「デザイン概念の概念デザイン」の版間の差分

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情報デザインの地平をひらく(1)
 
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; 宝珠山 徹 / 西日本工業大学 デザイン学部
 
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; Abstract
 
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: What is design? This research aims to re-design an alternative way of thinking for generating alternative contexts for designing processes. It refers to understanding the process of creating a world that is our living environment, and the "contextual designing" that encourages new designs. I want to extract the possibility of context generation of how the system exists as the <place> where the design concept occurs. Interpretation of the concept of "design"  in Japanese should be re-understood in a new way that is as close to the original usage in English as <design>and<designate>. <br><br>
 
: What is design? This research aims to re-design an alternative way of thinking for generating alternative contexts for designing processes. It refers to understanding the process of creating a world that is our living environment, and the "contextual designing" that encourages new designs. I want to extract the possibility of context generation of how the system exists as the <place> where the design concept occurs. Interpretation of the concept of "design"  in Japanese should be re-understood in a new way that is as close to the original usage in English as <design>and<designate>. <br><br>
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==目的と背景==
 
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デザインが、デザイン・コンセプトが発生する<場>そのものは、如何にして存在するのか、そのコンテクスト生成(文脈編成)の可能性を抽出したい。社会的ニーズ(与件)に応えることを目的とした従来の「行為としてのデザイン」は、より大局的な観点から、その在り方・見え方(存在認識/認識存在)を変えることになるだろう。<br><br>
 
デザインが、デザイン・コンセプトが発生する<場>そのものは、如何にして存在するのか、そのコンテクスト生成(文脈編成)の可能性を抽出したい。社会的ニーズ(与件)に応えることを目的とした従来の「行為としてのデザイン」は、より大局的な観点から、その在り方・見え方(存在認識/認識存在)を変えることになるだろう。<br><br>
 
述者の活動領域キーワードは、「情報デザイン」「メディア表現」「デザイン振興」である。
 
述者の活動領域キーワードは、「情報デザイン」「メディア表現」「デザイン振興」である。
現在は大学教員として研究・教育・社会事業に携わっているが、前職は「公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)」<ref>公益財団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)公式サイト, https://www.jagda.or.jp,  2020年10月5日閲覧</ref>本部事務局において、グラフィックデザインを通じて社会に貢献することを目的とする「公益事業」(主に、日本におけるグラフィックデザインのデジタル化・情報化推進、デザインによる地域振興、国際交流事業、等)に携わってきた。とりわけ1990年から1999年までの間、日本におけるグラフィックデザインのデジタル化・情報化推進のための諸事業に携わった経験とそれへの反省から、ブロードバンド化しユビキタス化したインターネット環境が普及し尽くした感のある現在のコミュニケーション環境を振り返る時、次のような感慨を懐かざるを得ない:情報化の進展、高度化・複雑化の進展には「キリがない」、という実感とともに、わたしたちが推し進めてきたことは、はたして「これで良かったのか?」、こういう「世界」を望んでいたのか、という思いを懐かざるを得ないのである。そこから本研究では、情報デザインにおける根源的「最小構成原理」をモデル化し、提示することを試みる。「吾唯知足」<ref>龍安寺公式サイト②「吾唯知足」, http://www.ryoanji.jp/smph/guide/grounds.html,  2020年10月5日閲覧</ref>と古人は述べたが、現代のわたしたちは、際限なく高度化・複雑化する社会と世界の在りようを、どのように捉え理解し、デザインすることができるだろうか。
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現在は大学教員として研究・教育・社会事業に携わっているが、前職は「公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)」<ref>公益財団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)公式サイト, https://www.jagda.or.jp,  2020年10月5日閲覧</ref>本部事務局において、グラフィックデザインを通じて社会に貢献することを目的とする「公益事業」(主に、デザインの普及啓発事業、デザイン教育支援、グラフィックデザイナーの組織化、日本におけるグラフィックデザインのデジタル化・情報化推進、デザインによる地域振興、国際交流事業、等)に携わってきた。とりわけ1990年から1999年までの間、日本におけるグラフィックデザインのデジタル化・情報化推進のための諸事業に携わった経験とそれへの反省から、ブロードバンド化しユビキタス化したインターネット環境が普及し尽くした感のある現在のコミュニケーション環境を振り返る時、次のような感慨を懐かざるを得ない:情報化の進展、高度化・複雑化の進展には「キリがない」、という実感とともに、わたしたちが推し進めてきたことは、はたして「これで良かったのか?」、こういう「世界」を望んでいたのか、という思いを懐かざるを得ないのである。そこから本研究では、情報デザインにおける根源的「最小構成原理」をモデル化し、提示することを試みる。「吾唯知足」<ref>龍安寺公式サイト②「吾唯知足」, http://www.ryoanji.jp/smph/guide/grounds.html,  2020年10月5日閲覧</ref>と古人は述べたが、現代のわたしたちは、際限なく高度化・複雑化する社会と世界の在りようを、どのように捉え理解し、デザインすることができるだろうか。
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==語源的考察==
 
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===「区別」としての<design>===
 
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<design>の語源に近い、古いラテン語である<designare>(デジニャーレ)の英訳(Notre Dame University<ref>Notre Dame University, https://www.nd.edu/research/,  2020年10月4日閲覧</ref>,Latin-English Dictionary)を引くと、次のように表現されている:
 
英訳では、mark; point/mark/trace out, outline/describe; indicate/designate/denote<br>
 
英訳では、mark; point/mark/trace out, outline/describe; indicate/designate/denote<br>
 
和訳すると、マークする、指示、なぞる、アウトライン、説明、表示、指定する、示す、となる。<br>
 
和訳すると、マークする、指示、なぞる、アウトライン、説明、表示、指定する、示す、となる。<br>
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<designare>は、イタリア語のdisegno、フランス語のdessin、英語のdesignate、designに連なる語である。<br>
 
<designare>は、イタリア語のdisegno、フランス語のdessin、英語のdesignate、designに連なる語である。<br>
 
<design>をその語源から見てくると、元々「デザイン」という日本語訳での「計画・設計・意匠」というような限定的な意味内容にとどまらず、むしろ広く「デッサン」(しるしを付けアタリをとる)や<designate>(境界を区別し、指定する)と近い概念であることが理解される。このような理解からは、拡張するデザイン領域の広がりに応じて、これまで「デザイン」という日本語で流通してきた「デザイン概念」の意味解釈の範囲を拡張し、可能なかぎり英語の<design><designate>という、本来の用法に近い仕方で理解し直すこと、「デザイン概念の概念デザイン」を「区別」し直し、再びリデザインすることが要請されるのである。<br>
 
<design>をその語源から見てくると、元々「デザイン」という日本語訳での「計画・設計・意匠」というような限定的な意味内容にとどまらず、むしろ広く「デッサン」(しるしを付けアタリをとる)や<designate>(境界を区別し、指定する)と近い概念であることが理解される。このような理解からは、拡張するデザイン領域の広がりに応じて、これまで「デザイン」という日本語で流通してきた「デザイン概念」の意味解釈の範囲を拡張し、可能なかぎり英語の<design><designate>という、本来の用法に近い仕方で理解し直すこと、「デザイン概念の概念デザイン」を「区別」し直し、再びリデザインすることが要請されるのである。<br>
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==「中動態」とは違う仕方で==
 
==「中動態」とは違う仕方で==
本稿では充分触れることができないが、今後の展開としては「情報デザイン論」を経由し、流行中の「中動態」とは異なる方法で、デザインによる「世界」制作/生成の存在認識/認識存在の地平をひらく論考を、次の項目において、順次展開していく予定である。
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本稿では充分触れることができないが、今後の展開として「情報デザイン論」を経由し、流行中の「中動態」とは異なる方法で、デザインによる「世界」制作/生成の存在認識/認識存在の地平をひらく論考を、次のような各項目において、順次展開していく。
 
===汎デザイン論===
 
===汎デザイン論===
 
「この世の存在者は全てデザイン・プロセスである」という、「人工」「自然」の二項対立を止揚するデザイン論。<br>
 
「この世の存在者は全てデザイン・プロセスである」という、「人工」「自然」の二項対立を止揚するデザイン論。<br>
例えば、「ビーバーのダム」はダムなのか?、遺伝子組み換え作物は「人工物」なのか、「文化」は誰がデザインするのか、「いのち」をデザインし得るのか、等。
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例えば、「ビーバーのダム」はダムなのか?、遺伝子組み換え作物は「人工物」なのか、「文化」は誰がデザインするのか、「いのち」をデザインし得るのか、「神」概念は人工物か、、等。記号表現と対象と語り/語られの関係において、「区別」としてのデザイン論を述べる。
 
===複眼的構成法<ref>宝珠山徹「情報デザインにおける複眼的構成法」(CiNii論文), https://ci.nii.ac.jp/naid/130005453940,  2020年10月5日閲覧</ref>===
 
===複眼的構成法<ref>宝珠山徹「情報デザインにおける複眼的構成法」(CiNii論文), https://ci.nii.ac.jp/naid/130005453940,  2020年10月5日閲覧</ref>===
二項対立的存在者の在り方を「デザインの解釈学」と「顕現せざるものの現象学」の重ね合わせにおいて表現する、デザイン制作/生成(ポイエーシス/オートポイエーシス)過程の理解・表現方法を提案する。述者は便宜的に、この原理を「不二不二論」(不二不二二元論)と呼んでいる。ここでは伝統的な東洋思想の思想表現において「不一不二」「二而不二」等の表現を与えられる存在者間の相関表現を、現代的理性で捉えるための拡張が施されている。弘法大師 空海が両界(金剛界・胎蔵)マンダラの重ね合わせで試みた表現でもあり、実存主義と拡張された構造主義との重ね合わせでもある。
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二項対立的存在者の在り方を「デザインの解釈学」と「顕現せざるものの現象学」の重ね合わせにおいて表現する、デザイン制作/生成(ポイエーシス/オートポイエーシス)過程の理解・表現方法を提案するものである。存在認識/認識存在の「二重の二重性」にもとづく、実存論と拡張された構造論との重ね合わせでもある。述者は便宜的に、この原理を「不二不二論」(不二不二二元論)と呼んでいる。これは東洋思想において「不一不二」「二而不二」等と表現される存在者間の相関表現に、現代的理性で理解し易いよう便宜的拡張(方便)を施したものである。<br>
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また本稿に頻出するように、例えば、漢字二文字による語を二重に重ねて「四字熟語化」することで、多重的・複合的、融合的な状態の概念化を可能とする。能動態/受動態の重ね合わせ、主体/対象、主観/客観の重ね合わせ、さらにそれら視点の「反転構成」「動的構成」「再帰的循環構成」を可能とする、メディア表現/記号表現の構成法である。これは日本語話者による「中動態」的事態の理解を容易にするとともに、既知の日本語表現の秩序そのものに更新を促すだろう。
 
===「絶対矛盾的自己同一」===
 
===「絶対矛盾的自己同一」===
 
西田幾多郎による概念表現である「絶対矛盾的自己同一」とはどのような事態か、を契機として、東西哲学思想に通底する「叡智的概念」について考察する。
 
西田幾多郎による概念表現である「絶対矛盾的自己同一」とはどのような事態か、を契機として、東西哲学思想に通底する「叡智的概念」について考察する。
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==まとめ==
 
==まとめ==
 
デザインとはなにか、語源に遡り、デザイン概念をあらためて捉え直すことを通して、新たなデザインの捉え方(概念)をデザインする可能性について提示した。そこでは、デザイン存在の地平をひらき、わたしたちの生存環境である「世界」生成過程の理解と、あらたなデザイン生成をうながす「contextual designing」(文脈編成)について、自己生成的に言及した。これまで「デザイン」という日本語で流通してきた「デザイン概念」の意味解釈の範囲を拡張し、可能なかぎり英語の<design><designate>という、本来の用法に近い仕方で理解し直すことから、「デザイン概念の概念デザイン」を「区別」し直し、再びリデザインすることで、デザイン可能性を拡張し得ることを示した。<br>
 
デザインとはなにか、語源に遡り、デザイン概念をあらためて捉え直すことを通して、新たなデザインの捉え方(概念)をデザインする可能性について提示した。そこでは、デザイン存在の地平をひらき、わたしたちの生存環境である「世界」生成過程の理解と、あらたなデザイン生成をうながす「contextual designing」(文脈編成)について、自己生成的に言及した。これまで「デザイン」という日本語で流通してきた「デザイン概念」の意味解釈の範囲を拡張し、可能なかぎり英語の<design><designate>という、本来の用法に近い仕方で理解し直すことから、「デザイン概念の概念デザイン」を「区別」し直し、再びリデザインすることで、デザイン可能性を拡張し得ることを示した。<br>
 
引き続き「情報デザイン論」を経由して、「中動態」とは異なる仕方で、デザインによる世界生成の在り方について、論考を展開していく。
 
引き続き「情報デザイン論」を経由して、「中動態」とは異なる仕方で、デザインによる世界生成の在り方について、論考を展開していく。
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==脚注==
 
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2020年10月16日 (金) 21:14時点における最新版

情報デザインの地平をひらく(1)


宝珠山 徹 / 西日本工業大学 デザイン学部
HOSHUYAMA Toru / Nishinippon Institute of Technology, Faculty of Design

Keywords: concept of design, design concept, concept designing, contextual designing, information design, design informatics, philosophy, phenomenology, theory of design

Abstract
What is design? This research aims to re-design an alternative way of thinking for generating alternative contexts for designing processes. It refers to understanding the process of creating a world that is our living environment, and the "contextual designing" that encourages new designs. I want to extract the possibility of context generation of how the system exists as the <place> where the design concept occurs. Interpretation of the concept of "design" in Japanese should be re-understood in a new way that is as close to the original usage in English as <design>and<designate>.


目的と背景

What is design?
デザインとはなにか、デザイン概念をあらためて捉え直すことを通して、新たなデザインの捉え方(概念)をデザインし、未来のデザイン振興に資することを、本研究は目的としている。まだニーズのないところにデザイン存在の地平をひらく可能性、そのような存在認識/認識存在を生成・展開すること。社会的与件(予め与えられた前提条件)から始めるのではなく、「それ以前」から始まる、与件が引き出されるに至った構造形成の動的過程(プロセスの生成、デザイン・プロセス)そのものを捉える視点の生起、すなわちわたしたちの生存環境である「世界」生成過程の理解と、あらたなデザイン生成をうながすための「contextual designing」(文脈編成)について、自己生成的に言及するものである。
デザインが、デザイン・コンセプトが発生する<場>そのものは、如何にして存在するのか、そのコンテクスト生成(文脈編成)の可能性を抽出したい。社会的ニーズ(与件)に応えることを目的とした従来の「行為としてのデザイン」は、より大局的な観点から、その在り方・見え方(存在認識/認識存在)を変えることになるだろう。

述者の活動領域キーワードは、「情報デザイン」「メディア表現」「デザイン振興」である。 現在は大学教員として研究・教育・社会事業に携わっているが、前職は「公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)」[1]本部事務局において、グラフィックデザインを通じて社会に貢献することを目的とする「公益事業」(主に、デザインの普及啓発事業、デザイン教育支援、グラフィックデザイナーの組織化、日本におけるグラフィックデザインのデジタル化・情報化推進、デザインによる地域振興、国際交流事業、等)に携わってきた。とりわけ1990年から1999年までの間、日本におけるグラフィックデザインのデジタル化・情報化推進のための諸事業に携わった経験とそれへの反省から、ブロードバンド化しユビキタス化したインターネット環境が普及し尽くした感のある現在のコミュニケーション環境を振り返る時、次のような感慨を懐かざるを得ない:情報化の進展、高度化・複雑化の進展には「キリがない」、という実感とともに、わたしたちが推し進めてきたことは、はたして「これで良かったのか?」、こういう「世界」を望んでいたのか、という思いを懐かざるを得ないのである。そこから本研究では、情報デザインにおける根源的「最小構成原理」をモデル化し、提示することを試みる。「吾唯知足」[2]と古人は述べたが、現代のわたしたちは、際限なく高度化・複雑化する社会と世界の在りようを、どのように捉え理解し、デザインすることができるだろうか。


研究の方法

生成しシリーズ化する論文構成として、デザイン論を展開し、デザインの「メタ・コンテクスト」を提示する。本稿はその序論である。また、次稿以降において、広義の「情報デザイン」における世界存在の理解表現について、根源的「最小構成原理」(アルゴリズム)をモデル化し、提示する予定である。
このような最小限のアルゴリズムを、社会成員一人ひとりが理解し共有した上で、自律的に生きコミュニケーションを展開することから生起してくる自己生成的社会構成。そのプロセスをデザインすることが、デザイン教育のはたらきであり、学びの可能性であるだろう。自由で秩序ある社会的コミュニケーションから生起する世界。ここで提起される広義の「情報デザイン」のひらく地平とは、そのような未来への「可能性のデザイン」であるだろう。



語源的考察

「区別」としての<design>

<design>の語源に近い、古いラテン語である<designare>(デジニャーレ)の英訳(Notre Dame University[3],Latin-English Dictionary)を引くと、次のように表現されている: 英訳では、mark; point/mark/trace out, outline/describe; indicate/designate/denote
和訳すると、マークする、指示、なぞる、アウトライン、説明、表示、指定する、示す、となる。

designare [4]
design.are V 1 1 PRES ACTIVE INF 0 X
design.are V 1 1 PRES PASSIVE IND 2 S Early
design.are V 1 1 PRES PASSIVE IMP 2 S
designo, designare, designavi, designatus V TRANS [XXXBO]
mark; point/mark/trace out, outline/describe; indicate/designate/denote;
earmark/choose; appoint, elect (magistrate); order/plan; scheme. perpetrate;
Syncope r => v.r
Syncopated perfect often drops the 'v' and contracts vowel
designav.ere V 1 1 PERF ACTIVE IND 3 P
designo, designare, designavi, designatus V TRANS [XXXBO]
mark; point/mark/trace out, outline/describe; indicate/designate/denote;
earmark/choose; appoint, elect (magistrate); order/plan; scheme. perpetrate;
(以上、出典 Notre Dame University Latin-English Dictionary)

Google Translateによる<designare>の英訳は<designate>にあたり、<designate>の和訳は「指定する」とされる。
Goole Translate: (Latin)designare, (English)designate https://translate.google.com/?hl=en#la/en/designare

「デザイン」を「区別」し直す

<designare>は、イタリア語のdisegno、フランス語のdessin、英語のdesignate、designに連なる語である。
<design>をその語源から見てくると、元々「デザイン」という日本語訳での「計画・設計・意匠」というような限定的な意味内容にとどまらず、むしろ広く「デッサン」(しるしを付けアタリをとる)や<designate>(境界を区別し、指定する)と近い概念であることが理解される。このような理解からは、拡張するデザイン領域の広がりに応じて、これまで「デザイン」という日本語で流通してきた「デザイン概念」の意味解釈の範囲を拡張し、可能なかぎり英語の<design><designate>という、本来の用法に近い仕方で理解し直すこと、「デザイン概念の概念デザイン」を「区別」し直し、再びリデザインすることが要請されるのである。


「中動態」とは違う仕方で

本稿では充分触れることができないが、今後の展開として「情報デザイン論」を経由し、流行中の「中動態」とは異なる方法で、デザインによる「世界」制作/生成の存在認識/認識存在の地平をひらく論考を、次のような各項目において、順次展開していく。

汎デザイン論

「この世の存在者は全てデザイン・プロセスである」という、「人工」「自然」の二項対立を止揚するデザイン論。
例えば、「ビーバーのダム」はダムなのか?、遺伝子組み換え作物は「人工物」なのか、「文化」は誰がデザインするのか、「いのち」をデザインし得るのか、「神」概念は人工物か、、等。記号表現と対象と語り/語られの関係において、「区別」としてのデザイン論を述べる。

複眼的構成法[5]

二項対立的存在者の在り方を「デザインの解釈学」と「顕現せざるものの現象学」の重ね合わせにおいて表現する、デザイン制作/生成(ポイエーシス/オートポイエーシス)過程の理解・表現方法を提案するものである。存在認識/認識存在の「二重の二重性」にもとづく、実存論と拡張された構造論との重ね合わせでもある。述者は便宜的に、この原理を「不二不二論」(不二不二二元論)と呼んでいる。これは東洋思想において「不一不二」「二而不二」等と表現される存在者間の相関表現に、現代的理性で理解し易いよう便宜的拡張(方便)を施したものである。
また本稿に頻出するように、例えば、漢字二文字による語を二重に重ねて「四字熟語化」することで、多重的・複合的、融合的な状態の概念化を可能とする。能動態/受動態の重ね合わせ、主体/対象、主観/客観の重ね合わせ、さらにそれら視点の「反転構成」「動的構成」「再帰的循環構成」を可能とする、メディア表現/記号表現の構成法である。これは日本語話者による「中動態」的事態の理解を容易にするとともに、既知の日本語表現の秩序そのものに更新を促すだろう。

「絶対矛盾的自己同一」

西田幾多郎による概念表現である「絶対矛盾的自己同一」とはどのような事態か、を契機として、東西哲学思想に通底する「叡智的概念」について考察する。


まとめ

デザインとはなにか、語源に遡り、デザイン概念をあらためて捉え直すことを通して、新たなデザインの捉え方(概念)をデザインする可能性について提示した。そこでは、デザイン存在の地平をひらき、わたしたちの生存環境である「世界」生成過程の理解と、あらたなデザイン生成をうながす「contextual designing」(文脈編成)について、自己生成的に言及した。これまで「デザイン」という日本語で流通してきた「デザイン概念」の意味解釈の範囲を拡張し、可能なかぎり英語の<design><designate>という、本来の用法に近い仕方で理解し直すことから、「デザイン概念の概念デザイン」を「区別」し直し、再びリデザインすることで、デザイン可能性を拡張し得ることを示した。
引き続き「情報デザイン論」を経由して、「中動態」とは異なる仕方で、デザインによる世界生成の在り方について、論考を展開していく。


脚注

  1. 公益財団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)公式サイト, https://www.jagda.or.jp, 2020年10月5日閲覧
  2. 龍安寺公式サイト②「吾唯知足」, http://www.ryoanji.jp/smph/guide/grounds.html, 2020年10月5日閲覧
  3. Notre Dame University, https://www.nd.edu/research/, 2020年10月4日閲覧
  4. "designare", Latin-English Dictionary,Notre Dame University, http://archives.nd.edu/cgi-bin/wordz.pl?keyword=designare, 2020年10月4日閲覧
  5. 宝珠山徹「情報デザインにおける複眼的構成法」(CiNii論文), https://ci.nii.ac.jp/naid/130005453940, 2020年10月5日閲覧


参考文献

  • 中動態・地平・竈 ーハイデガーの存在の思索をめぐる精神史的現象学(2018) 小田切建太郎 法政大学出版局
  • <概念工学>宣言!ー哲学×心理学による知のエンジニアリング(2019) 戸田山和久・唐沢かおり編 名古屋大学出版会