「一般生活者に向けた配色サービスツールのデザイン研究」の版間の差分
15行目: | 15行目: | ||
==背景と目的== | ==背景と目的== | ||
[[ファイル:図1配色ウェブサイトAdobe Color.png|thumb|right|350px|図1.配色ウェブサイトAdobe Color]] | [[ファイル:図1配色ウェブサイトAdobe Color.png|thumb|right|350px|図1.配色ウェブサイトAdobe Color]] | ||
− | + | 配色構成は、単色にはない多くの効果が期待される<ref>[1]朝倉邦造(1991).『色彩学事典』.朝倉書店,pp. 196</ref>。例えば、色の見やすさについて、大島(1953)は明度差の大きな色の組み合わせは視認性を高めるとしている<ref>[2]大島正光:色彩の生理・心理,色彩調節,pp. 93-97, 技術堂(1953).</ref>。しかし、明度差などの色彩知識を理解するためには一定の知識が前提となる。同時に、配色を判断するには実践経験を積むことも重要である。よって手軽に最適な配色を決めることは難しい。 | |
− | 近年、Adobe | + | 近年、Adobe colorのような配色作成、配色提案を提供する配色ウェブサイトが一般化している。これらの配色サービスツールを使うことで、色の組み合わせを考える時間が節約でき、色彩のインスピレーションも得られるメリットはある。しかし、それらの配色ウェブサイトは主に美術やデザインなどの専門家に向けに提供されている。 |
− | + | 一方、一般生活者は暮らしの様々な場面で配色を考えている。例えば、手持ちの服で違った配色を試したり、仕事で配色を考慮してプレゼン資料の内容をより伝わりやすくしたりしている。よって配色に対するニーズは専門家だけでなく、一般生活者にもあり、そのための配色サービスツールも必要ではないだろうか。 | |
− | + | したがって、本研究は、以上の背景を踏まえて、既存の配色サービスツールのコンテンツや機能を調査・分析し、現行の配色サービスツールと一般生活者の配色ニーズのギャップを明らかにすることを目的とする。 | |
==研究の方法== | ==研究の方法== | ||
− | + | まず既存の配色サービスツールの種類及び各コンテンツ・機能を調査し、配色サービスツールの役割を明らかにする。次に、既存の配色サービスの機能、一般生活者のどんなニーズに応えようとしているのかを調査する。次にアンケート調査によって一般生活者の実際の配色のニーズを明らかにする。最後に既存の配色サービスツールの機能とユーザーのニーズを照らし合わせ、両者のギャップを確認する。 | |
==先行研究と考察== | ==先行研究と考察== | ||
− | + | 色彩と消費者の生活との関係に着目する研究では、“Why People Buy: Motivation Research and its Successful Application”(Cheskin,L. 1959)があり、主にマーケティングの視点から色彩の多様性がどのように消費者の生活に影響を与えるかを論じている。 | |
− | + | 消費者の実生活における配色知識や配色能力に着目した先行研究は管見の限り見当たらないが、渋川、高橋(1983)は一般生活者に向けた『配色事典』を出版し、ベストセラーとなった。このことから一般生活者は色彩を用いてコーディネートをしており、色彩の専門知識に対してもニーズがあると考えられる。 | |
− | + | 配色サービスツールのデザインに関する先行研究では、『イメージ語のクラスタリングを利用した配色支援システム』(小川、萩原,2016)が挙げられる。この研究では専門家を対象に一定の配色技法の経験を持った上で、より勉強しやすく、調和的な配色システムを提案している。しかし、既存の配色サービスツールに関する調査・分析を行った研究は管見の限り見当たらない。よって本研究は、既存の配色サービスツールのコンテンツ、機能を明らかにしながら、専門家に留まらず、一般生活者のニーズも踏まえて、より効果的な配色サービスツールの可能性を検討することに独自性がある。 | |
− | |||
− | |||
==配色サービスツールの現状調査と考察== | ==配色サービスツールの現状調査と考察== | ||
[[ファイル:配色サービスツールの現状調査.jpg|thumb|right|300px|表1.配色サービスツールの現状調査]] | [[ファイル:配色サービスツールの現状調査.jpg|thumb|right|300px|表1.配色サービスツールの現状調査]] | ||
− | + | 現行の配色サービスツールが果たしている役割を明確するため、既存の配色サービスツールとして配色カードや配色の参考書、配色ウェブサイト、配色アプリについて、対象ユーザー、機能、コンテンツなどの調査を行い、その結果を表1にまとめた。 | |
− | + | ||
+ | 既存の配色サービスツールのうち、配色カードの利用者は主に色彩の専門家である。配色カードの役割は「正確な色を伝える」ことと「カラートレニーング」である。配色の参考書は「色彩の知識・情報」と「具体的な配色提案」を多様な切り口で提供する。配色アプリは利便性が高く、手軽に「色彩の検索・記録」ができる。配色ウェブサイトは主にプロのクリエーターを対象としており、簡単に配色を作成できる。PGC(Professional generated content)として配色を提案するコンテンツも注目されている。 | ||
+ | |||
+ | 以上より、既存の配色サービスツールには「正確な色彩情報の伝達」「配色作成」「配色提案」の3つ役割があることがわかった。 | ||
− | |||
==配色ウェブサイトの調査・分析== | ==配色ウェブサイトの調査・分析== | ||
[[ファイル:配色ウェブサイト調査対象一覧.jpg|thumb|right|150px|表2.配色ウェブサイト調査対象一覧]] | [[ファイル:配色ウェブサイト調査対象一覧.jpg|thumb|right|150px|表2.配色ウェブサイト調査対象一覧]] | ||
− | + | Google検索エンジンを用い、「配色に困る」、「配色サービス」、「配色サービスツール」をキーワードとして検索した34のサイトをリストアップし、調査したところ「配色作成」、「配色提案」、「カラーコードの掲載とコピー」、「配色提案の保存とダンロード」、「意見投票(良いね、シェアなど)」の主に6つの機能があることがわかった。またサイトごとに配色の作成方法と配色提案の見せ方にそれぞれ特徴があった。 | |
− | + | ==配色ウェブサイトの調査・分析== | |
+ | 一般生活者が抱える配色の課題とニーズを把握するため、アンケート調査を行った。アンケート調査は「配色に対する関心度」、「配色で困ること」などの調査項目で構成した。美術やデザイン関係者から258件(男性79名、女性179名)、それ以外の一般生活者から119件(男性35名、女性84名)の回答が得られた。この中から一般生活者119件の回答内容を分析した。 | ||
− | + | 「配色の関心度」については、119名中42名が「やや関心がる」、54名が「関心がある」、20名が「非常に関心がある」と回答した。「配色を意識する頻度」については、36名が「やや意識する」、47名が「意識する」、25名が「いつも意識している」と回答した。ここから一般生活者の配色に対する関心の高さがわかる。 | |
− | |||
− | + | 「配色で困ること」については、51名が「やや困る」、33名が「困る」、13名が「いつも困っている」と回答した。具体的に困っていることについて、96件の回答を分類したところ、「配色方法の理解不足」、「色選択の迷い・面倒臭さ」、「配色効果についての不安」の3つの課題が抽出された。 | |
− | + | 一般生活者の配色ニーズは「服装を選ぶ」、「メイクアップをする」、「インテリアを考える」の3つの場面と深い関係があることが分かった。 | |
==まとめ== | ==まとめ== | ||
− | + | 調査により、既存の配色サービスツールには「正確な色彩情報の伝達」、「配色作成」、「配色提案」の3つの役割があり、配色サービスツールの使用対象は主に専門家であり、知識を持たない一般生活者にとっては、既存の配色サービスツールは「専門性が高い」というイメージが持たれている。 | |
− | + | 一般生活者の配色のニーズは「服装を選ぶ」、「メイクアップをする」、「インテリアを考える」の3つであるのに対し、Adobe colorのような配色ウェブサイトが提供する配色提案は主にデザイン作品やイラスト作品が中心であり、一般生活者の使用シーンとギャップがあることも既存の配色ウェブサイトが一般向けに機能していない理由だと考えられる。 | |
− | |||
==脚注== | ==脚注== |
2019年11月8日 (金) 23:33時点における版
- 王曦 / 九州大学大学院芸術工学府
- WANG, Xi / Graduate School of Design, Kyushu University
- 池田美奈子 / 九州大学大学院芸術工学研究院
- IKEDA, Minako/ Faculty of Design, Kyushu University
- Keywords: color harmony, service tool , design
- Abstract
- Lorem まだです
目次
背景と目的
配色構成は、単色にはない多くの効果が期待される[1]。例えば、色の見やすさについて、大島(1953)は明度差の大きな色の組み合わせは視認性を高めるとしている[2]。しかし、明度差などの色彩知識を理解するためには一定の知識が前提となる。同時に、配色を判断するには実践経験を積むことも重要である。よって手軽に最適な配色を決めることは難しい。
近年、Adobe colorのような配色作成、配色提案を提供する配色ウェブサイトが一般化している。これらの配色サービスツールを使うことで、色の組み合わせを考える時間が節約でき、色彩のインスピレーションも得られるメリットはある。しかし、それらの配色ウェブサイトは主に美術やデザインなどの専門家に向けに提供されている。
一方、一般生活者は暮らしの様々な場面で配色を考えている。例えば、手持ちの服で違った配色を試したり、仕事で配色を考慮してプレゼン資料の内容をより伝わりやすくしたりしている。よって配色に対するニーズは専門家だけでなく、一般生活者にもあり、そのための配色サービスツールも必要ではないだろうか。
したがって、本研究は、以上の背景を踏まえて、既存の配色サービスツールのコンテンツや機能を調査・分析し、現行の配色サービスツールと一般生活者の配色ニーズのギャップを明らかにすることを目的とする。
研究の方法
まず既存の配色サービスツールの種類及び各コンテンツ・機能を調査し、配色サービスツールの役割を明らかにする。次に、既存の配色サービスの機能、一般生活者のどんなニーズに応えようとしているのかを調査する。次にアンケート調査によって一般生活者の実際の配色のニーズを明らかにする。最後に既存の配色サービスツールの機能とユーザーのニーズを照らし合わせ、両者のギャップを確認する。
先行研究と考察
色彩と消費者の生活との関係に着目する研究では、“Why People Buy: Motivation Research and its Successful Application”(Cheskin,L. 1959)があり、主にマーケティングの視点から色彩の多様性がどのように消費者の生活に影響を与えるかを論じている。
消費者の実生活における配色知識や配色能力に着目した先行研究は管見の限り見当たらないが、渋川、高橋(1983)は一般生活者に向けた『配色事典』を出版し、ベストセラーとなった。このことから一般生活者は色彩を用いてコーディネートをしており、色彩の専門知識に対してもニーズがあると考えられる。
配色サービスツールのデザインに関する先行研究では、『イメージ語のクラスタリングを利用した配色支援システム』(小川、萩原,2016)が挙げられる。この研究では専門家を対象に一定の配色技法の経験を持った上で、より勉強しやすく、調和的な配色システムを提案している。しかし、既存の配色サービスツールに関する調査・分析を行った研究は管見の限り見当たらない。よって本研究は、既存の配色サービスツールのコンテンツ、機能を明らかにしながら、専門家に留まらず、一般生活者のニーズも踏まえて、より効果的な配色サービスツールの可能性を検討することに独自性がある。
配色サービスツールの現状調査と考察
現行の配色サービスツールが果たしている役割を明確するため、既存の配色サービスツールとして配色カードや配色の参考書、配色ウェブサイト、配色アプリについて、対象ユーザー、機能、コンテンツなどの調査を行い、その結果を表1にまとめた。
既存の配色サービスツールのうち、配色カードの利用者は主に色彩の専門家である。配色カードの役割は「正確な色を伝える」ことと「カラートレニーング」である。配色の参考書は「色彩の知識・情報」と「具体的な配色提案」を多様な切り口で提供する。配色アプリは利便性が高く、手軽に「色彩の検索・記録」ができる。配色ウェブサイトは主にプロのクリエーターを対象としており、簡単に配色を作成できる。PGC(Professional generated content)として配色を提案するコンテンツも注目されている。
以上より、既存の配色サービスツールには「正確な色彩情報の伝達」「配色作成」「配色提案」の3つ役割があることがわかった。
配色ウェブサイトの調査・分析
Google検索エンジンを用い、「配色に困る」、「配色サービス」、「配色サービスツール」をキーワードとして検索した34のサイトをリストアップし、調査したところ「配色作成」、「配色提案」、「カラーコードの掲載とコピー」、「配色提案の保存とダンロード」、「意見投票(良いね、シェアなど)」の主に6つの機能があることがわかった。またサイトごとに配色の作成方法と配色提案の見せ方にそれぞれ特徴があった。
配色ウェブサイトの調査・分析
一般生活者が抱える配色の課題とニーズを把握するため、アンケート調査を行った。アンケート調査は「配色に対する関心度」、「配色で困ること」などの調査項目で構成した。美術やデザイン関係者から258件(男性79名、女性179名)、それ以外の一般生活者から119件(男性35名、女性84名)の回答が得られた。この中から一般生活者119件の回答内容を分析した。
「配色の関心度」については、119名中42名が「やや関心がる」、54名が「関心がある」、20名が「非常に関心がある」と回答した。「配色を意識する頻度」については、36名が「やや意識する」、47名が「意識する」、25名が「いつも意識している」と回答した。ここから一般生活者の配色に対する関心の高さがわかる。
「配色で困ること」については、51名が「やや困る」、33名が「困る」、13名が「いつも困っている」と回答した。具体的に困っていることについて、96件の回答を分類したところ、「配色方法の理解不足」、「色選択の迷い・面倒臭さ」、「配色効果についての不安」の3つの課題が抽出された。
一般生活者の配色ニーズは「服装を選ぶ」、「メイクアップをする」、「インテリアを考える」の3つの場面と深い関係があることが分かった。
まとめ
調査により、既存の配色サービスツールには「正確な色彩情報の伝達」、「配色作成」、「配色提案」の3つの役割があり、配色サービスツールの使用対象は主に専門家であり、知識を持たない一般生活者にとっては、既存の配色サービスツールは「専門性が高い」というイメージが持たれている。 一般生活者の配色のニーズは「服装を選ぶ」、「メイクアップをする」、「インテリアを考える」の3つであるのに対し、Adobe colorのような配色ウェブサイトが提供する配色提案は主にデザイン作品やイラスト作品が中心であり、一般生活者の使用シーンとギャップがあることも既存の配色ウェブサイトが一般向けに機能していない理由だと考えられる。
脚注
参考文献・参考サイト
- Why People Buy: Motivation Research and its Successful Application(1959). Louis Cheskin, Liveright Publishing Corporation
- 配色事典(1983). 渋川育由、高橋ユミ, 河出書房新社
- 小川、萩原(2016). イメージ語のクラスタリングを利用した配色支援システム, 日本感性工学会論文誌 Vol.15 No.2 pp.287-296
- ウェブサイト分析ツールSimilarWeb, https://www.similarweb.com/ja (2019年11月6日 閲覧)
- 配色WebサイトAdobe color, https://color.adobe.com/ja/crete (2019年11月6日 閲覧)