「テレビ番組におけるアテレコについての研究」の版間の差分

提供: JSSD5th2020
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(背景と目的)
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 アテレコとは、人物や動物が映っている映像に対して、その人物や動物が喋っているような音声を録音し、それを映像と同時に流す演出のことである。<br>
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 アテレコとは、人物や動物が映っている映像に対して、その人物や動物が喋っているような音声を録音し、それを映像と同時に流す演出のことである。
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 近年テレビで取り上げられるコンテンツの中には、海外で撮影された映像や、YouTubeなどにアップされたペットを撮影した映像が増えており、これらがテレビ番組で取り上げられる際、アテレコによる日本語音声の追加が頻繁に行われている。
 
 近年テレビで取り上げられるコンテンツの中には、海外で撮影された映像や、YouTubeなどにアップされたペットを撮影した映像が増えており、これらがテレビ番組で取り上げられる際、アテレコによる日本語音声の追加が頻繁に行われている。
  

2020年10月24日 (土) 17:45時点における版

- アテレコによる演出への視聴者の反応 -


南川陸 / 九州大学 芸術工学府 デザインストラテジー専攻
Riku Minamigawa / Kyushu University 

Keywords: critical attitudes toward TV, dubbing 


Abstract
In recent years, among the contents taken up on TV, the number of videos taken overseas and the videos of pets uploaded to YouTube etc. are increasing. When these are taken up in TV programs, Japanese audio by dubbing are added frequently. However, excessive dubbing directing in some programs has been criticized on the Internet. In this paper, we consider the factors of criticism of dubbing from the viewer's point of view.


背景と目的

 アテレコとは、人物や動物が映っている映像に対して、その人物や動物が喋っているような音声を録音し、それを映像と同時に流す演出のことである。

 近年テレビで取り上げられるコンテンツの中には、海外で撮影された映像や、YouTubeなどにアップされたペットを撮影した映像が増えており、これらがテレビ番組で取り上げられる際、アテレコによる日本語音声の追加が頻繁に行われている。

 テレビで取り上げられる一般人が撮影した映像に、ドッキリ映像というものがある。これはターゲットとなる人物に、仕掛け人がいたずらを仕掛け、そのターゲットのリアクションを撮影した映像のことである。海外で撮影されたドッキリ映像がテレビ番組内で放映される時、ドッキリを仕掛けた側の人間には説明口調のセリフ、いたずらに引っかかったターゲットには過剰なリアクション、例えば漫画のキャラクターのようなセリフが当てられるというパターンがある。

 また、ペットのキュートな仕草の映像、ハプニングを記録した映像では、犬であれば「ワン」、猫であれば「ニャー」という語尾のセリフが当てられたり、動物が説明口調で状況を説明していたりするパターンが多用されている。

 一部の過剰なアテレコ演出に対して、インターネット上には批判的な記事や、非難する書き込みが複数存在しているが、アテレコ映像批判の要因について客観的な調査は行われていない。

そこで、この論文ではアテレコ映像に対する批判の要因を視聴者の目線から明らかにすることを目的とする。

アテレコの定義とアフレコとの違い

アテレコという言葉は、映像にセリフを「当て」て、音声を録音することに由来している。  もともと「アフター・レコーディング」を略した「アフレコ」という言葉があり、「映画・テレビで画面だけを撮影し、あとから台詞や音などを録音すること」を意味している。これをもじったのが「アテレコ」で、「外国映画やアニメーションで、登場人物の口の動きに合わせて、日本語の台詞を当てて録音すること」とされている(三省堂大辞林第三版による)。すなわち、アフレコは「映像内で喋っている人物に同一人物の声を後から当てること」だが、アテレコは「映像内で喋っている人物とは別の人物が声を当てること」である。   アフレコと違い、アテレコでは、セリフを当てる対象が3次元の人間でない場合もあり、アニメーションにおける2次元の人間、犬や猫といった動物、人形などの無生物にも声を当てることができる。


文献調査

アテレコ演出の普及の歴史

 音声による吹き替え、アテレコの手法が取られるようになったのは1950年代である。当時の日本ではまだテレビが家庭に普及しておらず、人々は街頭テレビに集まって視聴していた。そのころに民放のテレビ放送局が次々と開局し放送を開始していたが、日本の映画会社は「映画の興行収入が低下する」という理由で、テレビ放送への日本映画の供給をやめた。それを受けた各テレビ放送局は、放送する番組コンテンツが不足したため、海外のテレビ映画を買い付け、放映することを始めた。
 当時NHKはオリジナルを尊重し字幕による放送を行っていたが、KRT(現TBS)はテレビがお茶の間に進出することを予期し、小さな子供からお年寄りまでが視聴者として考えうること、まだ小さなテレビ画面では字幕も小さくなり読みにくいこと、テレビは隣の人と話したり作業をしながら見たりする、「ながら見」が想定されること、などの理由から1956年に吹き替え放送を開始する。当時KRTではテレビで放送される映像に合わせて生放送で日本語のセリフを当てており、さらにその上、声を当てる人間10名ほどに対し、マイクとモニターは一つずつしかなかったため、声を当てるタイミングの人が突然の体調不良でトイレに駆け込んでしまったり、セリフの時間配分を失敗し映像に対して音声が遅れてゆき、映像と音声が一致しないいわゆる「音ズレ」が発生したり、トラブルも続出していた。
 一方、日本テレビは、録音音声を映像に合わせて回すという録音によるアテレコを採用することにした。映像フィルムと音声テープは材質や回した時の速度が異なるため、日本テレビは映像と音声の同期に苦労したが、試行錯誤の末、1956年にテレビ用漫画映画を放送するに至る。
 また当時は、映像に音声を当てる声優という職種がなかったため、ラジオ放送劇団員や新劇の俳優が吹き替えの音声を担当していたが、これらの仕事をする人は「アテ師」と呼ばれ、「声を当てているだけ」と他の俳優たちから非難を受けたり、ギャランティーが十分ではなかったりと、現代の声優とは異なる扱いを受けていた。
 その後カラーテレビの普及に伴い、海外吹き替えドラマの放送数が増加し、テレビでの洋画劇場が登場するなどして、声優の仕事も徐々に増加していった。そんな中、特定の外国人俳優に対する、特定の日本人声優のイメージの定着という「ハマり役」が誕生し、声優の仕事が世間一般に広く知られるようになった。その中で特にデヴィッド・マッカラムやアラン・ドロンなどの声を吹き替えした野沢那智は、追っかけがつくほどの人気を獲得し、これを発端として1960年代に第1次声優ブームが到来した。その後、1977年に「宇宙戦艦ヤマト」の劇場公開、1978年にアニメ雑誌「アニメージュ」が創刊されアニメブームが到来、これと同時に第2時声優ブームが起こった。この時からアニメの吹き替えがアテレコの代表的な仕事の一つとなった。


テレビ批判

 テレビのどのような点が批判の対象となっているか、視聴者の視点をベースとした調査は少ない。
 竹村(2012)によると、特定のバラエティ番組に対して「うるさい」「くだらない」といった嫌悪感を抱く視聴者がいることが指摘されているが、この嫌悪感がどのようなバラエティ番組に対して抱かれているのかは明らかにされていない。
 また、他のテレビ批判にまつわる研究では「他者がテレビから悪影響を受けてしまう」と高く見積もるほど、テレビ批判をしやすいことが明らかになっている(正木 2020)。この調査で、批判項目として挙げられているのは、報道番組の公平性の欠如、バラエティ番組での下品、危険、非礼な内容などであり、視聴者の道徳的、倫理的心情による批判が多く採用されている。
ただ、バラエティ番組に対する上記以外の批判項目は少なく、バラエティ番組の様々な演出に対する批判についてはこの調査では詳しく扱われていない。


アテレコ演出による問題

 ソウルで撮影された街頭インタビューに編集で追加された日本語音声のアテレコと字幕が、わずかに聞こえる話者の韓国語の内容と異なるとして、制作したテレビ局が批判を受けた騒動があった。実際は、放映されなかったインタビュー部分で話者が発言していた内容と、今回編集で追加されたアテレコ音声と字幕は一致しており、テレビ局側は編集によるミスと説明した。実際に発言していた内容であるため発言の捏造ではないが、視聴者がアテレコによる捏造であると捉えてテレビ局側を非難するには十分な状況であった。
 また一部の動物番組のアテレコに代表されるような過剰な演出、特にセリフ量の多さ、アテレコのセリフにおける過度な可愛さアピールなどが視聴者に不快な印象を与えているようである。インターネット上のこれを批判する意見には、「さむい」(全く面白くない)という言葉が使われることがあるが、不快感、嫌悪感の要因を整理するには曖昧で広義的な表現のため、これに関する視聴者の詳細な意見を明らかにする必要がある。


調査手法

 テレビ番組でアテレコ演出が使用された映像を複数視聴してもらい、個別インタビューによるヒアリングを行う。対象者は10名から20名ほどを想定。
また対象者の年齢について、視聴率の集計において用いられる以下のセグメントを参考に、各層に該当する対象者を選定する。

  • F1層(20歳から34歳の女性)
  • F2層(35歳から49歳の女性)
  • F3層(50歳以上の女性)
  • M1層(20歳から34歳の男性)
  • M2層(35歳から49歳の男性)
  • M3層(50歳以上の男性)

使用する主な映像

以下に挙げるような番組内で、アテレコ演出が用いられた映像部分のみ抜粋する。
抜粋する各映像はそれぞれ10秒〜30秒程度。 いずれの番組も、2020年7月〜2020年10月に放送された内容。

不定期放送の特別番組
・TBS「動物スクープ100連発」
・フジテレビ「超ド級!世界のありえない最強映像2」など

毎週放送のレギュラー番組
・日本テレビ「世界まる見え!テレビ特捜部」
・フジテレビ「奇跡体験!アンビリバボー」
・テレビ東京「世界!ニッポン行きたい人応援団」
・TBS「世界くらべてみたら」など

ヒアリング内容

・テレビを普段どの程度の時間、頻度で視聴するか
・普段視聴するテレビ番組のジャンル
・アテレコ演出に対してどう感じたか
・アテレコ演出に肯定的な場合、どのような点にそう思うのか
・アテレコ演出に批判的な場合、どのような点にそう思うのか


参考文献・参考サイト

  • 佐藤 桂一(2018) 「現代日本における声優の歴史─声優の誕生と黎明期─」明治大学大学院 文学研究論集 第49巻, pp. 83-99
  • 佐藤 桂一(2019) 「『第一次・第二次声優ブーム』(1960年代・1970〜1980年代)を通して見る声優業の進化と分化 ―現代日本における声優の歴史(2)―」文学研究論集 第51巻, pp. 95-115
  • 宜野座 菜央美(2018) 「映像翻訳『吹き替え』の『界』の誕生─主要な3人の軌跡から」大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター年報 第15号,pp. 29-35
  • フジテレビジョン(2015) 「『池上彰 緊急スペシャル!』 インタビュー映像誤使用問題に関する 検証および再発防止策」https://www.bpo.gr.jp/wordpress/wp-content/themes/codex/pdf/kensyo/giji/2015/96/1.pdf (2020年10月16日閲覧)
  • 竹村 朋子(2012) 「テレビ番組視聴に関するメディア利用行動と利用動機の検証:テレビを所有しない若者への質的インタビュー調査」
  • 正木 誠子(2020) 「テレビ視聴に関する諸要因がテレビ番組に対する批判的な態度に与える影響」