既存の電気ケトル評価の因子分析に基づくデザイン開発

提供: JSSD5th2021
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- 既存の電気ケトルにおける「好ましい」因子の導出とデザイン展開への活用 -


川崎大雅 / 九州大学 芸術工学部
迫坪知広 / 九州大学 大学院芸術工学研究院
田村良一 / 九州大学 大学院芸術工学研究院

Keywords: Electric kettle, University student, Design Research, Product Design


背景と目的


電気ケトルは、1人暮らしをする人にとって便利であり、大学生にとっても人気の高い家電製品である。電気ケトルは安全に速くお湯を沸かすという機能を果たす機構には長年変化がなく、現行品は筒、取手、注ぎ口などのデザインが与える印象によって差別化されていると言える。このような状況を踏まえ、本発表は、大学生にとって好ましい電気ケトルのデザインの評価構造を把握、現行市場の調査・分析を行い、その結果からコンセプトを導出して、新しい電気ケトルのデザインを検討、創出した。なお、本内容は、九州大学芸術工学部工業設計学科3年後期の開設科目「デザインシステム論・演習」での成果をもとに展開したものである。

調査と分析

ステップ①:評価用語の抽出

図❶ 評価用語の抽出

評価グリッド法を用いて、好ましい電気ケトルについての評価構造を把握、評価用語を抽出した(図❶を参照)。
具体的には、まず、大学生6名を対象として、16個の既製品の画像をカードで掲示し、好ましいかそうでないかについて判別してもらい、なぜそのように思うかの理由を聞き出し、これらを階層構造のネットワーク図に整理した。(例:好ましい電気ケトル>かわいい>丸い>つるっとしている)。次に、調査対象とした6名全員の結果を1つの全体ネットワーク図にまとめた。最後に、好ましい電気ケトルの評価用語を13個(例:ナチュラルな、カジュアルな、無骨な、など)を抽出した。










ステップ②:評価用語に基づく因子の抽出

図❷ 因子の抽出

Googleformを利用してアンケート調査を行い、回答結果をもとに因子分析を行った(図❷を参照)。
具体的には、まず、大学生11名を対象として、30個の既製品の電気ケトルのサンプルを用意し、ステップ1で抽出した13個の評価用語に対して、5段階(思わない=1~思う=5)で評価してもらった。次に、11名の回答結果をもとに因子分析を行い、ファッション性因子、キャラクター性因子、シンプル造形因子、手軽さ因子と命名した4つの因子を抽出した。最後に、算出された因子得点をもとに、調査対象とした30個の既製品の電気ケトルの特徴を把握した。



















ステップ③:市場の分析

図❸ 市場の分析

クラスター分析を行い、既製品の市場での分布の様子を把握した(図❸を参照)。
具体的には、まず、ステップ②で算出された既製品の30個の電気ケトルの因子得点をもとにクラスター分析を行い、5つのグループに分類した。次に、因子空間上での既製品の散布の様子から特徴を把握した。最後に、現行市場にはみられない属性を持つ電気ケトルを考案することで新しいデザインの創出が可能になると考え、手軽さ因子以外の3つの因子を重視しつつキャラクター性因子に特化したデザインとするコンセプトを導出した。














ステップ④:コンセプトの決定

今までの電気ケトルを観察し、観察による気づきから、キャラクター性因子に特化させるため新しく設定する特徴を創出した。ほぼすべての電気ケトルは安定的な形をしているが、使用せず机上に置いているときも浮いている印象を創出できれば、使われていないときも水を注ぐようなイメージを創出できると考え、「浮遊感」をデザインコンセプトとして形体を検討した。



アイデア展開と提案

初期案

図❹ 初期案

導出したコンセプトに基づき、アイデアスケッチを行った(図❹を参照)。
浮遊感の創出においては、底面に空間ができるような形状とし、踏ん張り感や重量感ができない形を目指した。






案の展開

図❺ 案の展開

3Dプリントでモックアップを制作し、想定するユーザーである大学生からフィードバックを得た(図❺を参照)。
フィードバックを基に方向性を広げたのち再検討し、一つに絞った。








図❻ 使い心地の検証とフィードバックの様子

厚紙による簡易モックを作り、取手の握りやすさの検証やシルエットの細かい調整を行った(図❻を参照)。












最終提案

図❼ 最終デザイン

製品となる際の安定性の考慮を行いつつ注ぎ口の再構成を行い、最終デザインを決定した(図❼を参照)。









考察

本発表では、調査・分析に関する4つのステップを通じてコンセプトを導出し、デザインの検討、創出を行った。キャラクター因子としての「浮遊感」をデザインコンセプトとして決定した以降は、発表者自身の気づきや感性による部分で造形を決定したところもあったが、このようなプロセスを用いることで説得力のあるデザインを創出できるのではないかと考える。