「カンボジアのプノンペンにおける美術教育に関する研究」の版間の差分

提供: JSSD5th2019
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- 「色彩」をテーマとした美術教材にかかる要件の抽出 -
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- ソムブール小学校で行った授業をケーススタディとして -
  
  
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==目的と背景==
 
==目的と背景==
 一昨年前から「失われたクメール美術復活プロジェクト」に関わり、今年コンポンスプー州で大規模な美術の授業を実施した。古来から色は美術のみならず、染色技術やイデオロギーとしても現れ機能してきた。そうした色に対する精神性は17世紀の科学革命とともに、18世紀の植民地主義によってカンボジアを含む東南アジアに大きな影響を及ぼした。しかし色は光という物理現象であるとともに、人が作り出した文化でもある。特に発展途上国と言われる国において、その国の固有性を明らかにすることは、歴史、民族、精神性を守り、伝えていく上で重要である。本研究では、今後プロジェクトの中で美術教材として色を取り上げる上で必要な要件を抽出することを目的とする。
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 一昨年前から「失われたクメール美術復活プロジェクト」に関わり、今年コンポンスプー州にあるソムブール小学校で大規模な美術の授業を実施した。協力して頂いた山田アートスクールは、カンボジアで70年代後半に起こった内戦以来、公立小学校では美術の授業を実施していないという背景を受けて2011年に首都プノンペンに日本人の画家が開校した美術学校である。本研究では、カンボジアの初等教育における美術の現状を明らかにし、今後のカンボジアにおける美術のあり方を考察することを目的とする。
  
  
 
==研究の方法==
 
==研究の方法==
 研究の方法は大きく2つに分かれる。文献調査では、アンコール王朝時代、フランス植民地時代、ポルポト政権時代、そして現代においてカンボジアで色がどのような意味を持ち、表現されてきたかを多文化との比較を通して分析する。小学生が描いた絵の画像分析では、色の使われ方を色分析が可能なウェブサービスを用いて分析する。これらの結果から科学的普遍性があると考えられる情報と、カンボジアの固有性と考えられる情報に大別する。その後、筆者が実際にカンボジアで撮影した写真や、インタビュー結果と照らし合わせることで、カンボジアにおける色を考察する。
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 研究の方法として、2019年8月13日にソムブール小学校において美術の授業をケーススタディとして行った。また、この授業に協力していただいた現地の美術学校「山田アートスクール」に対して、同年8月31日と9月1日にフィールド調査を行った。
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==文献調査==
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==ケーススタディ==
  色彩という観点から国旗の変遷を辿ると、アンコール王朝時代にできたと考えられるペナント型の旗は、縁が緑で中央が広く黄色に塗られている。しかしその後フランス植民地時代には現代のカンボジアの国旗の原型となる赤と青の色彩の上にアンコール・ワットが描かれるようになった。西欧はキリストの誕生とともに成立し、そこに黃色に対する価値観の根源がある。イエス・キリストはキリスト教の始祖であるとされる人物だが、弟子の一人である「イスカリオテのユダ」がを裏切ったことで磔刑に処される。この際、ユダが着ていた衣の色が黄色であった。以来、ヨーロッパの広い地域で黃色に対する嫌悪感が現れている。一方東洋における黄色は、中国では皇帝の色として、インドでは仏教僧の袈裟の色であり、最も尊ばれた色である。
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  この授業で描いたのは「私の思い描くアンコール・ワット」であり、朝礼でアンコール・ワットを見たことがある人という校長先生の質問に対して手を挙げた生徒は半数以下であった。使った画材は1,2年生にはクレヨンと赤色、青色、緑色、黃色、紫色、橙色、水色、ピンク色の水彩絵具で、混色不可とした。3年生以上は色鉛筆と同じ8色の水彩絵具で混色可とした。筆者は2年生を担当し、各学年日本人講師2名、山田アートスクールのカンボジア人講師1名がファシリテーションを行った。朝礼の後、各学年教室に分かれ、6名1グループほどで机を固め画材を用意した。説明のあとクレヨンや色鉛筆を用いて下書きをし、その後講師が絵の具を使って色を付けるよう促した。所要時間は全部で4時間で、途中で各学年適宜休憩をとった。
  
==画像分析==
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==フィールド調査==
  2019年8月にカンボジアのコンポンスプー州の小学校で小学生が描いたアンコールワットの画像をカラー成分測定し、色を光とした時のスペクトル別に6色と無彩色の7つに分類し、そこで使われている色の割合を算出した。1年生50人、2年生27人、3年生40人、4年生45人、5年生38人、6年生40人の学年別割合及び全体の割合を算出したところ、3学年は橙色、残り3学年は黄色をもっとも多く使用していたという結果となった。
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  8月31日と9月1日の二日間、山田アートスクールで設立の背景や授業の風景を調査し、山田隆量氏にインタビューを行った。同校は週に6日間の開校で午前と午後、そして社会人向けに夜間の部でデッサンや水彩画などの基礎的な美術指導を行っている。また、去年から「YAMADA ANGKOR ANIMATION」というアニメーションスタジオを併設し、日本からアニメの背景画などの仕事を受注している。 現在美術講師は6名で、開校当初は生徒はわずか3名であったが、現在では300名ほど在籍している。過去に生徒であった人が現在講師を勤めていたり、優秀な生徒はアニメーションスタジオのスタッフとして雇用するなど、美術を雇用と結ぶといった役割も担っている。
  
 
==考察==
 
==考察==
  日本色彩研究所が2010年にインドで行った調査によれば、若者の嫌いな色に黄色が含まれている理由として、当時インドで多発していたテロを例に上げ、彼らはヒンドゥー至上主義の右派団体であり、テーマカラーである黄色がこの時の印象調査に影響したと結論している。ここから、色はどの時代も極めて強いイデオロギーを表現するとともに、それらが人間の作り出した文化的なものであるということが言える。クメール王朝時代の国旗が緑と黄色から構成されていたにも関わらず、植民地主義の影響でその色は西洋から伝来した赤と青という色に塗り替えられた。その背景として、当時の西洋でゲーテが著した『色彩論』の中でも中心的な色として述べられており、それ以来赤と対等な関係をなす色としての地位を築いた。また、1970年代後半にポル・ポト政権が率いたクメール・ルージュはその偏った政治思想によって当時の人口が700万人ほどであったカンボジアで200万人ほどを虐殺した。クメール語でルージュは「赤」を意味するため、今回の画像分析では、赤と青という現在の国旗に採用されている色にも関わらず、それらの色には西洋がもたらした精神性がありながらも、虐殺の歴史がマイナスの力として働いていると考えられる。
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  ケーススタディにおける分析の結果、アンコールワットの塔の数は3つが最も多く、これは国旗に採用されているデザインが最も身近であり、直接見たことがない子どもが多いということからも、その国旗のデザインをそのまま描く子供が多かったということが言える。一方、色彩に関しては橙色と黄色を使用する傾向が高かったことが分かったが、全体として非常に豊富な色彩感覚を備えていた。黄色はヒンドゥー教と仏教の中では最も尊ばれる色であり、現在の国旗にはその色は採用されていないものの、クメール王朝時代の国旗は緑と黄色という色彩のものであった。その後、19世紀に入りフランスの植民地となった際に、現在の国旗の原型であるデザインが採用された。赤は元々、西洋ではキリストが流した血の色として救済を表し、中国でも新年に飾り付ける装飾一般に見られる色である。また、物理的には色を光としてスペクトル別に分けた際赤色が最も波長幅が広いことから、最も認識しやすい色として西洋東洋を問わずある程度の普遍性を備えている。
  
 
==まとめ==
 
==まとめ==
 文献調査と画像分析、それらの考察からクメール王朝時代の黄色、西洋からもたらされた青色、そしてクメール・ルージュが標榜した赤色という各時代の色に対するイデオロギーの変遷が明らかになった。カンボジアは虐殺が起こったことによって東南アジアの中でも特に先進国の経済的支援を余儀なくされているが、それは同時にその国の色に対するイデオロギーも輸入することを意味する。今後も国としての成長を続けていく上で、経済の発展という文脈の外で、カンボジアが持つ固有性を明らかにすることは重要である。
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 本研究はケーススタディを中心として、そこに表現された造形と色を研究の対象とした。その結果、形に関してはそれを想起させる実物や国旗等のデザインをそのまま描く傾向が見られたが、色に関しては多様な解釈があることが分かり、黄色はカンボジアにとって歴史的背景からも重要な位置を占めると考えられる。今回は画像全体の色分析しか行っていないが、今後は多文化との比較を行いながら、より詳細な分析が必要である。
 
 
 
==脚注==
 
==脚注==
 
<references />
 
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2019年11月7日 (木) 14:20時点における版

- ソムブール小学校で行った授業をケーススタディとして -


注)

  • この雛形は、研究発表(口頭・ポスター)に適用されます。
  • 英文概要は、80ワード程度を目安にご執筆下さい。
  • 本文部分は、2,000文字程度を目安にご執筆下さい。
  • 見出しの語句は参考例です。
  • 「あなた」が編集を行うとページの履歴に利用者名が残ります。


清水淳史 / 九州大学大学院統合新領域学府ユーザー感性学専攻
SHIMIZU ATSUSHI / Kyushu University
Keywords: Color, Education, Identity, Cambodia


Abstract
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目的と背景

 一昨年前から「失われたクメール美術復活プロジェクト」に関わり、今年コンポンスプー州にあるソムブール小学校で大規模な美術の授業を実施した。協力して頂いた山田アートスクールは、カンボジアで70年代後半に起こった内戦以来、公立小学校では美術の授業を実施していないという背景を受けて2011年に首都プノンペンに日本人の画家が開校した美術学校である。本研究では、カンボジアの初等教育における美術の現状を明らかにし、今後のカンボジアにおける美術のあり方を考察することを目的とする。


研究の方法

 研究の方法として、2019年8月13日にソムブール小学校において美術の授業をケーススタディとして行った。また、この授業に協力していただいた現地の美術学校「山田アートスクール」に対して、同年8月31日と9月1日にフィールド調査を行った。

ケーススタディ

この授業で描いたのは「私の思い描くアンコール・ワット」であり、朝礼でアンコール・ワットを見たことがある人という校長先生の質問に対して手を挙げた生徒は半数以下であった。使った画材は1,2年生にはクレヨンと赤色、青色、緑色、黃色、紫色、橙色、水色、ピンク色の水彩絵具で、混色不可とした。3年生以上は色鉛筆と同じ8色の水彩絵具で混色可とした。筆者は2年生を担当し、各学年日本人講師2名、山田アートスクールのカンボジア人講師1名がファシリテーションを行った。朝礼の後、各学年教室に分かれ、6名1グループほどで机を固め画材を用意した。説明のあとクレヨンや色鉛筆を用いて下書きをし、その後講師が絵の具を使って色を付けるよう促した。所要時間は全部で4時間で、途中で各学年適宜休憩をとった。

フィールド調査

8月31日と9月1日の二日間、山田アートスクールで設立の背景や授業の風景を調査し、山田隆量氏にインタビューを行った。同校は週に6日間の開校で午前と午後、そして社会人向けに夜間の部でデッサンや水彩画などの基礎的な美術指導を行っている。また、去年から「YAMADA ANGKOR ANIMATION」というアニメーションスタジオを併設し、日本からアニメの背景画などの仕事を受注している。 現在美術講師は6名で、開校当初は生徒はわずか3名であったが、現在では300名ほど在籍している。過去に生徒であった人が現在講師を勤めていたり、優秀な生徒はアニメーションスタジオのスタッフとして雇用するなど、美術を雇用と結ぶといった役割も担っている。

考察

ケーススタディにおける分析の結果、アンコールワットの塔の数は3つが最も多く、これは国旗に採用されているデザインが最も身近であり、直接見たことがない子どもが多いということからも、その国旗のデザインをそのまま描く子供が多かったということが言える。一方、色彩に関しては橙色と黄色を使用する傾向が高かったことが分かったが、全体として非常に豊富な色彩感覚を備えていた。黄色はヒンドゥー教と仏教の中では最も尊ばれる色であり、現在の国旗にはその色は採用されていないものの、クメール王朝時代の国旗は緑と黄色という色彩のものであった。その後、19世紀に入りフランスの植民地となった際に、現在の国旗の原型であるデザインが採用された。赤は元々、西洋ではキリストが流した血の色として救済を表し、中国でも新年に飾り付ける装飾一般に見られる色である。また、物理的には色を光としてスペクトル別に分けた際赤色が最も波長幅が広いことから、最も認識しやすい色として西洋東洋を問わずある程度の普遍性を備えている。

まとめ

 本研究はケーススタディを中心として、そこに表現された造形と色を研究の対象とした。その結果、形に関してはそれを想起させる実物や国旗等のデザインをそのまま描く傾向が見られたが、色に関しては多様な解釈があることが分かり、黄色はカンボジアにとって歴史的背景からも重要な位置を占めると考えられる。今回は画像全体の色分析しか行っていないが、今後は多文化との比較を行いながら、より詳細な分析が必要である。

脚注


参考文献・参考サイト

  • ◯◯◯◯◯(20XX) ◯◯◯◯ ◯◯学会誌 Vol.◯◯
  • ◯◯◯◯◯(19xx) ◯◯◯◯ ◯◯図書
  • ◯◯◯◯◯(1955) ◯◯◯◯ ◯◯書院