「子供へ科学を伝えるためのサイエンスコミュニケーションとデザインアプローチに関する研究」の版間の差分

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; 陳宇絢/ 九州大学 統合新領域学府 
<span style="color:red;">'''注)'''</span>
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: Yuxuan CHEN / Kyushu University 
*<span style="color:red;">この雛形は、研究発表(口頭・ポスター)に適用されます。</span>
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; 平井康之/ 九州大学 芸術工学研究院
*<span style="color:red;">英文概要は、80ワード程度を目安にご執筆下さい。</span>
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: Yasuyuki HIRAI/ Kyushu University
*<span style="color:red;">本文部分は、2,000文字程度を目安にご執筆下さい。</span>
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; 井上香織/ 福岡市科学館
*<span style="color:red;">見出しの語句は参考例です。</span>
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: Kaori INOUE/ Fukuoka City Science Museum
*<span style="color:red;">「あなた」が編集を行うとページの履歴に利用者名が残ります。</span>
 
  
 
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''Keywords: サイエンスコミュニケーション, デザイン, 福岡市科学館, 子ども''
; ◯◯◯◯ / ◯◯大学 ◯◯学部 ← 氏名 / 所属(筆頭者)
 
: ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ / ◯◯◯◯◯◯ University ← 氏名 / 所属 の英語表記(筆頭者)
 
; ◯◯◯◯ / ◯◯大学 ◯◯学部 ← 氏名 / 所属(共同研究者)
 
: ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ / ◯◯◯◯◯◯ University ← 氏名 / 所属 の英語表記(共同研究者)
 
 
 
''Keywords: Product Design, Visual Design'' ← キーワード(斜体)
 
  
  
 
; Abstract
 
; Abstract
: Lorem Ipsum is simply dummy text of the printing and typesetting industry. Lorem Ipsum has been the industry's standard dummy text ever since the 1500s, when an unknown printer took a galley of type and scrambled it to make a type specimen book. It has survived not only five centuries, but also the leap into electronic typesetting, remaining essentially unchanged.
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Focusing on the educational program "Darwin Course" of Fukuoka City Science Museum, this study investigates the issues of educational programs in science museums that communicate science to children from the viewpoint of communication design, and discusses the role that design can play in these programs. Based on the discussion, we aim to extract important requirements for science communication and create guidelines that can be applied to future educational programs.
  
  
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==背景と目的==
 
==背景と目的==
 
 2017年に開館した福岡市科学館では、サイエンスコミュニケーションとデザインの融合である「サイエンス&クリエイティブ」を館のテーマとし運営を行なっている。
 
 2017年に開館した福岡市科学館では、サイエンスコミュニケーションとデザインの融合である「サイエンス&クリエイティブ」を館のテーマとし運営を行なっている。
 昨年度スタートした福岡市科学館と一般社団法人九州オープンユニバーシティと合同の教育プログラム「ダーウィンコース」では、科学の知識と楽しさを子供たちに教え、科学への道案内をするプログラムとして実施されている。
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 しかし、サイエンスコミュニケーションへのデザインの関わりは、先行研究が数少ないのが現状である。
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 その考えを踏襲し、昨年度スタートした「ダーウィンコース」は、一般社団法人九州オープンユニバーシティと合同の教育プログラムで、科学の知識と楽しさを子供たちに教え、科学への道案内をするプログラムとして実施されている。
 本研究では、教育プログラム「ダーウィンコース」を中心に、コミュニケーションデザインの視点から、子供たちに科学を伝える科学館の教育プログラムの現状の課題を調査し、デザインが担うことができる役割について考察する。考察をもとに、サイエンスコミュニケーションにおける重要な要件を抽出し、今後の教育プログラムに活かせるガイドラインを作成することを目的とする。
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 しかし、サイエンスコミュニケーションとデザインの融合についての先行研究が少ないのが現状である。
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 本研究では、教育プログラム「ダーウィンコース」を中心に、コミュニケーションデザインの視点から、小学校高学年の子供たちに科学を伝える科学館の教育プログラムの現状の課題を調査し、サイエンスコミュニケーションとデザインが担う役割について考察する。考察をもとに、今後の教育プログラムにおける重要な要件を抽出することを目的とする。
  
 
==研究対象==
 
==研究対象==
 本研究は、全国で初めてデザインを意識した「サイエンス&クリエイティブ」を館のテーマとする福岡市科学館を対象として研究を進める。
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 本研究は、全国で初めてデザインを意識した「サイエンス&クリエイティブ」を館のテーマとする福岡市科学館を対象として研究を進める。昨年の10月から「疑問を持つ力を育つ」を趣旨とした「ダーウィンコース」が初級編としてスタートし、今年の5月23日から中級編(実践編)である「ダーウィンコース2」が開講した。九州オープンユニバーティに所属する科学者の先生たちが生徒(小学生高学年)に科学を教えるコースで、全部で5回の講座と探Qゼミを行う。「ダーウィンコース2」では、実際に研究者が行なっている研究を体験させることで、子供たちに統計・解析などの初歩的技術を学ばせることを目的としている。
教育プログラム「ダーウィンコース」では、九州オープンユニバーティに所属する科学者の先生たちから生徒(小学生高学年)に科学を教えるコースで、全部で5回の講座と探Qゼミを行う。
 
昨年の10月から「疑問を持つ力を育つ」を趣旨としたダーウィンコース初級編がスタートした。今年の5月23日から、ダーウィンコース中級編(実践編)の講座が開講した。中級編では、実際に研究者が行なっている研究を体験させることで、子供たちに統計・解析などの初歩的技術を学ばせることを目的としている。
 
[[ファイル:図1 ダーウィンコース2プロセス図.png|サムネイル|中央|ダーウィンコース2 プロセス図]]
 
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==研究の方法==
 
==研究の方法==
 本研究は科学者側が実現したい教育、生徒側の受け入れ程度、デザイン研究者側が用いたデザイン手法の三つの方面から調査を行う。
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 本研究では、科学者が伝えたい内容を整理し、生徒側の受け入れによる評価を行う。
まず、文献調査を通して、サイエンスコミュニケーションの定義を明らかにする。
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また、文献調査とフィールド調査を通して、以下の点を明らかにする。
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 まず、文献調査でサイエンスコミュニケーションと福岡市科学館の「サイエンス&クリエイティブ」の定義を調査する。
①. 科学者たちは科学コンテンツから何を教える内容として抽出するか?
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②. 教える内容をどのように子供たちに伝えるか?
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 次に、フィールド調査で以下の点を調査する。(図1)
③. 伝えるためにどんなデザインのアプローチを用いたか?
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④. どういう効果を得たか?
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[[ファイル:研究方法(科学者と生徒).jpg|サムネイル||図1 研究方法]]
[[ファイル:本研究の四つのステークホルダー.png|サムネイル|中央|本研究の四つのステークホルダー]]
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 科学者が伝えたい内容
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 ①. 科学コンテンツから教える内容として何を抽出したか?
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 ②. 教える内容をどのように生徒たちに伝えたか?効果はどうだったか?
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 生徒側の受け入れの評価
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 ③.評価はどうだったか?
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==文献調査の結果==
 
==文献調査の結果==
文献調査の結果
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'''1、サイエンスコミュニケーション'''
1、 サイエンスコミュニケーションの定義
 
サイエンスコミュニケーションとは、科学的な知識や考え方を、社会において伝え、受け取るコミュニケーションである。もっとも一般的な形では、科学館や研究機関の専門家(科学コミュニケーターや研究者自身)が、一般市民と双方向性の高い対話をすることである。
 
  
2、 「ダーウィンコース2」に参加する科学者たちの研究内容
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サイエンスコミュニケーションとは、科学的な知識や考え方を、社会において伝え、受け取るコミュニケーションである。もっとも一般的な形では、科学館や研究機関の専門家(科学コミュニケーターや研究者自身)が、一般市民と双方向性の高い対話をすることである。(楠見,2013)
[[ファイル:科学者の研究内容.png|フレームなし|中央|比良松先生(食の回)と鹿野先生(川の回)の研究内容]]
 
  
==まとめ==
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また、サイエンスコミュニケーションでは、社会における課題が契機となり、社会において様々な役割を果たしている人々かが対話し、合意形成し、その課題を解決していくことを目指す。それは各集団が持つ独自の文化を踏まえ、異文化交流をする過程と考えてもよい 。(小川,2017)
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'''2、博物館の学び'''
  
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「博物館における学び」は、時代と個々の人々の生活体験等に基づく「文脈に基づく学び」、すなわち「構成主義的な学び」となる。構成主義的な学びとは、学習者の既に持っているさまざまな概念に根拠をおく学習である(高安,2010)。個々の学習者が、それぞれの個人的、社会的、物的な文脈のなかで、自分で知識を構成する(Tim,1998)。学習者が各々の知識と経験を基づいて自ら知識を構成していくことは博物館の学びにおいて重要である。
  
==脚注==
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==フィールド調査の結果==
<references />
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'''<big> 1、 科学者たちへのアンケート結果</big>'''
  
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 調査目的:「①. 科学コンテンツから教える内容として何を抽出したか?」と「②. 教える内容をどのように生徒たちに伝えたか?効果はどうだったか?」を明らかにする。
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 調査方法:「科学者たちが持つ科学コンテンツ」を確認のうえ、「ダーウィンコース2」に参加する科学者たちに「伝えたい内容」「伝え方」「目標の達成度」「残された課題 」についてアンケート調査を行った。
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 調査結果:結果は図2,3,4に示す。
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'''① 科学コンテンツから教える内容として何を抽出したか?'''
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 まず、科学者たちの研究内容をまとめて、表を作成した。(図2)
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 次に、「伝えたい内容」を調査した。(図3)
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ファイル:①科学者の研究内容.jpg|サムネイル|図2 科学者が持つ科学コンテンツ
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ファイル:伝えたい内容.jpg|サムネイル|図3 伝えたい内容
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'''② 教える内容をどのように生徒たちに伝えたか?効果はどうだったか?'''
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「伝え方」「目標の達成度」を調査した。(図4)
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ファイル:伝え方と達成度.jpg|サムネイル|中央|図4 伝え方と目標の達成度
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 最後、「残された課題 」を調査した。
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 食の回と川の回を振り返し、一番の課題は「時間が短い」「より万全な準備が必要」と思われる。 また、食の回に関して、比良松先生は「官能評価に関する最新の科学的成果や新発見を伝える努力が必要」「チームワーク的な努力が必要」という意見を出した。
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<big>'''2、 生徒たちへのアンケート'''</big>
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 調査目的:「③評価はどうだったか?」を明らかにする。
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 調査方法:「知識とスキルの習得」「日常生活の応用」「科学への興味関心」「宿題のフィードバック」についてアンケート調査を行った。
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 調査結果:結果は図5に示す。
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'''③評価はどうだったか?'''
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ファイル:評価.jpg|サムネイル|図5 生徒側の評価
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==考察とまとめ==
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 本研究は「ダーウィンコース2」に関わる科学者と生徒を対象に調査を行なった。
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1、科学者たちへの調査では、まず、アンケート調査から実施前の計画段階で各回の担当する科学者が科学論文から生徒に講座で伝えたい内容、次に講座や探Qゼミで、科学者が科学の内容を理解しやすくした工夫を整理した。それを元にうまくいった工夫とうまくいかなかった工夫の科学者側からの評価をまとめた。全体的には順調に進んだと考えられる。
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2、生徒たちへの調査では、講座と探Qゼミで科学者たちから伝えられた知識とスキルがどの程度伝わったかが分かった。
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 生徒側の評価を見ると、実際にフィールドワークに参加し体験した内容や、グループワークでディスカッションをした内容への理解度が高い傾向がある。例えば、食の回では語彙が豊富でないと予想される小学生児童に、味の表現が多様であることを理解してもらうために、大人も含めて全員で味を表現する言葉を書き出して(「言葉出し」を通じて)共有し、分類(グループ分け)した。そして、この回においてアンケートをした結果、「味を言葉で表現すること」を学んだと回答した生徒が72.7%(8人)。従って、生徒たちに知識への理解を深めさせるためには「実際に体験させる」ことが重要だと考えられている。
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 また、各回終了後の日常生活への応用については、応用するケースは少ないことがわかった。「身につけた能力やスキルを使って、ダーウィンコース以外で実践したことはありますか」の質問に対し、調査した3回のうちタンポポの回と川の回には「はい」の回答が36.4%(4人)と27.3%(3人)の半数以下だった。従って、どのように生徒たちの科学館外の知識の応用を促進するのは今後検討すべき課題となる。
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==今後の予定==
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今後は科学者・生徒へのアンケート調査を引き続き行い、サイエンスコミュニケータとデザイン研究者にアンケート調査を行い、その結果を比較分析する予定である。
  
 
==参考文献・参考サイト==
 
==参考文献・参考サイト==
*◯◯◯◯◯(20XX) ◯◯◯◯ ◯◯学会誌 Vol.◯◯
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* 楠見孝,  心理学とサイエンスコミュニケーション(2013),  日本サイエンスコミュニケーション協会誌 , 2(1): 66-71.
*◯◯◯◯◯(19xx) ◯◯◯◯ ◯◯図書
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* 小川義和, 今後の科学教育について~サイエンスコミュニケーションの教育的意義を考える(2017), 科学教育研究, Vol.41(1), pp.9-10
*◯◯◯◯◯(1955) ◯◯◯◯ ◯◯書院
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* 高安礼士, 教員のミュージアムリテラシーについて. 日本科学教育学会研究会研究報告(2010). 2010.Vol.25 No.33 pp.65-70.
 
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* Tim Caulton, ハンズ・オンとこれからの博物館(1998)
*◯◯◯◯◯ https://www.example.com (◯年◯月◯日 閲覧)
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* Wu, F.-Y., & Yahara, T., Recurved Taraxacum phyllaries function as a floral defense: experimental evidence and its implication for Taraxacum evolutionary history(2017). Ecological Research, 32(3), 313–329.
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* Chika Mitsuyuki • Akihiko Hoya • Hiroyuki Shibaike • Mikio Watanabe • Tetsukazu Yahara, Formation of a hybrid triploid agamosperm on a sexual diploid plant: evidence from progeny tests in Taraxacum platycarpum Dahlst(2013). Plant Systematics and Evolution, 300(5), 863–870.
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* 川崎寛也, 山田章津子, 伏木亨, 「鰹だし」風味の食餌の初期経験が後の嗜好性に及ぼす影響(2002)
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* 桜井広幸, 化粧水の香りの共感覚的表現——触覚語の役割(2000). 日本官能評価学会誌 Vol.4 No.1 pp.45-51 .
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* 矢口幸康, オノマトペをもちいた共感覚的表現の意味理解構造(2011). 認知心理学研究 Vol.8 No.2 pp.119-129.
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* 松江勇次, 佐藤大和, 尾形武文, 良食味水稲品種における少数パネル・多試料による米飯の食味評価 (2003). 日本作物学会紀事 Vol. 72 No.1 38~42.
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* 今村美穂, 記述型の官能評価/製品開発におけるQDA法の活用(2012). 化学と生物 Vol.50 No.11 818~824.
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* 島村綾, 小泉昌子, 峯木眞知子, 市原茂, 飯の官能評価の時系列変化(2017). 日本家政学会誌 Vol. 68 No. 9 478~485.
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* 鹿野雄一, Waterfalls drive parallel evolution in a freshwater goby. Article in Ecology and Evolution · August 2012.
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* 小 – 中型淡水魚における非殺傷的かつ簡易な魚体撮影法.魚類学雑誌 61(2): 123–125 2014 年 11 月 5 日発行
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* Kun Qian and Yuki Yamada, Exploring the Role of the Behavioral Immune System in Acceptability of Entomophagy Using Semantic Associations and Food-Related Attitudes(2018). Food Quality and Preference Volume 64, Pages 120-125.
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* Francesco La Barbera, Fabio Verneau, Mario Amato, Klaus Grunert, Understanding Westerners’disgust for the eating of insects: The role of food neophobia and implicit associations(2018).Food Quality and Preference Volume 64, Pages 120-125.
 +
* Wim Verbeke, Profiling consumers who are ready to adopt insects as a meat substitute in a Western society(2015).Food Quality and Preference Volume 39, Pages 147-155.
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* Hui Shan Grace Tan, Arnout R.H. Fischer , Hans C.M. van Trijp , Markus Stieger, Tasty but nasty? Exploring the role of sensory-liking and food appropriateness in the willingness to eat unusual novel foods like insects(2016). Food Quality and Preference. Volume 48, Part A,  Pages 293-302.  
  
 
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2021年11月10日 (水) 12:07時点における最新版


陳宇絢/ 九州大学 統合新領域学府 
Yuxuan CHEN / Kyushu University 
平井康之/ 九州大学 芸術工学研究院
Yasuyuki HIRAI/ Kyushu University
井上香織/ 福岡市科学館
Kaori INOUE/ Fukuoka City Science Museum

Keywords: サイエンスコミュニケーション, デザイン, 福岡市科学館, 子ども


Abstract

Focusing on the educational program "Darwin Course" of Fukuoka City Science Museum, this study investigates the issues of educational programs in science museums that communicate science to children from the viewpoint of communication design, and discusses the role that design can play in these programs. Based on the discussion, we aim to extract important requirements for science communication and create guidelines that can be applied to future educational programs.



背景と目的

 2017年に開館した福岡市科学館では、サイエンスコミュニケーションとデザインの融合である「サイエンス&クリエイティブ」を館のテーマとし運営を行なっている。

 その考えを踏襲し、昨年度スタートした「ダーウィンコース」は、一般社団法人九州オープンユニバーシティと合同の教育プログラムで、科学の知識と楽しさを子供たちに教え、科学への道案内をするプログラムとして実施されている。

 しかし、サイエンスコミュニケーションとデザインの融合についての先行研究が少ないのが現状である。

 本研究では、教育プログラム「ダーウィンコース」を中心に、コミュニケーションデザインの視点から、小学校高学年の子供たちに科学を伝える科学館の教育プログラムの現状の課題を調査し、サイエンスコミュニケーションとデザインが担う役割について考察する。考察をもとに、今後の教育プログラムにおける重要な要件を抽出することを目的とする。

研究対象

 本研究は、全国で初めてデザインを意識した「サイエンス&クリエイティブ」を館のテーマとする福岡市科学館を対象として研究を進める。昨年の10月から「疑問を持つ力を育つ」を趣旨とした「ダーウィンコース」が初級編としてスタートし、今年の5月23日から中級編(実践編)である「ダーウィンコース2」が開講した。九州オープンユニバーティに所属する科学者の先生たちが生徒(小学生高学年)に科学を教えるコースで、全部で5回の講座と探Qゼミを行う。「ダーウィンコース2」では、実際に研究者が行なっている研究を体験させることで、子供たちに統計・解析などの初歩的技術を学ばせることを目的としている。

研究の方法

 本研究では、科学者が伝えたい内容を整理し、生徒側の受け入れによる評価を行う。

 まず、文献調査でサイエンスコミュニケーションと福岡市科学館の「サイエンス&クリエイティブ」の定義を調査する。

 次に、フィールド調査で以下の点を調査する。(図1)

図1 研究方法

 科学者が伝えたい内容

 ①. 科学コンテンツから教える内容として何を抽出したか?

 ②. 教える内容をどのように生徒たちに伝えたか?効果はどうだったか?

 生徒側の受け入れの評価

 ③.評価はどうだったか?  

文献調査の結果

1、サイエンスコミュニケーション

サイエンスコミュニケーションとは、科学的な知識や考え方を、社会において伝え、受け取るコミュニケーションである。もっとも一般的な形では、科学館や研究機関の専門家(科学コミュニケーターや研究者自身)が、一般市民と双方向性の高い対話をすることである。(楠見,2013)

また、サイエンスコミュニケーションでは、社会における課題が契機となり、社会において様々な役割を果たしている人々かが対話し、合意形成し、その課題を解決していくことを目指す。それは各集団が持つ独自の文化を踏まえ、異文化交流をする過程と考えてもよい 。(小川,2017)

2、博物館の学び

「博物館における学び」は、時代と個々の人々の生活体験等に基づく「文脈に基づく学び」、すなわち「構成主義的な学び」となる。構成主義的な学びとは、学習者の既に持っているさまざまな概念に根拠をおく学習である(高安,2010)。個々の学習者が、それぞれの個人的、社会的、物的な文脈のなかで、自分で知識を構成する(Tim,1998)。学習者が各々の知識と経験を基づいて自ら知識を構成していくことは博物館の学びにおいて重要である。

フィールド調査の結果

 1、 科学者たちへのアンケート結果

 調査目的:「①. 科学コンテンツから教える内容として何を抽出したか?」と「②. 教える内容をどのように生徒たちに伝えたか?効果はどうだったか?」を明らかにする。

 調査方法:「科学者たちが持つ科学コンテンツ」を確認のうえ、「ダーウィンコース2」に参加する科学者たちに「伝えたい内容」「伝え方」「目標の達成度」「残された課題 」についてアンケート調査を行った。

 調査結果:結果は図2,3,4に示す。

① 科学コンテンツから教える内容として何を抽出したか?

 まず、科学者たちの研究内容をまとめて、表を作成した。(図2)

 次に、「伝えたい内容」を調査した。(図3)

② 教える内容をどのように生徒たちに伝えたか?効果はどうだったか?

「伝え方」「目標の達成度」を調査した。(図4)

 最後、「残された課題 」を調査した。

 食の回と川の回を振り返し、一番の課題は「時間が短い」「より万全な準備が必要」と思われる。 また、食の回に関して、比良松先生は「官能評価に関する最新の科学的成果や新発見を伝える努力が必要」「チームワーク的な努力が必要」という意見を出した。

2、 生徒たちへのアンケート

 調査目的:「③評価はどうだったか?」を明らかにする。

 調査方法:「知識とスキルの習得」「日常生活の応用」「科学への興味関心」「宿題のフィードバック」についてアンケート調査を行った。

 調査結果:結果は図5に示す。

③評価はどうだったか?

考察とまとめ

 本研究は「ダーウィンコース2」に関わる科学者と生徒を対象に調査を行なった。

1、科学者たちへの調査では、まず、アンケート調査から実施前の計画段階で各回の担当する科学者が科学論文から生徒に講座で伝えたい内容、次に講座や探Qゼミで、科学者が科学の内容を理解しやすくした工夫を整理した。それを元にうまくいった工夫とうまくいかなかった工夫の科学者側からの評価をまとめた。全体的には順調に進んだと考えられる。

2、生徒たちへの調査では、講座と探Qゼミで科学者たちから伝えられた知識とスキルがどの程度伝わったかが分かった。

 生徒側の評価を見ると、実際にフィールドワークに参加し体験した内容や、グループワークでディスカッションをした内容への理解度が高い傾向がある。例えば、食の回では語彙が豊富でないと予想される小学生児童に、味の表現が多様であることを理解してもらうために、大人も含めて全員で味を表現する言葉を書き出して(「言葉出し」を通じて)共有し、分類(グループ分け)した。そして、この回においてアンケートをした結果、「味を言葉で表現すること」を学んだと回答した生徒が72.7%(8人)。従って、生徒たちに知識への理解を深めさせるためには「実際に体験させる」ことが重要だと考えられている。

 また、各回終了後の日常生活への応用については、応用するケースは少ないことがわかった。「身につけた能力やスキルを使って、ダーウィンコース以外で実践したことはありますか」の質問に対し、調査した3回のうちタンポポの回と川の回には「はい」の回答が36.4%(4人)と27.3%(3人)の半数以下だった。従って、どのように生徒たちの科学館外の知識の応用を促進するのは今後検討すべき課題となる。

今後の予定

今後は科学者・生徒へのアンケート調査を引き続き行い、サイエンスコミュニケータとデザイン研究者にアンケート調査を行い、その結果を比較分析する予定である。

参考文献・参考サイト

  • 楠見孝, 心理学とサイエンスコミュニケーション(2013), 日本サイエンスコミュニケーション協会誌 , 2(1): 66-71.
  • 小川義和, 今後の科学教育について~サイエンスコミュニケーションの教育的意義を考える(2017), 科学教育研究, Vol.41(1), pp.9-10
  • 高安礼士, 教員のミュージアムリテラシーについて. 日本科学教育学会研究会研究報告(2010). 2010.Vol.25 No.33 pp.65-70.
  • Tim Caulton, ハンズ・オンとこれからの博物館(1998)
  • Wu, F.-Y., & Yahara, T., Recurved Taraxacum phyllaries function as a floral defense: experimental evidence and its implication for Taraxacum evolutionary history(2017). Ecological Research, 32(3), 313–329.
  • Chika Mitsuyuki • Akihiko Hoya • Hiroyuki Shibaike • Mikio Watanabe • Tetsukazu Yahara, Formation of a hybrid triploid agamosperm on a sexual diploid plant: evidence from progeny tests in Taraxacum platycarpum Dahlst(2013). Plant Systematics and Evolution, 300(5), 863–870.
  • 川崎寛也, 山田章津子, 伏木亨, 「鰹だし」風味の食餌の初期経験が後の嗜好性に及ぼす影響(2002)
  • 桜井広幸, 化粧水の香りの共感覚的表現——触覚語の役割(2000). 日本官能評価学会誌 Vol.4 No.1 pp.45-51 .
  • 矢口幸康, オノマトペをもちいた共感覚的表現の意味理解構造(2011). 認知心理学研究 Vol.8 No.2 pp.119-129.
  • 松江勇次, 佐藤大和, 尾形武文, 良食味水稲品種における少数パネル・多試料による米飯の食味評価 (2003). 日本作物学会紀事 Vol. 72 No.1 38~42.
  • 今村美穂, 記述型の官能評価/製品開発におけるQDA法の活用(2012). 化学と生物 Vol.50 No.11 818~824.
  • 島村綾, 小泉昌子, 峯木眞知子, 市原茂, 飯の官能評価の時系列変化(2017). 日本家政学会誌 Vol. 68 No. 9 478~485.
  • 鹿野雄一, Waterfalls drive parallel evolution in a freshwater goby. Article in Ecology and Evolution · August 2012.
  • 小 – 中型淡水魚における非殺傷的かつ簡易な魚体撮影法.魚類学雑誌 61(2): 123–125 2014 年 11 月 5 日発行
  • Kun Qian and Yuki Yamada, Exploring the Role of the Behavioral Immune System in Acceptability of Entomophagy Using Semantic Associations and Food-Related Attitudes(2018). Food Quality and Preference Volume 64, Pages 120-125.
  • Francesco La Barbera, Fabio Verneau, Mario Amato, Klaus Grunert, Understanding Westerners’disgust for the eating of insects: The role of food neophobia and implicit associations(2018).Food Quality and Preference Volume 64, Pages 120-125.
  • Wim Verbeke, Profiling consumers who are ready to adopt insects as a meat substitute in a Western society(2015).Food Quality and Preference Volume 39, Pages 147-155.
  • Hui Shan Grace Tan, Arnout R.H. Fischer , Hans C.M. van Trijp , Markus Stieger, Tasty but nasty? Exploring the role of sensory-liking and food appropriateness in the willingness to eat unusual novel foods like insects(2016). Food Quality and Preference. Volume 48, Part A, Pages 293-302.