「選挙におけるキャッチコピーの役割についての研究」の版間の差分
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− | + | 会社が商品を生活者に届ける際に、「キャッチコピー」が商品特性や利点を効果的に示し、かつ一番生活者の目に触れる情報であるため、精読率が高く売上に影響を与えるという構図がある。商品を変えずにキャッチコピーのみを変えて売り上げを100倍にした冷凍うどんも広告において例があり、広告においてキャッチコピーの役割は大きいと言える。 | |
− | + | 一方で選挙においても同様に、選挙ポスターや立候補者のホームページにキャッチコピーが使われている。しかし、選挙においてのキャッチコピーの役割や有権者との関係は、該当する文献もなく、上記の広告の場合の様には明らかにされていない。 | |
− | == | + | ==研究の目的== |
本研究は、広告キャッチコピーの視点から既存の選挙におけるキャッチコピーの立ち位置や、有権者との関係性を明らかにし、選挙におけるキャッチコピーの役割や可能性について考察することを目的とする。 | 本研究は、広告キャッチコピーの視点から既存の選挙におけるキャッチコピーの立ち位置や、有権者との関係性を明らかにし、選挙におけるキャッチコピーの役割や可能性について考察することを目的とする。 | ||
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==研究の方法== | ==研究の方法== | ||
− | + | 広告と選挙の2つのフィールドを調査対象とし、文献調査とフィールド調査を主軸に研究を行う。 | |
− | + | ==調査== | |
− | + | ===キャッチコピーについて=== | |
− | == | + | キャッチコピーの構成要素として、小霜(2014)は「タグライン」と「キャッチフレーズ」、磯島(2014)は「考えを深める4つの扉」と「言葉に定着させる思考の深め方」の2つであるとした。定義されている言葉は違えど、言うべき内容を決める「何をいうか」と、どう表現するのかを考える「どういうか」の2つの視点を考えるというもので、2冊の言及している内容を比較し、構成要素を考察した。 |
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− | + | ==== 「何をいうか」について ==== | |
− | + | 小霜は、「競合優位性(USP)」と「ターゲット」の2つの要素が必要であると記している。商品の具体的な情報や競合商品との違いを知ること、そして一体誰が買ってくれる可能性があるかの視点から何をいうかを決めるというものである。 | |
− | + | 一方で磯島は「何をいうか」を考える際に、さまざまな角度から商品や企業を考察し、考える切り口を持つために「商品・企業」「ターゲット」「競合」「時代・社会」の4つの視点から何を言うかを考える必要があると述べている。 | |
− | + | 磯島の「商品・企業」「競合」「時代・社会」の3つの項目は、自社商品を競合製品や今の社会と比較することで表現すべき強みを探っている。ここが小霜の、『「特徴」と「USP」を混同せず、USPはあくまで「競合」に対しての優位性を言い、競合ありきでないと存在しない概念』といっていたことに当てはまる。つまり「何をいうか」とは、両者とも「比較」を用いて「自社商品の持つの性能」を「他社や社会から見た強み」に変換し、そこで出した強みを、ターゲットの気持ちにいかに理解してもらえるかを考えることである。 | |
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− | + | 小霜は共感されることを目的に、「その商品があることの喜びのMAX」と「その商品がないことの悲しさのMAX」を考えるという2つのやり方を記していた。磯島は「エピソードと普遍の往復」と「自分がこの言葉を通して何をしたいのかを考える」という2つの方法をあげていた。具体的に言えば「宣言」「提案」「描写」「挑発」に分けられる。磯島が「宣言するにふさわしいスケールがあるか」「提案するほどの具体性」「描写できるほど入り込めているか」「挑発できるほどの説得力」などの要件を考えて何をいうかを選定していたように、両者とも、「どういうか」の表現方法に唯一の正解があるわけではなく、表現方法を広く持って、そのときのテーマにふさわしい伝え方を検証することを大事にしていると考える。 | |
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+ | ===選挙について=== | ||
+ | 【研究対象選挙の定義】 | ||
+ | 本研究では①有権者の投票決定時期が選挙運動期間中である割合が高く、②かつ当選に必要な票数もある程度多い(戸別訪問で必要投票数をまかなえる規模の小さい選挙はポスター等の必要性が薄れるため)「県議会議員選挙」を研究対象の選挙とした。 | ||
+ | 田村(2010)によると、選挙コピーを作るための要素として、①自分らしさを知り他者評価を上げること②実現可能で自分にふさわしい政策公約になっているか、を必要な要素として述べていた。 | ||
+ | 選挙ポスターのデータの取得は困難であったため、同等の内容が掲載されている県議会議員選挙立候補者個人の選挙用HPに書かれているキャッチコピーを50人分集め、「何をいうか」「どういうか」や上記の田村の指標で分類考察を行った。 | ||
+ | ====選挙キャッチコピーの分析結果==== | ||
+ | 「どういうか」は「宣言」がほとんどであり、名前を覚えてもらうために自分の名前にかけて政策をいうものも多く見られた。「何をいうか」では「人柄」「政策」をいうものがほとんどであった。また「笑顔」「希望」「創る」等のフレーズが共通しているキャッチコピーが多かった。 | ||
+ | ==考察のまとめと今後の方針 == | ||
+ | 選挙キャッチコピーには共通したフレーズも多く、ほかの立候補者が使っていても違和感のないものが多かったことから、選挙キャッチコピーにはUSPがないものが多いのではないかと考える。これは、すでに市場が成り立っている中でUSPを探る広告コピーは、他との比較がしやすいのに対し、同時に市場に出る選挙においては「他と比べて自分はどうだ」と言いづらいのではないかと仮説を立てた。 | ||
+ | 今後は選挙コンサルと立候補者にインタビューを行い、既存の選挙キャッチコピーができるまでの過程を把握し、選挙キャッチコピーのデザインガイドライン作成の要件とする。また、有権者にアンケートを行い、既存の選挙キャッチコピーの認識について調査し、選挙キャッチコピーのあり方を構築する。 | ||
==参考文献・参考サイト== | ==参考文献・参考サイト== | ||
櫻井啓一郎(2009)『関係性理論によるキャッチコピーの分析』pp.65-73. | 櫻井啓一郎(2009)『関係性理論によるキャッチコピーの分析』pp.65-73. |
2020年8月5日 (水) 16:35時点における最新版
- 古川映 / 九州大学大学院芸術工学府
- Furukawa Akira / KYUSHU University
- 曽我部春香/ 九州大学大学院芸術工学研究院
- Sogabe Haruka / KYUSHU University
Keywords: Catchcopy,elections
- Abstract
- “Catch copy” plays a big role in advertising. On the other hand, “catch copy” is used in elections, but its purpose and effect have not been clarified yet. The purpose of this study is to understand the role of catchphrases in elections.
目次
研究の背景
会社が商品を生活者に届ける際に、「キャッチコピー」が商品特性や利点を効果的に示し、かつ一番生活者の目に触れる情報であるため、精読率が高く売上に影響を与えるという構図がある。商品を変えずにキャッチコピーのみを変えて売り上げを100倍にした冷凍うどんも広告において例があり、広告においてキャッチコピーの役割は大きいと言える。 一方で選挙においても同様に、選挙ポスターや立候補者のホームページにキャッチコピーが使われている。しかし、選挙においてのキャッチコピーの役割や有権者との関係は、該当する文献もなく、上記の広告の場合の様には明らかにされていない。
研究の目的
本研究は、広告キャッチコピーの視点から既存の選挙におけるキャッチコピーの立ち位置や、有権者との関係性を明らかにし、選挙におけるキャッチコピーの役割や可能性について考察することを目的とする。
研究の方法
広告と選挙の2つのフィールドを調査対象とし、文献調査とフィールド調査を主軸に研究を行う。
調査
キャッチコピーについて
キャッチコピーの構成要素として、小霜(2014)は「タグライン」と「キャッチフレーズ」、磯島(2014)は「考えを深める4つの扉」と「言葉に定着させる思考の深め方」の2つであるとした。定義されている言葉は違えど、言うべき内容を決める「何をいうか」と、どう表現するのかを考える「どういうか」の2つの視点を考えるというもので、2冊の言及している内容を比較し、構成要素を考察した。
「何をいうか」について
小霜は、「競合優位性(USP)」と「ターゲット」の2つの要素が必要であると記している。商品の具体的な情報や競合商品との違いを知ること、そして一体誰が買ってくれる可能性があるかの視点から何をいうかを決めるというものである。 一方で磯島は「何をいうか」を考える際に、さまざまな角度から商品や企業を考察し、考える切り口を持つために「商品・企業」「ターゲット」「競合」「時代・社会」の4つの視点から何を言うかを考える必要があると述べている。 磯島の「商品・企業」「競合」「時代・社会」の3つの項目は、自社商品を競合製品や今の社会と比較することで表現すべき強みを探っている。ここが小霜の、『「特徴」と「USP」を混同せず、USPはあくまで「競合」に対しての優位性を言い、競合ありきでないと存在しない概念』といっていたことに当てはまる。つまり「何をいうか」とは、両者とも「比較」を用いて「自社商品の持つの性能」を「他社や社会から見た強み」に変換し、そこで出した強みを、ターゲットの気持ちにいかに理解してもらえるかを考えることである。
「どういうか」について
小霜は共感されることを目的に、「その商品があることの喜びのMAX」と「その商品がないことの悲しさのMAX」を考えるという2つのやり方を記していた。磯島は「エピソードと普遍の往復」と「自分がこの言葉を通して何をしたいのかを考える」という2つの方法をあげていた。具体的に言えば「宣言」「提案」「描写」「挑発」に分けられる。磯島が「宣言するにふさわしいスケールがあるか」「提案するほどの具体性」「描写できるほど入り込めているか」「挑発できるほどの説得力」などの要件を考えて何をいうかを選定していたように、両者とも、「どういうか」の表現方法に唯一の正解があるわけではなく、表現方法を広く持って、そのときのテーマにふさわしい伝え方を検証することを大事にしていると考える。
選挙について
【研究対象選挙の定義】 本研究では①有権者の投票決定時期が選挙運動期間中である割合が高く、②かつ当選に必要な票数もある程度多い(戸別訪問で必要投票数をまかなえる規模の小さい選挙はポスター等の必要性が薄れるため)「県議会議員選挙」を研究対象の選挙とした。 田村(2010)によると、選挙コピーを作るための要素として、①自分らしさを知り他者評価を上げること②実現可能で自分にふさわしい政策公約になっているか、を必要な要素として述べていた。 選挙ポスターのデータの取得は困難であったため、同等の内容が掲載されている県議会議員選挙立候補者個人の選挙用HPに書かれているキャッチコピーを50人分集め、「何をいうか」「どういうか」や上記の田村の指標で分類考察を行った。
選挙キャッチコピーの分析結果
「どういうか」は「宣言」がほとんどであり、名前を覚えてもらうために自分の名前にかけて政策をいうものも多く見られた。「何をいうか」では「人柄」「政策」をいうものがほとんどであった。また「笑顔」「希望」「創る」等のフレーズが共通しているキャッチコピーが多かった。
考察のまとめと今後の方針
選挙キャッチコピーには共通したフレーズも多く、ほかの立候補者が使っていても違和感のないものが多かったことから、選挙キャッチコピーにはUSPがないものが多いのではないかと考える。これは、すでに市場が成り立っている中でUSPを探る広告コピーは、他との比較がしやすいのに対し、同時に市場に出る選挙においては「他と比べて自分はどうだ」と言いづらいのではないかと仮説を立てた。 今後は選挙コンサルと立候補者にインタビューを行い、既存の選挙キャッチコピーができるまでの過程を把握し、選挙キャッチコピーのデザインガイドライン作成の要件とする。また、有権者にアンケートを行い、既存の選挙キャッチコピーの認識について調査し、選挙キャッチコピーのあり方を構築する。
参考文献・参考サイト
櫻井啓一郎(2009)『関係性理論によるキャッチコピーの分析』pp.65-73. 小霜和也(2014)『ここらで広告コピーの本当の話をします』宣伝会議. 磯島拓也(2014)『言葉の技術』電通. 選挙運動を知ろう!知っテル!?選挙|京都市選挙管理委員会事務局(最終閲覧日:2019年7月11日)http://www2.city.kyoto.lg.jp/senkyo/shitteru_senkyo/undou/ 総務省(2016)『第18回 統一地方選挙全国意識調査』pp39-43. 田村亮(2010)『28歳で政治家になる方法』経済界pp102-118 三浦博史(2012)『あなたも今日から選挙の達人』李白社pp46-62