「白黒写真カラー化を通した明治期から昭和期に至る福岡市および周辺地域に関する研究」の版間の差分

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; 伊藤晃生 / 九州産業大学大学院 芸術研究科
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: Ito Kosei / Kyushu Sangyo University Graduate School of Arts
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; 伊藤晃生 / 九州産業大学大学院 芸術研究科 造形表現専攻 デザイン領域
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; 井上友子 / 九州産業大学 芸術学部
: Ito Kosei / Kyushu Sangyo University Graduate School of Arts
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: Inoue Tomoko / Kyushu Sangyo University Faculty of Art and Design
; 井上友子 / 九州産業大学 芸術学部 ソーシャルデザイン学科
 
: Inoue Tomoko / Kyushu Sangyo University Faculty of Art and Design Social Design
 
  
''Keywords: Social Design , AI, Graphic, Photo, Exhibition , Back in time''
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''Keywords: Colorization, AI, Photo, Graphic, Social Design, Exhibition, Back in time''
  
  
 
; Abstract
 
; Abstract
: In this study, we report on our efforts to restore and colorize old black-and-white photographs of individuals taken mainly in Fukuoka City during the Meiji and Showa periods (1900s), and to preserve ethnographic records for future generations.
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: The colorization of black and white photographs has the effect of reducing the distance between the past and the present and perceiving them as parties. There have been many colorized images of the past wars, but there are few examples that focus on the lives of ordinary people. The purpose of this study is to restore and colorize old photographs mainly in Fukuoka City where traditional local culture has been born, and to pass them on to the next generation as local cultural heritage.
  
  
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==1.背景==
 
==1.背景==
 近年、AIのディープラーニング技術を活用し、白黒写真をカラーに変換する自動着彩システムが話題に上がっている。白黒写真が身近ではない世代にとって、白と黒で写された写真は平面的にしか見えず、実世界で起こったとは到底思えないような遠い距離があると感じている者が多い。しかし、カラー写真に変わることで多彩で現実味が増し、自分事として捉えられる力がある。こうしたことから東京大学の渡邉教授らは、平和学習の一環としてプロジェクト「記憶の解凍」を行い、第2次世界大戦下の広島市を中心とした古写真をカラーに変えた。イベント、ソーシャルメディア、書籍で情報を発信し、現代の平和な日常と非日常な戦争との距離を近づけることを成し遂げた。この研究と同様に昨今のカラー化事例を覗くと、大半が戦争や政治に関する歴史的有名な場面を捉えた写真が多く変換されている。
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 白黒写真カラー化には、過去と現在の時間的距離を縮め、現代の観覧者を当事者として捉える効果がある。戦争に関するカラー化は多いが、庶民生活にフォーカスした事例は少ない。<br>
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 本研究では、伝統的な地域文化が誕生してきた福岡市を中心に白黒古写真を修復・カラー化し、地域の文化遺産として次世代に継承することを目的とする。<br>
  
 そのため、何気ない日常生活を写した庶民的写真などのカラー化は、あまり行われていないことが現状である。こうした日常生活を記録した写真は、家族写真として個人が所有していることがほとんどだ。こういった写真こそが地域の文化や歴史を物語る記録であり、カラーにして後世へ民俗学的資料として残さなければならないと感じた。
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 また、この写真らを保全している管理者や時代の当事者たちのほとんどが高齢者である。寿命には限りがあるため、後継人がいなければその写された場所、人物、出来事まであたかも無かったことになってしまう恐れがある。
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==2.目的==
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 伝統的な地域の文化発祥の地・福岡市を中心に、人々の日常生活が写された白黒古写真を修復・カラー化し、地域の文化遺産として次世代に継承する。<br>
  
 
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==2.目的==
 
[[File:HanakoKyusanFig01.jpg|thumb|right|200px|図1.◯◯◯◯]]
 
 こうしたことから地域の貴重な資料である、個人の白黒古写真をデジタル上で修復、カラー化を行い、デジタルデータとして劣化しないよう保全する取り組みを行う。これと共に歴史ある当時の生活や祭りなどの日常生活に身近である地域に興味を持つきっかけ作りになるようにも心掛ける。まずは、筆者の身近な存在である地域:福岡市を中心に活動を行うことにする。
 
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==3.研究方法==
 
==3.研究方法==
 若年層から高齢層までの幅広い世代に周知できるようイベント形式で情報発信することを決めた。より効果的なソーシャルメディアを使った方法では、若年層や中年層の限られた年齢層しか把握することができない。そのため、全年齢層に適応できるイベント形式が最善だと考えた。
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 明治期~昭和初期に時代を限定し、AIによる自動着彩とデジタル手彩色の結果の比較・分析を行った。オリジナル白黒写真と着彩後のカラー化写真を併置した展示会を行い、来場者が当時の記録を現在の感覚で確認できるよう日時、場所、状況などの説明キャプションをつけた。来場者にはアンケートをお願いし、研究から得られる効果などについて検証した。<br>
  
 このほかに、デジタル社会になった現在、写真を扱う機会は極めて少ない環境だ。そのため、デジタルとは違った味がある写真にも触れ合える機会を提供したいと思ったことも一つの要因だ。
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==4.実験(図1)==
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[[File:ItoKosei01.jpg|thumb|right|350px|図1.AIと手彩色の比較 左:AI、中:オリジナル、右:手彩色]]
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 AIは肌の着彩が優れている一方で、全体にはセピア調に変換されるという傾向が強い。それに対し、手彩色では、時代考証や所有者の経験談、記憶、伝え聞いた話などを参考に着彩を行ったため、現実に体験した色に近く、全体の精度が高い。先行研究でも、AIのカラー化は自然色を得意とし、人工的なモノや風景は不得手であることが報告されている<ref>渡辺英徳, 庭田杏珠, 『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』 2020年, 光文社新書, p13, p460.</ref>。<br>
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 以上のことから、現実体験に近い彩色が得られ、再編集が可能である手作業にこだわり作業をすすめた。<br>
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==5.写真の蒐集と調査==
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 地域住民の協力を得て、50点を超える貴重な白黒古写真資料を借り受けた。いずれも、明治期から昭和期の古き良き時代を写した写真である。その中から作業を終えた2例を下に例示する。<br>
  
==4.実験==
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[[File:comparison.jpg|Comparison|200px|図1.AIとデジタル手彩色との違い]]
 
 白黒写真をカラー化に変えるには、大きく分けて2つの方法がある。一方は、先述したAI技術を使った自動着彩システムによる方法。もう一方がペイントソフトを使い、手作業で着彩する方法である。この2つの結果に関する違いについて比較する必要がある。使用する写真は、日本軍の戦艦で撮影されたとされる私の曽祖父の写真だ。
 
  
 まずは、オンライン上で公開されている自動着彩システムに写真を投入し、カラー化を行なった。今回使用したシステムは、①早稲田大学、②筑波大学、③Algorithmia、④colouriseSGの無料で公開されている4つだ(図1)。結果は、全体的に肌の着彩は上手くいっているがその他の出来は違和感が残った。着色したというよりセピア調に変換された印象を感じる。これとは対照的に手作業による着彩では、当時の曽祖父を知る祖父に当時の服の色や素材などを聞き取りするなどの時代考証を得て着彩を行なった。AIと私が着彩した結果を比べるとその差は歴然。曽祖父の後ろにある円形のものは日本国旗であり、軍服も薄い茶色ではなく黄緑色だということが判明した。
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===5-1,中洲のニッカバー前でポーズをとる母子(図2)===
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[[File:ItoKosei02.jpg|thumb|right|350px|図2.「中洲のニッカバー前でポーズをとる親子」左:オリジナル、右:カラー化]]
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 1960年代に博多区中洲のニッカバー前で撮影された写真を見た「親」である当事者女性は、「その日は映画を見た帰りで可愛らしい車を背景に写真を撮った」と懐かしい様子で語った。撮影場所は中洲中央通りであり、かつては近隣に福岡東映劇場という映画館があったことが分かった。<br>
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 このように、AIのカラー化では、瞬時に着彩してくれるメリットはあるが不確かな色を選ぶ傾向にある。対して手作業では、人間による証言や資料を基に着彩を行うため、精度がAIと比べて増すだろう。このほかに、現在公開されているオープンソースのAIでは、白黒写真の着彩はできても破損した箇所の修復は、出来ないことが現状である。以上のことから本研究では、修復、着彩を含め効率的に作業ができるであろうデジタルソフトを使った手作業で行うことに決めた。
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===5-2,天神町の酒屋(図3)===
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[[File:ItoKosei03.jpg|thumb|right|350px|図3. 「天神町の酒屋」左:オリジナル、右:カラー化]]
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 1928年1月10日、天神町の伊藤酒店前の本写真では、太陽光の射す角度から曇り空の正午ごろに撮影されたものであったと推測された。現在は中央区天神にある福岡天神フコク生命ビルに建て替わっている。<br>
  
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==6.イベントの実施(図4)==
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[[File:ItoKosei04.jpg|thumb|right|350px|図4.イベントの様子]]
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 イベント名は、「白黒(モノクローム)写真」と「カラー化写真」を併置することで、写真提供者・展示来場者などに「記憶を色彩豊かに蘇らせる」ことを意図し「monokara.(モノカラ)プロジェクト」と称した。博多区の施設をイベント会場とし、20組のオリジナル白黒古写真とカラー化写真を展示した。同時に、来場者が持参した白黒写真を会場で着彩し、合計48件、約100枚の古写真を修復・カラー化作業を行った。<br>
  
==5.着彩過程==
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 白黒写真に色を着けるまで、パソコンとペイントソフト(adobe photoshop)を使用し、以下の手順に沿って行なった。
 
  
①「スキャン」
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==7.結果と考察==
まず、写真を画像としてデータに変える必要がある。劣化が激しい写真は、タブレット端末で撮影。劣化が少ない写真は、高性能スキャナー(EPSON ES-G11000)を使用して読み込む。
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 イベントでは新聞社やテレビ局の報道も手伝い、県内外から多くの来場者があった。来場者の中には「色がついたことで最近のように思える」「立体感が出てリアルさが増した」と言及した。<br>
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 本研究を通じ、半世紀を超える時間を隔てた「写真の中の人物」と「自分自身」を重ね合わせる体験や、祖先の足跡を想起し追体験するきっかけを提供する意義深い研究ができたと考えている。<br>
  
②「白黒化」
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読み込んだ画像をペイントソフトへ取り込み、完全な白黒に変換。白黒写真には、セピア調や青く燻んだ色など複雑な色が隠れている。そのため、修復や着彩をしやすいよう単純な色、白と黒に置き換える必要がある。
 
 
 
③「修復」
 
破損した箇所の修復を行う。傷や汚れの小さい部分は、修正ブラシを使って修復。大きく破損している場合は、周囲の情報を手掛かりにし、違和感がないよう欠落下部分を想像で作り出して修復する。
 
 
 
④「着彩」
 
写真が写された当時の時代、天気、季節、位置(場所)など可能な限り把握し、その場に合った色を着彩する。不明な色は、当事者や関係者に聴き取り調査を行ったり、当時の事柄が書かれてある文献などをヒントにその時代に存在したであろう近い色を表現する。
 
 
 
⑤「色調整」
 
着彩が完了した写真は、彩度が高い場合が多い。そのため、人間の目に違和感がないよう彩度の他に明度、色度も含め色合いを調整する。また、多くの写真は、長期の保存により、写真紙の薬品が劣化し、赤身がかったような変色をしている。この赤見掛った写真を懐かしいと感じる者がいる。よって敢えて赤見を常識的な範囲内で増し、完成とする。
 
 
 
==6.イベント内容==
 
6-1,コンセプト
 
 幅広くこの取り組みを知って貰いたいという思いを込め、老若男女問わず親しみ覚えやすい「monokara.(モノカラ)」と称することにした。これには、白黒写真に含まれている白黒の要素「monochrome」と「color」を掛け合わした言葉だ。モノクロからカラーに色が変化していくように忘れられていた時代の記録も再び息を吹き返すようになってほしい意味合いも含まれている。
 
 
 
6-2,実施場所、日時
 
 福岡市の文化発祥の地、博多区で2会場お借りし、2期間に分けてイベントを開催した。地域住人が気軽に足を運べる場所として立地の良い場所だと考え選定した。このことから、以下の通りにイベントを実施した。
 
 
 
【第1会場】
 
会場:はかた伝統工芸館
 
日程:2020 年11 月5 日(木)~6 日(金) 2日間
 
時間:10:00~18:00
 
 
 
【第2 会場】 会場:博多おりおり堂
 
日程:2020 年11 月21 日(土)~23 日(月) 3 日間
 
時間:10:00~16:00
 
 
 
6-3,実施内容
 
 イベントでは、オリジナル写真とカラー化写真を比較できる写真展示と来館者が持参した写真を修復、着彩する実演の2つを行った。
 
6-3-1,展示
 
 白黒古写真がどのように修復、着彩されたか比較しやすいように互いに並べて展示した。B3の黒パネルにA3写真2枚を貼り付け、作品タイトルを交えた1つのボードを吊り下げて展示。明治時代の川端町、昭和初期の天神の酒店、終戦直後の日本髪の女性、山舁(か)き姿の子ども(1957年)、道路舗装前の天神町(60年代前半)などの20枚。
 
 
 
6-3-2,実演
 
 着彩希望者に受付用紙を渡し、当時の色や状況を分かる範囲で記入して頂いた。原本の写真を紛失することが無いようにスキャン後、用紙と合わせて写真を撮影し、記録した。この他にもスタッフ用の作業工程が把握できるチェックシートを別途用意し、確認できるシステムを作った。その他にも受付札を渡すなど、渡し間違いが無いように対策をした
 
 
 
 
 
 
 
==7.結果==
 
 
 
==8.考察==
 
 
 
==謝辞==
 
  
 
==脚注==
 
==脚注==
 
<references />
 
<references />
  
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==参考文献・参考サイト==
 
==参考文献・参考サイト==
*與那覇 里子, [P12] モノクロ写真のカラー化技術を用いたメディアと読者の対話を促すコンテンツ制作の研究 デジタルアーカイブ学会誌 3 巻 2 号 p. 249-250, 2019
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* 與那覇 里子,「モノクロ写真のカラー化技術を用いたメディアと読者の対話を促すコンテンツ 制作の研究」 2019年,  『デジタルアーカイブ学会誌』3巻2号 p. 249-250.
*渡辺英徳, 庭田杏珠,「記憶の解凍」:カラー化写真をもとにした”フロー”の生成と記憶の継承 デジタルアーカイブ学会誌 3 巻 3 号 p. 317-323, 2019
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* 渡辺英徳, 庭田杏珠,「「記憶の解凍」:カラー化写真をもとにした”フロー”の生成と記憶の継承 」 2019年, 『デジタルアーカイブ学会誌』3巻3号 p. 317-323.
*渡辺英徳, 庭田杏珠, AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争 光文社新書, 2020
 
 
 
*◯◯◯◯◯ https://www.example.com (◯年◯月◯日 閲覧)
 
  
 
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2021年11月10日 (水) 12:12時点における最新版


伊藤晃生 / 九州産業大学大学院 芸術研究科
Ito Kosei / Kyushu Sangyo University Graduate School of Arts
井上友子 / 九州産業大学 芸術学部
Inoue Tomoko / Kyushu Sangyo University Faculty of Art and Design

Keywords: Colorization, AI, Photo, Graphic, Social Design, Exhibition, Back in time


Abstract
The colorization of black and white photographs has the effect of reducing the distance between the past and the present and perceiving them as parties. There have been many colorized images of the past wars, but there are few examples that focus on the lives of ordinary people. The purpose of this study is to restore and colorize old photographs mainly in Fukuoka City where traditional local culture has been born, and to pass them on to the next generation as local cultural heritage.



1.背景

 白黒写真カラー化には、過去と現在の時間的距離を縮め、現代の観覧者を当事者として捉える効果がある。戦争に関するカラー化は多いが、庶民生活にフォーカスした事例は少ない。
 本研究では、伝統的な地域文化が誕生してきた福岡市を中心に白黒古写真を修復・カラー化し、地域の文化遺産として次世代に継承することを目的とする。


2.目的

 伝統的な地域の文化発祥の地・福岡市を中心に、人々の日常生活が写された白黒古写真を修復・カラー化し、地域の文化遺産として次世代に継承する。


3.研究方法

 明治期~昭和初期に時代を限定し、AIによる自動着彩とデジタル手彩色の結果の比較・分析を行った。オリジナル白黒写真と着彩後のカラー化写真を併置した展示会を行い、来場者が当時の記録を現在の感覚で確認できるよう日時、場所、状況などの説明キャプションをつけた。来場者にはアンケートをお願いし、研究から得られる効果などについて検証した。


4.実験(図1)

図1.AIと手彩色の比較 左:AI、中:オリジナル、右:手彩色

 AIは肌の着彩が優れている一方で、全体にはセピア調に変換されるという傾向が強い。それに対し、手彩色では、時代考証や所有者の経験談、記憶、伝え聞いた話などを参考に着彩を行ったため、現実に体験した色に近く、全体の精度が高い。先行研究でも、AIのカラー化は自然色を得意とし、人工的なモノや風景は不得手であることが報告されている[1]
 以上のことから、現実体験に近い彩色が得られ、再編集が可能である手作業にこだわり作業をすすめた。



5.写真の蒐集と調査

 地域住民の協力を得て、50点を超える貴重な白黒古写真資料を借り受けた。いずれも、明治期から昭和期の古き良き時代を写した写真である。その中から作業を終えた2例を下に例示する。


5-1,中洲のニッカバー前でポーズをとる母子(図2)

図2.「中洲のニッカバー前でポーズをとる親子」左:オリジナル、右:カラー化

 1960年代に博多区中洲のニッカバー前で撮影された写真を見た「親」である当事者女性は、「その日は映画を見た帰りで可愛らしい車を背景に写真を撮った」と懐かしい様子で語った。撮影場所は中洲中央通りであり、かつては近隣に福岡東映劇場という映画館があったことが分かった。



5-2,天神町の酒屋(図3)

図3. 「天神町の酒屋」左:オリジナル、右:カラー化

 1928年1月10日、天神町の伊藤酒店前の本写真では、太陽光の射す角度から曇り空の正午ごろに撮影されたものであったと推測された。現在は中央区天神にある福岡天神フコク生命ビルに建て替わっている。




6.イベントの実施(図4)

図4.イベントの様子

 イベント名は、「白黒(モノクローム)写真」と「カラー化写真」を併置することで、写真提供者・展示来場者などに「記憶を色彩豊かに蘇らせる」ことを意図し「monokara.(モノカラ)プロジェクト」と称した。博多区の施設をイベント会場とし、20組のオリジナル白黒古写真とカラー化写真を展示した。同時に、来場者が持参した白黒写真を会場で着彩し、合計48件、約100枚の古写真を修復・カラー化作業を行った。




7.結果と考察

 イベントでは新聞社やテレビ局の報道も手伝い、県内外から多くの来場者があった。来場者の中には「色がついたことで最近のように思える」「立体感が出てリアルさが増した」と言及した。
 本研究を通じ、半世紀を超える時間を隔てた「写真の中の人物」と「自分自身」を重ね合わせる体験や、祖先の足跡を想起し追体験するきっかけを提供する意義深い研究ができたと考えている。


脚注

  1. 渡辺英徳, 庭田杏珠, 『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』 2020年, 光文社新書, p13, p460.


参考文献・参考サイト

  • 與那覇 里子,「モノクロ写真のカラー化技術を用いたメディアと読者の対話を促すコンテンツ 制作の研究」 2019年, 『デジタルアーカイブ学会誌』3巻2号 p. 249-250.
  • 渡辺英徳, 庭田杏珠,「「記憶の解凍」:カラー化写真をもとにした”フロー”の生成と記憶の継承 」 2019年, 『デジタルアーカイブ学会誌』3巻3号 p. 317-323.