「ネット時代における中高生の居場所の在り方に関する一考察」の版間の差分
32行目: | 32行目: | ||
ヒトは種の誕生当初からコミュニティを作って生きてきた。コミュニティは、何らかの情報あるいは意味の体系や秩序といった世界観を共有する機能がある。本研究のコミュニティの定義もこれに習い、「コミュニケーションによって情報や世界観を共有する集団が集う場」とする。<br> | ヒトは種の誕生当初からコミュニティを作って生きてきた。コミュニティは、何らかの情報あるいは意味の体系や秩序といった世界観を共有する機能がある。本研究のコミュニティの定義もこれに習い、「コミュニケーションによって情報や世界観を共有する集団が集う場」とする。<br> | ||
さらに、ここでの「場」の定義は、クルド・レヴィンの「場の理論」より、人と人との関係性の間で相互作用し変化していく生活空間であるとする。 | さらに、ここでの「場」の定義は、クルド・レヴィンの「場の理論」より、人と人との関係性の間で相互作用し変化していく生活空間であるとする。 | ||
+ | |||
+ | ====・居場所とは何か==== | ||
+ | 居場所も意味の幅が広い言葉であるが、本研究における居場所の定義は杉本・庄司(2006)が唱える下記の「居場所」の心理的機能の6因子のいずれかに当てはまるコミュニティとする。 | ||
+ | |||
+ | ※「居場所」の心理的機能の6因子(「居場所」因子) | ||
+ | ①被受容感 ②精神的安定感 ③行動の自由 | ||
+ | ④思考・内省 ⑤自己肯定感 ⑥他者からの自由<br> | ||
+ | 他者と関わらない居場所もあるが、今回は複数人存在する場を対象とする。 | ||
+ | |||
====・現実空間とネット空間==== | ====・現実空間とネット空間==== | ||
− | [背景] | + | [背景]では、現代の人々の関わり合い方の変容の要因として、電子メディアの発達をあげた。これによって現実空間とは別にインターネット空間(以下ネット空間)という新しい空間概念が生まれた。 |
− | + | ネット空間の特性は数多あれど、特に多くの文献で挙げられるものは「匿名性」である。この「匿名性」がなぜ生まれるのかは、ネット空間がパソコンやスマートフォン等の「道具」を介して他者と出会う場所であるからだと考えられる。この「道具」を介するか否かがコミュニケーションのあり方を大きく変えた。 | |
− | + | 元来現実空間で行われていたコミュニケーションは「道具」を介さない対面のものであった。対面場面において他者が何を感じているかを理解するには言語のみからではなく非言語のコミュニケーションの読み取りも重要である。人類の歴史の大半は現実空間のコミュニティのみが存在していた。その長い歴史の中で培ったコミュニケーション方法は大部分を非言語コミュニケーション、つまり視覚からの情報に頼っており、視覚によって他者への信頼感を得ていた。その点で、文字に頼りがちで視覚情報の乏しいネットコミュニティ上では信頼関係を築く上で特別注意しなければならない。 | |
− | + | 以上述べたようにネット空間特有の性質があり、現実空間との違いが見られるが、その空間の違いが「コミュニティ」や「居場所」という言葉の概念に影響を及ぼすのか。これを検討する為に空間に関する論文に根拠を求めたが、空間を定義づけている論文はインターネット誕生以前のものに限られ、検討することができなかった。そこで今回はアンケート調査によって人が現実空間とネット空間のコミュニティについて問い、現代人がそれぞれの空間のコミュニティや居場所を差別化して捉えているのかを確かめることとした。 | |
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
===○アイデンティティについて=== | ===○アイデンティティについて=== | ||
− | ==== | + | ====・アイデンティティとは何か(定義)==== |
本研究でのアイデンティティの定義を小沢(2002)にならい、「自分が自分であること」とする。前者の「自分」は主観としての自分、後者の「自分」はこの時代のこの社会にこうして生きている人間としての自分である。後者の「自分」は生涯を通してコミュニティあるいはそこに所属する他者によって左右される。特に青年期は、社会の中で自分の居場所を探すことで、児童期までに親および教師からの影響を受けて出来ていた価値観を問い直しつつ自分のアイデンティティを確立していく時期にあたる。よってこの時期は親や教師以外との友人関係が重要であると言われている。 | 本研究でのアイデンティティの定義を小沢(2002)にならい、「自分が自分であること」とする。前者の「自分」は主観としての自分、後者の「自分」はこの時代のこの社会にこうして生きている人間としての自分である。後者の「自分」は生涯を通してコミュニティあるいはそこに所属する他者によって左右される。特に青年期は、社会の中で自分の居場所を探すことで、児童期までに親および教師からの影響を受けて出来ていた価値観を問い直しつつ自分のアイデンティティを確立していく時期にあたる。よってこの時期は親や教師以外との友人関係が重要であると言われている。 | ||
====・アイデンティティ形成における現代の障壁==== | ====・アイデンティティ形成における現代の障壁==== | ||
53行目: | 57行目: | ||
==研究の方法== | ==研究の方法== | ||
− | + | 青年期の子ども達のアイデンティティの確立度合いや居場所の現状を把握する為に、アンケート調査を行う。 | |
− | + | 対象:大学1年生 | |
− | + | 本研究としてはコミュニティが固定化しやすい中学生〜高校生の居場所に対して現状を改善する為の考察を行いたいが、現役の中高生はまだアイデンティティ確立が未完の状態であると考えられる。大学1年生は青年期の後半期で、将来の進路について悩んだ経験もあると考えられ、尚且つ中学・高校時代の記憶も比較的新しいものであると思われるので、今回の調査対象とした。 | |
+ | 調査目的:現時点で健全なアイデンティティは形成出来ているのか、これまで所属していたコミュニティはどのようなものであったか。その中で居場所と呼べるようなコミュニティはあったのかということを知る。それと合わせて現代の若者が現実空間とネット空間のコミュニティや居場所を空間の違いによって違う意味で捉えているのかどうかも調査する。 | ||
{{clear}} | {{clear}} | ||
78行目: | 83行目: | ||
*内閣府(2017),「若者にとっての人とのつながり」, | *内閣府(2017),「若者にとっての人とのつながり」, | ||
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h29honpen/s0_0.html ,2019年7月13日閲覧 | https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h29honpen/s0_0.html ,2019年7月13日閲覧 | ||
− | *近藤淳也 監修(2015), | + | *近藤淳也 監修(2015),「ネットコミュニティの設計と力 つながる私たちの時代」 |
*河井亨 京都大学(2013),「E.H.Eriksonのアイデンティティ理論と社会理論についての考察」,https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/173218/1/eda59_639.pdf ,2019年10月20日閲覧 | *河井亨 京都大学(2013),「E.H.Eriksonのアイデンティティ理論と社会理論についての考察」,https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/173218/1/eda59_639.pdf ,2019年10月20日閲覧 | ||
*ラファエル・A・カルヴォ/ドリアン・ピーターズ (2017),「ウェルビーイングの設計論 人がよりよく生きるための情報技術」 | *ラファエル・A・カルヴォ/ドリアン・ピーターズ (2017),「ウェルビーイングの設計論 人がよりよく生きるための情報技術」 | ||
+ | *遠藤薫 編著(2008),「ネットメディアと<コミュニティ>形成」 | ||
*猪股佐登留(1956),「クルト・レヴィン 社会科学における場の理論」 | *猪股佐登留(1956),「クルト・レヴィン 社会科学における場の理論」 | ||
− | * | + | *山内裕平研究室(2011)「【気になる研究者】クルト・レヴィン」, https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2011/09/post-328.html ,2019年7月14日閲覧 |
+ | *杉本希映/庄司一子(2006),「「居場所」の心理的機能の構造とその発達的変化」 | ||
*丸田一(2008),「「場所」論 ウェブのリアリズム、地域のロマンチシズム」 | *丸田一(2008),「「場所」論 ウェブのリアリズム、地域のロマンチシズム」 | ||
*藤代祐之 編著(2015),「ソーシャルメディア論 つながりを再設計する」 | *藤代祐之 編著(2015),「ソーシャルメディア論 つながりを再設計する」 | ||
− | |||
− | |||
− | |||
*小沢一仁 東京工芸大学 (2002),「居場所とアイデンティティを現象学的アプローチによって捉える試み」 | *小沢一仁 東京工芸大学 (2002),「居場所とアイデンティティを現象学的アプローチによって捉える試み」 | ||
*浅野智彦(2011),「若者の気分 趣味縁からはじまる社会参加」 | *浅野智彦(2011),「若者の気分 趣味縁からはじまる社会参加」 |
2019年11月6日 (水) 13:58時点における版
- サブタイトルがある場合はここに記載 -
- 河野澄香 / 九州大学大学院芸術工学府デザインストラテジー専攻
- Kawano Sumika / Kyushu University ← 氏名 / 所属 の英語表記
- Keywords:居場所、コミュニティ、ウェルビーイング、アイデンティティ
- Abstract
目次
[背景]
ハーバード大学の成人発達研究によると、人の幸せは人間関係が良好かどうかに密接に関わっている。
一方で近代以降人々の関わり合い方は大きく変化した。その要因は二つあり、一つは、近代化に伴う個人化の進行である。個人化により個人は社会的な集団の束縛から解放されると共に、存在的安心感を無条件に享受することができなくなった。もう一つは、電子メディアの発達により時間・空間によらないコミュニケーションができるようになった事である。2017年の内閣府調査によると、若者の6割以上がインターネット空間(以下ネット空間)が自分の居場所だと回答している。昨今の情報技術の発展を顧みても、今後ともにネット空間は関係性構築の重要な役割を担うことは自明である。
ところで、人間関係はどのように構築されるのか。
ヒトは種の誕生当初からコミュニティに所属することでコミュニケーションをとり関係性を構築してきた。所属するコミュニティ内で他者との関係における自分の役割を認識しまっとうすることで、コミュニティを自分らしく居られる「居場所」としてきた。自分の役割を認識するにはまず自分を知ること、即ちアイデンティティを確立する必要がある。ところで、社会との間においてアイデンティティを確立するのは青年期だ。
よって、良好な人間関係を構築していくには、青年期にアイデンティティを形成することと、コミュニティ内に自分の役割を見つけること、すなわちコミュニティを自分の「居場所」としていくことが重要である。
[目的]
以上背景より、情報技術のさらなる発展が予想されるネット時代の環境を想定して青年期の子ども達が健全なアイデンティティを確立し、人々の良好な関係性を築いて居場所を見出し、幸福な人生を歩んでいく為には、どのようなコミュニティが必要となるのかを考察し予測する。
[本研究の位置付け]
○本研究における幸福(ウェルビーイング)について
本研究は居場所を通じて人が幸福になることを大きなテーマとしている。そこで、本研究における幸福(ウェルビーイング)とは何かについて述べる。
ウェルビーイングの意味は幅広く、アプローチの仕方によって意味が変わってくるが、本研究ではエウダイモニア(持続的幸福)的アプローチをとる。つまり、人にとっての幸福は、人生に意義を見出し、自分の潜在能力を最大限に発揮できる状態であるとする。
○コミュニティについて
・コミュニティの役割(定義)
ヒトは種の誕生当初からコミュニティを作って生きてきた。コミュニティは、何らかの情報あるいは意味の体系や秩序といった世界観を共有する機能がある。本研究のコミュニティの定義もこれに習い、「コミュニケーションによって情報や世界観を共有する集団が集う場」とする。
さらに、ここでの「場」の定義は、クルド・レヴィンの「場の理論」より、人と人との関係性の間で相互作用し変化していく生活空間であるとする。
・居場所とは何か
居場所も意味の幅が広い言葉であるが、本研究における居場所の定義は杉本・庄司(2006)が唱える下記の「居場所」の心理的機能の6因子のいずれかに当てはまるコミュニティとする。
※「居場所」の心理的機能の6因子(「居場所」因子)
①被受容感 ②精神的安定感 ③行動の自由
④思考・内省 ⑤自己肯定感 ⑥他者からの自由
他者と関わらない居場所もあるが、今回は複数人存在する場を対象とする。
・現実空間とネット空間
[背景]では、現代の人々の関わり合い方の変容の要因として、電子メディアの発達をあげた。これによって現実空間とは別にインターネット空間(以下ネット空間)という新しい空間概念が生まれた。
ネット空間の特性は数多あれど、特に多くの文献で挙げられるものは「匿名性」である。この「匿名性」がなぜ生まれるのかは、ネット空間がパソコンやスマートフォン等の「道具」を介して他者と出会う場所であるからだと考えられる。この「道具」を介するか否かがコミュニケーションのあり方を大きく変えた。 元来現実空間で行われていたコミュニケーションは「道具」を介さない対面のものであった。対面場面において他者が何を感じているかを理解するには言語のみからではなく非言語のコミュニケーションの読み取りも重要である。人類の歴史の大半は現実空間のコミュニティのみが存在していた。その長い歴史の中で培ったコミュニケーション方法は大部分を非言語コミュニケーション、つまり視覚からの情報に頼っており、視覚によって他者への信頼感を得ていた。その点で、文字に頼りがちで視覚情報の乏しいネットコミュニティ上では信頼関係を築く上で特別注意しなければならない。 以上述べたようにネット空間特有の性質があり、現実空間との違いが見られるが、その空間の違いが「コミュニティ」や「居場所」という言葉の概念に影響を及ぼすのか。これを検討する為に空間に関する論文に根拠を求めたが、空間を定義づけている論文はインターネット誕生以前のものに限られ、検討することができなかった。そこで今回はアンケート調査によって人が現実空間とネット空間のコミュニティについて問い、現代人がそれぞれの空間のコミュニティや居場所を差別化して捉えているのかを確かめることとした。
○アイデンティティについて
・アイデンティティとは何か(定義)
本研究でのアイデンティティの定義を小沢(2002)にならい、「自分が自分であること」とする。前者の「自分」は主観としての自分、後者の「自分」はこの時代のこの社会にこうして生きている人間としての自分である。後者の「自分」は生涯を通してコミュニティあるいはそこに所属する他者によって左右される。特に青年期は、社会の中で自分の居場所を探すことで、児童期までに親および教師からの影響を受けて出来ていた価値観を問い直しつつ自分のアイデンティティを確立していく時期にあたる。よってこの時期は親や教師以外との友人関係が重要であると言われている。
・アイデンティティ形成における現代の障壁
現代の青年期の子ども達のアイデンティティ形成における危機を知るべく、まずは若者の置かれている状況を把握する。 内閣府による青少年の調査よると、「学校に通う意義・評価」の項目で「友達との友情を育む」ことに意義があると回答した若者は70.5%であり、ここ20年で10%近く増加した。… 友人関係の濃密化故に独特の傷つきやすさ、ウェブ的自己、関係性優先志向
研究の方法
青年期の子ども達のアイデンティティの確立度合いや居場所の現状を把握する為に、アンケート調査を行う。 対象:大学1年生 本研究としてはコミュニティが固定化しやすい中学生〜高校生の居場所に対して現状を改善する為の考察を行いたいが、現役の中高生はまだアイデンティティ確立が未完の状態であると考えられる。大学1年生は青年期の後半期で、将来の進路について悩んだ経験もあると考えられ、尚且つ中学・高校時代の記憶も比較的新しいものであると思われるので、今回の調査対象とした。 調査目的:現時点で健全なアイデンティティは形成出来ているのか、これまで所属していたコミュニティはどのようなものであったか。その中で居場所と呼べるようなコミュニティはあったのかということを知る。それと合わせて現代の若者が現実空間とネット空間のコミュニティや居場所を空間の違いによって違う意味で捉えているのかどうかも調査する。
結果
考察
まとめ
脚注
参考文献・参考サイト
- TED Talk(2015),「人生を幸福にするのは何?最も長期に渡る幸福の研究から」, https://www.ted.com/talks/robert_waldinger_what_makes_a_good_life_lessons_from_the_longest_study_on_happiness?language=ja ,2019年7月14日閲覧
- 長田攻一/田所承己 編(2014),「つながる/つながらないの社会学 個人化する時代のコミュニティのかたち」
- 内閣府(2017),「若者にとっての人とのつながり」,
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h29honpen/s0_0.html ,2019年7月13日閲覧
- 近藤淳也 監修(2015),「ネットコミュニティの設計と力 つながる私たちの時代」
- 河井亨 京都大学(2013),「E.H.Eriksonのアイデンティティ理論と社会理論についての考察」,https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/173218/1/eda59_639.pdf ,2019年10月20日閲覧
- ラファエル・A・カルヴォ/ドリアン・ピーターズ (2017),「ウェルビーイングの設計論 人がよりよく生きるための情報技術」
- 遠藤薫 編著(2008),「ネットメディアと<コミュニティ>形成」
- 猪股佐登留(1956),「クルト・レヴィン 社会科学における場の理論」
- 山内裕平研究室(2011)「【気になる研究者】クルト・レヴィン」, https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2011/09/post-328.html ,2019年7月14日閲覧
- 杉本希映/庄司一子(2006),「「居場所」の心理的機能の構造とその発達的変化」
- 丸田一(2008),「「場所」論 ウェブのリアリズム、地域のロマンチシズム」
- 藤代祐之 編著(2015),「ソーシャルメディア論 つながりを再設計する」
- 小沢一仁 東京工芸大学 (2002),「居場所とアイデンティティを現象学的アプローチによって捉える試み」
- 浅野智彦(2011),「若者の気分 趣味縁からはじまる社会参加」