「ネット時代における中高生の居場所の在り方に関する一考察」の版間の差分
(→目的と背景) |
細 (「ネット時代における中高生の居場所の在り方に関する一考察」を保護しました ([編集=管理者のみ許可] (無期限) [移動=管理者のみ許可] (無期限))) |
||
(2人の利用者による、間の86版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
− | |||
− | + | ; 河野澄香 / 九州大学大学院芸術工学府 | |
− | + | :KAWANO Sumika / Graduate school of Design, Kyushu University | |
− | + | ; 清須美匡洋教授 / 九州大学芸術工学研究院 | |
− | + | :KIYOSUMI Masahiro / Faculty of Design, Kyushu University | |
− | + | ||
− | + | ''Keywords:community, “my place(居場所)”, identity, wellbeings, cyberspace ,real space'' | |
− | + | ||
+ | |||
+ | ; Abstract | ||
+ | : Wellbeing is closely related to whether human relationships are good or not, but since modern times, relationships have changed due to personalization and development of information technology. The purpose of this paper is to consider “my place” where humans have wellbeing in the future from the point of view of community and “my place” where humans make and deepen relationships, taking into account two spatial concepts, real space and cyberspace. | ||
− | |||
− | |||
− | |||
− | + | ==背景== | |
− | + | 人の幸せは人間関係が良好かどうかに密接に関わっている。<br> | |
+ | 一方で近代以降人々の関わり合い方は大きく変化した。その要因は二つあり、一つは、近代化に伴う個人化の進行、もう一つは、電子メディアの発達である。特に後者の要因は、昨今の情報技術の発達とネットコミュニティの隆盛を見ても人間関係の変化に今後も大きな影響を与え続けると言える。<br> | ||
+ | ところで、人間関係はどのように構築されるのか。<br> | ||
+ | 人はコミュニティ内の他者との関係における自分の役割を認識しまっとうすることで、コミュニティの中に自分らしく居られる居場所を見つける。自分の役割を認識するにはまず自己を知ることが重要である。自己を探求する行為は主に青年期に見られる。<br> | ||
+ | よって、良好な人間関係を構築していくには、青年期に自己を築くことと、コミュニティ内に自分の役割を見つけること、即ち居場所を見つけ出すことが重要である。<br> | ||
+ | |||
+ | |||
+ | ==目的== | ||
+ | 以上背景より、情報技術のさらなる発展が予想されるネット時代の環境を想定して、青年期の子ども達が幸福感を得られる自己を築き、人々との良好な関係性を形成して居場所を見出し、幸福な人生を歩んでいく為には、どのようなコミュニティが必要となるのかを考察し予測することを本研究の目的とする。 | ||
+ | ==文献調査と本研究の位置付け== | ||
+ | ===○本研究における幸福(ウェルビーイング)について=== | ||
+ | 本研究では、人にとっての幸福は、人生に意義を見出し自分の潜在能力を最大限に発揮できる状態であるという立場をとる。 | ||
− | == | + | ===○幸福な自己の形成について=== |
− | + | ====精神的回復力==== | |
− | + | 幸福な自己を形成するには、自分の好きなことを積極的に見つけていく姿勢や、窮地に陥っても自分の力を発揮できるように自分の感情を整える能力、先のことを肯定的に捉える気持ちが必要と言える。よってそれに近い因子(「新奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来志向」)からなる、小塩ら(2002)が示す「精神的回復力」を、幸福な自己を形成するための力とする。 | |
− | |||
− | == | + | ===○コミュニティと居場所について=== |
− | + | ====・コミュニティとは==== | |
− | + | コミュニティとは、「社会的相互作用」「領域」「共通の絆」がある、主体的で動態的な「場」であると定義する。<br> | |
+ | ここでの「場」の定義は、人と人との関係性の間で相互作用し変化していく生活空間であるとする。<br> | ||
+ | コミュニティは基本的には一人では成り立たず、複数人の時に成立する。<br> | ||
− | |||
− | |||
+ | ====・居場所とは==== | ||
+ | 居場所を、自分が「身」を置いていて自分らしく居られる場で、下記の「居場所」の心理的機能の6因子のいずれかに当てはまるものである、と定義する。<br> | ||
− | |||
− | |||
− | + | '''「居場所」の心理的機能の6因子(「居場所」因子)'''<br> | |
+ | ①被受容感 ②精神的安定感 ③行動の自由<br> | ||
+ | ④思考・内省 ⑤自己肯定感 ⑥他者からの自由<br> | ||
+ | 居場所は一人からでも成立し、また複数人で一緒にいる場合も成り立つ。 | ||
− | |||
− | |||
− | + | 居場所とコミュニティは全く同じ意味ではないものの、重なり合う部分は多い。本研究では居場所とコミュニティを合わせた領域を取り扱い、その中で人が主観的に自分らしくあれると感じる居場所について探求する。 | |
− | == | + | ===○現実空間とネット空間の違い=== |
− | + | 電子メディアの発達によって現実空間とは別にインターネット空間(以下ネット空間)という、時間や実質的な空間に縛られない新しい空間概念が生まれた。<br> | |
+ | ネット空間における特性の一つに匿名性がある。匿名性は、ネット空間がパソコンやスマートフォン等の「道具」を介して他者と出会う場だから生じたと考えられる。つまり「道具」を介するか否かがコミュニケーションのあり方を変化させた。<br> | ||
+ | 現実空間では「道具」を介さず対面で会話する。対面場面において他者が何を感じているかを理解するには言語のみならず非言語コミュニケーションの読解も重要である。現実空間に限られていた人類の長い歴史の中で感情伝達の大部分は非言語コミュニケーションに頼って信頼感を得ていた。その点で、五感からの情報が乏しいネットコミュニティ上では信頼関係の形成方法に配慮する必要がある。また、個人の「身」の置き方も変化した。現実空間では場に身体を存在させる必要があった。しかしネット空間では「身」を置いて居ながら他者からは存在を悟られないような振る舞い方ができる。 | ||
− | + | ==文献調査から得られた仮説== | |
+ | 空間特性の違いより、現実空間は被受容感、自己肯定感を得られる居場所、ネット空間は他者からの自由や行動の自由を感じられる居場所になるのではないかと考えられる。世間的には青少年のインターネット利用を危険視する声が多いが、最新の情報に触れられるインターネットは「新奇性追求」傾向がある若者にとっては好ましい道具で、精神的回復力を強める働きもあるのではないかと考えられる。 | ||
− | == | + | ==研究の方法== |
− | < | + | ====幸福な自己の形成と相関がある居場所の属性に関する調査==== |
+ | 11月中旬にwedアンケート調査を行う(予定)<br> | ||
+ | 対象:大学1年生(4~50人程度)<br> | ||
+ | 大学1年生は青年期の後半期で、自己の在り方を考えた経験もあり、尚且つ中学・高校時代の記憶も比較的新しいものであると言えるので、今回のアンケート調査対象とする。<br> | ||
+ | 調査対象者の精神的回復力を計ること、彼らのインターネット行動の特徴を読み解くこと、そして中高時代の居場所の属性を知ることがこの調査の目的である。<br> | ||
+ | |||
+ | ==今後の方針== | ||
+ | 調査より、居場所属性や幸福な自己、インターネット利用の特徴のそれぞれの関係性を整理し仮説と比較しつつ考察する。そして現代の中高生の居場所の特徴を捉え、幸福な自己を形成する居場所の条件を提示する。 | ||
==参考文献・参考サイト== | ==参考文献・参考サイト== | ||
− | + | *TED Talk(2015),「人生を幸福にするのは何?最も長期に渡る幸福の研究から」, https://www.ted.com/talks/robert_waldinger_what_makes_a_good_life_lessons_from_the_longest_study_on_happiness?language=ja ,2019年7月14日閲覧 | |
− | + | *長田攻一/田所承己 編(2014),「つながる/つながらないの社会学 個人化する時代のコミュニティのかたち」 | |
− | + | *内閣府(2017),「若者にとっての人とのつながり」, | |
− | + | https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h29honpen/s0_0.html ,2019年7月13日閲覧 | |
− | *TED | + | *近藤淳也 監修(2015),「ネットコミュニティの設計と力 つながる私たちの時代」 |
+ | *河井亨 京都大学(2013),「E.H.Eriksonのアイデンティティ理論と社会理論についての考察」,https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/173218/1/eda59_639.pdf ,2019年10月20日閲覧 | ||
+ | *ラファエル・A・カルヴォ/ドリアン・ピーターズ (2017),「ウェルビーイングの設計論 人がよりよく生きるための情報技術」 | ||
+ | *植村勝彦ほか 編著(2012),「よくわかるコミュニティ心理学 第2版」 | ||
+ | *遠藤薫 編著(2008),「ネットメディアと<コミュニティ>形成」 | ||
+ | *猪股佐登留(1956),「クルト・レヴィン 社会科学における場の理論」 | ||
+ | *山内裕平研究室(2011)「【気になる研究者】クルト・レヴィン」, https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2011/09/post-328.html ,2019年7月14日閲覧 | ||
+ | *杉本希映/庄司一子(2006),「「居場所」の心理的機能の構造とその発達的変化」 | ||
+ | *丸田一(2008),「「場所」論 ウェブのリアリズム、地域のロマンチシズム」 | ||
+ | *藤代祐之 編著(2015),「ソーシャルメディア論 つながりを再設計する」 | ||
+ | *小沢一仁 東京工芸大学 (2002),「居場所とアイデンティティを現象学的アプローチによって捉える試み」 | ||
+ | *浅野智彦(2011),「若者の気分 趣味縁からはじまる社会参加」 | ||
+ | *堀洋道 監修 吉田富二雄/宮本聡介 編集(2011),「心理測定尺度集Ⅴ 個人から社会へ<自己・対人関係・価値観>」 | ||
+ | *堀洋道 監修 松井豊/宮本聡介 編集(2011),「心理測定尺度集Ⅵ 現実社会と関わる<集団・組織・適応>」 | ||
<br> | <br> |
2020年8月5日 (水) 16:25時点における最新版
- 河野澄香 / 九州大学大学院芸術工学府
- KAWANO Sumika / Graduate school of Design, Kyushu University
- 清須美匡洋教授 / 九州大学芸術工学研究院
- KIYOSUMI Masahiro / Faculty of Design, Kyushu University
Keywords:community, “my place(居場所)”, identity, wellbeings, cyberspace ,real space
- Abstract
- Wellbeing is closely related to whether human relationships are good or not, but since modern times, relationships have changed due to personalization and development of information technology. The purpose of this paper is to consider “my place” where humans have wellbeing in the future from the point of view of community and “my place” where humans make and deepen relationships, taking into account two spatial concepts, real space and cyberspace.
目次
背景
人の幸せは人間関係が良好かどうかに密接に関わっている。
一方で近代以降人々の関わり合い方は大きく変化した。その要因は二つあり、一つは、近代化に伴う個人化の進行、もう一つは、電子メディアの発達である。特に後者の要因は、昨今の情報技術の発達とネットコミュニティの隆盛を見ても人間関係の変化に今後も大きな影響を与え続けると言える。
ところで、人間関係はどのように構築されるのか。
人はコミュニティ内の他者との関係における自分の役割を認識しまっとうすることで、コミュニティの中に自分らしく居られる居場所を見つける。自分の役割を認識するにはまず自己を知ることが重要である。自己を探求する行為は主に青年期に見られる。
よって、良好な人間関係を構築していくには、青年期に自己を築くことと、コミュニティ内に自分の役割を見つけること、即ち居場所を見つけ出すことが重要である。
目的
以上背景より、情報技術のさらなる発展が予想されるネット時代の環境を想定して、青年期の子ども達が幸福感を得られる自己を築き、人々との良好な関係性を形成して居場所を見出し、幸福な人生を歩んでいく為には、どのようなコミュニティが必要となるのかを考察し予測することを本研究の目的とする。
文献調査と本研究の位置付け
○本研究における幸福(ウェルビーイング)について
本研究では、人にとっての幸福は、人生に意義を見出し自分の潜在能力を最大限に発揮できる状態であるという立場をとる。
○幸福な自己の形成について
精神的回復力
幸福な自己を形成するには、自分の好きなことを積極的に見つけていく姿勢や、窮地に陥っても自分の力を発揮できるように自分の感情を整える能力、先のことを肯定的に捉える気持ちが必要と言える。よってそれに近い因子(「新奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来志向」)からなる、小塩ら(2002)が示す「精神的回復力」を、幸福な自己を形成するための力とする。
○コミュニティと居場所について
・コミュニティとは
コミュニティとは、「社会的相互作用」「領域」「共通の絆」がある、主体的で動態的な「場」であると定義する。
ここでの「場」の定義は、人と人との関係性の間で相互作用し変化していく生活空間であるとする。
コミュニティは基本的には一人では成り立たず、複数人の時に成立する。
・居場所とは
居場所を、自分が「身」を置いていて自分らしく居られる場で、下記の「居場所」の心理的機能の6因子のいずれかに当てはまるものである、と定義する。
「居場所」の心理的機能の6因子(「居場所」因子)
①被受容感 ②精神的安定感 ③行動の自由
④思考・内省 ⑤自己肯定感 ⑥他者からの自由
居場所は一人からでも成立し、また複数人で一緒にいる場合も成り立つ。
居場所とコミュニティは全く同じ意味ではないものの、重なり合う部分は多い。本研究では居場所とコミュニティを合わせた領域を取り扱い、その中で人が主観的に自分らしくあれると感じる居場所について探求する。
○現実空間とネット空間の違い
電子メディアの発達によって現実空間とは別にインターネット空間(以下ネット空間)という、時間や実質的な空間に縛られない新しい空間概念が生まれた。
ネット空間における特性の一つに匿名性がある。匿名性は、ネット空間がパソコンやスマートフォン等の「道具」を介して他者と出会う場だから生じたと考えられる。つまり「道具」を介するか否かがコミュニケーションのあり方を変化させた。
現実空間では「道具」を介さず対面で会話する。対面場面において他者が何を感じているかを理解するには言語のみならず非言語コミュニケーションの読解も重要である。現実空間に限られていた人類の長い歴史の中で感情伝達の大部分は非言語コミュニケーションに頼って信頼感を得ていた。その点で、五感からの情報が乏しいネットコミュニティ上では信頼関係の形成方法に配慮する必要がある。また、個人の「身」の置き方も変化した。現実空間では場に身体を存在させる必要があった。しかしネット空間では「身」を置いて居ながら他者からは存在を悟られないような振る舞い方ができる。
文献調査から得られた仮説
空間特性の違いより、現実空間は被受容感、自己肯定感を得られる居場所、ネット空間は他者からの自由や行動の自由を感じられる居場所になるのではないかと考えられる。世間的には青少年のインターネット利用を危険視する声が多いが、最新の情報に触れられるインターネットは「新奇性追求」傾向がある若者にとっては好ましい道具で、精神的回復力を強める働きもあるのではないかと考えられる。
研究の方法
幸福な自己の形成と相関がある居場所の属性に関する調査
11月中旬にwedアンケート調査を行う(予定)
対象:大学1年生(4~50人程度)
大学1年生は青年期の後半期で、自己の在り方を考えた経験もあり、尚且つ中学・高校時代の記憶も比較的新しいものであると言えるので、今回のアンケート調査対象とする。
調査対象者の精神的回復力を計ること、彼らのインターネット行動の特徴を読み解くこと、そして中高時代の居場所の属性を知ることがこの調査の目的である。
今後の方針
調査より、居場所属性や幸福な自己、インターネット利用の特徴のそれぞれの関係性を整理し仮説と比較しつつ考察する。そして現代の中高生の居場所の特徴を捉え、幸福な自己を形成する居場所の条件を提示する。
参考文献・参考サイト
- TED Talk(2015),「人生を幸福にするのは何?最も長期に渡る幸福の研究から」, https://www.ted.com/talks/robert_waldinger_what_makes_a_good_life_lessons_from_the_longest_study_on_happiness?language=ja ,2019年7月14日閲覧
- 長田攻一/田所承己 編(2014),「つながる/つながらないの社会学 個人化する時代のコミュニティのかたち」
- 内閣府(2017),「若者にとっての人とのつながり」,
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h29honpen/s0_0.html ,2019年7月13日閲覧
- 近藤淳也 監修(2015),「ネットコミュニティの設計と力 つながる私たちの時代」
- 河井亨 京都大学(2013),「E.H.Eriksonのアイデンティティ理論と社会理論についての考察」,https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/173218/1/eda59_639.pdf ,2019年10月20日閲覧
- ラファエル・A・カルヴォ/ドリアン・ピーターズ (2017),「ウェルビーイングの設計論 人がよりよく生きるための情報技術」
- 植村勝彦ほか 編著(2012),「よくわかるコミュニティ心理学 第2版」
- 遠藤薫 編著(2008),「ネットメディアと<コミュニティ>形成」
- 猪股佐登留(1956),「クルト・レヴィン 社会科学における場の理論」
- 山内裕平研究室(2011)「【気になる研究者】クルト・レヴィン」, https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2011/09/post-328.html ,2019年7月14日閲覧
- 杉本希映/庄司一子(2006),「「居場所」の心理的機能の構造とその発達的変化」
- 丸田一(2008),「「場所」論 ウェブのリアリズム、地域のロマンチシズム」
- 藤代祐之 編著(2015),「ソーシャルメディア論 つながりを再設計する」
- 小沢一仁 東京工芸大学 (2002),「居場所とアイデンティティを現象学的アプローチによって捉える試み」
- 浅野智彦(2011),「若者の気分 趣味縁からはじまる社会参加」
- 堀洋道 監修 吉田富二雄/宮本聡介 編集(2011),「心理測定尺度集Ⅴ 個人から社会へ<自己・対人関係・価値観>」
- 堀洋道 監修 松井豊/宮本聡介 編集(2011),「心理測定尺度集Ⅵ 現実社会と関わる<集団・組織・適応>」