「女性が男性キャラクターに感じるかわいさに関する研究」の版間の差分
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+ | ==背景== | ||
+ | 女性向けの男性キャラクターを扱った漫画やアニメ、スマートフォンゲームなどの作品は、様々な発展を見せている。原作からメディアを横断して、アニメ化や舞台化が行われるといった動きも活発であり、注目を浴びている分野である。女性のこういった作品の楽しみ方は非常に多様である。山岡が示す「非BL作品の登場人物の友情関係やライバル関係を同性愛関係に読み替えて、BL作品として享受してしまう」<ref>山岡重行,2016,「腐女子の心理学」,福村出版,p.166</ref>女性である腐女子など、独特な文化が発達しており、彼女らがキャラクターに感じるかわいさは一般的なかわいさと異なる場合がある。<br /> | ||
+ | 多様な「かわいい」が存在している中で、女性が男性キャラクターが持つかわいさに対してどのような価値観を持っているのか、本研究では具体例とともに明らかにしたい。 | ||
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− | + | ==目的== | |
+ | 本研究は、女性が男性キャラクターのどこにかわいさを見出しているのか、その原因をインクルーシブデザインの視点から調査分析し、多岐にわたる「かわいい」の言語化を行うことを目的とする。 | ||
==研究の方法== | ==研究の方法== | ||
− | + | 文献調査として、「かわいい」の定義、かわいさに関する既往研究、腐女子に関する既往研究、女性による作品の再解釈ついて調査を行う。また、フィールド調査として、「かわいい」と感じる男性キャラクターに関するアンケート調査、アンケート結果を用いてかわいいと感じた理由の分析と文献調査をもとに設定した仮説の検証を目的としたデプスインタビューを行う。文献調査、フィールド調査の結果をもとに「かわいい」の原因となるキャラクターやストーリー、関係性の要素を抽出し、多様な「かわいい」の言語化とその検証を行う。 | |
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+ | ==文献調査== | ||
+ | かわいいに関する研究は数多くなされているが、男性に対して抱くかわいさについて研究されているものは少ない。石川(2015)は男性の俳優や配偶者に対し「かわいい」が用いられることについて「男性の言動にも保護欲が及ぶものと考えられ、どちらに関してもいわゆる『母性本能』が起因しているとみられる」<ref>石川なつ美,2015,「『かわいい』の意味について」東京女子大学言語文化研究(Study in Language and Culture)24,p.28</ref>と述べたが、詳しい原因について追求をしていない。<br /> | ||
+ | また、かわいさに関する多くの研究はベビースキーマに基づき行われている。しかし、前述した石川が指摘したように女性が「男性の言動」にかわいさを見出しているとすれば、主に見た目の特徴であるベビースキーマを基準にするだけでは、男性キャラクターのかわいさを説明することは難しい。また入戸野は「日本の“かわいい”は関係性の中で理解するのが適しているのかもしれない」<ref>入戸野宏,2009,「"かわいい"に対する行動科学的アプローチ」,広島大学大学院総合科学研究科紀要. I, 人間科学研究,4巻,p.31</ref>と述べており、かわいさは見た目だけでなくキャラクター同士やキャラクターと女性自信の関係から論考するべきである。<br /> | ||
+ | 石川は『「かわいい」という形容詞が含む意味は使用者固有の美学や価値観に依存する部分もあり、その全貌を明らかにすることは困難である』<ref>石川なつ美,2015,「『かわいい』の意味について」東京女子大学言語文化研究(Study in Language and Culture)24,p.21</ref>と述べたが、多くの研究が大衆を対象としたアンケート調査を行うなど、個人の価値観に着目した研究はほとんどみられない。男性キャラクターを好む女性の中には腐女子など特徴的な文化を持ったユーザが一定層存在し、キャラクターに対する価値観が大衆と異なる可能性を考えると、個人に着目した調査をすることは必須である。以上のことから、男性キャラクターの見た目だけでなくストーリーや関係性を含めたかわいさの原因を探り、大衆へのアンケート調査とともに個人に対するデプスインタビューによる調査分析を行う必要がある。<br /> | ||
− | == | + | ==フィールド調査== |
− | + | ===アンケート調査=== | |
− | + | 21〜26歳の女性(大学生、社会人)40名に対し4つの設問のアンケートを依頼し、31の回答を得た。アンケートはweb上で行った。設問は<br /> | |
− | + | ・男性キャラクターに対し「かわいい」と感じたことがあるか(いいえと回答した場合、2つ目以降の設問は行わない)<br /> | |
− | + | ・かわいいと感じたキャラクター名<br /> | |
+ | ・かわいいと感じた原因<br /> | ||
+ | ・かわいいと感じた具体的要素<br /> | ||
+ | の4項目である。 | ||
+ | アンケートの結果、男性キャラクターに対し「かわいい」と感じたことのある女性は全体の約90%にあたる28名であった。また、かわいいと感じた男性キャラクター26人が得られ、キャラクターの設定をまとめたキャラクターシートの作成を行った。 | ||
+ | ===デプスインタビュー=== | ||
+ | アンケート調査と文献調査より得られた仮説から作成したキャラクターシートとインタビューフローを用いて、24〜27歳の女性6名に対し1人当たり平均1時間のデプスインタビューを行った。インタビューを通じ、かわいいと感じる男性キャラクターの設定、ストーリー、キャラクター同士の関係性などのかわいさの原因の抽出を行った。<br /> | ||
+ | 抽出した原因を分類し、インタビューを行った女性からフィードバックをもらい、分類の検証を行った。 | ||
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==考察== | ==考察== | ||
− | + | アンケート調査、デプスインタビューの結果、女性が男性キャラクターに感じるかわいさは、「見た目のかわいさ」と「行動のかわいさ」の大きく2種に分類され、行動のかわいさは、女性自身とキャラクターとの関係性により3種に分けられることを示した。さらに、それらの下位要素として「成長」「無邪気」「反抗」「弱さ」「人間らしさ」「真面目」「女性らしさ」があることを示した。 | |
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+ | ==結論== | ||
+ | デプスインタビューを通じて得られた「かわいい」と感じる男性キャラクターから、それぞれのかわいさの分類を行った。見た目だけでなく、キャラクターのどのような行動に対しかわいい価値観を抱くのか示すことができた。<br /> | ||
+ | 今後の展望として、男性キャラクターのより詳細な分類を行うとともに、かわいい男性キャラクターのデザイン要件を示す必要がある。 | ||
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==脚注== | ==脚注== | ||
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2020年8月5日 (水) 16:34時点における最新版
- 眞田龍志 / 九州大学大学院芸術工学府
- SANADA Ryushi/ Graduate School of Design, Kyushu University
- 平井康之 / 九州大学大学院芸術工学研究院
- HIRAI Yasuyuki/ Faculty of Design, Kyushu University
Keywords: Cuteness,Character Design,Inclusive Design
- Abstract
- I researched where women find cuteness in male characters. Through questionnaire surveys and depth interviews, we extracted the causes of the cuteness of behaviors of male characters. By classifying the causes of cuteness obtained from the survey, I was able to show what kind of behavior a male character has with cute values.
背景
女性向けの男性キャラクターを扱った漫画やアニメ、スマートフォンゲームなどの作品は、様々な発展を見せている。原作からメディアを横断して、アニメ化や舞台化が行われるといった動きも活発であり、注目を浴びている分野である。女性のこういった作品の楽しみ方は非常に多様である。山岡が示す「非BL作品の登場人物の友情関係やライバル関係を同性愛関係に読み替えて、BL作品として享受してしまう」[1]女性である腐女子など、独特な文化が発達しており、彼女らがキャラクターに感じるかわいさは一般的なかわいさと異なる場合がある。
多様な「かわいい」が存在している中で、女性が男性キャラクターが持つかわいさに対してどのような価値観を持っているのか、本研究では具体例とともに明らかにしたい。
目的
本研究は、女性が男性キャラクターのどこにかわいさを見出しているのか、その原因をインクルーシブデザインの視点から調査分析し、多岐にわたる「かわいい」の言語化を行うことを目的とする。
研究の方法
文献調査として、「かわいい」の定義、かわいさに関する既往研究、腐女子に関する既往研究、女性による作品の再解釈ついて調査を行う。また、フィールド調査として、「かわいい」と感じる男性キャラクターに関するアンケート調査、アンケート結果を用いてかわいいと感じた理由の分析と文献調査をもとに設定した仮説の検証を目的としたデプスインタビューを行う。文献調査、フィールド調査の結果をもとに「かわいい」の原因となるキャラクターやストーリー、関係性の要素を抽出し、多様な「かわいい」の言語化とその検証を行う。
文献調査
かわいいに関する研究は数多くなされているが、男性に対して抱くかわいさについて研究されているものは少ない。石川(2015)は男性の俳優や配偶者に対し「かわいい」が用いられることについて「男性の言動にも保護欲が及ぶものと考えられ、どちらに関してもいわゆる『母性本能』が起因しているとみられる」[2]と述べたが、詳しい原因について追求をしていない。
また、かわいさに関する多くの研究はベビースキーマに基づき行われている。しかし、前述した石川が指摘したように女性が「男性の言動」にかわいさを見出しているとすれば、主に見た目の特徴であるベビースキーマを基準にするだけでは、男性キャラクターのかわいさを説明することは難しい。また入戸野は「日本の“かわいい”は関係性の中で理解するのが適しているのかもしれない」[3]と述べており、かわいさは見た目だけでなくキャラクター同士やキャラクターと女性自信の関係から論考するべきである。
石川は『「かわいい」という形容詞が含む意味は使用者固有の美学や価値観に依存する部分もあり、その全貌を明らかにすることは困難である』[4]と述べたが、多くの研究が大衆を対象としたアンケート調査を行うなど、個人の価値観に着目した研究はほとんどみられない。男性キャラクターを好む女性の中には腐女子など特徴的な文化を持ったユーザが一定層存在し、キャラクターに対する価値観が大衆と異なる可能性を考えると、個人に着目した調査をすることは必須である。以上のことから、男性キャラクターの見た目だけでなくストーリーや関係性を含めたかわいさの原因を探り、大衆へのアンケート調査とともに個人に対するデプスインタビューによる調査分析を行う必要がある。
フィールド調査
アンケート調査
21〜26歳の女性(大学生、社会人)40名に対し4つの設問のアンケートを依頼し、31の回答を得た。アンケートはweb上で行った。設問は
・男性キャラクターに対し「かわいい」と感じたことがあるか(いいえと回答した場合、2つ目以降の設問は行わない)
・かわいいと感じたキャラクター名
・かわいいと感じた原因
・かわいいと感じた具体的要素
の4項目である。
アンケートの結果、男性キャラクターに対し「かわいい」と感じたことのある女性は全体の約90%にあたる28名であった。また、かわいいと感じた男性キャラクター26人が得られ、キャラクターの設定をまとめたキャラクターシートの作成を行った。
デプスインタビュー
アンケート調査と文献調査より得られた仮説から作成したキャラクターシートとインタビューフローを用いて、24〜27歳の女性6名に対し1人当たり平均1時間のデプスインタビューを行った。インタビューを通じ、かわいいと感じる男性キャラクターの設定、ストーリー、キャラクター同士の関係性などのかわいさの原因の抽出を行った。
抽出した原因を分類し、インタビューを行った女性からフィードバックをもらい、分類の検証を行った。
考察
アンケート調査、デプスインタビューの結果、女性が男性キャラクターに感じるかわいさは、「見た目のかわいさ」と「行動のかわいさ」の大きく2種に分類され、行動のかわいさは、女性自身とキャラクターとの関係性により3種に分けられることを示した。さらに、それらの下位要素として「成長」「無邪気」「反抗」「弱さ」「人間らしさ」「真面目」「女性らしさ」があることを示した。
結論
デプスインタビューを通じて得られた「かわいい」と感じる男性キャラクターから、それぞれのかわいさの分類を行った。見た目だけでなく、キャラクターのどのような行動に対しかわいい価値観を抱くのか示すことができた。
今後の展望として、男性キャラクターのより詳細な分類を行うとともに、かわいい男性キャラクターのデザイン要件を示す必要がある。
脚注