ビジネスモデルがゲーム導入部の構成に与える影響

提供: JSSD5th2021
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髙田佑亮 / 九州大学大学院 統合新領域学府 ユーザー感性学専攻 感性価値クリエーションコース
Yusuke TAKADA / Kyushu University

Keywords: Smartphone game, Business model, Tutorial


Abstract
In this study, we focused on the introduction of smartphone games and investigated the effects of different business models on the structure of the tutorial. As a result, we found that the differences in game design by business model affected the tutorials, such as "presence of Loot Box", "handling of quests", and "availability of tutorial skip".



背景と目的

研究の背景として国内ゲーム市場の拡大が挙げられる。国内のゲーム市場は拡大を続けており、その中でも急成長しているのがゲームアプリ市場だ。その市場規模はゲーム市場全体の約3分の2程度で、現在のゲーム市場の中心といえる。
そんなアプリゲーム市場で主流となっているのがフリーミアムと呼ばれるビジネスモデルだ。このモデルはユーザーに基本のゲームプレイを無料で提供することで顧客を広く集めて、付加機能(レアなアイテム、ゲーム効率の上昇、ゲーム内広告の除去等)を有料で提供する。
ただフリーミアムの課題としてユーザーの離脱しやすさが考えられる。フリーミアムは買い切りモデルに比べて始めやすいかわりに辞めやすいモデルである。そのためゲーム導入部分の設計はゲーム提供者にとって重要な課題である。
本研究では、国内ゲームアプリ市場のゲームを対象に、、ビジネスモデルとゲームデザインに関する文献調査と各ビジネスモデルのゲームチュートリアル内容の分析を通して、ビジネスモデルがゲームチュートリアルの構成に与える影響について明らかにすることを目的とする。

研究方法

文献調査

ゲームに関する書籍や論文、ゲーム開発者の記事を参照し、ゲームのチュートリアル及びビジネスモデルとゲームデザインの関係についての記述を調査した。

チュートリアル内容の比較検証

フリーミアムのゲーム3作品とAppleが運営するサブスクリプションサービス「Apple Arcade」で配信中の買い切りモデルのゲーム3作品のチュートリアル部分を実際にゲームプレイし、内容の記録を行なった。
その後、各ゲームのチュートリアルのシーン構成と提供される情報を構造化し、各チュートリアルに共通する要素とビジネスモデルごとに異なる要素について検証を行った。

対象ジャンルと作品の選定基準

本研究では、チュートリアルの内容比較を行いやすくするため、ゲームの対象ジャンルをロールプレイングゲーム(RPG)に選定した。
ジャンルにRPGを選んだ理由として国内ゲームアプリ市場での人気が高いジャンルであること、物語を主体としたジャンルなので序盤での離脱を避ける必要が他ジャンルに比べて高いことが挙げられる。
また本研究ではRPGの定義を「戦闘」「育成」の要素を持った物語主体のゲームとし、対象作品もこれに基準に選定を行った。

対象ゲームタイトル

フリーミアムのゲーム作品として『チェインクロニクル』『グランブルーファンタジー』『白猫プロジェクト』の3作品を選定した。買い切りのゲーム作品として『FANTASIAN』『VARIOUS DAYLIFE』『Cat Quest Ⅱ』の3作品を選定した。

チュートリアル範囲の定義

本研究ではチュートリアルとして取り扱う各ゲームの範囲について、チュートリアルに関連するゲーム内の実績やApp StoreのGame Centerにある達成項目が存在する場合には、それを参考に定義した。
ない場合にはユーザーがゲームの進行指示に従わずに自由度を持ったゲームプレイができると判断したシーンまでを本研究のチュートリアルとして定義した。

文献調査 結果

ビジネスモデルとゲームデザインの関係について、遠藤(2019)はアーケードゲームから家庭用、そしてPCのMMORPGで登場して以来モバイルアプリゲームでも主流となっているフリーミアムに至るまでの時代背景を含めた経緯と、
その各時代のビジネスモデルに対応するようにゲームデザインが変化し、ジャンルが多様化してきた一連の流れを述べている。[1]

また松永(2020)は著書の中で現役のゲームディレクターとして、スマートフォンRPGの可能性と問題点について「ユーザーのプレイ環境」や「基本無料のビジネスモデル」の観点から述べている。
他にも「ガチャ」システムがもたらす特別な体験の効用と抱える課題や、基本無料のゲームであるためにゲームの”序盤”に力を注がざるを得ない現状についても述べている。[2]

チュートリアル内容の比較検証 結果 内容の整理分類

チュートリアル中に遷移するシーンの種類

チュートリアル内容をシーンの遷移を元に内容ごとに種類分けをして、登場する順番に並べて図示を行なった。

チュートリアル中のみ表示される情報の種類

チュートリアル中のみ画面上に表示される情報の種類は、ユーザーが次に行うべきゲーム上の行動やボタン操作を指示する「進行指示」と、戦闘や育成などゲームの各パートにおけるルールやヒント、またゲームサイクルなどゲーム全体の進行について説明する「システム説明」の2種類に分けられた。
また「システム説明」はその内容から、「戦闘」「キャラクター」「ゲーム進行」の3種類に分けられた。

「システム説明」の種類別の情報提供順

各ゲームそれぞれのチュートリアルに登場する「システム説明」を提供順に並べた場合、初めに登場するのは「戦闘」に関する説明、またはステージ内移動に関する説明だった。また「キャラクター」に関する説明はチュートリアル全体の中で後半に登場していた。

ユーザーへの情報提供手段

「進行指示」と「システム説明」という2種類の情報の表現手段として「キャラクターのセリフ」、「ポップアップウィンドウ」、「矢印」、「映像」が使用されていた。

チュートリアル内容の比較検証 結果 ビジネスモデルで異なる要素

各ビジネスモデルの作品群それぞれのチュートリアル構成の相違点として以下の3つの要素が挙げられた。

チュートリアルに登場するクエストの回数

フリーミアム作品ではチュートリアルの間にクエスト(クエスト選択+ドラマパート+戦闘パート)のシーンの連続が何度も繰り返され、また一つのクエストの中に登場する新しい「システム説明」は1つや2つである場合がほとんど出会った。
買い切り作品の場合、チュートリアルの間にクエストが登場しない作品や、登場する場合、チュートリアル中にクエストが一度登場し、その間に発生する多くの戦闘の中で「戦闘」の「システム説明」が登場していた。

フリーミアム特有の機能のシステム説明

フリーミアムの作品でのみ、ゲーム内通貨でキャラクターや武器を入手することができるガチャ機能やお互いの所持キャラクターを編成に組み込めるフレンド機能が実装されており、チュートリアルの中でもシステム説明が行われていた。

チュートリアルのスキップ機能

フリーミアムの作品では、冒頭のナレーションが終わった直後からチュートリアル全体のスキップを行えるボタンやポップアップが表示され、ユーザーがチュートリアルを続けるか否かの選択ができるようゲームデザインされていた。
逆に買い切りの作品だと最初からスキップする機能が実装されていなかったり、チュートリアル中にプレイヤー自身のステータスを決める重要な選択を行うシナリオ構成が見受けられ、意図的にチュートリアルを飛ばさずに物語を体験させるようゲームデザインが構成されていた。

考察

ビジネスモデルがゲームチュートリアルに影響を与えるパターンは以下の2種類が考えられる。

ビジネスモデルがゲームデザインに影響を与えた結果、間接的にチュートリアルにも影響を与える場合

フリーミアム特有の機能に関する「システム説明」と、クエストを中心としたチュートリアル構成は、ここに該当すると考えられる。

ビジネスモデルの課題が直接チュートリアルに影響を与えている場合

「チュートリアルスキップ機能」は、プレイーに対してゲームを遊ぶ手順の自由を与えることで負荷を減らし好きな遊び方を促すと共に、離脱を防ぐことが目的と考えられる。

結論

フリーミアムと買い切り作品のチュートリアル内容の比較分析を通して、ビジネスモデルの違いが「フリーミアム特有の機能のシステム説明の有無」「チュートリアルに登場するクエストの回数」「チュートリアルスキップの有無」に影響を与えていることが分かった。また影響を与える流れとして、ゲームデザインを介して影響を与える場合と直接影響を与えている場合の二つのパターンが見られた。

今後の展開

今後の取り組みとして対象作品数を増やすと共に今回分析を行えなかったビジネスモデルが与えるシーン構成とチュートリアル情報の組み合わせへの影響について研究を進めたい。

脚注

  1. 遠藤雅信(2019). ゲーム道に通じるユーザーの振る舞いとゲームデザインへの応用, 東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科メディアサイエンス専攻博士論文, 15-20.
  2. 松永純(2020). チェインクロニクルから学ぶスマートフォンRPGのつくり方, 星海社.


参考文献・参考サイト

  • 井上明人. チュートリアリズムの成立 認知プロセスとしてのゲーム観(2009), デジタルゲーム学研究, 3(1), 59-66.
  • 岩谷徹(2005). パックマンのゲーム学入門, エンターブレイン
  • 徳岡正肇(2016). [gamescom]ガチャは日本だけのものじゃない。ヨーロッパ市場で受けるガチャの作り方とは, https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20160820019 (2021年10月10日 閲覧)
  • 徳岡正肇(2016). 「そんなものあったっけ?」が理想となるチュートリアルを,どのようにデザインすべきか, https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20160826146 (2021年10月10日 閲覧)