「西鉄バスにおけるバス停のデザイン研究」の版間の差分
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==背景== | ==背景== | ||
− | + | 路線バスは福岡市に暮らす人々にとって非常に重要な交通手段である。その中でも、西日本鉄道株式会社が運営する「西鉄バス」については、乗合バス事業における2020年度の輸送人員が1億3,463万人であり<ref>西日本鉄道株式会社. “乗合バス事業の概要(2020年度)”. 西日本鉄道株式会社. https://www.nishitetsu.co.jp/group/enterprise_2.html, (参照2021-07-20)</ref>、その交通網は福岡市中に広く張り巡らされている。利用者の多い天神・博多エリア周辺のバス停では、徐々に広告パネル付きバスシェルターへの置き換えが進められる一方で、郊外や山間部には依然として古くからの標板型のバス停が多く見られる。これら標板型のバス停について、スマートフォンなどの新たなテクノロジーの登場やそれに伴うユーザーの生活スタイルの変化に対応する必要があると考える。 | |
==目的と方法== | ==目的と方法== | ||
本研究では、現行の標板型バス停とその周辺環境を把握する有効な調査・分析手法を確立するとともに、調査結果を基にした新たなバス停デザインを検討する。<br> | 本研究では、現行の標板型バス停とその周辺環境を把握する有効な調査・分析手法を確立するとともに、調査結果を基にした新たなバス停デザインを検討する。<br> | ||
2019年9月から2020年8月にかけて実施された西日本鉄道株式会社との共同研究「西鉄バス停デザインプロジェクト」において、地禄神社前バス停(福岡市南区)を対象とした調査を行った。本研究では、同プロジェクトを通して確立されたバス停の調査手法を活用して、さらなるバス停の調査を行う。さらに、GISを活用して、福岡市内に分布する複数のバス停を対象にした調査を行う。以上2つの調査を通して、標板型バス停の問題を把握する。 | 2019年9月から2020年8月にかけて実施された西日本鉄道株式会社との共同研究「西鉄バス停デザインプロジェクト」において、地禄神社前バス停(福岡市南区)を対象とした調査を行った。本研究では、同プロジェクトを通して確立されたバス停の調査手法を活用して、さらなるバス停の調査を行う。さらに、GISを活用して、福岡市内に分布する複数のバス停を対象にした調査を行う。以上2つの調査を通して、標板型バス停の問題を把握する。 | ||
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===調査手法について=== | ===調査手法について=== | ||
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現行のバス停の問題点を探索的に導くため、バス停及びその周辺で見られる事象(利用者・通行人・バスなど)を観察し気づきを収集する。その際、利用者の行動に影響を与えないようにバス停から少し離れた位置から観察を行う。<br> | 現行のバス停の問題点を探索的に導くため、バス停及びその周辺で見られる事象(利用者・通行人・バスなど)を観察し気づきを収集する。その際、利用者の行動に影響を与えないようにバス停から少し離れた位置から観察を行う。<br> | ||
− | + | 調査にあたり、スムーズな記録かつ観測者の違いによる差異の発生を防ぐため、専用の記録シート(図1)を作成する。「バスの停車位置」「乗降者数」「歩道通行者数」「待機者の位置」「その他の気づき」 について、時系列に沿って記録することができる仕様となっている。(20分/1枚) | |
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====乗務員ヒアリング調査==== | ====乗務員ヒアリング調査==== | ||
バス停を取り巻く環境について、乗務員およびバス停管理者の視点から得られる気づきを収集することを目的に、営業所でのヒアリング調査を行う。バスの乗務員が集まる常会に参加して、現場のリアルな意見を収集する。 | バス停を取り巻く環境について、乗務員およびバス停管理者の視点から得られる気づきを収集することを目的に、営業所でのヒアリング調査を行う。バスの乗務員が集まる常会に参加して、現場のリアルな意見を収集する。 | ||
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===調査概要=== | ===調査概要=== | ||
【バス停非参与観察】<br> | 【バス停非参与観察】<br> | ||
− | + | *実施日:2019年12月10日(火) 7:00-20:00<br> | |
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− | + | 図2は、「バスの停車位置」を時系列に沿ってプロットした表である。<br> | |
− | 便の多い時間帯では2台のバスが前後に並んで停車すること光景が見られた。その際、後方のバスの停車位置がバス停から大きく外れている。 | + | 便の多い時間帯では2台のバスが前後に並んで停車すること光景が見られた。その際、後方のバスの停車位置がバス停から大きく外れている。 |
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− | 待機者の位置については、「標板前」「側溝上」の2エリアに大別されることが分かる。導線については、「時刻表(バス停本体)から側溝上」間の移動が頻繁に行われていることが分かる。また、「街灯」「側溝」「歩道の段差」などのオブジェクトを基準に待機者の位置取りが行われていることが読み取れる。 | + | 待機者の位置については、「標板前」「側溝上」の2エリアに大別されることが分かる。導線については、「時刻表(バス停本体)から側溝上」間の移動が頻繁に行われていることが分かる。また、「街灯」「側溝」「歩道の段差」などのオブジェクトを基準に待機者の位置取りが行われていることが読み取れる。 |
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− | 午前中において、7時から乗車数が、8時20分から降車数が増加していることがわかる。また、午後以降も一定の乗車数が続くことがわかる。 | + | 午前中において、7時から乗車数が、8時20分から降車数が増加していることがわかる。また、午後以降も一定の乗車数が続くことがわかる。 |
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− | + | 図5は、バス停前の「歩道通行者数(徒歩と自転車)」を示したグラフである。<br> | |
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===調査概要=== | ===調査概要=== | ||
【バス停非参与観察】<br> | 【バス停非参与観察】<br> | ||
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===結果と考察=== | ===結果と考察=== | ||
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− | + | 図6は、「バスの停車位置」を時系列に沿ってプロットした表である。<br> | |
− | 停車せずに直進するバスが多く観測された。また、それぞれのバスの停車位置には大きなばらつきが見られた。 | + | 停車せずに直進するバスが多く観測された。また、それぞれのバスの停車位置には大きなばらつきが見られた。 |
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− | + | 図7は、待機者の「位置」「導線」「滞在時間」をプロットした表である。<br> | |
− | この方面にはバス停が建てられておらず、待機者の多くが自動販売機正面の側溝上に位置取りをしていることがわかる。 | + | この方面にはバス停が建てられておらず、待機者の多くが自動販売機正面の側溝上に位置取りをしていることがわかる。 |
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− | + | 図8は、バスの「乗降者数」を示したグラフである。<br> | |
− | 10時40分からの1時間と、11時40分からの1時間の2回にわたり、乗車数が増加していることがわかる。 | + | 10時40分からの1時間と、11時40分からの1時間の2回にわたり、乗車数が増加していることがわかる。 |
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− | [[File:KenTanakaFig024.jpg| | + | [[File:KenTanakaFig024.jpg|thumb|right|480px|図9.歩道通行者数(栗尾:西新・天神・博多駅/早良高校 方面)]] |
− | + | 図9は、バス停前の「歩道通行者数(徒歩と自転車)」を示したグラフである。<br> | |
− | 7時40分からの1時間の間に自転車の通行量が急激に増加していることがわかる。また、1日を通して見ると自転車の通行量が徒歩の3倍以上であった。 | + | 7時40分からの1時間の間に自転車の通行量が急激に増加していることがわかる。また、1日を通して見ると自転車の通行量が徒歩の3倍以上であった。 |
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==調査【2】:福岡市南区のバス停を対象とした調査== | ==調査【2】:福岡市南区のバス停を対象とした調査== | ||
===調査【2】について=== | ===調査【2】について=== | ||
− | + | 地理情報システム(GIS)を活用して、福岡市南区に存在する西鉄バス停を俯瞰的に調査する。調査にあたり、該当バス停を対象に「バス停名称」「位置座標」「種別/機能」「掲示板占有率」などの情報をまとめたファイルを作成する。これらの作成したデータに加えて、国土交通省が提供する国土数値情報等のオープンデータを組み合わせることで分析を行う。 | |
===バス停データの整備=== | ===バス停データの整備=== | ||
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==参考文献・参考サイト== | ==参考文献・参考サイト== | ||
− | + | *杉尾恵太, 磯部友彦, 竹内伝史:GISを用いたバス路線網計画支援システムの構築 ー潜在需要の把握による路線評価についてー, 土木計画学研究論文集, No.18, pp.617-626, 2001 | |
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2021年11月10日 (水) 12:03時点における最新版
- 田中健 / 九州大学大学院 芸術工学府
- Tanaka Ken / Kyushu University
Keywords: Bus stop, GIS
- Abstract
- Local buses are a very important means of transportation for people living in Fukuoka City. In this study, we will conduct two surveys in order to understand the actual situation of the plate-type bus stop that has not improved for a long time. One is an observation survey targeting "Chiroku-Jinja mae" and "Kurio", and the other is a GIS survey targeting bus stops distributed in Minami-ku, Fukuoka City. Finally, based on the results of the two surveys, we will consider the design of a new bus stop.
目次
背景
路線バスは福岡市に暮らす人々にとって非常に重要な交通手段である。その中でも、西日本鉄道株式会社が運営する「西鉄バス」については、乗合バス事業における2020年度の輸送人員が1億3,463万人であり[1]、その交通網は福岡市中に広く張り巡らされている。利用者の多い天神・博多エリア周辺のバス停では、徐々に広告パネル付きバスシェルターへの置き換えが進められる一方で、郊外や山間部には依然として古くからの標板型のバス停が多く見られる。これら標板型のバス停について、スマートフォンなどの新たなテクノロジーの登場やそれに伴うユーザーの生活スタイルの変化に対応する必要があると考える。
目的と方法
本研究では、現行の標板型バス停とその周辺環境を把握する有効な調査・分析手法を確立するとともに、調査結果を基にした新たなバス停デザインを検討する。
2019年9月から2020年8月にかけて実施された西日本鉄道株式会社との共同研究「西鉄バス停デザインプロジェクト」において、地禄神社前バス停(福岡市南区)を対象とした調査を行った。本研究では、同プロジェクトを通して確立されたバス停の調査手法を活用して、さらなるバス停の調査を行う。さらに、GISを活用して、福岡市内に分布する複数のバス停を対象にした調査を行う。以上2つの調査を通して、標板型バス停の問題を把握する。
調査【1-1】:西鉄バス停デザインプロジェクト
プロジェクト概要
「西鉄バス停デザインプロジェクト」は、2019年9月から2020年8月に九州大学大学院芸術工学府と西日本鉄道株式会社が実施したものである。
プロジェクトは学生5名、教員3名により進められた。初めにデザイン対象である標板型バス停への理解を深める目的で事前調査を実施した。その後、事前調査の内容を基に3つの本調査を計画し、「地禄神社前」バス停を対象に定め本調査を実施した。
調査手法について
バス停非参与観察
現行のバス停の問題点を探索的に導くため、バス停及びその周辺で見られる事象(利用者・通行人・バスなど)を観察し気づきを収集する。その際、利用者の行動に影響を与えないようにバス停から少し離れた位置から観察を行う。
調査にあたり、スムーズな記録かつ観測者の違いによる差異の発生を防ぐため、専用の記録シート(図1)を作成する。「バスの停車位置」「乗降者数」「歩道通行者数」「待機者の位置」「その他の気づき」 について、時系列に沿って記録することができる仕様となっている。(20分/1枚)
バス車内参与観察
バス利用者の視点から得られる気づきを収集するために、利用者として実際にバスに乗車し、車内で見られる事象を観察し記録を行う。
また、事前に専用の記録シートを作成する。バス車内の立面図・上面図および周辺の路線図が印刷されており、乗客の状況を把握しやすい仕様になっている。
乗務員ヒアリング調査
バス停を取り巻く環境について、乗務員およびバス停管理者の視点から得られる気づきを収集することを目的に、営業所でのヒアリング調査を行う。バスの乗務員が集まる常会に参加して、現場のリアルな意見を収集する。
調査概要
【バス停非参与観察】
- 実施日:2019年12月10日(火) 7:00-20:00
- 対象:地禄神社前バス停 上下線(大橋駅方面/那珂川営業所方面)
【バス車内参与観察】
- 実施日:2019年12月18日(水)
- 対象:那珂川営業所所属のバスの内、地禄神社前バス停に停車するバス
【乗務員ヒアリング調査】
- 実施日:2020年1月17日(金)
- 対象:西鉄バス 那珂川営業所に所属する乗務員
結果と考察
図2は、「バスの停車位置」を時系列に沿ってプロットした表である。
便の多い時間帯では2台のバスが前後に並んで停車すること光景が見られた。その際、後方のバスの停車位置がバス停から大きく外れている。
図3は、待機者の「位置」「導線」「滞在時間」をプロットした表である。
待機者の位置については、「標板前」「側溝上」の2エリアに大別されることが分かる。導線については、「時刻表(バス停本体)から側溝上」間の移動が頻繁に行われていることが分かる。また、「街灯」「側溝」「歩道の段差」などのオブジェクトを基準に待機者の位置取りが行われていることが読み取れる。
図4は、バスの「乗降者数」を示したグラフである。
午前中において、7時から乗車数が、8時20分から降車数が増加していることがわかる。また、午後以降も一定の乗車数が続くことがわかる。
図5は、バス停前の「歩道通行者数(徒歩と自転車)」を示したグラフである。
15、18時台に通行者が増加する傾向が見られる。
調査【1-2】:「栗尾」バス停を対象とした調査
調査【1-2】について
福岡市早良区の南部の山間部に位置する「栗尾」バス停を対象に、バス停非参与観察調査を実施した。同バス停の特徴として、「地禄神社前」バス停と比較して運行便・路線・利用者が少ないことや、バス停の設置台数が片側1箇所のみであることが挙げられる。これらの理由から、「地禄神社前」バス停での調査結果との有効な比較が可能だと考え調査対象とした。
調査概要
【バス停非参与観察】
- 実施日:2021年7月1日(木) 7:00-20:00
- 対象:栗尾バス停 上下線
結果と考察
図6は、「バスの停車位置」を時系列に沿ってプロットした表である。
停車せずに直進するバスが多く観測された。また、それぞれのバスの停車位置には大きなばらつきが見られた。
図7は、待機者の「位置」「導線」「滞在時間」をプロットした表である。
この方面にはバス停が建てられておらず、待機者の多くが自動販売機正面の側溝上に位置取りをしていることがわかる。
図8は、バスの「乗降者数」を示したグラフである。
10時40分からの1時間と、11時40分からの1時間の2回にわたり、乗車数が増加していることがわかる。
図9は、バス停前の「歩道通行者数(徒歩と自転車)」を示したグラフである。
7時40分からの1時間の間に自転車の通行量が急激に増加していることがわかる。また、1日を通して見ると自転車の通行量が徒歩の3倍以上であった。
調査【2】:福岡市南区のバス停を対象とした調査
調査【2】について
地理情報システム(GIS)を活用して、福岡市南区に存在する西鉄バス停を俯瞰的に調査する。調査にあたり、該当バス停を対象に「バス停名称」「位置座標」「種別/機能」「掲示板占有率」などの情報をまとめたファイルを作成する。これらの作成したデータに加えて、国土交通省が提供する国土数値情報等のオープンデータを組み合わせることで分析を行う。
バス停データの整備
「バス停の画像データの収集」「バス停テーブルデータの作成」「バス停シェープファイルの作成」の手順で、バス停データの整備を進める。
今後の方針
調査【2】を引き続き行い、GISを活用した俯瞰的なバス停分析を行う。また、調査【1】および調査【2】を通して得られた結果を活用して、最終的なバス停のデザインを検討する。
脚注
- ↑ 西日本鉄道株式会社. “乗合バス事業の概要(2020年度)”. 西日本鉄道株式会社. https://www.nishitetsu.co.jp/group/enterprise_2.html, (参照2021-07-20)
参考文献・参考サイト
- 杉尾恵太, 磯部友彦, 竹内伝史:GISを用いたバス路線網計画支援システムの構築 ー潜在需要の把握による路線評価についてー, 土木計画学研究論文集, No.18, pp.617-626, 2001