「北京地下鉄サインのためのピクトグラムによる駅名表示の提案」の版間の差分
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北京では近年,外国人観光客数の増大にともない,公共交通機関,特に地下鉄の外国人利用者が増加している。このような背景から,特に外国人利用者を対象として駅名の中国語に英語表記を併記する試みがなされてきた。中国語には簡体字漢字が使われ,英語表記では固有名詞には「ピンイン」と呼ばれるアルファベット表記が用いられ、翻訳語の場合であれば、英語(たとえば「南大通」で「South Road」)が併用されている。しかし,外国人にとってピンインは読みやすい表記かどうか疑問が残る。そこで、同じように日本語を用いる日本において、福岡市地下鉄のように地下鉄の駅名表示に駅を象徴的に示すピクトグラムを用いた事例に着目した。こうしたピクトグラムは、言語の違いを乗り越える方法として広く用いられており、その有効性を北京の地下鉄においても検討する意義があると考えた。 | 北京では近年,外国人観光客数の増大にともない,公共交通機関,特に地下鉄の外国人利用者が増加している。このような背景から,特に外国人利用者を対象として駅名の中国語に英語表記を併記する試みがなされてきた。中国語には簡体字漢字が使われ,英語表記では固有名詞には「ピンイン」と呼ばれるアルファベット表記が用いられ、翻訳語の場合であれば、英語(たとえば「南大通」で「South Road」)が併用されている。しかし,外国人にとってピンインは読みやすい表記かどうか疑問が残る。そこで、同じように日本語を用いる日本において、福岡市地下鉄のように地下鉄の駅名表示に駅を象徴的に示すピクトグラムを用いた事例に着目した。こうしたピクトグラムは、言語の違いを乗り越える方法として広く用いられており、その有効性を北京の地下鉄においても検討する意義があると考えた。 | ||
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==事例調査== | ==事例調査== | ||
先行事例として、メキシコと福岡のピクトグラムの調査を行い、双方の利点と欠点を抽出した。 | 先行事例として、メキシコと福岡のピクトグラムの調査を行い、双方の利点と欠点を抽出した。 | ||
− | + | === メキシコ地下鉄の駅名ピクトグラム=== | |
メキシコ市地下鉄システムのために1969年にLance Wymanがデザインを担当し、彼と彼のチームは人口比に対する文盲率の高さを考慮して、ピクトグラムを用いて各駅を表記する有効性を提唱した。ピクトグラムの題材として駅の場所を表す動物や、近隣の景観的要素を加えて、説明しやすいものを作った。特殊な意味を持つピクトグラムは、識別しやすく、記憶しやすいと仮定された。このメキシコ市地下鉄の事例が、その後の他国の多言語環境下でのサインデザインに大きな影響を与えることとなった。 | メキシコ市地下鉄システムのために1969年にLance Wymanがデザインを担当し、彼と彼のチームは人口比に対する文盲率の高さを考慮して、ピクトグラムを用いて各駅を表記する有効性を提唱した。ピクトグラムの題材として駅の場所を表す動物や、近隣の景観的要素を加えて、説明しやすいものを作った。特殊な意味を持つピクトグラムは、識別しやすく、記憶しやすいと仮定された。このメキシコ市地下鉄の事例が、その後の他国の多言語環境下でのサインデザインに大きな影響を与えることとなった。 | ||
メキシコ地下鉄ピクトグラムの作成の利点:各ピクトグラムは1つの正方形から構成され、各図形の大きさとプロポーションは統一されており、駅区域内のある主要な内容を反映した明快なイメージが文盲率が比較的に高いメキシコの現地住民に便利なデザインとなっている。 | メキシコ地下鉄ピクトグラムの作成の利点:各ピクトグラムは1つの正方形から構成され、各図形の大きさとプロポーションは統一されており、駅区域内のある主要な内容を反映した明快なイメージが文盲率が比較的に高いメキシコの現地住民に便利なデザインとなっている。 | ||
メキシコ地下鉄ピクトグラムの作成の欠点:完成後、現地住民にとっても外国人観光客にとってもいくつかのピクトグラムに指示的でもなく、意味的関連性のわかりにくいものがある。 | メキシコ地下鉄ピクトグラムの作成の欠点:完成後、現地住民にとっても外国人観光客にとってもいくつかのピクトグラムに指示的でもなく、意味的関連性のわかりにくいものがある。 | ||
− | + | === 福岡市地下鉄の駅名ピクトグラム === | |
福岡市地下鉄各線の各駅では現地の歴史と文化を表現するピクトグラムが表示されている。福岡市地下鉄駅のピクトグラムは、表現された意義によって5種類に分けられた。それぞれ、1)地名の由来;2)歴史、遺跡、伝統文化の表現;3)地区の一般的な特徴と機能を表現する;4)抽象的な表現;5)駅の周りで見ることができる動植物となっている。日本語がわからない外国人でもピクトグラムを通じて地下鉄の駅名をより迅速に記憶できるものとして、例えば桜坂駅は、駅の周りに桜がたくさんあることに関連して、桜をデザインのモチーフとしている。 | 福岡市地下鉄各線の各駅では現地の歴史と文化を表現するピクトグラムが表示されている。福岡市地下鉄駅のピクトグラムは、表現された意義によって5種類に分けられた。それぞれ、1)地名の由来;2)歴史、遺跡、伝統文化の表現;3)地区の一般的な特徴と機能を表現する;4)抽象的な表現;5)駅の周りで見ることができる動植物となっている。日本語がわからない外国人でもピクトグラムを通じて地下鉄の駅名をより迅速に記憶できるものとして、例えば桜坂駅は、駅の周りに桜がたくさんあることに関連して、桜をデザインのモチーフとしている。 | ||
福岡市地下鉄ピクトグラム作成の利点:ピクトグラムの作成には明確な分類があり、異なる色を用いて各駅の個性化が体系的に表現されている。各駅のピクトグラムには固有の意義と物語性があることから、現地住民にとっては愛着がわくものとなっている。 | 福岡市地下鉄ピクトグラム作成の利点:ピクトグラムの作成には明確な分類があり、異なる色を用いて各駅の個性化が体系的に表現されている。各駅のピクトグラムには固有の意義と物語性があることから、現地住民にとっては愛着がわくものとなっている。 |
2020年10月4日 (日) 16:28時点における版
- 穆思恵 / 九州大学大学院芸術工学府
- SihuiMu / Graduate School of Design, KYUSHU University
- 伊原久裕 /九州大学大学院芸術工学研究院
- IHARA Hisayasu / Faculty of Design, KYUSHU University
Keywords: Pictogram ,Name of subway station
- Abstract
- Pictogram as a kind of graphic language is usually used as emoji on emergency exit, toilet and network to express emotion. It has nothing to do language learning environment, etc. and can convey information in lucid means of expression, which helps foreigners a lot. Many countries in the world adopt pictogram on public facilities. The metro is the most commonly-used vehicle for foreigners, so the pictogram can give important play at subway stations. This research aims at the application of pictogram at Beijing subway station name across language barrier.
目的と背景
北京では近年,外国人観光客数の増大にともない,公共交通機関,特に地下鉄の外国人利用者が増加している。このような背景から,特に外国人利用者を対象として駅名の中国語に英語表記を併記する試みがなされてきた。中国語には簡体字漢字が使われ,英語表記では固有名詞には「ピンイン」と呼ばれるアルファベット表記が用いられ、翻訳語の場合であれば、英語(たとえば「南大通」で「South Road」)が併用されている。しかし,外国人にとってピンインは読みやすい表記かどうか疑問が残る。そこで、同じように日本語を用いる日本において、福岡市地下鉄のように地下鉄の駅名表示に駅を象徴的に示すピクトグラムを用いた事例に着目した。こうしたピクトグラムは、言語の違いを乗り越える方法として広く用いられており、その有効性を北京の地下鉄においても検討する意義があると考えた。
本研究は,北京地下鉄沿線の外国人観光者が多く訪れる18のエリアを中心として,文字標記の限界を乗り越える駅名表記の方法として、ピクトグラムの可能性を検討し、提案することを目的とする。
事例調査
先行事例として、メキシコと福岡のピクトグラムの調査を行い、双方の利点と欠点を抽出した。
メキシコ地下鉄の駅名ピクトグラム
メキシコ市地下鉄システムのために1969年にLance Wymanがデザインを担当し、彼と彼のチームは人口比に対する文盲率の高さを考慮して、ピクトグラムを用いて各駅を表記する有効性を提唱した。ピクトグラムの題材として駅の場所を表す動物や、近隣の景観的要素を加えて、説明しやすいものを作った。特殊な意味を持つピクトグラムは、識別しやすく、記憶しやすいと仮定された。このメキシコ市地下鉄の事例が、その後の他国の多言語環境下でのサインデザインに大きな影響を与えることとなった。 メキシコ地下鉄ピクトグラムの作成の利点:各ピクトグラムは1つの正方形から構成され、各図形の大きさとプロポーションは統一されており、駅区域内のある主要な内容を反映した明快なイメージが文盲率が比較的に高いメキシコの現地住民に便利なデザインとなっている。 メキシコ地下鉄ピクトグラムの作成の欠点:完成後、現地住民にとっても外国人観光客にとってもいくつかのピクトグラムに指示的でもなく、意味的関連性のわかりにくいものがある。
福岡市地下鉄の駅名ピクトグラム
福岡市地下鉄各線の各駅では現地の歴史と文化を表現するピクトグラムが表示されている。福岡市地下鉄駅のピクトグラムは、表現された意義によって5種類に分けられた。それぞれ、1)地名の由来;2)歴史、遺跡、伝統文化の表現;3)地区の一般的な特徴と機能を表現する;4)抽象的な表現;5)駅の周りで見ることができる動植物となっている。日本語がわからない外国人でもピクトグラムを通じて地下鉄の駅名をより迅速に記憶できるものとして、例えば桜坂駅は、駅の周りに桜がたくさんあることに関連して、桜をデザインのモチーフとしている。 福岡市地下鉄ピクトグラム作成の利点:ピクトグラムの作成には明確な分類があり、異なる色を用いて各駅の個性化が体系的に表現されている。各駅のピクトグラムには固有の意義と物語性があることから、現地住民にとっては愛着がわくものとなっている。 福岡市地下鉄ピクトグラムの作成の欠点:いくつかの抽象的な表現は外国人観光客にとって理解しにくい。例えば、別府駅では,頭文字のひらがな「べ」の文字がモチーフとなっているが、日本語を勉強したことのない外国人にはまったく理解できない。
北京地下鉄のピクトグラム制作
以上の、メキシコと福岡地下鉄ピクトグラムの長所と短所に基づき、現地住民の親近感を高めるとともに、外国人観光客が観光地に対する印象を深め、駅名を覚えやすいピクトグラムの作成を方針とする。
駅に選定については、北京在住の中国語を母語としない外国人に対してアンケート調査を行った(30名の異なる国籍の外国人)。この調査を参考に、北京の38の有名観光地の駅から外国人観光客の回答数が最も多い18駅をピクトグラムの作成対象とした。この18駅の周りで最も代表的なものが建物であり,建物によって駅を象徴することとした。さらに、建築物を歴史建造物と現代建築施設の2つの部分に分けて作成した。 作成方法は各駅周辺の象徴的な建物の写真から建物のシルエットを抽出し、更にシルエットの中に建築構造の詳細部分を加え、最後にピクトグラムの大きさを統一し、完成させることとした。
まとめと展望
今後は、視認性や理解度などの調査を実施し、改良を加えるできあがったピクトグラムを用いたサイン、ガイドブック、路線図を作成してゆく。
参考文献
- 北神慎司(2002)「ピクトグラム活用の現状と今後の展望:分かりやすいピクトグラム ・よいピクトグラムとは?」
- 宮崎桂(2015)「体感するサインデザイン」
- 日本サインデザイン協会(2005)「公共交通機関のユニバーサルデザイン」P68-79
- 赤瀬達三(2013)「サインシステム計画学: 公共空間と記号の体系」
- ひと目で分かるシンボルサイン[標準案内用図記号ガイドブック](2001)
- 太田幸夫(1999)「ピクトグラム絵文字デザイン」