観光客の満足度構造研究

提供: JSSD5th2019
2019年11月12日 (火) 15:02時点における欧紹焜 (トーク | 投稿記録)による版
Jump to navigation Jump to search

- 糸島市を事例として -


欧紹焜 / 九州大学大学院芸術工学府デザインストラテジー専攻
Shaokun OU / Graduate School of Design, Kyushu University
田村良一 / 九州大学大学院芸術工学研究院デザインストラテジー部門
Ryoichi TAMURA / Faculty of Design, Kyushu University
Keywords: Tourist Attributes, Satisfaction, Causal relationship 


Abstract
According to researchers, we found that the satisfaction of customers is one of the keys of increasing the profits and influence on the other potential consumers for the sightseeing area. With the growth of foreign tourists visiting, the sightseeing area needs to care about the different types of satisfaction. This study focuses on the analysis of the structures of the tourist satisfaction by the questionnaire survey which was conducted in Itoshima City. And we aim to figure out the differences of tourist satisfaction’s structures between Japanese tourists and Chinese tourists by comparative analysis.


目的と背景

 近年、訪日外国人観光客数が急上昇しており[1]、観光地では競争優位を確保するため、日本人観光客だけではなく、外国人観光客に対しても集客しなければいけない状況にある。観光客を獲得するためには、観光客の満足度の構造を把握し、満足度を追求することが重要な課題といえる。
 そこで、本研究では、福岡県糸島市を事例として、日本人観光客と中国人観光客を調査対象として、観光地に対する評価と満足度を調査し、両者の満足度の構造の違いを検討した。


糸島市の概要

 糸島市は、中国の歴史書「魏志倭人伝」に記されている「伊都国」があった地である。福岡県西部の糸島半島に位置し、市北側には玄界灘に面した美しい海岸線が広がり、市南側には脊振山系の山々が連なっている[2]。糸島市観光振興基本計画によると、観光業界の振興は糸島市の基本目標「地域資源を生かした産業創出のまちづくり」の一部分として、重要な課題として位置づけられている[3]


研究の方法

既往研究と事例の調査

 アンケート調査項目を作成するため、観光客満足度に関する研究と論文、既存の満足度調査の事例を調査した。
 2007年から日本経済産業省とサービス産業生産性協議会が米国版顧客満足度指数(ACSI:American Customer Satisfaction Index)を原型として、日本版顧客満足度(JCSI:Japanese Customer Satisfaction Index )を開発した[4]。「顧客期待」「知覚品質」「知覚価値」「顧客満足」「推薦意向」「ロイヤルティ」の6つの調査項目から、満足度の構造を構築した。項目間の因果関係の強弱から、企業比較を実施し、企業のマーケティングへの戦略的示唆を導くことである[5]。しかし、観光地は飲食、交通、宿泊、物販、観光スポットなどの複数のサービス産業から形成されているため、単一企業を対象としたJCSIの質問内容が適切ではないと考えられる。
 才原清一郎(2016)は、観光客を対象とする満足度の構成要素を着目し、「宿泊施設」「観光施設」「飲食施設」「物販施設」の4つの満足度の形成要素を提示し、それぞれの評価と満足度間の関係の有無を検証した[6]。そして、山田雄一(2014)は、日本の観光地に適したモデルを考察し、観光客の基本的な行動、見る、泊まる、遊ぶ、食べる、買うに対応ように、調査項目を提示した[7]。さらに、国土交通省観光庁の観光地の魅力向上に向けた評価手法調査事業報告書は、観光地が主体となって実施できる調査手法を提示した[8]。これらの研究から、企業向けの満足度調査と観光地向けの満足度調査の違いを明確し、本調査項目の作成に参考価値があると考えた。


アンケート調査項目の作成

 今回の調査では、満足度の形成要因に着目するため、上記の既往研究や文献、調査事例を参考として、JCSIの満足度の構造を基に、観光地に適したと調査項目と質問内容を抽出した。さらに、糸島市の現状を配慮し、糸島市観光協会の専門家の助言を参考にして、「①自然や街並みなど、景観や雰囲気の良さ・心地よさ」「②部屋の質、食事の質など、宿泊施設の快適性・心地よさ」「③施設・体験の種類や数、内容など、観光・文化施設の楽しさ・充実度」「④食事の種類や数、内容など、食事のおいしさ・楽しさ」「⑤土産物・商品の種類や数、内容など、買い物の楽しさ・充実度」「⑥従業員や地域住民のおもてなし」「⑦イベントや祭り」「⑧地域内での移動」「⑨現地での各種情報の量や入手しやすさ」「⑩治安」の10個の観光地の評価項目を作成し、「大変良かった=7~大変悪かった=1」の7段階の評価を設定した。また、総合満足度について、「とても満足=7~とても不満=1」の7段階の評価を設定した。

アンケート調査方法

 アンケート調査は、2019年8月25日(日)から10月6日(日)の期間に、糸島市への日本人観光客と中国人観光客をターゲットとして、アンケート調査(調査票を配布し、回答記入後に回収する方法)とWebアンケート調査(調査票のページにアクセスできるQRコードを配布する方法)を併用して実施した。

分析の方法

 本調査では、日本人観光客と中国人観光客の満足度の構造の違いを把握するため、総合満足度を従属変数、①~⑩の観光地の評価項目を独立変数として、国別、さらに各国の男女別に回答結果を分類の上、重回帰分析を行い、それぞれの結果を比較した。


満足度の構造

図表1.回答者の性別・年齢

 表1に示すように、アンケート調査の結果、日本人観光客143名(男性43、女性100)、中国人観光客73名(男性27、女性46)から回答が得られた。



日本人観光客

図表2.日本人観光客の重回帰分析の結果

 表2に示すように、日本人観光客の全体でみてみると、重相関係数R=0.802、決定係数R2=0.643となった。重相関係数および決定係数の値は大きく、重回帰式の当てはまりは高く、「⑩治安」「①自然や街並みなど、景観や雰囲気の良さ・心地よさ」「③施設・体験の種類や数、内容など、観光・文化施設の楽しさ・充実度」の順番に、これらの評価項目が総合満足度に対してプラス方向に影響していることがわかった。
 また、性別ごとに比較してみると、日本人男性では重相関係数R=0.836、決定係数R2=0.699となった。「③施設・体験の種類や数、内容など、観光・文化施設の楽しさ・充実度」「④食事の種類や数、内容など、食事のおいしさ・楽しさ」「⑩治安」はプラス方向に影響しており、「②部屋の質、食事の質など、宿泊施設の快適性・心地よさ」はマイナス方向に影響していることがわかった。日本人女性では重相関係数R=0.836、決定係数R2=0.698となった。「⑩治安」「①自然や街並みなど、景観や雰囲気の良さ・心地よさ」はプラス方向に影響していることがわかった。共通点としては、男女ともに治安に対するイメージが重要な要素であることがわかった。相違点としては、女性では観光地の景観や雰囲気に対する評価が総合満足度に影響する傾向があるが、男性では施設や体験などの文化系の観光スポットを重視していることがわかった。



中国人観光客

図表3.中国人観光客の重回帰分析の結果

 表3に示すように、中国人観光客の全体でみてみると、重相関係数R=0.536、決定係数R2=0.288となった。重相関係数および決定係数の値は小さく、重回帰式の当てはまりはあまり高くないが、「①自然や街並みなど、景観や雰囲気の良さ・心地よさ」「⑧地域内での移動」の順番に、これらの評価項目が総合満足度に対してプラスの方向に影響していることがわかった。
 また、性別ごとに比較してみると、中国人男性では重相関係数R=0.743、決定係数R2=0.552となった。「⑨現地での各種情報の量や入手しやすさ」「⑩治安」はプラス方向に影響しているが、「②部屋の質、食事の質など、宿泊施設の快適性・心地よさ」「③施設・体験の種類や数、内容など、観光・文化施設の楽しさ・充実度」はマイナス方向に影響していることがわかった。中国人女性では、重相関係数R=0.540、決定係数R2=0.291となる。「①自然や街並みなど、景観や雰囲気の良さ・心地よさ」「⑥従業員や地域住民のおもてなし」「⑨現地での各種情報の量や入手しやすさ」はプラス方向に影響しているが、「⑩治安」はマイナス方向に影響していることがわかった。共通点としては、中国人男女性両方とも観光地の情報を重視しており、より良い情報の提供が中国人を集客ための重要課題だと考えた。相違点としては、景観や雰囲気と接客に対して、女性の方が男性より気にしており、中国人女性の総合満足度を達成するための重要な項目だとわかった。さらに、全体から示していないが、中国人男性が治安をより重視する傾向も見られた。



日本人観光客と中国人観光客の比較

 表2と表3の日本人観光客全体と中国人観光客全体の結果を比較すると、「①自然や街並みなど、景観や雰囲気の良さ・心地よさ」の項目が、国別差に関わらず、総合満足度にプラス方向に影響していることがわかった。しかし、「③施設・体験の種類や数、内容など、観光・文化施設の楽しさ・充実度」「⑩治安」については、日本人観光客では重視しているが、中国人観光客では総合満足度との相関性が強くないとわかった。「⑥従業員や地域住民のおもてなし」「⑨現地での各種情報の量や入手しやすさ」については、中国人観光客では強い相関性が見られるが、日本人観光客では総合満足度にあまり影響していないとわかった。
 さらに、同様の分析を国別の上で男女に分けて行ったところ、「③施設・体験の種類や数、内容など、観光・文化施設の楽しさ・充実度」についしては男性観光客の国別差が見られたが、女性観光客の方は明確ではなかった。同様に、「⑥従業員や地域住民のおもてなし」「⑧地域内での移動」「⑩治安」についしては女性観光客の方に国別差が見られたが、男性の方はほぼ同じ傾向を示した。「⑨現地での各種情報の量や入手しやすさ」については、男女性観光客両方ともに国別の差が見られ、総合満足度に影響していることがわかった。
 以上のように、性別差を 国別差が観光客の満足度の形成要因に影響している方面は、「⑨現地での各種情報の量や入手しやすさ」という情報提供の要素である。「⑧地域内での移動」という交通の要素、「⑥従業員や地域住民のおもてなし」「⑩治安」というイメージの要素、「③施設・体験の種類や数、内容など、観光・文化施設の楽しさ・充実度」という文化系の観光スポットの要素であることがわかった。これらの結果から、糸島市が集客のターゲットの違いにより、それぞれの項目から参考し、課題を抽出することが効果的だと考える。


まとめ

 本研究では、糸島市を事例として、日本人観光客と中国人観光客の満足度の構造について、両者の共通点と相違点を明確にした。今後の課題としては、研究の精緻度を高めるため、観光客のロイヤルティや推薦意向などを含む満足度の構造全体を検討することが必要であると考えられる。


謝辞

 本研究の調査では、糸島市観光協会の皆様の協力を得ました。ここに記して謝意を表します。


脚注

  1. 日本政府観光局JNTO「訪日外客数(2018年12月および年間推計値)」, https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/190116_monthly.pdf, 2019年4月19日閲覧
  2. 福岡県糸島市公式サイト, http://www.city.itoshima.lg.jp/s007/010/070/010/060/20190109091424.html, 2019年4月20日閲覧
  3. 糸島市観光振興基本計画, http://www.city.itoshima.lg.jp/s026/050/010/010/s010/kannkoukeikaku.pdf, 2019年4月20日閲覧
  4. サービス産業生産性協議会, https://www.service-js.jp, 2019年5月21日閲覧
  5. 小野譲司, 2010, JCSIによる顧客満足モデルの構築, マーケティングジャーナル, Vol.30(1), pp.20-34, 日本マーケティング協会
  6. 才原清一郎, 2016, 観光地を対象とした顧客満足モデルの構築, 東洋大学
  7. 山田雄一, 2014, 我が国観光地に適したロイヤルティ構成モデルの検討‐既往の構成モデルを基盤として, Vol.25,No.2,pp.15-23, 日本観光研究学会
  8. 国土交通省観光庁, 観光地の魅力向上に向けた評価手法調査事業報告書, https://www.mlit.go.jp/common/000126596.pdf, 2019年6月02日閲覧


参考文献・参考サイト

  • 山本祐子,圓川隆夫(2000), 顧客満足度とロイヤリティの構造に関する研究, Vol.51, pp.143-152, Japan Industrial Management Association
  • Yoon.Y,Uysal.M(2005), An examination of the effect of motivation and satisfaction on destination loyalty: A structural model, Vol.l26,pp.45-56, Tourism Management
  • 福岡県商工部観光局観光政策課「平成28年福岡県観光入込客推計調査」(1955),  http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/367390_54115016_misc.pdf, 2019年6月20日閲覧