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2021年10月21日 (木) 16:35時点における版
- 髙田佑亮 / 九州大学大学院 統合新領域学府 ユーザー感性学専攻 感性価値クリエーションコース
- Yusuke TAKADA / Kyushu University
Keywords: Smartphone game, Business model, Tutorial ← キーワード(斜体)
- Abstract
- In this study, we focused on the introduction of smartphone games and investigated the effects of different business models on the structure of the tutorial. As a result, we found that the differences in game design by business model affected the tutorials, such as "presence of Loot Box", "handling of quests", and "availability of tutorial skip".
目次
背景と目的
研究の背景として国内ゲーム市場の拡大が挙げられる。国内のゲーム市場は拡大を続けており、その中でも急成長しているのがモバイルアプリゲーム市場だ。売り上げとユーザー人口のどちらの観点から見ても現在のゲーム市場の中心である。
そのモバイルアプリゲームで主流となっているのが基本無料(Free to Play)と呼ばれるビジネスモデルだ。このモデルはユーザーに基本のゲームプレイを無料で提供し、付加機能(レアなアイテム、ゲーム効率の上昇、ゲーム内広告の除去等)に対して課金を促す。
ただ基本無料モデルの課題としてユーザーの離脱しやすさが考えられる。基本無料モデルは買い切りモデルに比べて始めやすくて辞めやすいモデルであり、そのためゲーム導入部分の設計はゲーム提供者にとって重要な課題である。
本研究では、国内モバイルゲーム市場のゲームを対象に、ゲーム導入部のゲームデザイン、ビジネスモデルとゲームデザインの関係に関する文献調査及びゲームプレイ分析を通して、各ビジネスモデルが導入部の設計に与える影響について明らかにすることを目的とする。
調査方法
文献調査
ゲームに関する書籍や論文、ゲーム開発者の記事を参照し、ゲームのチュートリアル及びビジネスモデルとゲームデザインの関係についての記述を調査した。
ゲームプレイ分析
基本無料モデルのゲーム3作品とAppleが運営するサブスクリプションサービス「Apple Arcade」で配信中の買い切りモデルのゲーム3作品のチュートリアル部分を実際にゲームプレイし、映像の記録を行った。
その後、各ゲームのチュートリアルで提供される情報の内容と構成を構造化し、各チュートリアルに共通する要素とビジネスモデルごとに異なる要素について検証を行った。
対象ジャンルと作品の選定基準
本研究では、チュートリアルの内容比較を行いやすくするため、ゲームの対象ジャンルをロールプレイングゲーム(RPG)に選定した。
ジャンルにRPGを選んだ理由として国内モバイルゲーム市場での人気が高いジャンルであること、物語を主体としたジャンルなので序盤での離脱を避ける必要が他ジャンルに比べて高いことが挙げられる。
また本研究ではRPGの定義を「戦闘」「育成」「探索」の要素を持った物語主体のゲームとし、対象作品もこれに基準に選定を行った。
対象ゲームタイトル
基本無料ゲーム作品として『チェインクロニクル』、『グランブルーファンタジー』、『白猫プロジェクト』の3作品を選定した。買い切りゲーム作品として『FANTASIAN』、『VARIOUS DAYLIFE』、『Cat Quest Ⅱ』の3作品を選定した。
チュートリアルとその範囲の定義
本研究ではチュートリアルの定義を「ゲームの導入部に設けられたユーザーに物語とゲームシステムの理解を促す一連の流れ」とする。
本研究ではチュートリアルとして取り扱う各ゲームの範囲について、チュートリアルに関連するゲーム内の実績解除やApp StoreのGame Centerにある達成項目が存在する場合には、それを参考に定義した。
ない場合にはユーザーがゲームの進行指示に完全に従わずに自由度を持ったゲームプレイができると判断できたタイミングまでを本研究のチュートリアルとして定義した。
文献調査結果
ビジネスモデルとゲームデザインの関係について、遠藤(2019)はアーケードゲームから家庭用、そしてPCのMMORPGで登場して以来モバイルアプリゲームでも主流となっている基本無料のビジネスモデルに至るまでの時代背景を含めた経緯と、
その各時代のビジネスモデルに対応するようにゲームデザインが変化し、ジャンルが多様化してきた一連の流れを述べている。[1]
また松永(2020)は著書の中で現役のゲームディレクターとして、スマートフォンRPGの可能性と問題点について「ユーザーのプレイ環境」や「基本無料のビジネスモデル」の観点から述べている。
他にも「ガチャ」システムがもたらす特別な体験の効用と抱える課題や、基本無料のゲームであるためゲームの”序盤”に力を注がざるを得ない状況についても述べている。[2]
ゲームプレイ分析 各チュートリアルに共通する要素
チュートリアル中のみ表示される情報の種類
チュートリアル中のみ画面上に表示される情報の種類は、ユーザーが次に行うべきゲーム上の行動やボタン操作を指示する「進行指示」と、戦闘や育成などゲームの各パートにおけるルールやヒント、またゲームサイクルなどゲーム全体の進行について説明する「システム説明」の2種類に分けられた。
また「システム説明」はその内容から、「戦闘」「キャラクター」「ゲーム進行」の3種類に分けられた。
「システム説明」の種類別の情報提供順
各ゲームそれぞれのチュートリアルに登場する「システム説明」を提供順に並べた場合、初めに登場するのは「戦闘」に関する説明、またはステージ内移動に関する説明だった。また「キャラクター」に関する説明はチュートリアル全体の中で後半に登場していた。
ユーザーへの情報提供手段
「進行指示」と「システム説明」という2種類の情報の表現手段として「キャラクターのセリフ」、「ポップアップウィンドウ」、「矢印」、「映像」が使用されていた。
ゲームプレイ分析 ビジネスモデルにより異なる要素
チュートリアルの構成が異なった部分に以下の3つの要素は、要因としてビジネスモデルがゲームシステムに影響を与えたことが、さらにそのままチュートリアル部分まで反映されたものと考えらえる。
ガチャ機能やフレンド機能など基本無料の作品のみに登場する「システム説明」
基本無料作品にのみゲーム内通貨でキャラクターや武器を入手することができるガチャ機能やお互いの所持キャラクターをお互いの編成に組み込めるフレンド機能が実装されており、チュートリアルの中でも説明がなされていた。
クエストの扱いに伴う「システム説明」提供の間隔
基本無料作品ではチュートリアルの間にクエスト(ドラマパート+戦闘パート)という単位のユニットが何度も繰り返され、また一つのクエストの中に登場する新しい「システム説明」は一つであることが場合が多かった。
買い切り作品の場合、チュートリアルの間にクエストが登場しない作品や、登場する場合、チュートリアル中にクエストが一度登場し、その間に発生する多くの戦闘の中で「戦闘」の「システム説明」が登場していた。
チュートリアルスキップ
基本無料作品では、冒頭のナレーションが終わった直後からチュートリアル全体のスキップを行えるボタンやポップアップが表示され、ユーザーがチュートリアルを続けるか否かの選択ができるようゲームデザインされていた。
逆に買い切り作品だと最初からスキップする機能が実装されていなかったり、チュートリアル中にプレイヤー自身のステータスを決める重要な選択を行うシナリオ構成が見受けられ、意図的にチュートリアルを飛ばさずに物語を体験させるようゲームデザインが構成されていた。
まとめ
文献調査の段階で明らかになっていた基本無料のビジネスモデルがゲームデザインにもたらした影響が、ゲームの遊び方や物語を簡潔伝える役割を持つチュートリアルの内容や構成にも影響を与えていた。今後の取り組みとして対象作品数を増やすと共に今回分析できていなかった物語の演出方法の相違点や情報提示手段の傾向など分析の範囲を広げていきたい。
脚注
参考文献・参考サイト
- 井上明人. チュートリアリズムの成立 認知プロセスとしてのゲーム観(2009), デジタルゲーム学研究, 3(1), 59-66.
- 岩谷徹(2005). パックマンのゲーム学入門, エンターブレイン
- 徳岡正肇(2016). [gamescom]ガチャは日本だけのものじゃない。ヨーロッパ市場で受けるガチャの作り方とは, https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20160820019 (2021年10月10日 閲覧)
- 徳岡正肇(2016). 「そんなものあったっけ?」が理想となるチュートリアルを,どのようにデザインすべきか, https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20160826146 (2021年10月10日 閲覧)