遠隔における対人行動の特徴に関する研究

提供: JSSD5th2020
2020年10月24日 (土) 16:52時点におけるInoue.ko (トーク | 投稿記録)による版
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
Jump to navigation Jump to search


宗雲友志 / 九州大学 大学院芸術工学府
SOGUMO Yushi / Graduate School of Design, Kyushu University
田村良一 / 九州大学 大学院芸術工学研究院
TAMURA Ryoichi / Faculty of Design, Kyushu University

Keywords: Remote, Interpersonal Behaviors


Abstract
In recent years, remote interpersonal behaviors attracts attention.However,there are many performed things about the example of the interpersonal action in maintenance, the remoteness carried out rapidly now without preparations being done enough.
In this study, I limited a study subject to a university student and chose the article about the main action in the remoteness of the university student. I extracted end-point from there and classified it and grasped the characteristic of each action.



背景と目的

 近年、物理的に人物と接触することで行う作業についてICTなどを媒介として行う、遠隔における対人行動に注目が集まっている。先行研究やインターネット上の記事において、行動の分野ごとに進捗の差があり、その特徴把握について十分に研究がなされていない。

 そこで本研究では、遠隔における対人行動にの評価項目について明らかにし、今後の遠隔コミュニケーションにおける指針を得ることを目的とする。なお、本研究での遠隔における対人行動とは、本来、物理的に人物と接触することで行う作業を、ICTなどを媒介として間接的に行い、本来と同様の効果を得ようとすること、と定義して研究を進めることとする。

研究の方法

1.調査対象者と行動の選定

2.事例収集と評価項目の抽出

3.評価項目の分類

4.考察

調査対象者と行動の選定

表1 平成28年社会生活基本調査行動分類表

 先行研究調査において、労働や医療についての研究が十分なされており、学習をはじめとするその他の行動については研究の余地があることが分かった。これを踏まえ、以後の研究では調査対象者を大学生に限定することとする。

 対人行動を包括的に捉えるための行動分類として、公的かつ項目をより詳細に分類しているという観点から、平成28年社会生活基本調査[1]を参考にした。本研究では大学生が遠隔と対面の両方で経験し得る主な行動として、「授業」、「飲み会」、「就職活動」を選定し、研究対象とした。



事例収集と評価項目の抽出

収集方法

 調査対象とする行動について、近頃のCOVID-19に対応し行われている事例が多くあるため、それらに関する情報源としてWeb上の記事から事例を引用することとした。方法としては、Google検索において「遠隔 飲み会」といった、各行為の遠隔事例の特徴として評価項目を得られるよう検索した。その中で調査の意に沿う記事上位50件を研究対象資料として選定した。

 対象記事から評価項目を抽出し、明らかに内容が重複する項目を省いて整理した。



結果

表2 行動ごとの評価項目

 行為ごとの評価項目の一部を表2に示す。

 「飲み会」において、評価項目として468件を抽出した。そのうち重複項目を省いて340件に整理した。項目として「自身で飲食物を用意する」、「終電を気に得ずそのまま寝られる」、「普段見られない様子が見られる」、などが得られた。

 「授業」において、評価項目として485件を抽出した。そのうち重複項目を省いて461件に整理した。項目として「自宅にいることによる怠惰」、「資料の見やすさ、声の聴きやすさ」、「評価の難しさ」などが得られた。

 「就職活動」において、評価項目として581件を抽出した。そのうち重複項目を省いた438件に整理した。項目として「企業のより多くの求職者の獲得」、「求職者の緊張がほぐれる」、「移り映えのための用意」、などが得られた。

 全体に共通する評価項目として、「移動にかかる時間、費用の削減」、「空気感が掴めないが故の会話のぎこちなさ」、「自宅でリラックスできる」などが得られた。




評価項目の分類

分類方法

 評価項目の内容を全て確認し、表3の分類基準に則って分類を行った。

表3 分類基準




結果

 行動ごとに分類結果と内容をまとめる。

飲み会

表4 飲み会の評価項目の分類の内訳
表5 飲み会の分類結果の抜粋

 評価項目の分類の内訳を表4に示す。内容を確認したところ、種類の分類は出来なかった。分類基準としては、「タイミング」以外で大きく分類ができなかった。

 評価項目の分類結果の抜粋を表5に示す。「タイミング」の下位分類ごとに内容の違いを見ていく。

 「前」の段階では、「幹事の店の予約が不要になる代わりにURLを送付する」、「自分での飲食物の用意」、「服装やメイクに気を遣わないが部屋を片付けなければいけない」等の準備に関する項目が得られた。ツールによっては、「エフェクトを用いて背景や自身の顔を加工する」といった準備も見られた。

 「中」の段階では、「同時に1人しか話せないため緊張する」、「周囲に気を遣わず話ができる」、「家事などで途中退出・参加が容易にできる」等、会話や自宅のことに関する項目が多く得られた。

 「後」の段階では、「お金の集計をせずに済む」、「終電を逃すということがない」、「後片づけが面倒である」、「酔った人の介抱が必要ない」等の項目が得られた。「タイミング」に関わらないものとしては、「普段会えない人を誘える」、「低コストでできる」等の項目が得られた。





授業

表6 授業の評価項目の分類の内訳
表7 授業の分類結果の抜粋

 評価項目の分類の内訳を表6に示す。内容を確認したところ、「種類」の分類は6分類となったが、多くの項目が講義に関するものであった。分類基準としては「タイミング」や「立場」、「双方向性」等で項目を分けられた。

 評価項目の分類結果の抜粋を表7に示す。「立場」の下位分類ごとに内容の違いを見ると、「教師」は「生徒の反応が見えず話しづらい」等の項目が多いのに対し、「学生」は「周囲を気にせず質問しやすい」という項目が多く見られた。

 また、3行動の中で唯一「同時性」における分類ができ、下位分類の「非同期型」に該当するものは、「双方向性」の下位分類「一方向」にほとんど該当した。該当項目の内容としては、「注意力やモチベーションの欠如」、「自分のペースで学習できる」等、学生の裁量が大きくなるものが多く得られた。

 「タイミング」の下位基準「前」、「後」では、飲み会と同様に「移動のための準備や手間、費用の削減」に関するものが多く得られた。



就職活動

表8 就職活動の評価項目の分類の内訳
表9 就職活動の分類結果の抜粋

 評価項目の分類の内訳を表8に示す。内容を確認したところ、「種類」の分類は3分類となり、「面接」に該当するものが最も多かった。分類基準としては、「立場」や「タイミング」、「人数」、「種類」等で分類できた。

 評価項目の分類結果の抜粋を表9に示す。「学生」側における行動の「前」の準備において、他の行為では見られなかった「カメラの微調整や光源、メイク等のカメラ映りに対する準備」の項目が多く得られた。

 「種類」の違いにとしては、「学生」が「面接」では「話しづらい」という項目が多かったが、「説明会」では「周囲を気にせず発言しやすい」という項目が多く得られた。

 また、「人事の大幅な負担の軽減」、「採用人数の拡大」のような、「タイミング」の「前」、「後」での移動コスト削減が起因する様々な項目が得られた。



考察

 いずれの行動についても「タイミング」における下位分類の「前」、「後」の内容から、移動の手間や時間、費用の削減が利点となっていることが分かる。また、下位分類「中」の内容から、自宅にいることにより、精神的に余裕をもって行動できることが利点となっていると考えられる。

 遠隔での音声のやりとりについて、飲み会や就職活動においては音声の聴き取りづらさが挙げられていたが、講義においてはむしろ聞き取りやすいという項目が多く、相手との本来の距離感によっては、コミュニケーションが促進されることが考えられる。

 また、遠隔における飲み会では発言しにくいという項目が多く挙がったが、授業や説明会ではむしろ周囲を気にせず発言しやすいという項目が多かった。よって、行動の性質における場の緊張感の違いによっては、遠隔により感じる距離感がかえってコミュニケーションを活性化させる可能性があることが考えられる。

 授業における「立場」の分類結果から、発言する際の立場の違いによって、周囲に人間のいないということが与える影響が変化すると思われる。

 「同時性」の分類結果から、授業のような一方が多くの情報を伝達する場合でなければ、動画を用いた非同期型コミュニケーションが難しいと予測できる。



まとめ

近頃の感染症対策としてやむを得ず行われている遠隔における対人行動の事例が多く得られたが、条件次第でコミュニケーションの向上に活用できる可能性が明らかになった。


脚注

  1. 総務省統計局:平成28年社会生活基本調査、 2016



参考文献・参考サイト

  • 東京都産業局:多様な働き方に関する実態調査(テレワーク) 結果報告書、2020
  • 文部科学省:遠隔学習ガイドブック第3版,2018
  • 玉木秀和、他:遠隔会議における発話の衝突と精神的ストレスの関係、研究報告グループウェアとネットワークサービス (GN)、10、1-6、2011
  • 日本総合研究所:オンライン授業がもたらす教室の変革、https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=36280(閲覧日 2020年7月3日)
  • 日本総合研究所:COVID-19が促すデジタル社会への転換、2020
  • 厚生労働省:テレワークで始める働き方改革 テレワークの導入・運用ガイドブック、2019
  • 星野、他:遠隔授業における学習の理解度に影響を及ぼす要因の分析、日本教育工学会誌、24、197-202、2000
  • 日本医療政策機構:医療ICTに関する意識調査、2016
  • 厚生労働省:遠隔医療に関するアンケート調査、2008
  • 日本トレンドサーチ:オンライン飲み会に関するアンケート、2020