中国の中年者における余暇活動の調査

提供: JSSD5th2021
2021年10月20日 (水) 00:13時点における張哲 (トーク | 投稿記録)による版
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- 上海市と天津市を対象として -


張哲 / 九州大学 大学院芸術工学府 デザインストラテジー専攻
Zhang Zhe / Graduate School of Design, Kyushu University
田村良一 / 九州大学 大学院芸術工学研究院 デザインストラテジー部門
Ryoichi Tamura / Faculty of Design, Kyushu University

Keywords: Middle-aged people, Leisure activities, China 


Abstract
This study is a survey of leisure activities among middle-aged people aged 46 to 60 years in Shanghai and Tianjin, China, around covid19. The questionnaire covered in this survey were sports, hobbies, recreation, travel and others. The aim is to compare differences in the frequency of participation in leisure activities among middle-aged people before and after covid19 and identify the impact of covid19 on the leisure activities of middle-aged people. We found that females, and people living in Tianjin, were more affected by covid19.


1. 背景

 2020年以降、中国の都市部、コロナが人々の日常生活に大きな影響を与えている。

 余暇活動は、ストレス解消の手段であり、活動参加がコロナの影響を受けたら、人々の精神状態も間接的に影響を受ける可能性がある。

 David G. Blanchflowerが提唱した幸福のUカーブ理論によると、中年期は人生で最も幸福度が低い時期である。中国では中年者を対象とした活動に関する研究は非常に注目されていない。


2. 目的

 中国の中年者の余暇活動の項目を捉え、上海市と天津市の2つの直轄市におけるコロナ前後での余暇活動の参加頻度の違いを把握し、コロナが活動参加にどのような影響を与えたかを明らかにし、今後の余暇活動と幸福度に関する研究のため、資する資料を整理することを目的とする。

3. 調査

3.1.調査の概要

 アンケートプラットフォームで、中国の上海市と天津市に在住している、46~60歳の会員を対象として、Webアンケート調査を実施した。

 調査内容は、対象者の属性に関する①性別、②年齢、③地域三つの設問、及びコロナ前とコロナ中に余暇活動に関する④スポーツ部門(ジョギング、体操などの28種類)⑤趣味・創作部門(文芸の創作、写真の制作などの31種類)⑥娯楽部門(囲碁、将棋などの22種類)⑦観光・旅行部門(遊園地、ドライブなどの12種類)⑧他の部門(バーベキュー、温浴施設などの18種類)五つの設問である。中国では中年者の活動に関する調査が不足しているため、中国の「青書」及び日本の「レジャー白書」に参考にして、余暇活動に関する設問④~⑧で設定した具体的な活動項目は収集した。

 回答方法は、対象者の属性に関する①性別、②年齢、③地域の設問については、単一回答である。余暇活動に関する設問④~⑧については、コロナ前とコロナ中にそれぞれの活動の参加頻度に対して、「全然やらない=1、年に1〜2回=2、年に3〜4回=3、月に1〜3回=4、週に1〜3回=5、週に3回以上=6」の六段階評価とした。


3.2.調査の結果  100名から回答が得られた。このうち、重複回答した8名を本研究の分析対象から除くこととし、残りの92名を対象とすることにした。性別、年齢別、地域別にみた人数と割合を図表1、図表2及び図表3に示す。  

4. 結果

4.1.コロナ前の余暇活動の参加頻度

4.1.1 分析

 コロナ前の①スポーツ部門に関する28種類の活動②趣味・創作部門に関する31種類の活動③娯楽部門に関する22種類の活動④観光・旅行部門に関する12種類の活動⑤他の部門に関する18種類の活動に対する92名の回答結果を統計し、平均値を算出することとした。性別及び地域による参加頻度の差異を分析するため、平均値に基づき、t-検定分析を行った。

4.1.2 分析の結果

図表6.コロナ前に性別、地域による活動頻度の比較結果

 性別から見ると、コロナ前、男性の方が女性よりもスポーツ部門と娯楽部門の活動に参加する頻度が有意に高かったが、趣味部門と観光部門及び他の部門の参加頻度では、男性と女性で同じであると言える。

 地域から見ると、コロナ前、天津市に在住している人が上海市よりスポーツ部門の活動に参加する頻度が有意に高かったが、趣味部門と観光部門では、上海市に在住している人の参加頻度が天津市よりも有意に高くなった。娯楽部門と他の部門の活動頻度では、上海市と天津市で同じであると言える。表6に示す。


4.2.コロナ中の余暇活動の参加頻度

4.2.1 分析

 コロナ前と同じように、コロナ中の回答結果を統計し、平均値を算出することとした。平均値に基づき、性別及び地域により、t-検定分析を行った。

4.2.2 分析の結果

 性別から見ると、コロナ中、女性の方が男性よりも趣味部門の活動に参加する頻度が有意に高かったが、娯楽部門では、男性の参加頻度が女性よりも有意に高くなった。スポーツ部門と観光部門及び他の部門の参加頻度では、男性と女性で同じであると言える。

 地域から見ると、コロナ中、天津市に在住している人が上海市よりスポーツ部門の活動に参加する頻度が有意に高かったが、趣味部門と観光部門では、上海市に在住している人の参加頻度が天津市よりも有意に高くなった。娯楽部門と他の部門の活動頻度では、上海市と天津市で同じであると言える。表7に示す。


4.3.コロナ前後の余暇活動の参加頻度

4.3.1 分析

 コロナ前とコロナ中の余暇活動に関する五つの設問に対する92名の回答結果を統計し、平均値を算出することとした。コロナ前後、余暇活動の参加頻度の差異を把握するため、平均値に基づき、全体と性別及び地域により、t-検定分析を行った。

4.3.2 分析の結果

 その結果では、コロナ前より、コロナ中に全体的なスポーツ部門、趣味部門、娯楽部門の余暇活動の参加頻度が高くなって、観光部門と他の部門では、変化しない。

 性別から見ると、女性は全体的な結果と同じように、コロナ前より、コロナ中にスポーツ部門、趣味部門、娯楽部門の余暇活動の参加頻度が活発になって、観光部門と他の部門では、変化しない。男性はコロナ前後にいずれの余暇活動の参加頻度にも変化なしと言える。

 地域から見ると、コロナ前より、コロナ中に、天津市に在住している人はスポーツ部門、趣味部門、娯楽部門の活動の頻度が高くなって、観光部門の活動頻度が低くなったが、他の部門の頻度が変化しない。上海市では趣味部門の活動のみ、頻度が増えたと言える。表8に示す。

5. 考察

 性別の観点から見ると、男性の余暇活動の参加頻度はコロナの影響を受けず。逆に、コロナの影響で、女性のスポーツ部門、趣味部門、娯楽部門の活動の参加頻度は増加している。これは、女性が男性よりも軽い仕事に就いていることや、中国に女性が男性よりも早く退職することで、コロナ中に自宅で活動する時間が増えたことが理由として考えられる。

 地域の観点から見ると、コロナ前に天津市と上海市では生活習慣の違いから、スポーツや趣味活動、観光活動が異なっていた。コロナにより、天津市ではスポーツ部門、趣味部門、娯楽部門の活動の参加頻度が増加している。これは、コロナに蓄積された過剰なストレスが、活動に参加することで解消されたためと考えられる。一方、上海では余暇活動の参加頻度はあまり変わっていない。これは、上海ではコロナがより深刻で、多くの活動が制限されているためと考えられる。上海に住む人々が、コロナによる蓄積されたストレスを余暇活動によって解消することができず、上海に住む人々の精神状態や幸福感も間接的に影響を受ける可能性がある考えられる。


6. まとめ

 本研究はコロナが中国中年者の余暇活動の参加にどのような影響を与えたかを明らかにした。今後の余暇活動と幸福度に関する研究のため、資する資料を整理した。


脚注


参考文献・参考サイト

Blanchflower D G. Is happiness U-shaped everywhere? Age and subjective well-being in 145 countries[J](2021). Journal of Population Economics, 575-624,2021, 34(2)

戴強,仲野隆士:中国の高齢者の余暇活動とQOLに関する研究(2016), 仙台大学大学院スポーツ科学研究科修士論文集, 03-31,2016

レジャー白書(2020)、日本生産性本部, 08-24, 2020

中国における高齢者の生活の質の発展に関する報告書(2019),社会科学文献出版,24-25. 2021(04)