「地域連携によるXRを用いた屋外歴史遺産教材コンテンツの開発」の版間の差分

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; 中村 隆敏 / 佐賀大学芸術地域デザイン学部
 
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: NAKAMURA Takatoshi / Saga University
 
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; 天賀 光広 / (株)とっぺん
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: Mitsuhiro AMAGA / TOPPEN Corporation.
  
 
''Keywords: MR,Mobile teaching tool '' 
 
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; Abstract
 
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:We have developed rich media content that utilizes the newest technologies such as MR. It is an educational program by PBL. Companies and universities collaborate to create ideas and commercialize them. We were able to improve the practical ability of content development. We will introduce MR contents and report on their practice.
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:In this paper,We propose VR, AR, MR teaching materials for exhibitions such as heritage and archaeological sites using regional cooperation. We report on some of the issues and achievements we have learned during the development process.
  
  
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==はじめに==
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 本稿は,地域連携として,自治体,企業,大学による遺産・遺跡等展示用VR,AR,MR教材の開発を行う中で,屋内用展示と屋外用展示コンテンツのあり方や融合の方策,さらには地域連携で取り組む意義など開発過程で見えてきたいくつかの課題と成果を論考する。本研究は世界遺産や古墳,城跡,窯跡等の国内に現存する歴史的,文化的な価値を持つ屋外における学習資産展示場において,専用タブレットやHMDを装着し移動しながら,AR,MR環境として現実空間情報と仮想空間情報を融合させ,学習対象を学びながら体験できる教材の開発である。
  
 
==目的と背景==
 
==目的と背景==
 MR等の先端メディアを用いたコンテンツ開発は人工集中都市圏のみに限定されるものではなく,より地方都市に分散化される傾向がある。本研究は,2019年度より行っているMR等の先端テクノロジーを活かしたリッチメディアコンテンツの開発と,事業化を目指したPBLによる教育プログラムである。地域連携として企業と大学が連携しMRコンテンツを開発研究することで先進事例を作り,アイデア創出から事業化まで学生も参画可能なPBLによりコンテンツ開発の実践力を高めることができた。今回は途中成果としてMRコンテンツの紹介と実践報告を行う。
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 本研究は,屋内展示環境において学習者の自由度を狭める完全な視覚没入型VRではなく,屋外展示において移動しながら実際の実写映像とCGを合成し,現実世界に仮想世界をマッピングするモバイル型XR(AR,MR)教材の開発である。近年,博物館や科学館等における体験型学習の方策として,VRやARによる学習支援教材が普及してきた。没入型や学習情報支援として一定の成果を納めているが,屋内における教材が多数を占め,屋外におけるAR,MRの教材はまだ少ない。<br>
 
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 本研究では,屋外展示の回遊において体験型学習展示教材の質的向上と専用HMDによる実写映像とCG映像をハイブリッドに体感できるモバイル型AR,MR学習教材の開発を目指した。これにより,現実空間情報と仮想空間情報を融合させ,学習対象を学びながら体験できる質的に高いコンテンツとなる。その中で,屋外用展示コンテンツのあり方や融合の方策,さらには地域連携で取り組む意義など開発過程で見えてきたいくつかの課題と成果を論考する。
 
 
==研究の方法==
 
 先端テクノロジーを活かしたコンテンツの普及が見込まれる中,共同研究を締結した芸術地域デザイン学部に所属する芸術系,社会科学系,工学系,教育系の専門家である大学内研究者と新たな表現方法や社会への適用化を目的に共同研究を進めることとした。芸術,観光,教育,医療などの各分野で活用できるMRコンテンツを開発研究することで,先進事例を作りメディア表現の可能性を広げる。また,MRに限らず多様なコンテンツのアイデア創出から事業化まで,学生も参画可能なPBLによる実践的教育プログラムの開発も行うことを目指すこととした。参画する企業は地域のIT系4社からなる「次世代コンテンツ開発共同企業体」であり,共同研究者1名,実践指導員5名が大学施設内に研究開発室を備えている。厚生労働省事業終了後も,地元企業や行政がVRやMR,今後開発される新しい技術を活用したクリエイティブなコンテンツを開発できる体制を整えるために,「企業共働型」のファクトリーとして設置した(図1)。
 
[[ファイル:001.jpg|サムネイル|図1 実践的教育プログラム(例)]]
 
 
 
==研究の内容==
 
 ファクトリーの対外的にも分かりやすいネーミングとして「redeco(research development co-creation)」とした。ここを拠点とし,「大学発の技術開発やコンテンツデザイン」を世に出し,学生が企業とともに開発に携わることで実践的な技術や起業家精神を習得できる体制を作り,就活生の支援ができるよう学内インターンシップ的役割も持たせた。
 
企業側からの利点の一つとして,大学内の研究教育施設の共同利用が可能になる。学内施設のモーションキャプチャスタジオや撮影スタジオ,VR,MR開発システム,特機撮影機材等が活用できる環境は質の高い挑戦的なコンテンツ開発につながる。
 
 
 
==結果==
 
 MRコンテンツ開発は実践指導員がリードし,学生が定期的に参画させてもらうこととした。また,学生が自主的にコンテンツ開発を行う際は助言や技術支援をするなど,双方にとって良い環境となっている。定例的なミーティング,アイデア創出ワークショップ,イベントにおける研究成果発表等を行った。約1年の間にサンプルコンテンツやイベントにおけるコンテンツ開発等,企業と学生のお互いの良い刺激が事業の活性化に寄与している(図2)。実践支援員らを中心として,佐賀市の観光資源「三重津海軍所跡」,「諸富家具」,「バルーンフェスタ」をPRするMRコンテンツ開発を2年間かけて進めている。開発基礎の習得を経て,MRコンテンツを体験できる中間成果発表会を行った(図3、4)。
 
 
 
[[ファイル:002.jpg|サムネイル|図2 実践支援員と学生との交流ミーティング]]
 
[[ファイル:0031.jpg|サムネイル|図3 MRコンテンツ成果発表会の様子]]
 
[[ファイル:004.jpg|サムネイル|図4 三重津海軍所跡用MRコンテンツ]]
 
 
 
==考察==
 
 大学と共同開発することで,企業や地域のあらゆる課題にVR,MR開発における心理学,生理学,経営学,博物館学等,多角的な視点と対応が可能な研究者との連携ができる環境を獲得することができた。学内にあるモーションキャプチャシステムやVR,MR機器,リアルタイム合成や高解像度撮影機器などの設備を使用することで,開発環境の高度化ともに,より質の高いサービスの提供に結びついている。大学内に先端技術の開発拠点の redeco を設置したことで,興味を持った学生から先端技術に限らず実践的な技術の相談が増えた。こうした学生との接点を持つことで,企業としては実践経験のある地元学生の確保につながり,学生としては学業以外の場でより実践的な経験を得ることが可能となるだろう。先端技術は新しい技術であるため,その更新スピードは速く,日々情報をアップデートしながら開発することが求められる。地元の大学や学生との交流をより盛んにし,この分野の裾野を広げ,技術共有を行うことで様々な活用事例やノウハウの蓄積を行え,地方におけるコンテンツ開発の柔軟性が高まるだろう。場所に関わらず,質の高い開発拠点づくりを目指すことが可能になる。
 
  
==まとめ==
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==研究の概要==
 本報告では,国の雇用促進事業をベースに独自に産学官におけるMR等先端コンテンツ開発と教育プログラムの現状を述べた。コンテンツ開発が企業単独になると,技術部分やデザイン,ディレクション部分において人材不足から質の向上や開発スピードの停滞に陥りやすい。業界全体の競争原理も必要だが,地方の場合は大学を巻き込んでいく動的な連携事業体が必要だと考える。
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 MR等の先端メディアを用いたコンテンツ開発は人工集中都市圏のみに限定されるものではなく,より地方都市に分散化される傾向がある。本研究の基になる厚生労働省の事業は,「実践型地域雇用創造事業」と呼ばれ,雇用機会の少ない地域が特性を生かし,雇用を生み出す取り組みを支援するものである。<br>
地方における伝統文化,歴史,観光の資産はそもそもコンテンツ開発の必要性と事業価値を十分に備えている。外部に委託せずとも,地方の企業から高度なコンテンツ開発を担っていく人材育成を地元大学と連携していく継続的方略を構築していきたい。
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参画する企業は佐賀県内のIT系4社からなる「次世代コンテンツ開発共同企業体」であり,共同研究者1名,実践指導員5名が大学施設内に研究開発室を備えた(図1)。<br> 
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ICTの高度な発達により,博物館,科学館等の学習展示物は体験型の形態を持つようになった。また,その見せ方や展示の工夫,ストーリーの導入など多様なコンテンツが導入されている。しかし,屋内展示教材に対し,歴史的,文化的に貴重な屋外資料を保存している屋外の学習向け教材コンテンツは,解説掲示パネルやスマートフォンARアプリとの連動による簡易的な情報提供に留まっている。本研究では屋外展示における仮想と現実の融合による質的に高度な教材を開発した。
  
==脚注==
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==開発内容==
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 2015年に佐賀県の三重津海軍所が世界文化遺産に認められた(図2)。しかし,ほとんどの現物資料は埋め戻され遺産自体の可視化が喫緊の課題である。当初よりVRによる屋外での資料提示は検討されたが簡易的に特定の場所のみで視聴できた。しかし,VRは完全に視覚を防いでしまうので屋外で活用する際は立ち止まってしまい活動的ではない(図3)。現実空間と仮想空間を融合できるAR,MRの手法であれば,無理なく移動と視聴がシームレスにできる。遺産や遺跡,窯跡等で現存物を当時の状況に再現し,リアルなサイズ感でその場に存在するかのような記憶に残るダイナミックな再現を体感する教材となりえる。<br>
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 国内外のAR,MRコンテンツ開発研究は屋内で活用するものを主に広がっており,視聴方法やデバイス,センシング環境も多種多様である。しかし,屋外で活用することに特化したデバイスやセンシング,環境構築の研究は少ない。また,屋内展示教材に対し,屋外展示における仮想と現実の融合による質的に高度な教材はまだない。理由としては,防水や日光対策等の過酷な条件,移動距離の増大等,屋外展示環境におけるセンシング等,情報空間の整備とデバイスの開発が技術的に統一されておらず,コンテンツ開発への遅れに繋がっていることが挙げられる。<br>
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 本来,AR,MRは屋外も含めたモバイル使用として意識されており,ネットワークインフラ整備等屋外体験施設における課題は多い。屋外展示環境におけるセンシング等,情報空間の整備とデバイスの開発が技術的に統一されておらず,コンテンツ開発への遅れに繋がっていることが挙げられる。本研究は,これまで現地での学習環境が乏しかった屋外遺産や遺跡等においてAR,MRを用いた教材コンテンツを目指すことであり,VRクラウド等の実証実験も絡めつつ進めていくこととした。<br>
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 開発サンプルのMRコンテンツは上記の理由により,まずは,屋内施設内で体験できる環境を整え開発を行うこととした。大学と企業連合からな開発者らを中心として,佐賀市の観光資源「三重津海軍所跡」をPRするMRコンテンツ開発を行った(図4)。視聴デバイスは「HoloLens」を用い,実験的に体験ブースによりコンテンツを体験できる環境を整えた。
  
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==考察とまとめ==
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 本来,AR,MRは屋外も含めたモバイル使用として意識されており,その意味で本研究は重要な意味を持つ。国内においては縄文,弥生時代から繋がる古墳や壁画,文化歴史的に重要とされた神社,仏閣跡地や城跡,さらに世界遺産や戦争遺産に指定される建造物跡地が相当数に上る。また,陶磁器窯跡や紡績工場跡などが再開発で街並みに変わってしまい跡形そのものがなくなった貴重な過去の遺跡も多い。このような屋外展示教材は,事前の学習情報を持つか現地に赴き設置パネル等の解説情報を得る等の形態しか持ちえなかった。<br>
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 展示物学習において,屋外の現実空間で五感を活用し本物を確認することは大切なことである。しかし,赴いた行為のみで終わってしまい,観光情報以上の学習情報を得ることができていない現状もある。本研究は屋外遺産遺跡の空間情報として足らない部分をCGで補完し,リアルタイムに当時の姿を再現し,鑑賞者が動くことに追随することを目標とした。屋外展示環境においてAR,MRは,鑑賞者の意識もしくはその感覚を仮想の空間に没入させることによって,疑似体験を提供できる。そのリアリティーを高めるために,鑑賞者の感覚と仮想空間の連関を深め精度を高めることが重要となる。時間や空間を超え,あたかもそこにいるかのような経験をもたらすことができればリピート率も高くなり,更に学習の深化や動機付けになるだろう。
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Nakamura sadai 001.jpg|図1 MRコンテンツ開発セミナー
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Nakamura sadai 002.jpg|図2 世界遺産三重津海軍所跡
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Nakamura sadai 003.jpg|図3 VRによる三重津海軍所跡
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Nakamura sadai 004.jpg|図4 三重津海軍所跡用MRコンテンツ
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==参考文献・参考サイト==
 
==参考文献・参考サイト==
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*仮想現実空間と観光の課題:世界遺産三重津海軍所跡の事例(2016)  古賀広志,柳原佐智子 情報システム学会 第12回全国大会・研究発表大会
 
*VR原論 人とテクノロジーの新しいリアル(2019) 服部 桂 翔泳社
 
*VR原論 人とテクノロジーの新しいリアル(2019) 服部 桂 翔泳社
 
*バーチャルリアリティ学 (2010)(監修), 佐藤 誠 (監修), 廣瀬 通孝 (監修), 日本バーチャルリアリティ学会 (編集)  コロナ社
 
*バーチャルリアリティ学 (2010)(監修), 佐藤 誠 (監修), 廣瀬 通孝 (監修), 日本バーチャルリアリティ学会 (編集)  コロナ社
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2021年11月10日 (水) 12:05時点における最新版


中村 隆敏 / 佐賀大学芸術地域デザイン学部
NAKAMURA Takatoshi / Saga University
天賀 光広 / (株)とっぺん
Mitsuhiro AMAGA / TOPPEN Corporation.

Keywords: MR,Mobile teaching tool  


Abstract
In this paper,We propose VR, AR, MR teaching materials for exhibitions such as heritage and archaeological sites using regional cooperation. We report on some of the issues and achievements we have learned during the development process.


はじめに

 本稿は,地域連携として,自治体,企業,大学による遺産・遺跡等展示用VR,AR,MR教材の開発を行う中で,屋内用展示と屋外用展示コンテンツのあり方や融合の方策,さらには地域連携で取り組む意義など開発過程で見えてきたいくつかの課題と成果を論考する。本研究は世界遺産や古墳,城跡,窯跡等の国内に現存する歴史的,文化的な価値を持つ屋外における学習資産展示場において,専用タブレットやHMDを装着し移動しながら,AR,MR環境として現実空間情報と仮想空間情報を融合させ,学習対象を学びながら体験できる教材の開発である。

目的と背景

 本研究は,屋内展示環境において学習者の自由度を狭める完全な視覚没入型VRではなく,屋外展示において移動しながら実際の実写映像とCGを合成し,現実世界に仮想世界をマッピングするモバイル型XR(AR,MR)教材の開発である。近年,博物館や科学館等における体験型学習の方策として,VRやARによる学習支援教材が普及してきた。没入型や学習情報支援として一定の成果を納めているが,屋内における教材が多数を占め,屋外におけるAR,MRの教材はまだ少ない。
 本研究では,屋外展示の回遊において体験型学習展示教材の質的向上と専用HMDによる実写映像とCG映像をハイブリッドに体感できるモバイル型AR,MR学習教材の開発を目指した。これにより,現実空間情報と仮想空間情報を融合させ,学習対象を学びながら体験できる質的に高いコンテンツとなる。その中で,屋外用展示コンテンツのあり方や融合の方策,さらには地域連携で取り組む意義など開発過程で見えてきたいくつかの課題と成果を論考する。

研究の概要

 MR等の先端メディアを用いたコンテンツ開発は人工集中都市圏のみに限定されるものではなく,より地方都市に分散化される傾向がある。本研究の基になる厚生労働省の事業は,「実践型地域雇用創造事業」と呼ばれ,雇用機会の少ない地域が特性を生かし,雇用を生み出す取り組みを支援するものである。
参画する企業は佐賀県内のIT系4社からなる「次世代コンテンツ開発共同企業体」であり,共同研究者1名,実践指導員5名が大学施設内に研究開発室を備えた(図1)。
  ICTの高度な発達により,博物館,科学館等の学習展示物は体験型の形態を持つようになった。また,その見せ方や展示の工夫,ストーリーの導入など多様なコンテンツが導入されている。しかし,屋内展示教材に対し,歴史的,文化的に貴重な屋外資料を保存している屋外の学習向け教材コンテンツは,解説掲示パネルやスマートフォンARアプリとの連動による簡易的な情報提供に留まっている。本研究では屋外展示における仮想と現実の融合による質的に高度な教材を開発した。

開発内容

 2015年に佐賀県の三重津海軍所が世界文化遺産に認められた(図2)。しかし,ほとんどの現物資料は埋め戻され遺産自体の可視化が喫緊の課題である。当初よりVRによる屋外での資料提示は検討されたが簡易的に特定の場所のみで視聴できた。しかし,VRは完全に視覚を防いでしまうので屋外で活用する際は立ち止まってしまい活動的ではない(図3)。現実空間と仮想空間を融合できるAR,MRの手法であれば,無理なく移動と視聴がシームレスにできる。遺産や遺跡,窯跡等で現存物を当時の状況に再現し,リアルなサイズ感でその場に存在するかのような記憶に残るダイナミックな再現を体感する教材となりえる。
 国内外のAR,MRコンテンツ開発研究は屋内で活用するものを主に広がっており,視聴方法やデバイス,センシング環境も多種多様である。しかし,屋外で活用することに特化したデバイスやセンシング,環境構築の研究は少ない。また,屋内展示教材に対し,屋外展示における仮想と現実の融合による質的に高度な教材はまだない。理由としては,防水や日光対策等の過酷な条件,移動距離の増大等,屋外展示環境におけるセンシング等,情報空間の整備とデバイスの開発が技術的に統一されておらず,コンテンツ開発への遅れに繋がっていることが挙げられる。
 本来,AR,MRは屋外も含めたモバイル使用として意識されており,ネットワークインフラ整備等屋外体験施設における課題は多い。屋外展示環境におけるセンシング等,情報空間の整備とデバイスの開発が技術的に統一されておらず,コンテンツ開発への遅れに繋がっていることが挙げられる。本研究は,これまで現地での学習環境が乏しかった屋外遺産や遺跡等においてAR,MRを用いた教材コンテンツを目指すことであり,VRクラウド等の実証実験も絡めつつ進めていくこととした。
 開発サンプルのMRコンテンツは上記の理由により,まずは,屋内施設内で体験できる環境を整え開発を行うこととした。大学と企業連合からな開発者らを中心として,佐賀市の観光資源「三重津海軍所跡」をPRするMRコンテンツ開発を行った(図4)。視聴デバイスは「HoloLens」を用い,実験的に体験ブースによりコンテンツを体験できる環境を整えた。

考察とまとめ

 本来,AR,MRは屋外も含めたモバイル使用として意識されており,その意味で本研究は重要な意味を持つ。国内においては縄文,弥生時代から繋がる古墳や壁画,文化歴史的に重要とされた神社,仏閣跡地や城跡,さらに世界遺産や戦争遺産に指定される建造物跡地が相当数に上る。また,陶磁器窯跡や紡績工場跡などが再開発で街並みに変わってしまい跡形そのものがなくなった貴重な過去の遺跡も多い。このような屋外展示教材は,事前の学習情報を持つか現地に赴き設置パネル等の解説情報を得る等の形態しか持ちえなかった。
 展示物学習において,屋外の現実空間で五感を活用し本物を確認することは大切なことである。しかし,赴いた行為のみで終わってしまい,観光情報以上の学習情報を得ることができていない現状もある。本研究は屋外遺産遺跡の空間情報として足らない部分をCGで補完し,リアルタイムに当時の姿を再現し,鑑賞者が動くことに追随することを目標とした。屋外展示環境においてAR,MRは,鑑賞者の意識もしくはその感覚を仮想の空間に没入させることによって,疑似体験を提供できる。そのリアリティーを高めるために,鑑賞者の感覚と仮想空間の連関を深め精度を高めることが重要となる。時間や空間を超え,あたかもそこにいるかのような経験をもたらすことができればリピート率も高くなり,更に学習の深化や動機付けになるだろう。

参考文献・参考サイト

  • 仮想現実空間と観光の課題:世界遺産三重津海軍所跡の事例(2016)  古賀広志,柳原佐智子 情報システム学会 第12回全国大会・研究発表大会
  • VR原論 人とテクノロジーの新しいリアル(2019) 服部 桂 翔泳社
  • バーチャルリアリティ学 (2010)(監修), 佐藤 誠 (監修), 廣瀬 通孝 (監修), 日本バーチャルリアリティ学会 (編集)  コロナ社
  • VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学(2018)Jeremy Bailenson (原著), ジェレミー ベイレンソン (著), 倉田 幸信 (翻訳) 文藝春秋社
  • フューチャー・プレゼンス 仮想現実の未来がとり戻す「つながり」と「親密さ」 (2019) ピーター ルービン (著), 高崎 拓哉 (翻訳) ハーパーコリンズ・ジャパン社