「文字と内装壁材の組み合わせによる印象の変化」の版間の差分

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2021年11月10日 (水) 12:02時点における最新版



李志炯 / 第一工科大学 工学部 建築デザイン学科 
JiHyeong Lee / Daiichi Institute of Technology 


Keywords: Impression, Typefaces, Interior Wall Material


Abstract
In recent, many images have been produced by combining letters and interior wall materials. However, no studies have examined the relationship between the combination of letters and interior wall materials and impressions. Therefore, it has not been clarified what kind of impression the combination of letters and interior wall materials gives. in this study, we examined the change in impression due to the combination of Mincho and Gothic katakana and interior wall materials. We will announce the result.



背景と目的

 近年、文字と内装壁材の組み合わせによるイメージの演出が多く見られる。例えば[注1]、重厚感および細くふっくらというイメージを演出するために明朝体の細字と大理石を組み合わせたデザインがある。これは文字の曲線の特性がよく見える細字と重厚のイメージの大理石を用いたものである。このようなデザインは見る人に快感情を与え、興味をそそる形になると考えられる[注2]。しかし、文字と内装壁材の組み合わせと印象の関係について検討した研究はほとんどないため、その組み合わせがどのような印象を与えるのかについては明らかにされていない。そこで、本研究では、上記の場面でよく使用される明朝体とゴシック体のカタカナ、そしてシール(白色)、ガラス、板材(クリア、無塗装)などの内装壁材を用いてその組み合わせによる印象の変化について検討した。

研究の方法

  • 1.実験対象

10~20代の大学生40名(男性20名、女性20名、平均年齢19歳)を対象とした。

  • 2.実験刺激

文字刺激として明朝体とゴシック体のカタカナそれぞれ71文字(黒色)を用いた(表1)。1文字あたりのサイズは50㎜×50㎜であった。71文字は意味などの連想による評価への影響が生じないよう、あいうえおの順で呈示した。文字は付着・脱着が可能にし、文字が付着していない場合(内装壁材のみ)の印象についても調査可能な状態にした。また、文字刺激それぞれの印象を明らかにするために無光沢の白紙のベースに文字を張ったブースを設置した(図1の右側)。一方、内装壁材は白色のシール、ガラス、板材(クリア)、板材(無塗装)の4種類を用いた(図2の右側)。これらを文字刺激と組み合わせたものを実験刺激とした(図1、2)。

  • 3.SD法で用いられた形容詞対

 文字の印象 [注3~5]と内装壁材の印象 [注6~8]について検討した先行研究を基に、本研究の目的に適していると判断された10項目の形容詞対を選択した(表2)。

  • 4.実験装置

 本実験では文字および内装壁材は実験用ブース(900㎜×900㎜×2,100㎜)の内側の正面に付着した状態で呈示された(図2)。ガラスの場合は材質感を生かすために実験用ブースの内側の正面から垂直方向で300㎜離れたところに設置した。一方、文字刺激は人間の視線の高さを考慮し、地面から高さ1,500㎜のところに文字の中心部が配置されるように付着した。

  • 5.実験手続き

 実験は立った状態で行った。実験参加者は実験用ブースの正面から1,500㎜離れたところに位置し、評価用紙を用いて印象評価(7段階のSD法)を行った。このような方法で全ブースを回りながら各実験刺激に対する印象を評価した。その際に回る順序はランダムにした。



結果

 文字ごとの印象評価の平均、内装壁材ごとの印象評価の平均、明朝体と内装壁材の組み合わせごとの印象評価の平均、ゴシック体と内装壁材の組み合わせごとの印象評価の平均を図3に示す。これらを用いて因子分析(最尤法)を行った。その際、共通性の値が0.3以下の低い値を示した3項目(質問5、8、9)を除いて再度因子分析を行った。因子数は算出された固有値の減衰状況から3因子とした(表3)。それぞれを先鋭性、高級感、重厚性と名付けた(表4)。その後、因子得点を算出し、それを用いて刺激の条件ごとに比較を行った。まず、書体の間で比較した結果(図4)、明朝体はゴシック体より高級感の評価が高く、ゴシック体は先鋭性と重厚性の評価がより高かった。次に、内装壁材の間で比較した結果(図5)、シールとガラスの方が2種類の板材より先鋭性の評価が高かった。高級感と重厚性の評価では内装壁材の間で因子得点の平均に差が見られたものの、統計的に有意な差は見られなかった。最後に、各内装壁材における文字との組み合わせによる印象の変化を検討した結果(図6)、シールでは、明朝体との組み合わせで高級感と重厚性の評価がより高かった。ガラスと板材(クリア)では、高級感の評価で差が見られ、明朝体との組み合わせでより高くなる結果となった。板材(無塗装)では、他の内装壁材と同様に明朝体との組み合わせで高級感の評価がより高かった。それに対して、重厚性の評価ではゴシック体との組み合わせでより高くなる結果となった。

考察

 本研究の結果により、ゴシック体より明朝体に対する高級感の評価が高いことが明らかになった。これは文字と内装壁材の組み合わせによる印象にも影響を与え、4種類の内装壁材においてゴシック体より明朝体と組み合わせで高級感の評価がより高くなることが明らかになった。特に、板材(無塗装)との組み合わせで大きな差が見られたことから内装壁材の特性、文字と内装壁材のコントラストにより高級感の評価が変化した可能性が考えられる。一方、内装壁材における先鋭性の評価では、シールとガラスより2種類の板材に対する評価が低い結果となったが、文字との組み合わせでは先鋭性の評価が高くなり、内装壁材による差はほぼ見られなかった。これは2種類の板材より先鋭性の評価が高い2種類の文字が印象に影響を与えたと考えられる。最後に、4種類の内装壁材に対する重厚性の評価では差が見られなく、全体的に重厚性の評価が高い結果となった。しかし、文字との組み合わせでは変化が見られ、シールと板材(無塗装)の組み合わせで重厚性の評価に差が見られた。具体的には、シールとの組み合わせではゴシック体の方が、板材(無塗装)との組み合わせでは明朝体の方がより低くなる結果となった。さらに、ガラスとの組み合わせでは明朝体とゴシック体ともに低くなった。これらのことから、重厚性の評価には内装壁材の材質、模様、文字と内装壁材のコントラストなどが影響を与えたと考えられる。

まとめ

 本研究の結果により、文字と内装壁材の組み合わせによる印象の変化が明らかになった。特に、文字の印象と内装壁材の印象が文字と内装壁材の組み合わせに対する印象に与える影響が明らかになった。しかし、その理由を探ることまでは至らなかったため、その理由についても詳しく検討する必要があると考えられる。

脚注


参考文献・参考サイト

  • 1)廣村正彰,葛西薫,原研哉,小磯裕司,美澤修,前田豊,菊地敦己,色部義昭:グラフィックデザイナーのサインデザイン,誠文堂新光社,138-143,2009
  • 2)ドリシー・ポレット,ピーター・C.ハスキル,木原祐輔訳,大橋紀子訳:図書館のサイン計画―理論と実際,木原正三堂,9,1981
  • 3)李志炯,崔庭端,小山慎一,日比野治雄:文字の太さによる印象の変化―明朝体・ゴシック体のひらがなとカタカナを中心に,デザイン学研究,63,5,101-108,2017
  • 4)三好正純,下塩義文,古賀広昭,内村圭一:感性による書体選定および文字配置デザイン支援技術,システム制御情報学会論文誌,14(12),pp.593-600,2001.
  • 5)平俊男,辻政範:文字の印象(力学的状態に注目して),研究紀要(41),pp.15-20,2005.
  • 6)北浦かほる:内装材のテクスチュアの空間効果分析のための一考察―試験片,室内透視図,室空間における心理量の分析―,日本建築学会論文報告集,241(0),153-164,1976
  • 7)横井梓,齋藤美穂:居住内装空間における刺激媒体別の印象評価比較,心理学研究,87(3),pp.294-302,2016.
  • 8)坂口大史,坂井文也,北川啓介:日本の設計専門家と非専門家の住空間に用いる内装用木材に対する評価構造,日本建築学会計画系論文集,81(721),pp.581-591,2016.