キテンゲ布に対する消費者意識と日本人向け商品開発に関する一考察

提供: JSSD5th2019
2019年11月8日 (金) 23:08時点における吉水久乃 (トーク | 投稿記録)による版 (5. まとめと考察)
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吉水久乃 / 九州大学大学院芸術工学府
Hisano YOSHIMIZU / Kyushu University
岸川明香里 / 九州大学芸術工学部環境設計学科
Akari KISHIKAWA / Kyushu University
都甲康至 / 九州大学 大学院芸術工学研究院
Yasushi TOGO / Faculty of Design, Kyushu University
Keywords: Social Business, Consumer Consciousness


Abstract
80語 英語



1. 背景と目的

 近年、社会的課題を解決するためにビジネスの手法を用いて取り組むソーシャルビジネスが注目されている。こうしたビジネスを途上国支援の分野で起こす人々もおり、従来とは異なる支援のかたちが生まれている。ソーシャルビジネスには、社会性とともに、革新性と事業性が必要とされ(注1)、いかに事業の持続可能性を形作っていけるかが重要だと考えられる。
 本研究は、アフリカ、ルワンダを拠点にこうしたソーシャルビジネスを展開するKISEKI CORPORATION LTD(以下、KISEKI)の活動に注目し、そのうちの1つである「Dress for Two」(2018年~)というプロジェクトの商品開発(衣料品)を対象としている。黎明期にあるソーシャルビジネスを対象とすることで、社会性・革新性と両立させながら事業性を確立していく過程を探れると考えた。

 Dress for Twoの企画・経営者は社会性を強く意識しており、その文脈で特色ある商品制作・販売過程を開発(革新性)している。一方、消費者がチャリティのために商品を購入するのは本意ではないとして、事業性を意識している。事業の持続可能性のためには、チャリティ意識とは関係なく消費者の受容性が高い商品を開発する必要がある。

 そこで本研究では、新規のソーシャルビジネスが事業性を確立していく過程を探る基礎調査として、Dress for Twoの商品を構成するキテンゲ布に対する消費者意識を分析し、受容性の特徴を明らかにすることを目的とする。

2. 文献調査

2-1.KISEKIの展開するソーシャルビジネスとDress for Twoの位置づけ

 KISEKIは2016年に日本人夫妻がルワンダで起業した会社で、首都キガリのスラム街に居住するシングルマザーの生活改善を目標に、地元コミュニティと連携して活動している。生活改善支援では特に雇用創出に力を入れており、KISEKIへの雇用、職業訓練の実施、仕事の斡旋、個人が商売を行えるよう会社敷地を開放する等の活動を実施している。
 一方、本研究で着目するDress for Twoは、生活改善支援の中でもシングルマザーのQOLの向上を目指すプロジェクトである。このプロジェクトのために同名の会社を独立して設立しており、日本に共同経営者をおくが、KISEKIの事業の一環という位置づけである。

2-2.Dress for Twoプロジェクトの概要と特色

 Dress for TwoプロジェクトはスラムのシングルマザーのQOLの低さを社会問題ととらえ、ファッションを通じて幸せを運ぶという理念を持つ。ルワンダで販売されているキテンゲ布のうち、品質の良いワックスプリントのもので衣料品や小物の商品を制作し、日本とルワンダの双方で販売する。ルワンダではキテンゲ布がファッションのアイテムであり、生地を購入して好みの服に仕立てて楽しむ文化があることが前提となっている。現在は少量を販売してみながら商品開発を進めている段階である。
 プロジェクトの特色は、6ヤード(約5.5m)長で流通するキテンゲ布を半分ずつに分けて同じ柄のペアの商品を仕立て、双方の国で売るところである。日本側で高めの価格で販売することで、ルワンダ側での販売価格を引き下げ(注2)、スラムのシングルマザーに向けて限定販売している。つまり、日本の購買者がファッションを楽しむ行動を通じて、間接的に貧しいルワンダ女性のファッションの楽しみを支援でき、心のつながりを感じることができるという仕組みだ。このビジネスにおける革新性は、ストーリー性を生むキテンゲ布の加工・販売方法にあり、キテンゲ布の存在自体がこのビジネスの中心を占めていると考えられる。


図2.キテンゲ布の一例

2-3.キテンゲ布について

 キテンゲ布は、別称アフリカンプリントといわれる、綿100%のプリント地である。ルワンダでは、市場や布問屋で6ヤード(約5.5m)単位で販売されていることが多く、市民は購入した布でドレスなどの服を仕立てたり、そのまま体や頭に巻いたりするなどして日常利用もしている。図2のような大胆な色柄と、同じ店でも同じ柄は手に入りにくいほぼ一点ものという特徴がある。ただし、類似パターンや似たようなモチーフは存在する。




3. 調査方法(フィールド調査)

表1.調査実施概要

3-1.調査の目的

  文献調査によれば、Dress for Twoプロジェクトがビジネスとして成立するためには、日本での購買者が欠かせない。取り扱う商品はほとんどキテンゲ布製のため、日本人の生地に対する消費者意識は商品の受容性に大きく関わる。
 そこで、表1のように九州大学の日本人学生53名を対象とし、キテンゲ布に対する消費者意識を尋ねるアンケート調査を実施した。

図3.アンケート様式

3-2.調査の方法

①食堂で無作為に声を掛ける方法で回答者を得る。その際、回答者の男女比がほぼ同じになるように注意した。
②被験者に画像資料を用いてキテンゲ布の説明をし、12点の実物サンプルを見たり触ったりしてもらう。
③アンケート(図3)に記入してもらい、その場で回収する。
④アンケートの回答に関する補足の質問を数点尋ねる。
※調査の際、アンケート回答者にはDress for Twoプロジェクトのことや、商品開発の背景にあるコンセプトについては一切説明せず、布についての消費者意識を問うこととした。

3-3.アンケートの構成

・キテンゲ布の生地自体についての認知度や印象(A-1~A-3)
・商品に加工された時にいだく興味の度合いおよび購買意識(A-4~A-6)
・回答者の属性に関わる項目(B-1~B-4)

 商品は(1)シャツ(2)エプロン(3)ハーフパンツ(4)バッグ(5)ワンピース(6)スカート の6種類を想定した。
 なお、商品においては、購買意識に直結しなくても様々な意味で関心を引けるかどうかが重要と考えたため、A-4設問中で「興味を持ちますか」という解釈の幅の広い言葉をあえて用い、アンケート終了後にどのような場面を想定して答えたかについて聞き取りを行った。



4. 結果

図4.回答者の所属(学部・学府)
図5.キテンゲ布製商品への興味の度合い
図6.キテンゲ布製商品への購入意欲

4-1. 単純集計の結果

 日本人学生53人(男性31人、女性22人)から回答を得られ、所属は図4のようであった。
 普段からアフリカ雑貨に興味を持つ者は15%にとどまり、「キテンゲ」という言葉で生地を認識している者は一人もいなかったが、全体の34%(18人)は「似たようなものを見たことならあった」。見た場所については、テレビ・エスニック系の輸入雑貨店・ハワイなどの回答があり、キテンゲ布がエスニックな柄の生地の一種として認知されたことが伺える。
 初見の人が多かったが、キテンゲ布の柄が「好き」と回答した人は合わせて全体の7割以上(40人)となった。

 キテンゲ布で作った6種類の衣料品を想定してもらい、それぞれに対してどのくらい興味を持つか尋ねたところ、シャツに興味を示す人の割合が最も多く、エプロンが最も少なかった(図5)。さらに、それらが商品化した場合に買ってみたいか複数回答可で尋ねたところ、シャツの回答が最多、次いでバッグだった(図6)。
 バッグは前項の質問で「(商品となった場合)興味がある」と回答した人の約56%、シャツは約51%が「買ってみたい」と回答し、女性もののスカート・ワンピース、またエプロンは3割を下回った。




表2.クラメール連関係数の表す関連度の強さ
表3.クロス集計分析

4-2. クロス集計の分析

 商品に対する興味の度合いには何が影響するのか調べるためクロス集計し、χ2 統計量を用いて独立性の検定を行った。有意水準はα=0.05とし、片側検定を用いた。χ2 検定が有意であればクラメールの連関係数を算出して、表2(注3)に基づき関連の度合いを導いた。
 興味への要因として、
①性別
②所属キャンパス(デザイン系の学生か否か)
③柄の好き嫌い
④生地を見たことがあったか
⑤普段からのアフリカ系ファッション・雑貨への興味
の5つを仮定して、6種類の商品について分析を行った結果、表3のようになった。

 ①では女性ものの商品には連関がみられた。②ではハーフパンツのみ連関がみられた。③④の柄の認知度や印象とは連関がみられなかったが、⑤はシャツ・ワンピース・スカートで連関があった。




5. まとめと考察

5-1. 考察

 キテンゲ布に対する消費者意識についてのアンケート調査を分析した結果から、日本人向け商品開発に関して以下のように考察した。
①キテンゲ布の認知度は低いが、初見の印象は比較的良い。
②商品になった場合の興味の度合いは全体的に高かったため、日本でもキテンゲ布製の衣料品はある程度受け入れられるのではないか。特にシャツ、バッグなどファッションの一部となるものへの興味の度合いが高かった一方、エプロンは他と比べて低かった。これは、エプロンがファッションの一部になりにくいことが影響するのではないか。
③興味の高さと購買意識は必ずしも一致しなかった。だが「興味」という言葉は、回答者により様々に解釈されていたため、商品自体が様々な意味で興味を引ける可能性があると考えられる。「興味」を解釈する際、ファッションとしての着合わせなどまでイメージした人もいた。馴染みのない色柄であるので、商品化の際にはコーディネートの提案まですると興味を持つ人を増やせるのではないか。
④独立性の検定からは、興味の度合いに関わる因子を導くことができた。特に「普段からのアフリカンファッション・雑貨などへの興味」は複数の商品で強い連関がみられた。「柄の好き嫌い」とは連関がみられなかったが、これは「布としては好きだが服としては着られない」という場合などがあるためだと考えられる。商品開発の方針として、衣料品以外の布製品も展開する・日本人の身につけやすい色柄の選定に注力するなどがあげられるが、プロジェクトの肝であるストーリー性を強められる選択をすることが重要だと考える。

5-2. まとめ

 本研究では、新規のソーシャルビジネスであるDress for Twoプロジェクトの商品開発に注目し、商品を構成するキテンゲ布について日本人の消費者意識を明らかにした。
 文献調査では、このビジネスにおいて「キテンゲ布」が単なる商品の材料ではなく、キテンゲ布を中心に社会性・革新性を実現しようとしている様を示した。また、このビジネスは日本と現地の両輪で成り立つことも示し、日本における商品の受容性が重要であると確認した。
 アンケート調査の分析結果からは、キテンゲ布自体も、それを用いたファッションも日本で受け入れられる可能性が示せた。また、特に「普段からのアフリカンファッション・雑貨などへの興味」が商品との興味に強く連関するが、普段から馴染みのない人であっても、日本人に合わせた生地の選定や、コーディネートの提案をすることで、興味を購買意欲につなげていけるだろう。

5-3. 今後の展望

 今回は、「ファッションを通じて幸せを運ぶ」コンセプトにまつわるストーリーを回答者に伝えずに調査を実施した。しかし商品開発もこのストーリー性を強める方向性で進めることが重要だと考えている。
 10月6日に、Dress for Twoのコンセプトを前面に出して販売している状況下(イベント)で、商品・キテンゲ布についての印象を聞くアンケートを実施した。今後はこの結果も併せて分析することで、実際に購入意欲の要因になっているのは何か、Dress for Twoのコンセプトやそれを体現する革新的な事業の仕組が効果的に消費者に伝わっているのか、を考察したい。

脚注

注1 経済産業省ソーシャルビジネス研究会報告書(平成20年4月)
注2 http://all-about-africa.com/dress-for-two/ によれば、比率はシングルマザー1:4日本人ゲスト である。 注3 参考サイト https://istat.co.jp/sk_commentary/kai2_test_02 による


参考文献・参考サイト