水辺のレジャーを活性化するミニボートの設計研究

提供: JSSD5th2019
2019年11月12日 (火) 11:14時点における金子壮太 (トーク | 投稿記録)による版 (文献調査)
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Design research of mini boats that activate waterside leisure


金子壮太 / 九州大学芸術工学府芸術工学専攻
KANEKO Sota / Graduate School of Design, Kyushu University
尾方義人 / 九州大学 芸術工学研究院
OGATA Yoshito/ Faculty of Design, Kyushu University
Keywords: Boat Design,Boat Making,Boat leisure 


Abstract
Japanese marine leisure have been decreasing since end of bubble economy. Japanese marine leisure association make a plan that doubling its population. But, there are no concrete plan to invite people inexperienced marine leisure. Accordingly,I design new boat to invite new people to marine leisure. I set a situation that playing at "Ohori Pond" in "Ohori Park". This time, I design and make new boat from my experience of bachelor's study "Study of designing self making yacht".



背景と目的

 学士研究では、学生時代ヨット競技を行っていたが、社会人になりヨットをやめてしまったセーラーの復帰の為のヨットの自作キットの設計の研究を行った。自らのヨットの経験と調査をもとにヨットの自作キットの設計、制作、試乗、評価、再設計を行った。本研究ではヨットを含めたマリンレジャーの普及のためにボートやマリンレジャーに関心を有していない一般層や潜在的関心層の拡大強化のための機会として、レジャーボートの研究を行う。

研究の方法

 本研究では、 現地調査、文献調査をもとに、日本の水辺(海、湖、池、ダムなど)で楽しむことができるボートの設計、製作を行い、試作機による走行体験をもとに評価を行う。また、今回は具体例として福岡市の大濠公園の大濠池での使用を想定する。

現場調査

 具体的な例として福岡市の大濠公園の大堀池での使用を想定する。 現在大濠公園の大濠池ではスワンボート、自転車型ボート、手漕ぎボートの三種類があり、現地調査を行った6/2日曜日にはファミリー層や若い男女の利用が主要で、6/3月曜日には外国人観光客の利用が見られた。 今回、設計するボートは初心者でも操縦しやすく、安定しやすい船体である必要があり、また限られた広さの水域でも楽しめるような設計が求められる。また周囲に福岡市美術館、スターバックス、公園遊具、オフィス街がある為、静粛性に優れた手動、または電動の原動機を用いる必要がある。大濠池の水深は岸に近づくとかなり浅く(30cm前後)、ボートハウスとは反対側のボートの立ち入りが禁止されている南側の生物多様性ゾーンでの水深も浅かった。現在、南側の立ち入り禁止の場所はボートハウスの管理者から目の届かない場所で、安全管理や利用時間内にボート桟橋に帰れなくなる可能性があるため、柵を用いて池を仕切っている。

文献調査

 今回は初心者を対象とした為、船舶免許を取得していなくても操縦できるエンジン付きのミニボートの設計を行う。ミニボートとは船の全長3.3m未満 推進機関の出力が1.5kW未満(約2馬力) 直ちにプロペラの回転を停止することができる機構を有する船舶 の条件を満たす船舶のことである。しかしミニボートの事故が多いこともあり、課題となっている。*1 また、船型として一艘型(モノハル)、二艘型(カタマラン)、三艘型(トリマラン)が代表的で、今回は安定性の良さと、居住性の良さを考慮しトリマランの船型を選択した。 船底の形状にも複数種類があり、今回は大濠池の波が少なく水深が浅い特徴に適し、制作の難度の易化を可能にするフラットボトムを選択した。 船外機はガソリン空冷式、ガソリン水冷式、電動モーター式があるが周囲の環境を考慮した結果電動モーター式の船外機を選択した。

設計

 大濠公園の現地調査と文献調査をもとに設計の要件抽出を行った。 初心者が安心して操縦できるようにするために、今回は安定性に優れた三艘式のトリマラン型ボートを選定した。 サイドフロート(横船)はメインハル(本船)に対して後方側に設置する設計を行った。メインハルはフラットボトムで直進性が弱いため、直進性を確保するために後方に設置する設計を行った。*2また、後方に配置したのは船外機と乗員が後方に集中しており、後方の浮力が必要であるためでもある。二馬力船外機は騒音やその他の装置の取り付けなどを考慮すると電動のものが好ましいが、予算の都合上、今回はガソリン駆動式の船外機を代用品として用いた。しかし設計上ではバッテリーやその他の電装装置などの装置を積み込む空間を船体前方部に用意してあり電動式のものでも置き換えられるようにした。今回、設計は大きなサイドパネル、ボトムパネルのみ行い、簡易な試作模型を複数製作し、船体形状、乗員位置、バランスを考慮した。 また、内装等の細かな部品に関しては設計の段階で位置を決めておき、制作の現場で現物と合わせながら設計、製作を行った。

制作方法

船体の制作は、自身の学士研究の木製ヨット制作の際に使用したステッチアンドグルー工法を再び用いることにした。 ステッチアンドグルー工法は合板にドリルで穴を開け、銅線で縫い合わせ仮留めし、ペンチで銅線を捻り締めることで合板を曲げて成形する。その後にエポキシ樹脂等で接着を行う。強度が必要な床材や外側部にはガラス繊維を編み込んだクロスをエポキシ樹脂に浸して強度を確保する。ボートの塗装はメインハルとサイドフロートの一体感のために同様のパターンの塗装を施した。

制作

図1.製作中風景

 制作は大学の制作工房を利用して行った。8/20-11/1(11/1現在進行中)の期間で行った。 制作手順は合板に罫書き、カッティング、板継、ステッチング、接着、ガラス繊維コーティング、内装設計、取り付け、表面仕上げ、塗装、金具取り付けである。

考察

現段階での設計と制作過程における考察。ステッチアンドグルー工法を用いたため、船体の形に平面が多く、箱舟のような単調な印象を与えてしまいがちになるので、今回は曲線を多く作りだし、船体の印象を柔らかくスピード感のある船体にする設計を行った。制作では、メインのパネルに対して内装のパーツや上面の合わせのパーツなどを組みあげることに不安があったが、現物あわせで設計と制作を行うことで、前回の学士制作の際の全てのパーツを切り出して行った手順よりも今回は精度よく組み上げていくことができた。これはステッチアンドグルー工法が使用する合板の木種やそりの影響で設計通りに組みあがりにくい為であることや現物あわせだと制作途中で細かな修正をすることが可能になるためと考えられる。 また、本研究のような設計、制作の手順を同時に進め、プロトタイプ完成までの工期を早め、体験機会を増やすプロダクトデザイン手法についても考察の余地があると考える。

今後の展望

 11月中に進水を予定しており、複数の対象者に試走してもらい、評価を行う。また大濠公園の大濠池だけではなく、五箇山ダムのキャンプ場や、マリノアシティ福岡のマリーナ等でも進水実験を行い、気温、波、風等の気候や環境の影響による操縦感や乗り味の違い評価だけでなく、周辺の施設やそれに伴う行動との関連についても調査を行う予定である。それらの評価を設計要件にマリンレジャー初心者のきっかけとなるボートの再設計を行う予定である。付随して周囲の環境、特に桟橋やポンツーンなどの設計やデザインについても考察する予定である。

脚注

  • *1 平成15年に免許や船舶検査が不要な船舶(以下、ミニボート)の範囲が拡大された。
  • *2 広島大学大学院工学研究科の安川宏紀らの研究で三胴船におけるアウトリガーの配置で後方に設置すると直進性が向上する実験結果が得られた。

参考文献・参考サイト

  • ミニボートに乗る前に 知っておきたい安全知識と準備 (https://www.mlit.go.jp/maritime/senpaku/miniboat/miniboat_final_pdf_0127.pdf) (2011) 国土交通省海事局船舶産業課舟艇室 発行
  • プレジャーボートの適正管理及び利用環境改善のための総合的対策に関する推進計画 (2013) 国土交通省 水産庁 発行
  • マルチハル船のフィジビリティ検討委員会報告書 p97-108 (2009) 大阪府立大学 小浦拓也 他
  • 高速三胴船の性能に及ぼすアウトリガーの配置の影響 操縦性 (2005) 広島大学大学院工学研究科 安川宏紀 他