ユーモアに関する理論のテキスト分析への適用

提供: JSSD5th2020
2020年9月19日 (土) 11:29時点における吉松孝 (トーク | 投稿記録)による版
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- シットコム比較研究 -


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吉松 孝 / 九州大学大学院 芸術工学府 
YOSHIMATSU, Takashi / Kyushu University 
池田 美奈子 / 九州大学大学院 芸術工学研究院 
IKEDA, Minako / Kyushu University 

Keywords: sitcom, laughter, humor, text analysis ← キーワード(斜体)


Abstract
Sitcoms are supposed to proceed in a way that makes the audience feel funny. Therefore, in analyzing sitcoms, theories about humor and laughter can be considered as a reference point. There are several mainstream theories that interpret humor and laughter. This report will show the flow of each theory and how these theories can be applied to the textual analysis of sitcoms.


背景

 シットコムは、視聴者に面白みを感じさせながら進行していくことを前提としている。したがって、シットコムを分析するにあたり、ユーモアや笑いについての理論が参照できると考えた。ユーモアや笑いの研究を分析する理論として、Hurley et al. (2011) [1]は、生物学的理論、遊戯理論、解放理論、優位理論、不一致解決理論、驚き理論の6種類を挙げている。雨宮(2016)[2]。、中村(2017)[3]は、ユーモアに関する理論や研究をまとめ、ユーモアに関する理論は、優越理論、エネルギー理論、そして不調和解消理論の3つに大別されるとした。ユーモア理論としての使用のされ方や、シットコム分析における有用性を考慮し、筆者の研究では、不一致理論(不一致解決理論、コントラスト理論、不調和解消理論を含む)、エネルギー理論(緊張解放理論を含む)、優越理論(優位理論、優越感の理論を含む)を採用する。関連性理論はSperber&Wilson (1986,1995)[4] が示し、雨宮(2016)[5] 、東森(2011)[6] らが解釈を進めた。ユーモアや笑いについての理論とは一線を画すが、シットコムのテキスト分析においては、発話者同士の解釈のズレとそこから生まれる面白みを説明するのに有用な理論と考えられる。  筆者は、以前の研究で、分析対象6作品の対象箇所の全てのテキストを書き起こし、ラフ・トラックの挿入箇所で、4つの理論のいずれかが当てはまるかを確認していった。その結果、計2255回のラフ・トラック挿入箇所のうち2253回(99.9%)がこの4つの理論のうちのいずれかで説明がついた。したがって、この4理論の適用は妥当であると考えられる。

目的

 以上の背景により、本報告では、シットコムのテキスト分析において、ユーモアに関する理論がどのように適用されるかを示す。

方法

 米中両国から代表的なシットコム6作品を取り上げ、テキスト分析という手法を用いて、ラフ・トラックが挿入されたポイントについての分析、考察を行う。不一致理論、エネルギー理論、優越理論、関連性理論の概要を示し、シットコムのテキストの事例を用いながら、各理論がどのように適用されるかを提示する。

各理論の概要

 シットコム分析に有用だと判断した不一致理論、エネルギー理論、優越理論、関連性理論についてまとめる。これらの理論を融合することで、シットコムにおける笑い創出の手法を広範なアプローチから解析することが可能となる。

不一致理論

 Suls (1972) 、Forabosco (1992) 、 Attardo et al (2002) 、Mio&Graesser (1991) 、Hillson&Martin (1994) 、Hurley et al (2011) らが示したもので、いつもと違う何か、曖昧で不調和な何かを、そのギャップを埋める新たな関係性を見いだしたり、思い込みの間違いを見いだしたりして解消する際に笑いが発生するとしたものである。

エネルギー理論

 Spencer (1859) 、Freud (1905) 、中村(2018) が、神経エネルギーの解放、神経の興奮の解放、緊張と緩和といった概念を示した。ユーモアは高まりすぎた神経の興奮を解放する。思考により緊張が次第に高まり、緊張がさらなる思考がもたらした肯定的な感情によって解放されたとき、エネルギーが笑いに変形するというものである。

優越理論

 Hobbes(1840) が示した。人が他者からの優越を認識、指摘する際に面白みが生まれるという理論で、標的となった他の誰かよりもあるレベルで優っている、卓越しているという感覚や認識から生じる突然の栄光や勝利から笑いが発生するというものである。

関連性理論

 関連性理論はSperber&Wilson (1986,1995) が示し、雨宮(2016) 、東森(2011) らが解釈を進めた。ユーモアや笑いについての理論とは一線を画すが、テキスト分析において、発話者同士の解釈のズレを説明するのに有用な理論と考えられる。発話者の言葉通りの意味を表意とし、受け手側の解釈する意味が推意とされる。発話は聞き手の推論の出発点となり、解釈の方向を導く働きをする。何を言っているか聞き手に分かりにくい(→関連性が低い)状態の中で、推意のずれが意図的に作り出されることにより面白みが発生するというものである。

事例からの考察

 これらの理論が、シットコムの事例にどのように適用されるのかを考察していく。

===不一致理論の適用===  不一致理論がどういう形でシットコムに適用されるのかについて確認するため、ここでは、「the Big Bang Theory」1-1からのテキストを抽出する。精子提供バンクの受付で、クロスワードに夢中になっている受付に対し、レナードが話しかけている。

[1] Leonard : Excuse me?(すみません)     Receptionist: (相手にしようとせず)Hang on. (L1)(ちょっと待って)

       Leonard :   One across is Aegean, eight down is Nabakov, twenty-six across is MCM, (L3) fourteen down is… move your finger…(L3) phylum, which makes fourteen across Port-au-Prince. (L4) See, Papa Doc’s capital idea, that’s Port-au-Prince. Haiti. (L5) (ヨコ1がエーゲ海、タテ8がナボコフ、ヨコ26がMCM。こっちは・・・。指どけて。ヨコ14はポルトープランス。パパドクの国の首都は?ハイチね)

(L1)は、Leonardが話しかけているにも関わらず、事務員が相手にせず無視し、沈黙が流れる。この沈黙は、場に緊張感を与えるため、エネルギー理論が適用できる。(L2)は、他の人がクロスワードパズルをしていれば黙って見ているのが普通なのに、Leonardが勝手に解き始めた。空気の読めない行為として不一致理論が適用できる。(L3)はさらにクロスワードに夢中になり、事務員の指が邪魔だといって、指をどけろとまで言っている。これも(L3)同様に空気の読めない行為で不一致理論が適用できる。(L4) は、クロスワードパズルという誌面内の虚構空間に関して真剣に思考しているとメタ構造と、(L2) (L3)同様に空気の読めない行為を続けているという不一致理論が適用できる。(L5)も結局 Leonardが事務員のクロスワードパズルを全部解いてしまったという空気の読めなさから不一致理論が適用できる。

エネルギー理論の適用

エネルギー理論がどういう形でシットコムに適用されるのかについて確認するため、ここでは、「Friends」1-1からのテキストを抽出する。カフェのテーブルで、キャスト一同が話している。Rossのロスの前妻のことが話題になり、一同はロスと前妻を気遣う。

[2] Ross: I'll be fine, alright? Really, everyone. I hope she'll be very happy. (平気だよ。妻の幸せを祈ってる) Monica: No you don't. (ウソだ) Ross: No I don't, to hell with her, she left me! (L1) (ウソだ。僕を捨てやがって)

(L1)はRossが前妻の幸せを祈っていると言いながら、モニカの一言に刺激され、急に怒りだして、暴言を吐くところで、態度が急変している。急に緊張状態になったことからエネルギー理論が適用できる。

優越理論の適用

優越理論がどういう形でシットコムに適用されるのかについて確認するため、ここでは、「the Big Bang Theory」1-4からのテキストを抽出する。大学のパーティで、Rajがビュッフェ形式になっている食事を見て大喜びする。その様子を見たLeonardがRajに話しかける。

[2.5] Leonard: You don’t have buffets in India?(ビュッフェはインドにないの?) Raj: Of course, but it’s all Indian food. (L1) You can’t find a bagel in Mumbai to save your life. (L2) Schmear me. (L3)(もちろんあるさ、でも全部インド料理。ベーグルはムンバイで宝も同然。塗って)

(L1) は、全部インド料理(だから食べたくない)という発話の解釈によって面白みとなっているが、根本には、Rajがインド料理をバカにしているという優越性が成立しており、優越理論が適用できる。(L2)は ベーグルが命を救うという誇張表現がされている。発話の解釈でもあるが、インド出身という設定のRajがインドの状況について大げさな発話を行っていることから、メタ構造の方が強く作用していると考えられる。(L3)は喜んでいると思ったら、急にいきなりベーグルにバターを塗らせようとするRajの行為に、普通の流れとは違う不一致が発生しており、不一致理論が適用できる。

関連性理論の適用

関連性理論がどういう形でシットコムに適用されるのかについて確認するため、ここでは、「the Big Bang Theory」1-2からのテキストを抽出する。SheldonとLeonardが前夜に合鍵を使ってPennyの部屋に忍び込み、散らかった部屋を片付けた。その翌朝、起きてきたSheldonが、リビングでLeonardと話す。

[2.6] Sheldon:I have to say, I slept splendidly. (L1) Granted, not long, but just deeply and well. (L2) (私はよく眠れたと言っておきたい。よく寝られたよ。長くはないけど、深い眠りだ)

       Leonard:I’m not surprised. A well known folk cure for insomnia is to break into your neighbour’s apartment and clean.	(L3) (だろうな。隣室に侵入して片付けると不眠症に効く)

(L1)は、Sheldon は「よく眠れた」と言えばいいところを、「よく眠れたと言っておきたい」という風に遠回りに言っている。遠回しの表現は発話の内容と、そこから受け取れる意味合いに関しての開きを埋め合わせる作業を必要とし、関連性理論が適用される。発話の解読が行われることで、これはユーモアとして解釈されにくいところであるが、Sheldon の理屈っぽい性格が受け取れる。(L2) では、Sheldon が自分の眠りの質に関して、聞かれもしないのに詳細に描述しようとしている。この部分も、視聴者は文脈を加味し「だから、Sheldonは何が言いたいのか?」という発話の意図の解読が必要となり、関連性理論が適用できる。解読の結果、Sheldonは自分がPennyの部屋に忍び込んで掃除をしたという行為を正当化したいということがうかがえる。(L3)では、Leonard が回りくどい言い換えで応酬をしている。隣室に侵入したことを咎めたいのに、それを直接言わず、「隣室に侵入して片付けると不眠症に効く」というような一見、肯定しているように聞こえる。肯定的に聞こえるものを否定的に解釈することで、皮肉と判断でき、面白みに繋がりうるという点で、関連性理論が適用できる。

図1.◯◯◯◯

 顔しこんな手ドアどもでわたし二人のままがわくからはせようたんたは、ぼくをはなるべく生意気だてぞ。すると前は作曲はみんなじゃ、なって万日にもいかにもホールを過ぎているきき。



まとめ

  不一致理論とは、一般的に想定され得る状況とは一致しない状況を認知した時に、笑いが生まれることを説明した理論である。シットコムでは、登場人物の言動において不一致を発生させラフ・トラックが挿入されている部分は多く見られる。 エネルギー理論は、ユーモアを高まった神経の興奮を解放する形式だと捉える。シットコムにおいても、緊張から緩和、緩和から緊張へのエネルギーの移行により、ラフ・トラックの挿入ポイントが作られているケースが見られる。 優越理論は、笑いが他人に対する優越感の表現だとする理論である。シットコムでは、標的となった他の誰かよりもあるレベルで優っている、または卓越しているという状態の形成がラフ・トラックの挿入タイミングに繋がっている部分があり、シットコム分析には優越理論も採用できる。 関連性理論は、発話者の言葉通りの意味が表意であり、受け手側の解釈される意味が推意で、発話は聞き手の推論の出発点となり、その方向を導く働きをすると説明する。シットコムでは、プロットで発話と聞き手の解釈のズレを意図的に作成することによって、笑いのポイントを発生させるパターンが見られる。 本章では、シットコムがこの4つの理論を適用することにより、分析が可能ということが分かったが、さらに、この分析を、理論を当てはめる以上に詳細なものにするために、これらの理論を用い、独自の分類を作成できる余地があると判断した。


脚注

  1. Hurley, M. M., Dennett, D. C., & Adams, R. B. (2011). Inside jokes: Using humor to reverse-engineer the mind. Cambridge MA: The MIT Press.
  2. 雨宮俊彦『笑いとユーモアの心理学』(ミネルヴァ書房、2016年)p140-p141
  3. 中村太戯留(2017)「ユーモア理解過程に関する研究―不調和の解消とその神経基盤―」(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)
  4. Deirdre Wilson & Dan Sperber. (2004, Sperber 1994; Wilson 2000). Relevance Theory. In L. R. Horn & G. Ward (eds.), The Handbook of Pragmatics. (Blackwell), 607-632. Deirdre Wilson & Dan Sperber『関連性理論-伝達と認知』(2000年、研究社)
  5. 雨宮俊彦『笑いとユーモアの心理学』(ミネルヴァ書房、2016年)p140-p141
  6. 東森勲(2011)『英語ジョークの研究 : 関連性理論による分析』(龍谷叢書)


参考文献・参考サイト

  • ◯◯◯◯◯(20XX) ◯◯◯◯ ◯◯学会誌 Vol.◯◯
  • ◯◯◯◯◯(19xx) ◯◯◯◯ ◯◯図書
  • ◯◯◯◯◯(1955) ◯◯◯◯ ◯◯書院
  • ◯◯◯◯◯(20XX) ◯◯◯◯ ◯◯学会誌 Vol.◯◯
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