「中国の中年者における余暇活動の調査」の版間の差分

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; 張哲 / 九州大学 大学院芸術工学府
<span style="color:red;">'''注)'''</span>
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: Zhang Zhe / Graduate School of Design, Kyushu University
*<span style="color:red;">この雛形は、研究発表(口頭・ポスター)に適用されます。</span>
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; 田村良一 / 九州大学 大学院芸術工学研究院
*<span style="color:red;">英文概要は、80ワード程度を目安にご執筆下さい。</span>
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: Ryoichi Tamura / Faculty of Design, Kyushu University
*<span style="color:red;">本文部分は、2,000文字程度を目安にご執筆下さい。</span>
 
*<span style="color:red;">見出しの語句は参考例です。</span>
 
*<span style="color:red;">「あなた」が編集を行うとページの履歴に利用者名が残ります。</span>
 
  
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''Keywords: Middle-aged people, Leisure activities, China'' 
  
; 張哲 / 九州大学 大学院芸術工学府 デザインストラテジー専攻
 
: ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ / ◯◯◯◯◯◯ University ← 氏名 / 所属 の英語表記(筆頭者)
 
; ◯◯◯◯ / ◯◯大学 ◯◯学部 ← 氏名 / 所属(共同研究者)
 
: ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ / ◯◯◯◯◯◯ University ← 氏名 / 所属 の英語表記(共同研究者)
 
  
''Keywords: Product Design, Visual Design'' ← キーワード(斜体)
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; Abstract
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: The purpose of this study is to compare the differences in the frequency of middle-aged people's participation in leisure activities before and after covid19 and to determine the effect of covid19 on middle-aged people's leisure activities. We investigated the leisure activities of middle-aged adults aged 46 to 60 years in Shanghai and Tianjin, China, before and after covid19. The questionnaire covered in this survey were sports, hobbies, recreation, travel and others. We found that females, and people living in Tianjin, were more affected by covid19.
  
  
; Abstract
 
: This study is a survey of leisure activities among middle-aged people aged 46 to 60 years in Shanghai and Tianjin, China, around covid19. The activities covered in this survey were sports, hobbies, recreation, travel and others. The aim is to identify the impact of covid19 on the leisure activities of middle-aged people.
 
  
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==1. 背景==
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 2020年以降、新型コロナウィルス感染症(以下、コロナと記す)は、中国を含む世界中の人々の生活に大きな影響を与えている。そのような生活のなかで、余暇活動はストレス解消の一つの手段と言えるが、コロナの影響から十分に行うことができず、人々の精神状態も間接的に影響を受けている可能性がある。また、David G. Blanchflowerが提唱した幸福のUカーブ理論<ref>Blanchflower D G. Is happiness U-shaped everywhere? Age and subjective well-being in 145 countries[J](2021). Journal of Population Economics, 575-624,2021, 34(2)</ref>によると、中年期は人生で最も幸福度が低い時期であるが、中国の中年者を対象とした余暇活動に関する研究はあまりみられない。
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==2. 目的==
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 そこで本研究では、中国の中年者を対象とした「余暇活動とウェルビーイングの関係に関する研究」の端緒として、コロナが余暇活動のあり方にどのような影響を与えているのか調査を行った。
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==一、背景==
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==3. 調査==
 2020年以降、中国の都市部、コロナが人々の日常生活に大きな影響を与えている。特に人口密度の高い直轄市では、人々の動きが制限され、外出が少なくなったり、余暇活動の実施が一部を止めなければならなくなった。
 
  
 余暇活動は、人々がリラックスして楽しむための手段であり、ストレスを解消し、幸福感を高めることができる。活動参加がコロナの影響を受けたら、人々の精神状態や幸福感も間接的に影響を受ける可能性があり、幸福度の低下は潜在的な精神問題を引き起こす。そのため、コロナ前後の活動頻度の変化を把握することは重要な課題といえる。
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3.1.調査の概要
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[[File: 感染者1.jpg|thumb|right|300px|図表1.4つの直轄市の感染状況]]
  
 David G. Blanchflowerが提唱した幸福のUカーブ理論によると、中年期は人生で最も幸福度が低い時期である。コロナ中にいくつかの活動が制限されると、幸福度が更に下がる可能性がある。また、中国では高齢者を対象とした活動に関する研究は多いが、中年者を対象とした研究は非常に注目されていない。そのため、中年者を対象として、コロナ前後の活動頻度の変化を把握することは重要な課題といえる。
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 直轄市は人口密度が高く、他の都市に比べてコロナの影響が大きいと考えられるが、図表1に示すとおり影響の程度には違いがみられるため、コロナの影響が大きい「上海市」とコロナの影響が小さい「天津市」を調査対象とする地域として選定した。そして、両市に在住している「Questionnaire Star」というアンケート会社<ref>Questionnaire Starは、アンケートの作成やデータ収集などのサービスをユーザーに提供するアンケート会社である</ref>の46~60歳の会員を対象として、2021(令和3)年9月、Webアンケート調査を実施した。
  
==二、目的==
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 調査内容は、対象者の属性に関する①性別、②地域、③年齢の3つの設問、及びコロナ前とコロナ中に余暇活動に関する④スポーツ部門(ジョギング、体操などの28種類)⑤趣味・創作部門(文芸の創作、写真の制作などの31種類)⑥娯楽部門(囲碁、将棋などの22種類)⑦観光・旅行部門(遊園地、ドライブなどの12種類)⑧他の部門(バーベキュー、温浴施設などの18種類)の5つの設問である。なお、余暇活動に関する設問④~⑧の具体的な活動項目は、中国の「青書」<ref>青書:中国における高齢者の生活の質の発展に関する報告書(2019),社会科学文献出版,24-25. 2021(04)</ref>及び日本の「レジャー白書」<ref>レジャー白書(2020)、日本生産性本部, 08-24, 2020</ref>を参考にして収集した。
 中国の中年者の余暇活動の項目を捉え、天津と上海の2つの直轄市におけるコロナ前後での余暇活動の参加頻度の違いを把握し、コロナが活動参加にどのような影響を与えたかを明らかにし、今後の余暇活動と幸福度に関する研究のため、資する資料を整理することを目的とする。
 
 
 
==三、調査==
 
3.1.調査の概要
 
  
 中国の上海市と天津市に在住している46~60歳の男女モニターを対象として、2021年9月に、Webアンケート調査を実施した。
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 回答方法は、対象者の属性に関する①性別、②地域、③年齢の設問については、単一回答である。余暇活動に関する設問④~⑧については、コロナ前とコロナ中にそれぞれの活動の参加頻度に対して、「全然やらない=1、年に1〜2回=2、年に3〜4回=3、月に1〜3回=4、週に1〜3回=5、週に3回以上=6」<ref>戴強,仲野隆士:中国の高齢者の余暇活動とQOLに関する研究(2016), 仙台大学大学院スポーツ科学研究科修士論文集, 03-31,2016</ref>の6段階評価とした。
 調査内容は、対象者の属性に関する(性別、年齢、地域、住まい方、同居している人)五つの設問、及びコロナ前とコロナ中に余暇活動に関する①スポーツ部門(ジョギング、体操などの28種類)②趣味・創作部門(文芸の創作、写真の制作などの31種類)③娯楽部門(囲碁、将棋などの22種類)④観光・旅行部門(遊園地、ドライブなどの12種類)⑤他の部門(バーベキュー、温浴施設などの18種類)五つの設問である。中国では中年者の活動に関する調査が不足しているため、中国の「青書」及び日本の「レジャー白書」に参考にして、余暇活動に関する設問①~⑤で設定した具体的な活動項目は収集した。
 
 回答方法は、対象者の属性に関する性別、年齢、地域、住まい方の設問については、単一回答、同居している人の設問については、複数回答である。余暇活動に関する設問①~⑤については、コロナ前とコロナ中にそれぞれの活動の参加頻度に対して、「全然やらない=1、年に1〜2回=2、年に3〜4回=3、月に1〜3回=4、週に1〜3回=5、週に3回以上=6」の六段階評価とした。
 
  
  
 
3.2.調査の結果
 
3.2.調査の結果
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[[File: 性別.jpg|thumb|right|150px|図表2.性別にみた内訳]][[File: 地域1.jpg|thumb|right|150px|図表3.地域別にみた内訳]][[File: 年齢別.jpg|thumb|right|210px|図表4.年齢別にみた内訳]]
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 100名から回答が得られた。このうち、重複回答した8名を除く、残りの92名を分析の対象とすることにした。性別、地域別、年齢別にみた人数と割合を図表2、図表3及び図表4に示す。
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 100名から回答が得られた。このうち、重複回答した8名を本研究の分析対象から除くこととし、残りの92名は対象とすることにした。性別、年齢別、地域別、住まい方、および同居している人にみた人数と割合を表1~表5に示す。
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==4. 結果==
 属性についての年齢、住まい方、同居している人に関する設問への回答は、非常に焦点が絞られており、性別や地域に関する質問への回答は、比較的に分散していたため、以下の分析で性別や地域を比較の要素とした。
 
 
 
  
==四、結果==
 
 
4.1.コロナ前の余暇活動の参加頻度
 
4.1.コロナ前の余暇活動の参加頻度
4.1.1 分析
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[[File: コロナ前の頻度111.jpg|thumb|right|480px|図表5.コロナ前の余暇活動の参加頻度]]
 コロナ前の①スポーツ部門に関する28種類の活動②趣味・創作部門に関する31種類の活動③娯楽部門に関する22種類の活動④観光・旅行部門に関する12種類の活動⑤他の部門に関する18種類の活動に対する92名の回答結果を統計し、平均値を算出することとした。性別及び地域による参加頻度の差異を分析するため、平均値に基づき、t-検定分析を行った。
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 コロナ前の④スポーツ部門に関する28種類の活動、⑤趣味・創作部門に関する31種類の活動、⑥娯楽部門に関する22種類の活動、⑦観光・旅行部門に関する12種類の活動、⑧他の部門に関する18種類の活動に対する92名の回答結果をもとに、5部門ごとに、回答者の全体、性別及び地域別に分類して、該当する活動の参加頻度の回答結果(全然やらない=1~週に3回以上=6)の平均値を算出して、5部門間の余暇活動の参加頻度を比較した。
  
4.1.2 分析の結果
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 その結果、全体、性別及び地域別に共通して「スポーツ部門」の活動の参加頻度が最も低く、「他の部門」の活動の参加頻度が最も高かった。図表5に示す。
 性別から見ると、コロナ前、男性の方が女性よりもスポーツ部門と娯楽部門の活動に参加する頻度が有意に高かったが、趣味部門と観光部門及び他の部門の参加頻度では、男性と女性で同じであると言える。
 
地域から見ると、コロナ前、天津市に在住している人が上海市よりスポーツ部門の活動に参加する頻度が有意に高かったが、趣味部門と観光部門では、上海市に在住している人の参加頻度が天津市よりも有意に高くなった。娯楽部門と他の部門の活動頻度では、上海市と天津市で同じであると言える。表6に示す。
 
  
4.2.コロナ中の余暇活動の参加頻度
 
4.2.1 分析
 
 コロナ前と同じように、コロナ中の回答結果を統計し、平均値を算出することとした。平均値に基づき、性別及び地域により、t-検定分析を行った。
 
  
4.2.2 分析の結果
 
 性別から見ると、コロナ中、女性の方が男性よりも趣味部門の活動に参加する頻度が有意に高かったが、娯楽部門では、男性の参加頻度が女性よりも有意に高くなった。スポーツ部門と観光部門及び他の部門の参加頻度では、男性と女性で同じであると言える。
 
地域から見ると、コロナ中、天津市に在住している人が上海市よりスポーツ部門の活動に参加する頻度が有意に高かったが、趣味部門と観光部門では、上海市に在住している人の参加頻度が天津市よりも有意に高くなった。娯楽部門と他の部門の活動頻度では、上海市と天津市で同じであると言える。表7に示す。
 
  
4.3.コロナ前後の余暇活動の参加頻度
 
4.3.1 分析
 
 コロナ前とコロナ中の余暇活動に関する五つの設問に対する92名の回答結果を統計し、平均値を算出することとした。コロナ前後、余暇活動の参加頻度の差異を把握するため、平均値に基づき、全体と性別及び地域により、t-検定分析を行った。
 
 
 
4.3.2 分析の結果
 
 その結果では、コロナ前より、コロナ中に全体的なスポーツ部門、趣味部門、娯楽部門の余暇活動の参加頻度が高くなって、観光部門と他の部門では、変化しない。
 
 性別から見ると、女性は全体的な結果と同じように、コロナ前より、コロナ中にスポーツ部門、趣味部門、娯楽部門の余暇活動の参加頻度が活発になって、観光部門と他の部門では、変化しない。男性はコロナ前後にいずれの余暇活動の参加頻度にも変化なしと言える。
 
 地域から見ると、コロナ前より、コロナ中に、天津市に在住している人はスポーツ部門、趣味部門、娯楽部門の活動の頻度が高くなって、観光部門の活動頻度が低くなったが、他の部門の頻度が変化しない。上海市では趣味部門の活動のみ、頻度が増えたと言える。表8に示す。
 
  
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4.2.コロナ中の余暇活動の参加頻度
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[[File: コロナ中の頻度112.jpg|thumb|right|480px|図表6.コロナ中の余暇活動の参加頻度]]
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 コロナ前と同様に、コロナ中の92名の回答結果をもとに、5部門ごとに、回答者の全体、性別及び地域別に分類して、該当する活動の参加頻度の回答結果(全然やらない=1~週に3回以上=6)の平均値を算出して、5部門間の余暇活動の参加頻度を比較した。
  
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 その結果、コロナ前と同様に、全体、性別及び地域別に共通して「スポーツ部門」の活動の参加頻度が最も低く、「他の部門」の活動の参加頻度が最も高かった。図表6に示す。
  
==五、考察==
 
 性別の観点から見ると、男性の余暇活動の参加頻度はコロナの影響を受けず。逆に、コロナの影響で、女性のスポーツ部門、趣味部門、娯楽部門の活動の参加頻度は増加している。これは、女性が男性よりも軽い仕事に就いていることや、中国に女性が男性よりも早く退職することで、コロナ中に自宅で活動する時間が増えたことが理由として考えられる。
 
  
 地域の観点から見ると、コロナ前に天津市と上海市では生活習慣の違いから、スポーツや趣味活動、観光活動が異なっていた。コロナにより、天津市ではスポーツ部門、趣味部門、娯楽部門の活動の参加頻度が増加している。これは、コロナに蓄積された過剰なストレスが、活動に参加することで解消されたためと考えられる。一方、上海では余暇活動の参加頻度はあまり変わっていない。これは、上海ではコロナがより深刻で、多くの活動が制限されているためと考えられる。上海に住む人々が、コロナによる蓄積されたストレスを余暇活動によって解消することができず、上海に住む人々の精神状態や幸福感も間接的に影響を受ける可能性がある考えられる。
 
  
  
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4.3.コロナ前後の余暇活動の参加頻度<br>
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4.3.1 分析
  
==六、まとめ==
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 コロナ前とコロナ中での余暇活動の参加頻度の変化を把握するため、「4.1.」および「4.2.」で算出された平均値をもとに、全体と性別及び地域別に分類して、5部門の余暇活動ごとに平均値のt-検定を行った。
 本研究はコロナが中国中年者の余暇活動の参加にどのような影響を与えたかを明らかにした。今後の余暇活動と幸福度に関する研究のため、資する資料を整理した。
 
  
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4.3.2 分析の結果
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[[File: 対比12.jpg|thumb|right|580px|図表7.コロナ前とコロナ中の活動頻度の比較結果]]
  
==脚注==
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 全体でみると、コロナ前よりコロナ中に「スポーツ部門」「趣味部門」「娯楽部門」の余暇活動の参加頻度は高くなっている。一方、「観光部門」と「他の部門」は変化していない。
<references />
 
  
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 性別でみると、女性では全体的な結果と同じように、コロナ前よりコロナ中に、「スポーツ部門」「趣味部門」「娯楽部門」の余暇活動の参加頻度が活発になっている。一方、「観光部門」と「他の部門」では変化していない。男性ではコロナ前後にいずれの余暇活動の参加頻度も変化していない。
  
==参考文献・参考サイト==
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 地域別にみると、コロナ前よりコロナ中に、天津市に在住している人では「スポーツ部門」「趣味部門」「娯楽部門」の活動の頻度は高くなっている。一方、「観光部門」の活動頻度は低くなっている。「他の部門」の活動頻度は変化がみられなかった。上海市では「趣味部門」のみ活動頻度が増えている。図表7に示す。
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Blanchflower D G. Is happiness U-shaped everywhere? Age and subjective well-being in 145 countries[J](2021). Journal of Population Economics, 575-624,2021, 34(2)
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==5. 考察==
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 全体でみると、「スポーツ部門」「趣味部門」「娯楽部門」の活動は参加頻度が高くなり、「観光部門」と「他の部門」の活動は参加頻度に変化が見られなかった。これは、コロナ中に家にいる時間が増え、室内で活動する機会が増えたためと考えられる。
  
戴強,仲野隆士:中国の高齢者の余暇活動とQOLに関する研究(2016), 仙台大学大学院スポーツ科学研究科修士論文集, 03-31,2016
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 性別でみると、男性の余暇活動の参加頻度の変化は見られない。逆に女性の「スポーツ部門」「趣味部門」「娯楽部門」の活動の参加頻度は増加している。これは、女性が男性よりも軽い仕事に就いていることや、中国に女性が男性よりも早く退職することで、コロナ中に自宅で活動する時間が増えたことが理由として考えられる。
  
レジャー白書(2020)、日本生産性本部, 08-24, 2020
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 地域別でみると、天津市では「スポーツ部門」「趣味部門」「娯楽部門」の活動の参加頻度が増加している。これは、コロナに蓄積された過剰なストレスが、活動に参加することで解消されたためと考えられる。一方、上海では余暇活動の参加頻度はあまり変わっていない。これは、上海ではコロナがより深刻で、多くの活動が制限されているためと考えられる。上海に住む人々が、コロナによる蓄積されたストレスを余暇活動によって解消することができず、上海に住む人々の精神状態や幸福感も間接的に影響を受ける可能性がある考えられる。
 
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中国における高齢者の生活の質の発展に関する報告書(2019),社会科学文献出版,24-25. 2021(04)
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==6. まとめ==
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 本研究では、中国の2つの直轄市の中年者を対象として、コロナが5つの部門に分類した余暇活動の参加頻度にどのような影響を与えたのかを検討した。今後は、本結果をもとに、調査対象とする地域、性別などを検討の上、再度、Webアンケート調査を実施し、余暇活動とウェルビーイングとの関係を分析、考察する予定である。
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==脚注==
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[[Category:未設定]]
 

2021年10月28日 (木) 17:52時点における最新版

- 上海市と天津市を対象として -


張哲 / 九州大学 大学院芸術工学府
Zhang Zhe / Graduate School of Design, Kyushu University
田村良一 / 九州大学 大学院芸術工学研究院
Ryoichi Tamura / Faculty of Design, Kyushu University

Keywords: Middle-aged people, Leisure activities, China 


Abstract
The purpose of this study is to compare the differences in the frequency of middle-aged people's participation in leisure activities before and after covid19 and to determine the effect of covid19 on middle-aged people's leisure activities. We investigated the leisure activities of middle-aged adults aged 46 to 60 years in Shanghai and Tianjin, China, before and after covid19. The questionnaire covered in this survey were sports, hobbies, recreation, travel and others. We found that females, and people living in Tianjin, were more affected by covid19.


1. 背景

 2020年以降、新型コロナウィルス感染症(以下、コロナと記す)は、中国を含む世界中の人々の生活に大きな影響を与えている。そのような生活のなかで、余暇活動はストレス解消の一つの手段と言えるが、コロナの影響から十分に行うことができず、人々の精神状態も間接的に影響を受けている可能性がある。また、David G. Blanchflowerが提唱した幸福のUカーブ理論[1]によると、中年期は人生で最も幸福度が低い時期であるが、中国の中年者を対象とした余暇活動に関する研究はあまりみられない。

2. 目的

 そこで本研究では、中国の中年者を対象とした「余暇活動とウェルビーイングの関係に関する研究」の端緒として、コロナが余暇活動のあり方にどのような影響を与えているのか調査を行った。

3. 調査

3.1.調査の概要

図表1.4つの直轄市の感染状況

 直轄市は人口密度が高く、他の都市に比べてコロナの影響が大きいと考えられるが、図表1に示すとおり影響の程度には違いがみられるため、コロナの影響が大きい「上海市」とコロナの影響が小さい「天津市」を調査対象とする地域として選定した。そして、両市に在住している「Questionnaire Star」というアンケート会社[2]の46~60歳の会員を対象として、2021(令和3)年9月、Webアンケート調査を実施した。

 調査内容は、対象者の属性に関する①性別、②地域、③年齢の3つの設問、及びコロナ前とコロナ中に余暇活動に関する④スポーツ部門(ジョギング、体操などの28種類)⑤趣味・創作部門(文芸の創作、写真の制作などの31種類)⑥娯楽部門(囲碁、将棋などの22種類)⑦観光・旅行部門(遊園地、ドライブなどの12種類)⑧他の部門(バーベキュー、温浴施設などの18種類)の5つの設問である。なお、余暇活動に関する設問④~⑧の具体的な活動項目は、中国の「青書」[3]及び日本の「レジャー白書」[4]を参考にして収集した。

 回答方法は、対象者の属性に関する①性別、②地域、③年齢の設問については、単一回答である。余暇活動に関する設問④~⑧については、コロナ前とコロナ中にそれぞれの活動の参加頻度に対して、「全然やらない=1、年に1〜2回=2、年に3〜4回=3、月に1〜3回=4、週に1〜3回=5、週に3回以上=6」[5]の6段階評価とした。


3.2.調査の結果

図表2.性別にみた内訳
図表3.地域別にみた内訳
図表4.年齢別にみた内訳

 100名から回答が得られた。このうち、重複回答した8名を除く、残りの92名を分析の対象とすることにした。性別、地域別、年齢別にみた人数と割合を図表2、図表3及び図表4に示す。  















4. 結果

4.1.コロナ前の余暇活動の参加頻度

図表5.コロナ前の余暇活動の参加頻度

 コロナ前の④スポーツ部門に関する28種類の活動、⑤趣味・創作部門に関する31種類の活動、⑥娯楽部門に関する22種類の活動、⑦観光・旅行部門に関する12種類の活動、⑧他の部門に関する18種類の活動に対する92名の回答結果をもとに、5部門ごとに、回答者の全体、性別及び地域別に分類して、該当する活動の参加頻度の回答結果(全然やらない=1~週に3回以上=6)の平均値を算出して、5部門間の余暇活動の参加頻度を比較した。

 その結果、全体、性別及び地域別に共通して「スポーツ部門」の活動の参加頻度が最も低く、「他の部門」の活動の参加頻度が最も高かった。図表5に示す。



4.2.コロナ中の余暇活動の参加頻度

図表6.コロナ中の余暇活動の参加頻度

 コロナ前と同様に、コロナ中の92名の回答結果をもとに、5部門ごとに、回答者の全体、性別及び地域別に分類して、該当する活動の参加頻度の回答結果(全然やらない=1~週に3回以上=6)の平均値を算出して、5部門間の余暇活動の参加頻度を比較した。

 その結果、コロナ前と同様に、全体、性別及び地域別に共通して「スポーツ部門」の活動の参加頻度が最も低く、「他の部門」の活動の参加頻度が最も高かった。図表6に示す。



4.3.コロナ前後の余暇活動の参加頻度
4.3.1 分析

 コロナ前とコロナ中での余暇活動の参加頻度の変化を把握するため、「4.1.」および「4.2.」で算出された平均値をもとに、全体と性別及び地域別に分類して、5部門の余暇活動ごとに平均値のt-検定を行った。


4.3.2 分析の結果

図表7.コロナ前とコロナ中の活動頻度の比較結果

 全体でみると、コロナ前よりコロナ中に「スポーツ部門」「趣味部門」「娯楽部門」の余暇活動の参加頻度は高くなっている。一方、「観光部門」と「他の部門」は変化していない。

 性別でみると、女性では全体的な結果と同じように、コロナ前よりコロナ中に、「スポーツ部門」「趣味部門」「娯楽部門」の余暇活動の参加頻度が活発になっている。一方、「観光部門」と「他の部門」では変化していない。男性ではコロナ前後にいずれの余暇活動の参加頻度も変化していない。

 地域別にみると、コロナ前よりコロナ中に、天津市に在住している人では「スポーツ部門」「趣味部門」「娯楽部門」の活動の頻度は高くなっている。一方、「観光部門」の活動頻度は低くなっている。「他の部門」の活動頻度は変化がみられなかった。上海市では「趣味部門」のみ活動頻度が増えている。図表7に示す。

5. 考察

 全体でみると、「スポーツ部門」「趣味部門」「娯楽部門」の活動は参加頻度が高くなり、「観光部門」と「他の部門」の活動は参加頻度に変化が見られなかった。これは、コロナ中に家にいる時間が増え、室内で活動する機会が増えたためと考えられる。

 性別でみると、男性の余暇活動の参加頻度の変化は見られない。逆に女性の「スポーツ部門」「趣味部門」「娯楽部門」の活動の参加頻度は増加している。これは、女性が男性よりも軽い仕事に就いていることや、中国に女性が男性よりも早く退職することで、コロナ中に自宅で活動する時間が増えたことが理由として考えられる。

 地域別でみると、天津市では「スポーツ部門」「趣味部門」「娯楽部門」の活動の参加頻度が増加している。これは、コロナに蓄積された過剰なストレスが、活動に参加することで解消されたためと考えられる。一方、上海では余暇活動の参加頻度はあまり変わっていない。これは、上海ではコロナがより深刻で、多くの活動が制限されているためと考えられる。上海に住む人々が、コロナによる蓄積されたストレスを余暇活動によって解消することができず、上海に住む人々の精神状態や幸福感も間接的に影響を受ける可能性がある考えられる。

6. まとめ

 本研究では、中国の2つの直轄市の中年者を対象として、コロナが5つの部門に分類した余暇活動の参加頻度にどのような影響を与えたのかを検討した。今後は、本結果をもとに、調査対象とする地域、性別などを検討の上、再度、Webアンケート調査を実施し、余暇活動とウェルビーイングとの関係を分析、考察する予定である。

脚注

  1. Blanchflower D G. Is happiness U-shaped everywhere? Age and subjective well-being in 145 countries[J](2021). Journal of Population Economics, 575-624,2021, 34(2)
  2. Questionnaire Starは、アンケートの作成やデータ収集などのサービスをユーザーに提供するアンケート会社である
  3. 青書:中国における高齢者の生活の質の発展に関する報告書(2019),社会科学文献出版,24-25. 2021(04)
  4. レジャー白書(2020)、日本生産性本部, 08-24, 2020
  5. 戴強,仲野隆士:中国の高齢者の余暇活動とQOLに関する研究(2016), 仙台大学大学院スポーツ科学研究科修士論文集, 03-31,2016