「海の中道から志賀島を拠点とする観光モビリティの提案」の版間の差分

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2021年10月28日 (木) 17:25時点における版



南 凜太郎 / 九州大学大学院 芸術工学府
Minami Rintaro / Kyushu University


Keywords: Car Design, Mobility Design, Tourism


Abstract
Uminonakamichi to Shika island area is one of the famous resort areas in Fukuoka. In this study, I will design the sightseeing mobility to find the new connection among these 4 elements, tourism, road, service and product, in the future of this area. I set the service model, operating route, and users through the surveys in order to design the mobility. In the future, the extra survey will be conducted for the purpose of organizing the mobility's detail to design it.


背景と目的

図1.海の中道から志賀島入口の簡易地図[1]

 将来の福岡における観光、道路、サービス、プロダクトの4つの要素を取り入れた新しいインフラの提案を行いたいと考え、そのために具体例として海の中道から志賀島にかけてのエリアを選択した。海の中道から志賀島エリアを選択した理由として、福岡の代表的リゾートエリアであり、既に様々な施設が存在しているだけでなく、2022年春にパーク・ツーリズム施設が新たに開業予定[2]であることから観光拠点として大きな魅力があると判断したからである。このエリアを舞台に新たな観光モビリティを考えていくことでこれら4つの要素の新たなつながりを提案することを目的とする。




研究の方法

 本研究では、 調査をもとに海の中道から志賀島エリアにかけてのモビリティのルート設定及び観光目的で訪れるユーザー、そして運営のサービスモデルを想定しながら、それらに基づいたモビリティのデザイン提案を行う。



現地調査

図2.海の中道海浜公園内のサイクリングロード

 実際に現地に赴き、調査した。志賀島と本土を結ぶ福岡県道59号線志賀島和白線では、海の中道駅付近から大岳海水浴場付近まで道路の両側が防風林に囲まれ、トンボロという海に囲まれた特殊な地形であるにも関わらず、それを体感できず、観光の非日常感を味わい難いルートであることがわかった。また、歩くには長い距離であるためか歩行者は殆どおらず、乗用車やトラック、自転車の利用者ばかりで、それらがない観光客やこの道になじみのない観光客にとっては志賀島まで足を伸ばしづらいルートであることがわかった。海の中道海浜公園内においても防風林で囲まれている部分が多く海を眺められるエリアは限られているように感じた。また、広大な公園内を移動できるモビリティが現状で自転車しかなく、専用のサイクリングロード上での走行に限定されていた。駐輪場は多数設置されていたものの、例えば荷物の多い子連れの観光客等は長距離の移動用には利用し難く感じられた。



文献調査

 本研究で提案するモビリティの動力源としてはモーター(電力)を採用する。モーターを選択した理由としては環境性能だけでなく、動作中の静寂性が内燃機関に比べ高く、利用者やその周辺の人に音による観光の阻害をしにくいと考えたからである。これは松尾氏(2015)や難波氏(2020)の研究でも同様の理由で採用されており、したがって本研究でのモビリティの提案においても適していると判断した。

 また、松尾氏(2015)の調査では超小型モビリティ[3]を豊島(香川県)、北九州(福岡県)、神戸(兵庫県)の3か所で導入し、利用客に関する調査を行っていた。利用者の年齢層は20~40代が多く、1名よりも2名での利用が多い。ただし、神戸においては定年退職者層からの利用の多かった。後述のユーザーの設定でこれを参考にユーザーを設定した。



サービスモデル

図3.サービスモデル

 現地調査では各施設間の移動のしづらさという、モビリティを持たない全ての観光客が共通にもつ課題と施設ごとやユーザーごとに異なる移動の課題があることが分かった。したがって、モビリティを共通の移動課題を解決するメインモビリティと各施設・ユーザーごとの移動課題を解決するサブモビリティの2つに分け、後述の稼働ルート上の停留所でスムーズに2つのモビリティを繋ぐかたちでサービスを展開していく。

メインモビリティの役割

 メインモビリティは観光客とサブモビリティを乗せ、本エリア全体の景観を楽しみながら、後述の稼働ルートを繋ぐ役割を果たす。

サブモビリティの役割

 サブモビリティは各施設において観光客をサポートする役割を果たす。人を運ぶものから荷物を運ぶものまで様々なバリエーションがある。メインモビリティに積載できる小型サイズのモビリティ。



稼働ルートの設定

図4.メインモビリティの稼働ルート

 メインモビリティの稼働ルートは右図のような全長6kmのルートを設定した。東(図の右側)から順にパーク・ツーリズム施設-シーサイドヒル・シオヤ-西戸崎シーサイドカントリークラブ-志賀島の4停留所を通り、本エリアの主要な施設・地域にアクセスできるように設定した。また、各停留所にてメインモビリティとサブモビリティをスムーズにつなぐことで移動のストレスを取り除きながら各施設をスムーズに移動できるようになることを狙う。



ユーザーの設定

 より具体的なモビリティの要件を抽出するためにユーザー例を複数設定し、ユーザージャニーマップを作成することで想定される観光客のモビリティ利用のタイミングを抽出した。

ユーザー1(地元の大学生カップル)

  • 地元からの日帰り
  • 20代の2人組
  • 2人の時間を満喫したい

 地元からの日帰り旅行。志賀島でランチをし、そこから海浜公園、水族館という流れで回るコース。志賀島から海浜公園までをメインモビリティで移動し、そこからサブモビリティを用いて海浜公園内およびマリンワールドまでのエリアを散策する。

ユーザー2(県外からきた子連れ夫婦)

  • 県外から1泊2日の泊り
  • 30代の夫婦と3歳の子供の3人
  • 子供を思い切り遊ばせたい

 県外から旅行で来た子連れ家族。パーク・ツーリズム施設に1泊2日で滞在し、子供用の荷物をサブモビリティで運びながら、周辺施設でレクリエーションを楽しむ。

ユーザー3(ゴルフ目的の定年退職者層の夫婦)

  • 県外から1泊2日の泊り
  • 定年退職後の夫婦
  • 健康維持のためにゴルフ場を利用したい

 パーク・ツーリズム施設に1泊2日で滞在する、高齢夫婦。ゴルフ目的で滞在し、サブモビリティにゴルフバッグを乗せ、メインモビリティでパーク・ツーリズム施設から西戸崎シーサイドカントリークラブまで移動し、サブモビリティと共にコースを回る。



今後の計画

 ユーザーに対応したサブモビリティとそれらとユーザーを運ぶメインモビリティのアイディア展開を行い、詳細な車両要件を設定する。そこからスタイリングデザインを行うことで一つの観光モビリティのセットを提案していく。


脚注

  1. Google Mapを参考に筆者が作成
  2. 三菱地所株式会社、他3社による日本初のPark-PFI事業による国営公園の開業。2021年7月に着工、2022年3月のグランドオープンを予定。
  3. 国土交通省(2013)によると自動車より小型で、1人~2人乗り程度の車両。


参考文献・参考サイト

  • 海の中道海浜公園に「パーク・ツーリズム」をテーマにした滞在型レクリエーション拠点が2022年3月に誕生(https://www.mec.co.jp/j/news/archives/mec210517_parkpfi.pdf) (2021) 三菱地所株式会社,積水ハウス株式会社,一般財団法人公園財団,株式会社オープン・エーら 発表
  • 超小型モビリティの展開と観光地振興の可能性(2015) 松尾高英 『創造都市研究e』10巻1号(大阪市立大学大学院創造都市研究科電子ジャーナル)
  • 観光サポートを目的とした自律・自立型EVパーソナルモビリティの提案(2020) 難波治 計測と制御 第59巻 第6号 2020年 6月号