遠隔・非同期ツールとしてのWikiの可能性
- 井上貢一 / 九州産業大学 芸術学部 ソーシャルデザイン学科
Keywords: Information Design, Web Design, Wiki System
はじめに
人類が発明した「文字」は「紙」という媒体とセットになることで、いわば「遠隔・非同期」のコミュニケーションを実現する。また「情報体」というものは、すべて「複製可能」という性質によって、共有資源としての価値を担っている。情報を「遠隔・非同期的に複製されやすくするシステム」としてのWikiは、2020年に突然導入された大学の遠隔授業においても重要な役割を果たしている。
遠隔授業における同期と非同期
2020年度は COVID-19 の感染拡大の影響で、筆者の属する大学も4月22日から遠隔授業でスタートすることとなった。メールやSNSによる授業連絡、PDF資料の配布、非同期(オンデマンド)配信、同期(リアルタイム)双方向通信、さらにチャットを利用した質疑応答など、様々なツールの活用が試された。
実際に運用をはじめてわかったことは、同期型のWeb会議システムよりも、非同期型の動画配信の方が受講生の評判が良いということである。同期型のツールは、関係者の「時間」を拘束するだけでなく、事実上「場所」も拘束する (声を出せる場所は限られる)。一方、録画済動画と文字情報を主とした非同期型のツールは、参加者の行動を拘束しない。さらに言えば、音声や動画よりも、文字情報の方が「複製しやすい」という点で学習効率が上がるのである。ブラウザから記事の更新が簡単にできるWikiシステムは、結果としてそうした情報の共有に適したものであると言える。
Wikiを活用した学科の情報共有
九州産業大学芸術学部ソーシャルデザイン学科では、学科が開設した2016年からWikiサイトを運営している。そこでは、学科の学生全員(卒業生も含め)の個人ページがあり、専門科目の各授業の成果を公開するためのサブページ、また学生の自由意思で情報発信するためのサブページを置いて、日々相互の情報共有ができるようにしている(右図)。学科の学生全員を「信用」し、編集に関してメンバー内でオープンな仕様にしているため、上級生のページを参考に後輩が編集記法を「複製>書き換え」するかたちで、記事を書いていくため、自然と更新スキルは向上し、セッションの頻度も年々向上する状況にある。学科のWebサイト自体を授業時の資料提示用に用いていたこともあって、結果的に、遠隔授業にシフトしても、従来の対面授業と同様の授業を展開することができた。
遠隔授業でよく問題となることのひとつに「受講生相互の課題の成果が見えない」というものがあるが、学生自身にWikiの編集スキルがあれば、相互の取り組みの成果をWiki上で共有することができる。今年度の新入生についても、お互いをまったく知らない状況で遠隔授業がスタートしたが、Wiki上に全メンバーの氏名と自己紹介が記載され、また、相互の課題の遂行状況もオープンになることで、直接的ではないにしても「つながり」が「見える化」されるかたちとなった。
信用を前提としたオープンな思想
重要なことは、Wikiの背景にある思想である。それは「参加者全員を信用して編集をオープンにする」というもので、これが参加者全体の編集スキルの向上に寄与している。Wikiは「遠隔・非同期・複製容認」という性質によって、ポストコロナ時代の有効な情報共有ツールとなることが期待される。
外部リンク
- 九州産業大学 ソーシャルデザイン学科 https://design.kyusan-u.ac.jp/socialdesign/