「ネット時代における中高生の居場所の在り方に関する一考察」の版間の差分

提供: JSSD5th2019
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 本研究ではアイデンティティを2つの側面から見ていく。一つは自己同一性という意味のアイデンティティである。つまり「自分が自分であること」である。前者の「自分」は主観としての自分、後者の「自分」はこの時代のこの社会にこうして生きている人間としての自分である。もう一つは"identify"の名詞としてのアイデンティティで、自己の正体という意味である。
 
 本研究ではアイデンティティを2つの側面から見ていく。一つは自己同一性という意味のアイデンティティである。つまり「自分が自分であること」である。前者の「自分」は主観としての自分、後者の「自分」はこの時代のこの社会にこうして生きている人間としての自分である。もう一つは"identify"の名詞としてのアイデンティティで、自己の正体という意味である。
 
====・アイデンティティ形成における現代の障壁====
 
====・アイデンティティ形成における現代の障壁====
 現代の青年期の子ども達のアイデンティティ形成における危機を知るべく、まずは若者の置かれている状況を把握する。
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 本来的に、青年期はアイデンティティが拡散し、自己について悩む時期である。その過程で自らの居場所はどこかを探求し、自分の「身」の置き場を探している。悩むこと自体は成長において必要不可欠だが、現代の青年期の子ども達独自の人間関係に関する悩みがあり、それがアイデンティティ形成の妨げになる恐れがある。
 現代の子ども達は関係優先志向だと言われている。先に青年期には友人関係が重要であると述べたが、現代の子ども達は過度に「友人関係あっての私」と感じている風潮がある。これは他者とは異なる自分という存在がわからなくなっているからであり、以前よりもアイデンティティの形成が難しくなっていると考えられる。それは、自分の将来について深く考えずともアルバイトやパートなどである程度の生計は立てられてしまう現状と、社会の成績を重視し職業体験の機会を作ることをおろそかにしている風潮が原因であると考えられる。
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 現代の子ども達は関係優先志向だと言われている。青年期には友人関係が重要ではあるが、現代の子ども達は過度に「友人関係あっての私」と感じている風潮がある。それゆえに「親しい相手がいない」ことと「親しい相手がいないことを他者に知られる」ことに対して精神的に傷つく側面がある。これは「他者とは異なる自分」という認識がしづらくなる要因となりうる。
  
 
====・現実空間とネット空間====
 
====・現実空間とネット空間====

2019年11月7日 (木) 14:32時点における版

- サブタイトルがある場合はここに記載 -


河野澄香 / 九州大学大学院芸術工学府デザインストラテジー専攻
Kawano Sumika / Kyushu University ← 氏名 / 所属 の英語表記
Keywords:居場所、コミュニティ、ウェルビーイング、アイデンティティ 


Abstract


[背景]

 ハーバード大学の成人発達研究によると、人の幸せは人間関係が良好かどうかに密接に関わっている。
 一方で近代以降人々の関わり合い方は大きく変化した。その要因は二つあり、一つは、近代化に伴う個人化の進行である。個人化により個人は社会的な集団の束縛から解放されると共に、存在的安心感を無条件に享受することができなくなった。もう一つは、電子メディアの発達により時間・空間によらないコミュニケーションができるようになった事である。2017年の内閣府調査によると、若者の6割以上がインターネット空間(以下ネット空間)が自分の居場所だと回答している。昨今の情報技術の発展を顧みても、今後ともにネット空間は関係性構築の重要な役割を担うことは自明である。
 ところで、人間関係はどのように構築されるのか。
 ヒトは種の誕生当初からコミュニティに所属することでコミュニケーションをとり関係性を構築してきた。所属するコミュニティ内で他者との関係における自分の役割を認識しまっとうすることで、コミュニティを自分らしく居られる「居場所」としてきた。自分の役割を認識するにはまず自分を知ること、即ちアイデンティティを確立する必要がある。ところで、社会との間においてアイデンティティを確立するのは青年期だ。
 よって、良好な人間関係を構築していくには、青年期にアイデンティティを形成することと、コミュニティ内に自分の役割を見つけること、すなわちコミュニティを自分の「居場所」としていくことが重要である。

[目的]

 以上背景より、情報技術のさらなる発展が予想されるネット時代の環境を想定して青年期の子ども達が自律的でポジティブ志向なアイデンティティを確立し、人々の良好な関係性を築いて居場所を見出し、幸福な人生を歩んでいく為には、どのようなコミュニティが必要となるのかを考察し予測する。

[本研究の位置付け]

○本研究における幸福(ウェルビーイング)について

 本研究は居場所を通じて人が幸福になることを大きなテーマとしている。そこで、本研究における幸福(ウェルビーイング)とは何かについて述べる。
 ウェルビーイングの意味は幅広く、アプローチの仕方によって意味が変わってくるが、本研究ではエウダイモニア(持続的幸福)的アプローチをとる。つまり、人にとっての幸福は、人生に意義を見出し、自分の潜在能力を最大限に発揮できる状態であるとする。

○コミュニティについて

・コミュニティの役割(定義)

コミュニティは、「社会的相互作用」「領域」「共通の絆」がある、主体的で動態的な「場」であると定義する。

 さらに、ここでの「場」の定義は、クルド・レヴィンの「場の理論」より、人と人との関係性の間で相互作用し変化していく生活空間であるとする。  コミュニティは基本的には一人では成り立たず、複数人の時に成立する。

・居場所とは何か

 居場所も意味の幅が広い言葉であるが、本研究における居場所の定義は杉本・庄司(2006)が唱える下記の「居場所」の心理的機能の6因子のいずれかに当てはまる「場」であるとする。   ※「居場所」の心理的機能の6因子(「居場所」因子)  ①被受容感 ②精神的安定感 ③行動の自由  ④思考・内省 ⑤自己肯定感 ⑥他者からの自由
   端的に言えば、自分が「身」を置いている、自分らしく居られる場である。居場所は一人からでも成立し、また複数人で一緒にいる場合も成り立つ。

○アイデンティティについて

・アイデンティティとは何か(定義)

 本研究ではアイデンティティを2つの側面から見ていく。一つは自己同一性という意味のアイデンティティである。つまり「自分が自分であること」である。前者の「自分」は主観としての自分、後者の「自分」はこの時代のこの社会にこうして生きている人間としての自分である。もう一つは"identify"の名詞としてのアイデンティティで、自己の正体という意味である。

・アイデンティティ形成における現代の障壁

 本来的に、青年期はアイデンティティが拡散し、自己について悩む時期である。その過程で自らの居場所はどこかを探求し、自分の「身」の置き場を探している。悩むこと自体は成長において必要不可欠だが、現代の青年期の子ども達独自の人間関係に関する悩みがあり、それがアイデンティティ形成の妨げになる恐れがある。  現代の子ども達は関係優先志向だと言われている。青年期には友人関係が重要ではあるが、現代の子ども達は過度に「友人関係あっての私」と感じている風潮がある。それゆえに「親しい相手がいない」ことと「親しい相手がいないことを他者に知られる」ことに対して精神的に傷つく側面がある。これは「他者とは異なる自分」という認識がしづらくなる要因となりうる。

・現実空間とネット空間

 [背景]では、現代の人々の関わり合い方の変容の要因として、電子メディアの発達をあげた。これによって現実空間とは別にインターネット空間(以下ネット空間)という新しい空間概念が生まれた。  ネット空間の特性は数多あれど、特に多くの文献で挙げられるものは「匿名性」である。この「匿名性」がなぜ生まれるのかは、ネット空間がパソコンやスマートフォン等の「道具」を介して他者と出会う場所であるからだと考えられる。この「道具」を介するか否かがコミュニケーションのあり方を大きく変えた。  元来現実空間で行われていたコミュニケーションは「道具」を介さない対面のものであった。対面場面において他者が何を感じているかを理解するには言語のみからではなく非言語のコミュニケーションの読み取りも重要である。人類の歴史の大半は現実空間のコミュニティのみが存在していた。その長い歴史の中で培ったコミュニケーション方法は大部分を非言語コミュニケーション、つまり視覚からの情報に頼っており、視覚によって他者への信頼感を得ていた。その点で、文字に頼りがちで視覚情報の乏しいネットコミュニティ上では信頼関係を築く上で特別注意しなければならない。  以上述べたようにネット空間特有の性質があり、現実空間との違いが見られるが、その空間の違いが「コミュニティ」や「居場所」という言葉の概念に影響を及ぼすのか。これを検討する為に空間に関する論文に根拠を求めたが、空間を定義づけている論文はインターネット誕生以前のものに限られ、検討することができなかった。そこで今回はアンケート調査によって人が現実空間とネット空間のコミュニティについて問い、現代人がそれぞれの空間のコミュニティや居場所を差別化して捉えているのかを確かめることとした。  

研究の方法

 青年期の子ども達のアイデンティティの確立度合いや居場所の現状を把握する為に、アンケート調査を行う。 対象:大学1年生  本研究としてはコミュニティが固定化しやすい中学生〜高校生の居場所に対して現状を改善する為の考察を行いたいが、現役の中高生はまだアイデンティティ確立が未完の状態であると考えられる。大学1年生は青年期の後半期で、将来の進路を考える上で自己について考察した経験もあり、尚且つ中学・高校時代の記憶も比較的新しいものであると思われるので、今回のアンケート調査対象とした。 調査目的:ネット時代ではどのような居場所を持つものがより健全なアイデンティティを確立しているのか。 現時点で健全なアイデンティティは形成出来ているのか、これまで所属していたコミュニティはどのようなものであったか。その中で居場所と呼べるようなコミュニティはあったのかということを知る。それと合わせて現代の若者が現実空間とネット空間のコミュニティや居場所を空間の違いによって違う意味で捉えているのかどうかも調査する。  



結果

 


考察

まとめ

脚注


参考文献・参考サイト

https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h29honpen/s0_0.html ,2019年7月13日閲覧

  • ラファエル・A・カルヴォ/ドリアン・ピーターズ (2017),「ウェルビーイングの設計論 人がよりよく生きるための情報技術」
  • 遠藤薫 編著(2008),「ネットメディアと<コミュニティ>形成」
  • 猪股佐登留(1956),「クルト・レヴィン 社会科学における場の理論」
  • 山内裕平研究室(2011)「【気になる研究者】クルト・レヴィン」, https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2011/09/post-328.html ,2019年7月14日閲覧
  • 杉本希映/庄司一子(2006),「「居場所」の心理的機能の構造とその発達的変化」
  • 丸田一(2008),「「場所」論 ウェブのリアリズム、地域のロマンチシズム」
  • 藤代祐之 編著(2015),「ソーシャルメディア論 つながりを再設計する」
  • 小沢一仁 東京工芸大学 (2002),「居場所とアイデンティティを現象学的アプローチによって捉える試み」
  • 浅野智彦(2011),「若者の気分 趣味縁からはじまる社会参加」