戯曲の設計
「構想」と「世界観/登場人物の設定」について
- 緒方卓也 / 九州大学大学院 芸術工学府
- Takuya Ogata / Kyusyu University
- 尾方義人 / 九州大学大学院 芸術工学研究院
- Yoshito Ogata / Kyusyu University
- Keywords: Drama scenario, Hikikomori
- Abstract
- Drama scenario is made by sensitybity of writers and in many case they don't write down how it was made. This time , I write down why I come up with so and how I embody it thorough making drama scenario.
目次
背景
戯曲とは演劇作品における脚本を指す。そして現在、起承転結の結び方や魅力的な主人公の作り方を一般化した創作の指南書や、既存の作品からシナリオを解剖する評論など、戯曲についての記述は数多く存在する。しかし、戯曲の作者本人が自身の戯曲がどのようにして生まれたのかは、端的に述べることはあっても、全体を通して創作のプロセスを記述に残すことは少ない。その理由として、戯曲が作家の感性のままに作られ言語化することが難しいことが挙げられる。また、日々新しいものを作り続ける劇作家にとっては、事細かに記述を整理する作業よりも、新しい作品に取り組むことの方が優先されるからだ。しかし、一つの作品の創作プロセスを言語化し記述することは、戯曲創作の場においてひとつの事例を残すこととなる。また言語化されたプロセスから戯曲への理解も深まり、作品をさらに良いものにすることができる。このように作者によって創作を通して戯曲の設計プロセスを記述することが、戯曲創作のさらなる可能性を広げると私は考える。
目的
本研究は、実際に上演を予定する戯曲の創作を通して、戯曲の作者である私がなぜそのように考えたか、そしてそれをどのように戯曲という表現に落とし込んだかを記述することで、戯曲設計のプロセスを組み立てることを目的とする。
研究の方法
物語の創作のプロセスは「構想」「世界観の設定」「登場人物の設定」「幕の設計」「シーンの設計」の5つのセクションに分けられる。本研究ではこのセクションから「構想」「世界観の設定」「登場人物の設計」までの、戯曲の執筆手前の物語の根幹をなすセクションを課題範囲として進め、スペキュラティブデザインの立場から作品を作っていく。
スペキュラティブデザインとは、RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)で教鞭をとるロバート・マッキーによって提唱されたデザインの立場で、解決策を提案するデザインではなく、問いを投げかけるデザインのことを指す。その目的としては、未来を予測するということよりも、未来について考えさせることそのものをさす。
そこで創作のテーマとして日本の社会問題である「ひきこもり」をキーワードに選んだ。1980年代より不登校問題を中心に見られたこの現象であるが、インターネットの普及を主として、コミュニティの質やコミュニケーションの在り方も変化してきた。それと同時に「ひきこもり」というのは物理的な問題というより、承認への渇望や曖昧になっていく自己存在の感覚など、日本の若者が抱える心理的閉塞感を指すようになってきた。この心理的ひきこもりは我々日本人に潜在し、抑圧されたフラストレーションは日々増長されていき、将来、なんらかの形で日本の将来に影響を及ぼすものだと私は考える。
構想
エネルギーを溜め込み爆発するというイメージ
われわれ日本人に強く刺さるものとして「原子力発電」を作品の背景に置く。冷却炉に閉じ込められ膨らんでいく放射能をひきこもりに隠喩させ、観客に自ら感じ考えてもらうことで、理解を深いものにしていく。そのために戯曲の構造として「エネルギーをため込む」「ため込まれたエネルギーが増長する」「エネルギーが爆発する」「エネルギーが爆発した影響」といった流れを物語の背景に置く。そして登場人物たちのやりきれない葛藤や承認への渇望を見せ、背景と重なることで、人間の中の抑圧されたフラストレーションを効果的に表現していく。
現在と未来の因果関係~原子爆弾と原発事故~
未来をイメージするためには現在との因果関係が成り立っていなければならない。そこで、原発事故と因果関係をイメージできるものとして1945年の日本に落とされた原子爆弾が挙げられた。原子爆弾による放射能の負のイメージをまるで忘れていくかのように我々は「明るい未来のエネルギー」と変え、冷却炉に閉じ込めてきた。そしてそれらは2011年、福島第一原子力発電所の事故として再び私たちに悲劇を見せた。この二つを見て、私は繰り返される歴史を想起させられ、この二つの因果関係を結び付けることで、もう一度起こる悲劇を予見させることができるのではないかと考えた。
心理的ひきこもり
他者からの承認による自己存在(自分が存在することへの認識)が潜在的に現代を生きる若者に根付いている。
2.世界観の設計
物語は「現在」と「未来」の2つの世界が並行して進んでいく。「現在」の世界では、原子爆弾による放射能で汚染されたものを回収し、
3.登場人物の設計
夕凪 「20世紀の医師団」に新たに加わった青年。真面目で愛国心が強く、妹のとも子と二人で暮らしている。潔癖な性格で、純粋な心を持つとも子に対し兄弟を超えた愛情を抱いている。イサコの担当につくこととなり、イサコの破壊衝動に振り回されながら、自分の心に潜む「汚れたい欲望」に気づいていく。やがてイサコを愛してしまい、とも子を捨て、イサコと二人で病院の外へ出ることを決意する。
とも子 夕凪の妹。生まれつき目が見えない代わりに、想像力に長けており、夕凪に対し兄弟を超えた愛情を抱いている。 とも子は妄想の中で50年先の未来へ出かけ、コールドスリープで目覚めたばかりの青年オズと出会う。イサコに魅了されていく夕凪の異変に気付き、オズと共に病院へ潜入するも冷蔵庫へと迷い込み、そこで生きる屍たちと出会う。
イサコ 原子爆弾の生き残り。20世紀の医師団に保護され、病院生活を送る。整ったものや綺麗なものが気に入らず、破壊的な言動を衝動のままに行い、夕凪を振り回していく。しかし、自分も冷蔵庫へ隔離される対象であることを知り、夕凪と病院を出ていくことを決意する。
20世紀の医師団 「20世紀を忘れる作業」と称して、20世紀の傷を21世紀に持ち込まないことを目的にマッカーサーからの命令で放射能に汚染されたものを回収する組織。集めたものは処理できないため、巨大な冷蔵庫に隔離している。
生きる屍たち 冷蔵庫の中で生きる放射能に汚染された者たち。自分たちを忘れようとする現世への恨みを持ち、とも子を利用して自分たちの恨みを冷蔵庫の外へ届ける機会を伺う。
オズ 50年後のコールドスリープから目覚めた青年。 自分以外の誰もいない孤独な世界で、妄想の友達と会話を交わすことで自分の存在を確かめている。とも子も自分の妄想だと思っており、とも子に恋心を抱く。
考察
「3.幕の設計」「4.シーンの設計」をまとめ、戯曲創作のプロセスを組み立てる。
脚注
参考文献・参考サイト
- 承認をめぐる病(2013) 斎藤環 著 日本評論社
- ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則(2018) Rovert Mucky 著 越前敏弥 訳 フィルムアート社
- ◯◯◯◯◯(1955) ◯◯◯◯ ◯◯書院