「日本での中国人留学生の日本医療の利便性をあげる研究」の版間の差分

提供: JSSD5th2020
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  外国人留学生が日本での留学生活を送る上で、様々な不測の医療事態に直面しても、安心して迅速な医療行動をとることができるよう、学内・学外資源の活用する医療支援制度の充実を図ることが必要である。在日外国人を対象とした医療に関する研究が多数なされているが、その中では、外国人の視点からの課題解決についての研究は少ないのが現状である。
 
  外国人留学生が日本での留学生活を送る上で、様々な不測の医療事態に直面しても、安心して迅速な医療行動をとることができるよう、学内・学外資源の活用する医療支援制度の充実を図ることが必要である。在日外国人を対象とした医療に関する研究が多数なされているが、その中では、外国人の視点からの課題解決についての研究は少ないのが現状である。
福岡県に在留する外国人の4人に1人は留学生1)、外国人留学生数では、東京都、大阪府に次ぐ第3位2)。県内での留学生の出身先は、アジア、なかでも中国が大多数を占めており、県内27.9%の中国留学生は九州大学に在籍している3)。
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福岡県に在留する外国人の4人に1人は留学生<ref>法務省入国管理局:「在留外国人統計」平成28年</ref>、外国人留学生数では、東京都、大阪府に次ぐ第3位2)。県内での留学生の出身先は、アジア、なかでも中国が大多数を占めており、県内27.9%の中国留学生は九州大学に在籍している3)。
  
 
  本研究は九州大学大橋キャンパスにおける中国留学生を対象として、日本医療についての認知現状と医療行為を調査し、課題を整理する。課題から在日留学生のための日本医療支援制度と医療現状を考察し、在日中国留学生の医療行為の改善方法について新しい要件を導き出すことを目的とする。さらに要件をもとにサービス提案を試作し、検証を行う予定である。
 
  本研究は九州大学大橋キャンパスにおける中国留学生を対象として、日本医療についての認知現状と医療行為を調査し、課題を整理する。課題から在日留学生のための日本医療支援制度と医療現状を考察し、在日中国留学生の医療行為の改善方法について新しい要件を導き出すことを目的とする。さらに要件をもとにサービス提案を試作し、検証を行う予定である。
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==脚注==
 
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<references />法務省入国管理局:「在留外国人統計」平成28年
  
  

2020年10月16日 (金) 13:59時点における版

- 九州大学大橋キャンパスにおける中国人留学生を対象として -


王沁 / 九州大学 芸術工学府
Qin WANG / Kyushu University
杉本美貴 / 九州大学 芸術工学府
oshitaka SUGIMOTO / Kyushu University

Keywords: サービス デザイン,ユニバーサル デザイン,留学生医療問題


Abstract
This study investigates the current state of awareness of Japanese medical care and medical practices among Chinese students on the Ohashi campus of Kyushu University and identifies issues. From the issues, we will consider the Japanese medical support system and the current state of medical care for foreign students in Japan, and derive new requirements for ways to improve the medical practices of Chinese students in Japan. Based on the requirements, we plan to test and verify a service proposal.



研究の背景及び目的

  現在の日本社会は経済のグローバル化の中で、毎年多くの外国人が就学や就労のために来日している。外国人が日本で生活をする際には、言語、文化、人種および宗教などの違いから困難を伴うことが知られているが、医療の現場でも例外ではない。異国での生活には、異なる文化背景から様々な健康問題が生じやすい。外国人留学生のヘルスリテラシーに対するサポートとして、大学や自治体、NPO等が多言語による保健・医療サービス情報を提供しているが、十分浸透しているとは言えない。外国人留学生の増加に伴い、今後も健康課題を抱える外国人留学生が増加することが予測される。

  外国人留学生が日本での留学生活を送る上で、様々な不測の医療事態に直面しても、安心して迅速な医療行動をとることができるよう、学内・学外資源の活用する医療支援制度の充実を図ることが必要である。在日外国人を対象とした医療に関する研究が多数なされているが、その中では、外国人の視点からの課題解決についての研究は少ないのが現状である。 福岡県に在留する外国人の4人に1人は留学生[1]、外国人留学生数では、東京都、大阪府に次ぐ第3位2)。県内での留学生の出身先は、アジア、なかでも中国が大多数を占めており、県内27.9%の中国留学生は九州大学に在籍している3)。

  本研究は九州大学大橋キャンパスにおける中国留学生を対象として、日本医療についての認知現状と医療行為を調査し、課題を整理する。課題から在日留学生のための日本医療支援制度と医療現状を考察し、在日中国留学生の医療行為の改善方法について新しい要件を導き出すことを目的とする。さらに要件をもとにサービス提案を試作し、検証を行う予定である。


研究の方法

  文献調査により、外国人に向ける医療現状と問題点を調査する。外国人に向ける医療についての既往研究と先行事例の調査を行う。文献調査から、プレ調査で必要な項目を抽出する。プレ調査については、九州大学大橋キャンパスにおける中国留学生を調査対象として研究を進める。中国留学生に聞き取り調査とアンケート調査を行い、課題を抽出する。考察として、大橋キャンパスの周りと天神での病院への現地調査と病院スタッフへのインタビュー調査を行う。それらの調査と先行事例を元に現状の分析を行い、在日中国留学生の医療行為の改善方法の要件を抽出する。最後にデザイン提案を作成し、検証と評価を行う。


文献調査

  健康障害が生じたときに,迅速な受診行動をとることは医学的にも医療費抑制の点からも重要なことである。しかし,在日外国人は,自分の健康状態について自覚した時,直ちに受診行動をとるとは限らない。定住外国人の医療に関わる要因としてコミュニケーション問題,病気を含む医療に関する情報不足,経済的問題, 入管に対する恐れなどの原因で、「我慢病」一医療機関を受診すべきだと本人が考える疾病に罹患していながら,実際には医療機関を受診しなかった病気一に陥ってしまい,受診をあきらめるケースが少なくないと思われる 4)。      独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)「平成29年度私費外国人留学生生活実態調査概要」によると、大学・学校に入学してからの病気経験がある私費外国人留学生は、病気について対処仕方について答えは、「病院にも薬局にも行かないで、我慢した」が659人(18.7%)となっている。

  ある国立大学に在籍する外国人留学生に向ける調査5)によると、病気経験者の約 2 割が受診せずに我慢し、6 割が受診を躊躇したことがあると回答していた。その理由として経済的負担以外に言語の問題やどこに受診すればよいかわからないといった回答も見られ、複数の要因が影響していることが明らかとなった。

  しかし、「我慢病」という課題の解決についての研究は少ないし、留学生の「我慢病」の原因について詳しい調査も少ない上で、プレ調査を行うが必要である。


プレ調査

  大橋キャンパスの中国留学生へ、日本での医療現状、医療行為とその原因について、41人へのアンケート調査を行った。

  調査方法: テンセント調査というオンライン調査プラットフォームを使ってオンラインアンケート調査を作成して、九州大学中国留学生のみのウィーチャットグループでリンクをシェアする。

  回収結果:25%(41/163)であった。

  調査内容:日本語レベルと基本の医療経験、病院行く前の困り、日本病院での受診流れとそれについての困り、「我慢病」経験の有無とその時の対処の仕方、保険についての困り。

  調査期間:2020年6月9日-24日

  調査結果:   ①今回調査を行った留学生の日本語レベルについては、「バイトでのコミュニケーションは大丈夫」が16人(39.0%)と最も多く、次いで、「日常生活でのコミュニケーションは大丈夫」が 10人(24.4%) となっている。   ②「医療機関を受診すべきだと本人が考える病気があっても、 実際には医療機関を受診しなかった経験の有無」について、「あり」が23人(55.6%)となっている。   ③図 1によって、「あり」と答えた23人中、「受診行動を取らなかった理由(複数回答設問)」について、「病気の状況を伝えるのが難しい」が 17 人(73.9%)と最も多く、次いで、「まだ我慢できると症状を自己診断できる」が 15 人(65.2%)となっている。

  ④図 2によって、「あり」と答えた23人中、「とった解決策(複数回答設問)」について、「日本で薬を買う」が 14 人(48.3%)と最も多く、次いで、「単純に我慢する」が 13 人(44.8%)となっている。      ⑤図 3によって、「あり」と答えた23人中、「とった解決策に不満がある」について、「中国の医療相談プラットフォームを使用に不満がある」が 5/8人(62.5%)と最も多く、次いで、「単純に我慢する」が 4/9 人(66.7%)となっている。      プレ調査によって、「我慢病」がある留学生は半数以上がある、病院へ行く以外色々の解決策をとったが、それに不満がある、問題は完全に解決されない気がする方が多いです。留学生の日本病院での受診意欲をあがる必要がある。

  プレ調査の「外国人患者としての日本病院へ行く前の困り(複数回答設問)」「外国人患者としての日本病院での受診への不満(複数回答設問)」「外国人留学生としての日本医療現状への不満(複数回答設問)」の答えによると、外国人留学生は医療機関受診に必要な情報(特に診療科や所在地、診療時間等)をタイムリーに提供することと日本語通訳についての応援は、医療機関へのアクセスの心理的負担を軽減させるに重要であると考える。

現状調査

  福岡県保健医療計画 (平成30(2018)年3月)」によって、県内で2015年度に約 7 割の医療機関で外 国人の受診があっている一方、外国人患者対応の専門スタッフを配置している医療機関は全体の2%にとどまる。県と市の外国人医療をめぐるメイン事例としての「福岡アジア医療サポートセンター」2017年度の利用実績は299件のみ、利用率は高いとは言えないし、県内での認知度は、名前しか知らない医療施設も含めて4割程度にとどまる。医療関係の専門知識を備えた通訳の数自体が十分でないとみられ、こうしたボランティアの派遣事業を手掛ける県や市の取り組みも浸透していないのが実情。


まとめ

  専門性が求められる医療通訳者の常駐は、病院にとってコストがかかる問題である。翻訳機器を置く病院もあるが、医療の現場で正確性に欠ける場合はトラブルの原因にもなる。語学が堪能なスタッフが他業務と兼業で対応にあたるケースもあり、一部のスタッフに負担が集中し、離職を招く事例も出ている。外国人が必要な医療を受けられる態勢整備は重要だが、病院が医師やスタッフ不足に直面するなか、患者対応の負担が増せば、ますます疲弊を招く。      留学生の日本病院での受診意欲をあげる、セルフメディケーション意識を改善する必要がある。外国人留学生に日本医療常識と日常的な医薬品情報の提供することと健康管理についての応援は、医療機関へのアクセスの心理的負担を軽減させて健康問題を改善するに重要であると考える。


脚注

  1. 法務省入国管理局:「在留外国人統計」平成28年

法務省入国管理局:「在留外国人統計」平成28年


参考文献・参考サイト

  • 法務省入国管理局:「在留外国人統計」平成28年
  • 独立行政法人日本学生支援機構:平成29年度外国人留学生在籍状況調査結果
  • 福岡県の国際化の現状〔データブック〕2017年9月
  • 平 野(小 原)裕子「在日外国人の身体的 ・精神的健康 一保健学・看護学的視点から一 」『福岡醫學雜誌』 94 (8),2003.08, p.243
  • 小寺さやか、上谷真由美、中島英、千場直美「日本の大学に在籍する外国人留学生の保健行動と関連要因に関するパイロットスタディ」『Journal of International Health 』Vol.33 No.4 2018