通し柔軟な思考力や想像力が磨かれる。 主体的に生み出される子どもの自然発生的な遊び、その中でも危険な遊びに着目する。大人から注意されても止められないように、危険な遊びは子ども達にとって魅力的なようである。遊びの安全性と危険性については長年議論され、現在は子どもの自由な遊びを制限することが増えている。しかしその影響で、運動制御能力や危機判断能力の習得が不十分な、将来的に大怪我をする可能性の高い子どもが増えていると言われている。 本研究では、危険な遊びのリスクを抑え,かつ危険な遊びによる学びを得ることができるような都市公園空間の在り方を明らかにし,そのデザイン指針を示することを目的とする。本稿では、特に危険な遊びと公園の構成要素との関係を分類し、各カテゴリーの特性や重要性を明らかにする。
研究の方法
まず主体的に行われる危険性のある遊びに関する調査を行い、次に都市公園で行われる危険な遊びの分類と評価を実施する。前者の調査では、研究が進んでいる海外の論文を主とした文献調査を行う。後者の調査では、海外論文の危険な遊びのカテゴリー分類を軸として、フィールド調査とヒアリング調査で危険な遊びの事例を収集し分析する。それらの調査結果より危険な遊びによる学びと公園の構成要素との関係について考察する。 研究対象は、主体的な遊びを行うための身体能力と思考力を備え、かつ遊びの創造による学びが重要とされる4~6歳の幼児とする。
調査
1.危険性のある遊び
1.1.遊びにおける危険性の認識
アダムスのリスク「サーモスタット」モデルでは、危険性について主観的な判断によるもので定量化不可能な危険と定義している。事故が起こり得る潜在的な危険性を秘めていても、その危険を認知するための経験と知識がない場合、危険性があるとは言えないのである。リスク「サーモスタット」モデルによると、危険性のある遊びを実行する際、「危険を冒す個人の傾向」「その状況での危険の認識」「考えられる報酬」「自分自身または他者の事故・失敗経験」に基づいて、「バランスをとるような意思決定」が行われているとされる。
1.2.子どもの健康的な成長
神経系発達の観点では、子どもの脳は6歳までに大人の脳の9割まで成長し、姿勢やバランスなど正しい動きを認識させる必要があるとされる。あらゆる運動パターンを身体に覚えさせるため、投げる、登る、蹴るなど多様な動きをさせることが推奨されている。 発達心理学の観点では、論理的な思考力をもって、計画的な行動を発起する積極性が育つと言われている。一方で、善悪の判断が不十分で危険行動を起こしやすいため、積極性を尊重しながらも、適度に注意する見守ることが重要である。
2.都市公園で行われる危険な遊びの分類と評価
2.1.危険な遊びの分類
サンドセッターの「未就学児の危険な遊びの質的研究」より、遊びにおける危険は、「1.高所」「2.高速」「3.危険性のある道具」「4.危険な要素の近くで遊ぶ」「5.自分または他人の乱暴な遊び方」「6.子どもが消える・迷子になる場所で遊ぶ」の6カテゴリーに分類されることが分かった。6種類の中で子どもが主観的に認知できる危険性は、カテゴリー1,2,5,6の4種類であり、子どもにとっての魅力と恐怖をコントロールする要素であると考えられる。
2.2.危険な遊びの事例収集
対象の子どもを持つ親5名に対して、印象に残っている子どもの遊び、主観的な公園の良し悪しの判断についてヒアリング調査を行った。また、その調査で挙げられた公園8ヶ所でフィールド調査を行い、公園の構成要素とそこで行われている遊びを記録した。
考察
子どもが主観的に認知できる危険性カテゴリー1,2,5,6の内、公園の構成要素と直接的に関係するのは、「1.高所」「2.高速」「6.子どもが消える・迷子になる場所で遊ぶ」の3種類である。これらのカテゴリーは危険性から感じられる公園の魅力と言え、主体的な遊びの発生における重要項目であると考えられる。 「1.高所」はジャングルジムやザイルクライミング、木やフェンス、遊具の屋根によじ登る遊びを指す。「2.高速」はすべり台、回転遊具、ブランコなどを指す。「6.子どもが消える・迷子になる場所で遊ぶ」はコンビネーション遊具の視認性と複雑さ、公園の構成要素の多さ、公園の広さ、人の多さと関係すると考察できる。 一方で「3.危険性のある道具」「4.危険なモノの近くで遊ぶ」の2種類は、大人からしか認知されない危険性である。子どもから認知されない危険性であるため、排除による子どもの感じる魅力に影響は少なく、子どもを安心して遊ばせるという観点からも極力失くすことが求められる。
まとめ
危険性のある遊びの6分類において、「1.高所」「2.高速」「6.子どもが消える・迷子になる場所で遊ぶ」の3カテゴリーは子どもの主体的な遊び促すための公園の魅力である。危険な遊びは、複雑な運動によるボディコントロールや体幹など運動制御能力、失敗経験や自立感覚による危機判断能力の獲得に繋がる。また「3.危険性のある道具」「4.危険なモノの近くで遊ぶ」の大人しか認知できない危険因子を取り除くことで、子どもの感じる魅力を損なわず、リスクを最小限に抑えた安全な公園へと繋がると考えられる。
参考文献・参考サイト
- こどものためのあそび空間(20XX) 仙田満 市ヶ谷出版社
- 50 Dangerous Things (You Should Let Your Children Do)(2011) Gever Tulley
- 乳児期・児童期の発達研究の動向と展望(2016) 木下孝司
- パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学(2017) 池谷裕二 クレヨンハウス
- 運動神経は10歳で決まる!(2006) 立花龍司 マキノ出版
- A Qualitative Study of Risky Play Among Preschool Children(2010) Ellen Beate Hansen Sandseter