「ネット時代における中高生の居場所の在り方に関する一考察」の版間の差分

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; 河野澄香 / 九州大学大学院芸術工学府デザインストラテジー専攻
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; 河野澄香 / 九州大学大学院芸術工学府
:Kawano Sumika / Kyushu University ← 氏名 / 所属 の英語表記
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:KAWANO Sumika / Graduate school of Design, Kyushu University 
: ''Keywords:居場所、コミュニティ、ウェルビーイング、アイデンティティ'' 
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; 清須美匡洋教授 / 九州大学芸術工学研究院
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:KIYOSUMI Masahiro / Faculty of Design, Kyushu University 
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''Keywords:community, “my place(居場所)”, identity, wellbeings, cyberspace ,real space'' 
  
  
 
; Abstract
 
; Abstract
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: Wellbeing is closely related to whether human relationships are good or not, but since modern times, relationships have changed due to personalization and development of information technology. The purpose of this paper is to consider “my place” where humans have wellbeing in the future from the point of view of community and “my place” where humans make and deepen relationships, taking into account two spatial concepts, real space and cyberspace.
  
  
  
==[背景]==
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 ハーバード大学の成人発達研究によると、人の幸せは人間関係が良好かどうかに密接に関わっている。<br>
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==背景==
 一方で近代以降人々の関わり合い方は大きく変化した。その要因は二つあり、一つは、近代化に伴う個人化の進行である。個人化により個人は社会的な集団の束縛から解放されると共に、存在的安心感を無条件に享受することができなくなった。もう一つは、電子メディアの発達により時間・空間によらないコミュニケーションができるようになった事である。2017年の内閣府調査によると、若者の6割以上がインターネット空間(以下ネット空間)が自分の居場所だと回答している。昨今の情報技術の発展を顧みても、今後ともにネット空間は関係性構築の重要な役割を担うことは自明である。<br>
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 人の幸せは人間関係が良好かどうかに密接に関わっている。<br>
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 一方で近代以降人々の関わり合い方は大きく変化した。その要因は二つあり、一つは、近代化に伴う個人化の進行、もう一つは、電子メディアの発達である。特に後者の要因は、昨今の情報技術の発達とネットコミュニティの隆盛を見ても人間関係の変化に今後も大きな影響を与え続けると言える。<br>
 
 ところで、人間関係はどのように構築されるのか。<br>
 
 ところで、人間関係はどのように構築されるのか。<br>
 ヒトは種の誕生当初からコミュニティに所属することでコミュニケーションをとり関係性を構築してきた。所属するコミュニティ内で他者との関係における自分の役割を認識しまっとうすることで、コミュニティを自分らしく居られる「居場所」としてきた。自分の役割を認識するにはまず自分を知ること、即ちアイデンティティを確立する必要がある。ところで、社会との間においてアイデンティティを確立するのは青年期だ。<br>
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 人はコミュニティ内の他者との関係における自分の役割を認識しまっとうすることで、コミュニティの中に自分らしく居られる居場所を見つける。自分の役割を認識するにはまず自己を知ることが重要である。自己を探求する行為は主に青年期に見られる。<br>
 よって、良好な人間関係を構築していくには、青年期にアイデンティティを形成することと、コミュニティ内に自分の役割を見つけること、すなわちコミュニティを自分の「居場所」としていくことが重要である。<br>
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 よって、良好な人間関係を構築していくには、青年期に自己を築くことと、コミュニティ内に自分の役割を見つけること、即ち居場所を見つけ出すことが重要である。<br>
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==[目的]==
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==目的==
 以上背景より、情報技術のさらなる発展が予想されるネット時代の環境を想定して青年期の子ども達が健全なアイデンティティを確立し、人々の良好な関係性を築いて居場所を見出し、幸福な人生を歩んでいく為には、どのようなコミュニティが必要となるのかを考察し予測する。
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 以上背景より、情報技術のさらなる発展が予想されるネット時代の環境を想定して、青年期の子ども達が幸福感を得られる自己を築き、人々との良好な関係性を形成して居場所を見出し、幸福な人生を歩んでいく為には、どのようなコミュニティが必要となるのかを考察し予測することを本研究の目的とする。
  
==[本研究の位置付け]==
 
  
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==文献調査と本研究の位置付け==
 
===○本研究における幸福(ウェルビーイング)について===
 
===○本研究における幸福(ウェルビーイング)について===
 本研究は居場所を通じて人が幸福になることを大きなテーマとしている。そこで、本研究における幸福(ウェルビーイング)とは何かについて述べる。<br>
+
 本研究では、人にとっての幸福は、人生に意義を見出し自分の潜在能力を最大限に発揮できる状態であるという立場をとる。
 ウェルビーイングの意味は幅広く、アプローチの仕方によって意味が変わってくるが、本研究ではエウダイモニア(持続的幸福)的アプローチをとる。つまり、人にとっての幸福は、人生に意義を見出し、自分の潜在能力を最大限に発揮できる状態であるとする。
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===○幸福な自己の形成について===
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====精神的回復力====
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 幸福な自己を形成するには、自分の好きなことを積極的に見つけていく姿勢や、窮地に陥っても自分の力を発揮できるように自分の感情を整える能力、先のことを肯定的に捉える気持ちが必要と言える。よってそれに近い因子(「新奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来志向」)からなる、小塩ら(2002)が示す「精神的回復力」を、幸福な自己を形成するための力とする。
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 +
===○コミュニティと居場所について===
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====・コミュニティとは====
 +
 コミュニティとは、「社会的相互作用」「領域」「共通の絆」がある、主体的で動態的な「場」であると定義する。<br>
 +
 ここでの「場」の定義は、人と人との関係性の間で相互作用し変化していく生活空間であるとする。<br>
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 コミュニティは基本的には一人では成り立たず、複数人の時に成立する。<br>
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===○コミュニティについて===
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====・居場所とは====
====・コミュニティの役割(定義)====
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 居場所を、自分が「身」を置いていて自分らしく居られる場で、下記の「居場所」の心理的機能の6因子のいずれかに当てはまるものである、と定義する。<br>
 ヒトは種の誕生当初からコミュニティを作って生きてきた。コミュニティは、何らかの情報あるいは意味の体系や秩序といった世界観を共有する機能がある。本研究のコミュニティの定義もこれに習い、「コミュニケーションによって情報や世界観を共有する集団が集う場」とする。<br>
 
 さらに、ここでの「場」の定義は、クルド・レヴィンの「場の理論」より、人と人との関係性の間で相互作用し変化していく生活空間であるとする。
 
  
====・居場所とは何か====
 
 居場所も意味の幅が広い言葉であるが、本研究における居場所の定義は杉本・庄司(2006)が唱える下記の「居場所」の心理的機能の6因子のいずれかに当てはまるコミュニティとする。
 
 
 
※「居場所」の心理的機能の6因子(「居場所」因子)
 
 ①被受容感 ②精神的安定感 ③行動の自由
 
 ④思考・内省 ⑤自己肯定感 ⑥他者からの自由<br>
 
 
 
 他者と関わらない居場所もあるが、今回は複数人存在する場を対象とする。
 
  
====・現実空間とネット空間====
+
'''「居場所」の心理的機能の6因子(「居場所」因子)'''<br>
  [背景]では、現代の人々の関わり合い方の変容の要因として、電子メディアの発達をあげた。これによって現実空間とは別にインターネット空間(以下ネット空間)という新しい空間概念が生まれた。
+
  ①被受容感 ②精神的安定感 ③行動の自由<br>
 ネット空間の特性は数多あれど、特に多くの文献で挙げられるものは「匿名性」である。この「匿名性」がなぜ生まれるのかは、ネット空間がパソコンやスマートフォン等の「道具」を介して他者と出会う場所であるからだと考えられる。この「道具」を介するか否かがコミュニケーションのあり方を大きく変えた。
+
④思考・内省 ⑤自己肯定感 ⑥他者からの自由<br>
 元来現実空間で行われていたコミュニケーションは「道具」を介さない対面のものであった。対面場面において他者が何を感じているかを理解するには言語のみからではなく非言語のコミュニケーションの読み取りも重要である。人類の歴史の大半は現実空間のコミュニティのみが存在していた。その長い歴史の中で培ったコミュニケーション方法は大部分を非言語コミュニケーション、つまり視覚からの情報に頼っており、視覚によって他者への信頼感を得ていた。その点で、文字に頼りがちで視覚情報の乏しいネットコミュニティ上では信頼関係を築く上で特別注意しなければならない。
+
 
 以上述べたようにネット空間特有の性質があり、現実空間との違いが見られるが、その空間の違いが「コミュニティ」や「居場所」という言葉の概念に影響を及ぼすのか。これを検討する為に空間に関する論文に根拠を求めたが、空間を定義づけている論文はインターネット誕生以前のものに限られ、検討することができなかった。そこで今回はアンケート調査によって人が現実空間とネット空間のコミュニティについて問い、現代人がそれぞれの空間のコミュニティや居場所を差別化して捉えているのかを確かめることとした。
+
 居場所は一人からでも成立し、また複数人で一緒にいる場合も成り立つ。
 
 
===○アイデンティティについて===
 
====・アイデンティティとは何か(定義)====
 
 本研究でのアイデンティティの定義を小沢(2002)にならい、「自分が自分であること」とする。前者の「自分」は主観としての自分、後者の「自分」はこの時代のこの社会にこうして生きている人間としての自分である。後者の「自分」は生涯を通してコミュニティあるいはそこに所属する他者によって左右される。特に青年期は、社会の中で自分の居場所を探すことで、児童期までに親および教師からの影響を受けて出来ていた価値観を問い直しつつ自分のアイデンティティを確立していく時期にあたる。よってこの時期は親や教師以外との友人関係が重要であると言われている。
 
====・アイデンティティ形成における現代の障壁====
 
 現代の青年期の子ども達のアイデンティティ形成における危機を知るべく、まずは若者の置かれている状況を把握する。
 
 現代の子ども達は関係優先志向だと言われている。先に青年期には友人関係が重要であると述べたが、現代の子ども達は過度に「友人関係あっての私」と感じている風潮がある。これは他者とは異なる自分という存在がわからなくなっているからであり、以前よりもアイデンティティの形成が難しくなっていると考えられる。それは、自分の将来について深く考えずともアルバイトやパートなどである程度の生計は立てられてしまう現状と、社会の成績を重視し職業体験の機会を作ることをおろそかにしている風潮が原因であると考えられる。
 
  
==研究の方法==
 
 青年期の子ども達のアイデンティティの確立度合いや居場所の現状を把握する為に、アンケート調査を行う。
 
対象:大学1年生
 
 本研究としてはコミュニティが固定化しやすい中学生〜高校生の居場所に対して現状を改善する為の考察を行いたいが、現役の中高生はまだアイデンティティ確立が未完の状態であると考えられる。大学1年生は青年期の後半期で、将来の進路について悩んだ経験もあると考えられ、尚且つ中学・高校時代の記憶も比較的新しいものであると思われるので、今回の調査対象とした。
 
調査目的:ネット時代ではどのような居場所を持つものがより健全なアイデンティティを確立しているのか。
 
現時点で健全なアイデンティティは形成出来ているのか、これまで所属していたコミュニティはどのようなものであったか。その中で居場所と呼べるようなコミュニティはあったのかということを知る。それと合わせて現代の若者が現実空間とネット空間のコミュニティや居場所を空間の違いによって違う意味で捉えているのかどうかも調査する。
 
 
 
{{clear}}
 
  
==結果==
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 居場所とコミュニティは全く同じ意味ではないものの、重なり合う部分は多い。本研究では居場所とコミュニティを合わせた領域を取り扱い、その中で人が主観的に自分らしくあれると感じる居場所について探求する。
 
 
  
  
==考察==
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===○現実空間とネット空間の違い===
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 電子メディアの発達によって現実空間とは別にインターネット空間(以下ネット空間)という、時間や実質的な空間に縛られない新しい空間概念が生まれた。<br>
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 ネット空間における特性の一つに匿名性がある。匿名性は、ネット空間がパソコンやスマートフォン等の「道具」を介して他者と出会う場だから生じたと考えられる。つまり「道具」を介するか否かがコミュニケーションのあり方を変化させた。<br>
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 現実空間では「道具」を介さず対面で会話する。対面場面において他者が何を感じているかを理解するには言語のみならず非言語コミュニケーションの読解も重要である。現実空間に限られていた人類の長い歴史の中で感情伝達の大部分は非言語コミュニケーションに頼って信頼感を得ていた。その点で、五感からの情報が乏しいネットコミュニティ上では信頼関係の形成方法に配慮する必要がある。また、個人の「身」の置き方も変化した。現実空間では場に身体を存在させる必要があった。しかしネット空間では「身」を置いて居ながら他者からは存在を悟られないような振る舞い方ができる。
  
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==文献調査から得られた仮説==
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 空間特性の違いより、現実空間は被受容感、自己肯定感を得られる居場所、ネット空間は他者からの自由や行動の自由を感じられる居場所になるのではないかと考えられる。世間的には青少年のインターネット利用を危険視する声が多いが、最新の情報に触れられるインターネットは「新奇性追求」傾向がある若者にとっては好ましい道具で、精神的回復力を強める働きもあるのではないかと考えられる。
  
==まとめ==
 
  
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==研究の方法==
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====幸福な自己の形成と相関がある居場所の属性に関する調査====
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11月中旬にwedアンケート調査を行う(予定)<br>
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対象:大学1年生(4~50人程度)<br>
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 大学1年生は青年期の後半期で、自己の在り方を考えた経験もあり、尚且つ中学・高校時代の記憶も比較的新しいものであると言えるので、今回のアンケート調査対象とする。<br>
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 調査対象者の精神的回復力を計ること、彼らのインターネット行動の特徴を読み解くこと、そして中高時代の居場所の属性を知ることがこの調査の目的である。<br>
  
==脚注==
 
<references />
 
  
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==今後の方針==
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 調査より、居場所属性や幸福な自己、インターネット利用の特徴のそれぞれの関係性を整理し仮説と比較しつつ考察する。そして現代の中高生の居場所の特徴を捉え、幸福な自己を形成する居場所の条件を提示する。
  
 
==参考文献・参考サイト==
 
==参考文献・参考サイト==
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*ラファエル・A・カルヴォ/ドリアン・ピーターズ (2017),「ウェルビーイングの設計論 人がよりよく生きるための情報技術」
 
*ラファエル・A・カルヴォ/ドリアン・ピーターズ (2017),「ウェルビーイングの設計論 人がよりよく生きるための情報技術」
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*植村勝彦ほか 編著(2012),「よくわかるコミュニティ心理学 第2版」
 
*遠藤薫 編著(2008),「ネットメディアと<コミュニティ>形成」
 
*遠藤薫 編著(2008),「ネットメディアと<コミュニティ>形成」
 
*猪股佐登留(1956),「クルト・レヴィン 社会科学における場の理論」
 
*猪股佐登留(1956),「クルト・レヴィン 社会科学における場の理論」
95行目: 95行目:
 
*小沢一仁 東京工芸大学 (2002),「居場所とアイデンティティを現象学的アプローチによって捉える試み」
 
*小沢一仁 東京工芸大学 (2002),「居場所とアイデンティティを現象学的アプローチによって捉える試み」
 
*浅野智彦(2011),「若者の気分 趣味縁からはじまる社会参加」
 
*浅野智彦(2011),「若者の気分 趣味縁からはじまる社会参加」
 
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*堀洋道 監修 吉田富二雄/宮本聡介 編集(2011),「心理測定尺度集Ⅴ 個人から社会へ<自己・対人関係・価値観>」
 
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*堀洋道 監修 松井豊/宮本聡介 編集(2011),「心理測定尺度集Ⅵ 現実社会と関わる<集団・組織・適応>」
  
 
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2020年8月5日 (水) 16:25時点における最新版


河野澄香 / 九州大学大学院芸術工学府
KAWANO Sumika / Graduate school of Design, Kyushu University 
清須美匡洋教授 / 九州大学芸術工学研究院
KIYOSUMI Masahiro / Faculty of Design, Kyushu University 

Keywords:community, “my place(居場所)”, identity, wellbeings, cyberspace ,real space 


Abstract
Wellbeing is closely related to whether human relationships are good or not, but since modern times, relationships have changed due to personalization and development of information technology. The purpose of this paper is to consider “my place” where humans have wellbeing in the future from the point of view of community and “my place” where humans make and deepen relationships, taking into account two spatial concepts, real space and cyberspace.



背景

 人の幸せは人間関係が良好かどうかに密接に関わっている。
 一方で近代以降人々の関わり合い方は大きく変化した。その要因は二つあり、一つは、近代化に伴う個人化の進行、もう一つは、電子メディアの発達である。特に後者の要因は、昨今の情報技術の発達とネットコミュニティの隆盛を見ても人間関係の変化に今後も大きな影響を与え続けると言える。
 ところで、人間関係はどのように構築されるのか。
 人はコミュニティ内の他者との関係における自分の役割を認識しまっとうすることで、コミュニティの中に自分らしく居られる居場所を見つける。自分の役割を認識するにはまず自己を知ることが重要である。自己を探求する行為は主に青年期に見られる。
 よって、良好な人間関係を構築していくには、青年期に自己を築くことと、コミュニティ内に自分の役割を見つけること、即ち居場所を見つけ出すことが重要である。


目的

 以上背景より、情報技術のさらなる発展が予想されるネット時代の環境を想定して、青年期の子ども達が幸福感を得られる自己を築き、人々との良好な関係性を形成して居場所を見出し、幸福な人生を歩んでいく為には、どのようなコミュニティが必要となるのかを考察し予測することを本研究の目的とする。


文献調査と本研究の位置付け

○本研究における幸福(ウェルビーイング)について

 本研究では、人にとっての幸福は、人生に意義を見出し自分の潜在能力を最大限に発揮できる状態であるという立場をとる。


○幸福な自己の形成について

精神的回復力

 幸福な自己を形成するには、自分の好きなことを積極的に見つけていく姿勢や、窮地に陥っても自分の力を発揮できるように自分の感情を整える能力、先のことを肯定的に捉える気持ちが必要と言える。よってそれに近い因子(「新奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来志向」)からなる、小塩ら(2002)が示す「精神的回復力」を、幸福な自己を形成するための力とする。

○コミュニティと居場所について

・コミュニティとは

 コミュニティとは、「社会的相互作用」「領域」「共通の絆」がある、主体的で動態的な「場」であると定義する。
 ここでの「場」の定義は、人と人との関係性の間で相互作用し変化していく生活空間であるとする。
 コミュニティは基本的には一人では成り立たず、複数人の時に成立する。


・居場所とは

 居場所を、自分が「身」を置いていて自分らしく居られる場で、下記の「居場所」の心理的機能の6因子のいずれかに当てはまるものである、と定義する。


「居場所」の心理的機能の6因子(「居場所」因子)
①被受容感 ②精神的安定感 ③行動の自由
④思考・内省 ⑤自己肯定感 ⑥他者からの自由

 居場所は一人からでも成立し、また複数人で一緒にいる場合も成り立つ。


 居場所とコミュニティは全く同じ意味ではないものの、重なり合う部分は多い。本研究では居場所とコミュニティを合わせた領域を取り扱い、その中で人が主観的に自分らしくあれると感じる居場所について探求する。


○現実空間とネット空間の違い

 電子メディアの発達によって現実空間とは別にインターネット空間(以下ネット空間)という、時間や実質的な空間に縛られない新しい空間概念が生まれた。
 ネット空間における特性の一つに匿名性がある。匿名性は、ネット空間がパソコンやスマートフォン等の「道具」を介して他者と出会う場だから生じたと考えられる。つまり「道具」を介するか否かがコミュニケーションのあり方を変化させた。
 現実空間では「道具」を介さず対面で会話する。対面場面において他者が何を感じているかを理解するには言語のみならず非言語コミュニケーションの読解も重要である。現実空間に限られていた人類の長い歴史の中で感情伝達の大部分は非言語コミュニケーションに頼って信頼感を得ていた。その点で、五感からの情報が乏しいネットコミュニティ上では信頼関係の形成方法に配慮する必要がある。また、個人の「身」の置き方も変化した。現実空間では場に身体を存在させる必要があった。しかしネット空間では「身」を置いて居ながら他者からは存在を悟られないような振る舞い方ができる。

文献調査から得られた仮説

 空間特性の違いより、現実空間は被受容感、自己肯定感を得られる居場所、ネット空間は他者からの自由や行動の自由を感じられる居場所になるのではないかと考えられる。世間的には青少年のインターネット利用を危険視する声が多いが、最新の情報に触れられるインターネットは「新奇性追求」傾向がある若者にとっては好ましい道具で、精神的回復力を強める働きもあるのではないかと考えられる。


研究の方法

幸福な自己の形成と相関がある居場所の属性に関する調査

11月中旬にwedアンケート調査を行う(予定)
対象:大学1年生(4~50人程度)
 大学1年生は青年期の後半期で、自己の在り方を考えた経験もあり、尚且つ中学・高校時代の記憶も比較的新しいものであると言えるので、今回のアンケート調査対象とする。
 調査対象者の精神的回復力を計ること、彼らのインターネット行動の特徴を読み解くこと、そして中高時代の居場所の属性を知ることがこの調査の目的である。


今後の方針

 調査より、居場所属性や幸福な自己、インターネット利用の特徴のそれぞれの関係性を整理し仮説と比較しつつ考察する。そして現代の中高生の居場所の特徴を捉え、幸福な自己を形成する居場所の条件を提示する。

参考文献・参考サイト

https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h29honpen/s0_0.html ,2019年7月13日閲覧

  • ラファエル・A・カルヴォ/ドリアン・ピーターズ (2017),「ウェルビーイングの設計論 人がよりよく生きるための情報技術」
  • 植村勝彦ほか 編著(2012),「よくわかるコミュニティ心理学 第2版」
  • 遠藤薫 編著(2008),「ネットメディアと<コミュニティ>形成」
  • 猪股佐登留(1956),「クルト・レヴィン 社会科学における場の理論」
  • 山内裕平研究室(2011)「【気になる研究者】クルト・レヴィン」, https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2011/09/post-328.html ,2019年7月14日閲覧
  • 杉本希映/庄司一子(2006),「「居場所」の心理的機能の構造とその発達的変化」
  • 丸田一(2008),「「場所」論 ウェブのリアリズム、地域のロマンチシズム」
  • 藤代祐之 編著(2015),「ソーシャルメディア論 つながりを再設計する」
  • 小沢一仁 東京工芸大学 (2002),「居場所とアイデンティティを現象学的アプローチによって捉える試み」
  • 浅野智彦(2011),「若者の気分 趣味縁からはじまる社会参加」
  • 堀洋道 監修 吉田富二雄/宮本聡介 編集(2011),「心理測定尺度集Ⅴ 個人から社会へ<自己・対人関係・価値観>」
  • 堀洋道 監修 松井豊/宮本聡介 編集(2011),「心理測定尺度集Ⅵ 現実社会と関わる<集団・組織・適応>」