中国におけるオルタナティブ・スペースについて
- 米 娜/ 九州大学大学院 新統合領域学府 ユーザー感性専攻
目次
背景と目的
近年、アジア地域における文化芸術の枠組みの拡がりを背景に、美術館やギャラリーなど芸術鑑賞の場以外に、欧米由来の個人や民間団体によって非営利で運営されているオルタナティブ・スペースが増えつつある。かつては大都市部に限られる動きであったが、現在は各地方に広がっており、その活動形態も多様化している。
先行研究により、現在のオルタナティブ・スペースは初期の持っていた対抗的な性格が薄くなっていた同時に、交流の場といった特徴が顕著になっている。しかし、そこで生みだされるコミュニケーションそのものの役割についての研究はまだ充分に行なっていない現状がある。
そこで、日中におけるオルタナティブ・スペースの現状と課題を明らかにし、オルタナティブ・スペースのもたらした影響とその役割を探るため、研究を行うこととした。
本発表は、中国におけるオルタナティブ・スペースの現状のまとめを報告するものである。
研究の方法
中国におけるオルタナティブ・スペースの定義と発展経緯を明らかにするため文献調査を行った。主にオルタナティブ・スペースに関する先行研究や新聞記事などをまとめた。
次に、中国におけるオルタナティブ・スペースの現状を明らかにするため、北京市と河北省における十つのオルタナティブ・スペースでフィールドワークを行い、現状のデータを整理した。整理項目は、以下の項目である:
スペース名前/位置/創立時間/主催者/運営資金源/面積/空間構成/活動内容/入場時間/入場料有無/主な利用者/他の特徴についての14項目
また、現場で主催者を対象にした非構造化インタビュー調査を実施した。インタビューでは、創立のきっかけきっかけ、創作意欲、場所の選ぶ、運営状況、アーティスト・利用者との関係性、目下で抱える問題点などを中心に行った。
フィールドワークの結果をまとめた後、項目ごとに比較、特徴を分析する上で、調査したスペースを分類した。そして、インタビュー調査結果の分析も加えて、現在活動しているオルタナティブ・スペースの特徴をまとめた。
調査結果と展開
現在活動しているオルタナティブ・スペースの類型
- 専門化スペース:組織化した独自性・専門性か高いスペース
- 住宅スペース:家屋・マンションと共同アトリエの併設するスペース
- カフェスペース:カフェやセレクトショップと併設する多目的スペース
- 通り沿いスペース:街に面して通りすぎた人々が見られるマイクロ・スペース
- 多目的スペース:多様なパフォーマンスを行うプライベート感が強い多目的スペース
- 商業化スペース:商業化する傾向があるスペース
現在活動しているオルタナティブ・スペースの特徴
- アートの表現形式が様々で、美術館よりインタラクティブ・アートとパフォーマンス・アートが多い。
- 物理的空間が狭いからこそ、より良い没入体験の環境が形成される。
- 現場で「プロ」や「アマチュア」、「職業」という意識がない。アーティスト・主宰者(キュレーター)、来場者との特別な関係性が無意識のうちに生み出せる。
- アートと人々、またはアートを介して人と人の繋がりのあり方を探ることを目指している主催者が多い。
今後の展開
来場者の参加度モデルを作り/参照し、参加度によって分類する。分類した類型ごとにアンケート調査を行い、その結果を分析し、アート活動を中心とするオルタナティブ・スペースがコミュニケーションの場として生み出しているコミュニケーションそのものの役割その影響と役割を明らかす。
参考文献
- Gorldbard , Arlene., (2002). When ( Art ) Worlds Collide : Institutionalizing the Alternatives. In Ault. Julie. (Eds.), Alternative Art New York 1965-1985. Minnesota: University of Minnesota Press
- Brown, Novak-Leonard & Gilbride., (2011) Getting In on the Act: How Arts Groups Are Creating Opportunities for Active Participation
- YAO Juichung, (2011). From 'Alternative Space' to 'Post-Alternative Space'. LU, Peiyi,(Eds.),Creating Spaces: Post Alternative Spaces in Asia. Taipei: Garden City Publishers
- 井上真央(2014)「現代日本におけるオルタナティブ・スペースをめぐる諸問題」大阪大学大学院文学研究科