「防災教育と社会実験による地域コミュニティのレジリエンスデザイン方法」の版間の差分
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筆者らは地域コミュニティのレジリエンス向上を目的とした、コミュニケーション行動と性格特性、ストレス反応の関係を調査するための手法の研究を行っている。災害避難所で得た行動と性格特性の組み合わせからコミュニケーション中のストレスを推定することで、コミュニケーションの円滑化を支援することができ、それがレジリエンス向上につながると考える。 | 筆者らは地域コミュニティのレジリエンス向上を目的とした、コミュニケーション行動と性格特性、ストレス反応の関係を調査するための手法の研究を行っている。災害避難所で得た行動と性格特性の組み合わせからコミュニケーション中のストレスを推定することで、コミュニケーションの円滑化を支援することができ、それがレジリエンス向上につながると考える。 | ||
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地域で実施される避難訓練等の防災教育活動は、地域コミュニティの交流を促し、適度な接続性ほかレジリエンスを発揮するための基礎を提供すると考えられる。一方で、地域コミュニティの成員全てが防災教育活動に積極的に参加するとは限らない。そこで本研究では、防災教育活動に実験の要素を取り込むことで、防災教育活動への参加の動機付けを図る。地域住民は防災教育活動に参加することで防災に関する知識や情報を得るだけでなく、実験にも協力することで地域貢献にもなり、さらに蓄積された基礎データに基づくレジリエンス向上サービスを受けることができるようになる。 | 地域で実施される避難訓練等の防災教育活動は、地域コミュニティの交流を促し、適度な接続性ほかレジリエンスを発揮するための基礎を提供すると考えられる。一方で、地域コミュニティの成員全てが防災教育活動に積極的に参加するとは限らない。そこで本研究では、防災教育活動に実験の要素を取り込むことで、防災教育活動への参加の動機付けを図る。地域住民は防災教育活動に参加することで防災に関する知識や情報を得るだけでなく、実験にも協力することで地域貢献にもなり、さらに蓄積された基礎データに基づくレジリエンス向上サービスを受けることができるようになる。 | ||
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しかしながらワークショップは実験室実験とは異なり外乱が多いことに加え、参加者同士の位置関係が参加者にとってどのような意味を持つかを推定するには至らなかった。 | しかしながらワークショップは実験室実験とは異なり外乱が多いことに加え、参加者同士の位置関係が参加者にとってどのような意味を持つかを推定するには至らなかった。 | ||
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===実験室実験<sup>[2]</sup>=== | ===実験室実験<sup>[2]</sup>=== | ||
そこで2019年5月に、ワークショップで実施したダンボールベッド組立作業を抽象化した実験室実験を実施した。実験室実験では実験同意を得た大学生ならびに大学院生4人が1つのグループとなって、図 2のように3名が立位で静止し、1名がダンボール箱を持って周囲を移動するタスクを課した<sup>*3</sup>。同じくビデオカメラによる動画を用いた解析と性格特性回答に加えて、実験中の被験者の心拍変動(HRV)を計測しストレス推定を行い、行動-性格特性-ストレスの関係を調査した。2グループ6名による実験の結果、サンプル数が十分ではないものの、特定の性格特性とHRV指標に相関のある状況があることを示唆する結果を得た。 | そこで2019年5月に、ワークショップで実施したダンボールベッド組立作業を抽象化した実験室実験を実施した。実験室実験では実験同意を得た大学生ならびに大学院生4人が1つのグループとなって、図 2のように3名が立位で静止し、1名がダンボール箱を持って周囲を移動するタスクを課した<sup>*3</sup>。同じくビデオカメラによる動画を用いた解析と性格特性回答に加えて、実験中の被験者の心拍変動(HRV)を計測しストレス推定を行い、行動-性格特性-ストレスの関係を調査した。2グループ6名による実験の結果、サンプル数が十分ではないものの、特定の性格特性とHRV指標に相関のある状況があることを示唆する結果を得た。 | ||
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===実験設計=== | ===実験設計=== | ||
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*[2]西村英伍, 岸田文, 藤智亮, 綿貫茂喜, 尾方義人 (2019) ,「行動と性格特性に着目したレジリエンスデザイン方法の構築―避難所での活動を想定した共同作業中の人の位置関係・心拍変動・性格特性の相関解析―」, 九州大学大学院芸術工学研究院紀要 芸術工学研究, Vol.31, pp.1-7 | *[2]西村英伍, 岸田文, 藤智亮, 綿貫茂喜, 尾方義人 (2019) ,「行動と性格特性に着目したレジリエンスデザイン方法の構築―避難所での活動を想定した共同作業中の人の位置関係・心拍変動・性格特性の相関解析―」, 九州大学大学院芸術工学研究院紀要 芸術工学研究, Vol.31, pp.1-7 | ||
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==参考文献・参考サイト== | ==参考文献・参考サイト== |
2019年11月8日 (金) 21:27時点における版
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- 西村英伍 / 九州大学大学院芸術工学府
- Eigo Nishimura / Kyushu University
- 末吉孝 / 九州大学大学院芸術工学府
- Takashi Sueyoshi / Kyushu University
- 尾方義人 / 九州大学大学院芸術工学研究院
- Yoshito Ogata / Kyushu University
- Keywords: Resilience Design, Experimental Design, Workshop
- Abstract
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目的と背景
地震や風水害に備えて、地域コミュニティのレジリエンスを高めることは重要である。地域コミュニティのレジリエンスとは、A.Zolliを引用すると「絶えず変化する環境に合わせて流動的に自らの姿を変えつつ、目的を達成する」性質であり、そのようなレジリエンスは「適度な接続性、協調体制、多様性を保つことによって」発揮されると言われている。
筆者らは地域コミュニティのレジリエンス向上を目的とした、コミュニケーション行動と性格特性、ストレス反応の関係を調査するための手法の研究を行っている。災害避難所で得た行動と性格特性の組み合わせからコミュニケーション中のストレスを推定することで、コミュニケーションの円滑化を支援することができ、それがレジリエンス向上につながると考える。
地域で実施される避難訓練等の防災教育活動は、地域コミュニティの交流を促し、適度な接続性ほかレジリエンスを発揮するための基礎を提供すると考えられる。一方で、地域コミュニティの成員全てが防災教育活動に積極的に参加するとは限らない。そこで本研究では、防災教育活動に実験の要素を取り込むことで、防災教育活動への参加の動機付けを図る。地域住民は防災教育活動に参加することで防災に関する知識や情報を得るだけでなく、実験にも協力することで地域貢献にもなり、さらに蓄積された基礎データに基づくレジリエンス向上サービスを受けることができるようになる。
本研究では、過去に実施した以下の2つのワークショップと実験の結果を基に、防災教育活動と社会実験の設計を検討する。
方法
ワークショップ[1]
筆者らは2018年8月に実施したワークショップにおいて、動画解析による行動分析*1と性格特性指標*2との相関検討を実施した。ワークショップでは1グループあたり4名の成人女性とそれぞれの子が1~2名、合計10名程度で1つのダンボールベッドを組立てる作業を実施した。分析は事前に同意を得た4グループの成人女性を対象に行い、行動分析にあたっては、ビデオカメラによる動画を用いた解析により、各参加者と他の参加者との距離ならびに位置を数値化した。作業中の動画に参加者4名の位置をマーキングしたものを図 1に示す。また事前に性格特性の回答も得た。解析の結果、集団における位置や距離と性格特性の間に関係があることを示唆する結果を得た。
しかしながらワークショップは実験室実験とは異なり外乱が多いことに加え、参加者同士の位置関係が参加者にとってどのような意味を持つかを推定するには至らなかった。
実験室実験[2]
そこで2019年5月に、ワークショップで実施したダンボールベッド組立作業を抽象化した実験室実験を実施した。実験室実験では実験同意を得た大学生ならびに大学院生4人が1つのグループとなって、図 2のように3名が立位で静止し、1名がダンボール箱を持って周囲を移動するタスクを課した*3。同じくビデオカメラによる動画を用いた解析と性格特性回答に加えて、実験中の被験者の心拍変動(HRV)を計測しストレス推定を行い、行動-性格特性-ストレスの関係を調査した。2グループ6名による実験の結果、サンプル数が十分ではないものの、特定の性格特性とHRV指標に相関のある状況があることを示唆する結果を得た。
実験設計
以上の2事例で得られた知見から、災害避難所でのコミュニティのレジリエンス向上に繋がり、かつワークショップ中に実施が可能な実験を検討する。
HRV指標は静止中の人の心拍からしか計測することができないため、ワークショップ中でHRV指標を計測する際には、参加者が静止するような状況を作り出す必要がある。一方、先の実験室実験において、集団の中で静止している人のHRV指標がその周囲で移動している人の存在によって変化する可能性が示唆された。このことから、ワークショップ中にファシリテーターの話を聞いているといった状況下で輪の外部から人が接近して来る状況を設定することで、自然な環境下に実験室実験に近い条件を作り出すことができると考えられる。
ワークショップ中の行動分析
HRV指標によるストレス推定から、コミュニケーション中の状態を評価することが可能と考えるが、HRV指標を計測することは被験者や参加者の負担の問題がある。そこで、行動分析と性格特性のみから災害避難所でのコミュニケーションの状態を推定することを検討する。
例えば、ストレスの代わりに支援行動の発生を評価に用いることが方針として考えらえる。例えば工作教室のようなワークショップにおいては、自分の作業が早く済んだ参加者がほかの参加者を手伝うような行動が見られる。先のダンボールベッド組立作業においても、個人で行う作業と、自然発生的に協力して行われる作業が見られた。このような支援行動は災害避難所でのコミュニケーションにおいても重要であり、地域コミュニティのレジリエンスとも深くかかわっていると考えられる。
脚注
- *1 行動分析:A.KendonやA.E. Scheflenによるf-Formationの概念に基づき、お互いに顔を向けあう集団とその周囲に生じる空間の意味に着目し、集団において各成員がどの位置にいるかを計測した。f-Formationは図 3に示すような、3種類の意味を持った空間を生成する。それぞれ、集団の成員に注目される中央のo空間、成員が占めるp空間、集団の周囲に形成されるr空間である。
- *2 性格特性:BigFiveにおける外向性、誠実性、開放性、調和性、情緒不安定性と、STAIにおける状態不安と特製不安を質問紙により測定した。
- *3 周囲を移動するタスク:この実験もf-Formationの概念に基づいて実施されている。r空間に人が居る状況は、集団への関与や参加、干渉を意味している。このような状況において、r空間やp空間の被験者は一定のストレスを感じると考えた。
- [1]プロクセミクスとF陣形に基づく集団内の成員のレジリエンス指標の検討:段ボールベッド組立て作業の動画を事例として, 西村英伍, 尾方義人, 日本デザイン学会第5支部 平成30年度研究発表会
- [2]西村英伍, 岸田文, 藤智亮, 綿貫茂喜, 尾方義人 (2019) ,「行動と性格特性に着目したレジリエンスデザイン方法の構築―避難所での活動を想定した共同作業中の人の位置関係・心拍変動・性格特性の相関解析―」, 九州大学大学院芸術工学研究院紀要 芸術工学研究, Vol.31, pp.1-7
参考文献・参考サイト
- A.ゾッリ, A.M.ヒーリー, 訳: 須川綾子 (2013) 「レジリエンス 復活力―あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か―」, ダイヤモンド社
- Kendon A (1990) “Conducting interaction: Patterns of behavior in focused encounters”, Cambridge: Cambridge University Press
- アルバート E. シェフレン, 訳: 桃木暁子, 竹内久美子, 日高敏隆 (1989) 「ヒューマン・テリトリー インテリア――都市の人間心理」, 産業図書, pp.141-146