ネットスーパーにおけるサービスの研究
- A Study on Services in online supermarkets -
- 劉群 / 九州大学 大学院芸術工学府
- LIU Qun / Graduate School of Design, Kyushu University
- 田村良一/ 九州大学 大学院芸術工学研究院
- TAMURA Ryoichi / Faculty of Design, Kyushu University
Keywords: Online supermarket, Consumer awareness, Usage process
- Abstract
- In recent years, online supermarkets have become a growing business in japan that is attracting a lot of attention. Because of the feature of same-day delivery, it has raised hopes that it can be used to support the underprivileged. However, the rate of use is still low, leaving many of them unable to make a profit. Designing services to satisfy a more diverse range of consumers is an important issue. In this study, we compared user awareness and the current state of services to find out the gap between them.
目次
背景と目的
近年、日本国内のネットスーパーの市場は拡大し続け、飲食市場の成長維持や社会インフラの整備などの点で注目されている。[1]一方、利用者の利用意欲は高いが、実際の利用率はまだ低い水準である。[2]これまで利用者の意識に関する調査は多くされていたものの、現状として各ネットスーパーは利用者の意識に対する対応や利用上の異同についての研究はまだなされていない。
そこで本研究では、今後のネットスーパーのあり方を考えるための端緒として、ネットスーパーに対する利用者の意識に関する先行調査をもとにネットスーパーの評価に関係する項目(以下、評価項目)を抽出し、現状のネットスーパーの特徴を整理した。
研究の方法
①ネットスーパーの利用プロセスの分類。
②ネットスーパーの利用に関する先行調査に基づく利用プロセスごとにみた評価項目の抽出と整理。
③主要なネットスーパーを対象とした抽出した評価項目に基づく考察。
利用プロセスの分類について
日本のネット通販の代表である「楽天市場」の利用ガイド[3]とネットショッピングの方法の関連記事[4]を参考として、「商品を検索、閲覧、商品情報を確認し、意思決定を行う段階(以下、商品情報の収集)」、「商品の購入、支払いを行う段階(以下、購入の手続き)」、「注文後、商品が届くまでの段階(以下、商品の配達)」の三つの利用プロセスに分類することにした。
評価項目の抽出
調査対象とした資料
以下に示す3種類の資料を選定し、評価項目を抽出することとした。
資料A:プレシニア・シニアのネットショッピングに関する実態調査[5]
資料B:ネットスーパーに関する意識調査[6]こ
資料C:2020年5月総合EC・ネットスーパー利用動向調査[7]
調査項目
資料Aから36個、資料Bから21個、資料Cから29個の合計86個の評価項目を抽出することができた。
抽出された合計86個の評価項目について、利用プロセスの観点から再整理した。その結果、図1に示すとおり、商品情報の収集では「品揃えの豊富さ」、「商品検索の方法」、「商品の見せ方」、「商品価格の表示」、「口コミの有無」の5項目、購入の手続きでは「注文の時間帯」、「注文方法」、「決済方法」、「ポイントの有無」、「セキュリティ保証」の5項目、商品の配達では「最短配達時間」、「配達料金」、「配達商品の制限」、「配達状況の確認」、「受け取りの時間」の5項目の合計15項目に整理することができた。
なお、「サイトの信頼性」、「交通の配慮」、「人間関係」などの19個の評価項目については、3つのプロセスに当てはめてることができないと判断し、上記の分類から除くことにした。
調査
調査対象
即日配達できる32個のネットスーパーサービス(以下、サービス)を対象として調査を行った。調査対象としたサービスを図2に示す。
調査の結果
商品情報の収集について
「品揃えの豊富さ」については、3000点から17万点まで幅広い差が見られ、そのうち26サービスの取扱商品数は1万点以下であった。ネット限定商品を揃っているサービスは6個で、それ以外のサービスでは実店舗の商品から一部を選んで出品していることがわかった。
「商品検索の方法」については、31サービスは検索機能を導入していおり、検索以外で商品をピックアップする方法は「おすすめ商品」、「商品特集」、「ランキング」、「最近見た商品」の四つであった。「おすすめ商品」と「商品特集」は多く採用されているが、「ランキング」と「最近見た商品」の機能はそれぞれ2個と1個のサービスしか導入していない。
「商品の見せ方」については、22サービスは写真と説明文字の組み合わせを使っているが、10サービスはイメージ写真のみ展示ている。具体的な商品の説明項目は、「紹介文」、「産地」、「賞味期限」、「原材料」、「栄養成分」、「アレルゲン」、「製造者」、「レシピ」、「取扱方法」、「配達方法」10種類であった。「楽天西友ネットスーパー」、「アマゾンフレッシュ」、「MrMAXネットスーパー」、「YAOKOネットスーパー」、「阪急キッチンエール」と「ラッキー&パントリーネット」は商品説明が最も詳しいサービスである。
「商品価格の表示」については、「税抜き価格」と「税込価格」の2種類の表示の仕方があることがわかった。32サービスでの採用の仕方を比較してみると、19サービスで両方の表示方法が用いられていた。
「口コミ機能の有無」については、32サービスのうち4サービスのみがレビュー機能を道入していることがわかった。
注文の手続きについて
「注文の時間帯」については、「24時間できる」と「一日中特定時間でできる」2種類の時間枠があった。27サービスは24時間対応しているが、5サービスは毎日一定時間のメンテナンス時間を設けているため、注文できない時間帯が存在する。
「注文方法」については、「ネットでの注文」、「電話注文」「FAX注文」3種類であった。すべてのサービスはネット注文対応しているが、「電話注文」と「FAX注文」についてそれぞれ6サービスと4サービスが対応している。
「決済方法」については、「代金引換」、「クレジットカード」、「口座振替」、「キャッシュレス」、「コンビニ・ATM」と「携帯決済」6種類であった。「代金引換」と「クレジットカード」二つの組み合わせが主流のやり方で、25サービスが両方を導入している。「キャッシュレス」と「携帯決済」は「Amazonフレッシュ」のみ導入している。全体的に決済方法に対して保守の傾向が見られていた。
「ポイントの有無」については、12サービスが自社のポイント制度を導入している。また、ポイント制度を設けているがネットスーパーでは使えないサービスも見られた。
「セキュリティー保証」に関しては、「SSL暗号通信表記」と「クレジットカード安全説明」の仕方が見られた。「SSL暗号通信表記」について、9サービスがトップページにつけていることがわかった。
商品の配達について
商品の配達方法は、自社配達とヤマトに依頼する2種類の方法があった。図6で示しているように、ヤマトは基本午前8時から夜9時まで配達できるが、自社便の場合、配達時間の違いが見られた。「最短配達時間」については、各サービスの差別が少なく、基本3時間から5時間の間で届けることがわかった。また、即日以外の配達時間の指定について、可能な時間は二日間から二週間先までの幅があった。「配達料金」については、基本料金は無料から880円までの幅があり、そのうち半数以上のサービスの料金は300円から500円までの間であった。またほとんどのサービスは一定金額買い上げすると配達料金が割引また無料になる仕組みになっていた。全体的見ると配達の料金がやや高めと感じられる。「配達商品の制限」については、一回の配達につき重量制限は特に設けていないが、システムにより注文金額の下限と上限は存在していた。「配達状況の確認」については、業者サイトから番号で調べられるが一般的な方法だが、サイト内での記載が不明確なサービスが多かった。また利用者が不在の時、注文が直接キャンセル場合があった。「受け取りの方法」については、「当面受け取り」以外に、「置き便」と「店舗受取」の方法もあった。
まとめ
ネットスーパーは、既存スーパーのオムニチャネルとして発展していくと思われているが、現時点ではまだリアル店舗の付属のような特性が強い。
商品情報収集の段階では、実際ネットスーパーで揃っている商品はリアル店舗と全く同じか一部を選定しており、ネットスーパーならではの商品や体験がまだ整備されていない。
注文手続きの段階では、ネットスーパーではポイントが利用できないの事例やキャッシュレス決済なども導入されず現状から保守的傾向が感じられた。
商品配達の段階では、物流の人件費などのコストの上昇と利用者側の柔軟な対応が大きな課題である。
以上のように、現時点でのネットスーパーは、消費者にとって止むを得ずの時使う手段の一つで、消費者が楽しく過ごせるサービスまでに成熟化していなく、差別化がこれからのサービスの発展の肝心である。今後の課題として、外国の先進事例調査や、利用者による事例の評価などを行うことが必要であろう。
脚注
- ↑ 矢野経済研究所,2020年版 食品の通信販売市場~コロナショックとサブスク拡大で見直される食品EC~ https://www.yano.co.jp/market_reports/C62105700 (2020年10月4日 閲覧)
- ↑ 日本政府金融公庫:平成28年度下半期消費者動向調査,https://www.jfc.go.jp/n/release/pdf/topics_170308a.pdf (2020年10月5日 閲覧)
- ↑ 楽天市場ご利用ガイド https://event.rakuten.co.jp/beginner/ (2020年8月17日 閲覧)
- ↑ ネットショッピングの方法 http://netshopingguide.com/howto (2020年8月17日 閲覧)
- ↑ 株式会社アスマーク,プレシニア・シニアのネットショッピングに関する実態調査 https://www.asmarq.co.jp/data/ex201911senior-shopping/ (2020年8月30日 閲覧)
- ↑ 株式会社プラネット,ネットスーパーに関する意識調査 https://www.planet-van.co.jp/news/info/1272 (2020年8月30日 閲覧)
- ↑ MMD研究所,2020年5月総合EC・ネットスーパー利用動向調査 https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1867.html (2020年9月6日 閲覧)
参考文献・参考サイト
総務省行政評価局(2020)買物弱者対策に関する実態調査 結果報告書
川辺信雄(2011)ネットスーパーの生成と発展,早稲田商学,429,23-78
髙橋郁夫(2016)イノベーターとしてのネットスーパー:業態ロイヤルユーザーの分析から見た特徴と課題,マーケティングジャーナル,36(2),5-20