バックキャスティングにおけるシナリオの質と創造性発揮のための動機づけとの関係

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2021年10月15日 (金) 16:53時点における磯野誠 (トーク | 投稿記録)による版
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磯野 誠 / 公立鳥取環境大学 経営学部 ← 氏名 / 所属(筆頭者)
Makoto Isono / Tottori University of Environmental Studies ← 氏名 / 所属 の英語表記(筆頭者)

Keywords: Backcasting, Scenario, Creativity, Motivation ← キーワード(斜体)


Abstract
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1. バックキャスティングによるイノベーション機会の特定

 持続性研究において、バックキャスティングとは、望ましい未来像を描き、その未来像をいかにして実現するかの道筋を計画立てるために、未来から現在へと見通しをつけることと定義される(Quist & Vergragt 2011)。ここで望ましい未来像は、ビジョンと呼ばれ、そのビジョンとビジョン実現に至る道筋のセットは、シナリオと呼ばれる(Kishita et al. 2016)。バックキャスティングを用いることで、持続可能社会の実現に求められるイノベーション機会が特定され得る(Dreborg 1996)。ただし、バックキャスティングを用いればいつもイノベーション機会が特定できるわけではなく、バックキャスティングにもより効果的な場合とそうでない場合とがあり得るであろう。特に、シナリオの質、すなわち未来像とそれへの道筋の描かれ方の、イノベーション機会の特定への影響についての知見は見当たらない。  バックキャスティングは、持続性社会実現に伴う、技術的、文化的、社会的、制度的、組織的課題といった多岐にわたる課題解決のために、多様な関係者によって担われる(Quist & Vergragt 2011)。多様な関係者によるイノベーション創出とは、組織メンバーの心理を含む組織的課題として捉えることができる。また、イノベーション創出には創造性が起因し、創造性の発揮には、動機づけが重要な役割を果たす(Amabile 1988)。  そこで本研究では、バックキャスティングにおけるシナリオの質と、それによるイノベーション機会の特定との関係について、イノベーション機会の特定に求められる関係者による創造性発揮に対する動機づけに注目して、検討したい。ここでその検討に際して援用する理論とは、心理学における動機づけに関する自己決定理論と時間的展望理論である。

2.自己決定理論、未来展望理論と創造性発揮の動機づけ

 多様な関係者によって担われるバックキャスティングにおいて、シナリオとは、彼らが抱く集団の目標として見ることができる。集団の目標がそのメンバーに果たす役割として、時間的展望概念を提唱したLewin (1997)は、集団が、A.より大きな価値を持つ目標に立ち向かう時、B.その目標の達成可能性がより高い時、彼らのモラールが高まる、すなわち彼らの目標に向かう行動を動機づけると主張した。  しかし大きな価値を持つ目標であっても、それが彼ら自身のものではなく、集団のものである限り、必ずしもいつも、彼らを動機づけるとは言えないだろう。集団の目標である以上、関係者にとってはそれは外発的な目標であり、それによって動機づけられるときには、外発的に動機づけられることになる。  Deci & Ryan (1980)が主張した自己決定理論によれば、外発的動機づけは、自律性が感じられる程度により、外的調整のもの(報酬のためによる時など)から、統合のもの(将来の目標のためによる時など)などに分類される。その上で、外的調整による外発的動機づけが自律性をより感じられないが故に、導かれた行動はより低い効果に繋がり、持続しない一方、統合による外発的動機づけが自律性をより感じられることができる故に、最も内発的動機づけに近く、導かれた行動はより高い効果に繋がり、持続するとされる。  これらのことを、バックキャスティングにおける(関係者にとっての目標である)シナリオの質と、関係者による(現在の行動である)創造性発揮の動機づけとの関係に応用すれば、次の仮説が導出される。  仮説1 シナリオが、関係者にとって、より自律性が感じられない上で、その価値が認識されるものである時、それは、彼らによる創造性発揮に対する、外的調整の外発的動機づけとなり、より自律性が感じられる上で、その価値が認識されるものであるとき、それは、彼らの創造性発揮に対する、統合の外発的動機づけとなる。  仮説2 シナリオが、関係者の創造性発揮に対する、外的調整の外発的動機づけとなる時のアイデア創造性は、統合の外発的動機づけとなる時のそれよりも、より低い。

 その上で、Lewinの主張Aから、次のような仮説が導かれる。  仮説3 シナリオが、関係者によって、より大きな価値が認識されるものである場合、それは、開発者の創造性発揮を、より動機づける。

 さらに、Lewinの主張Bは、Aが前提となることを踏まえれば、主張Bから、次のような仮説が導かれる。  仮説4 シナリオが、関係者によって大きな価値が認識されるもので、かつシナリオの達成可能性が高いと認識される時、それは、シナリオが、関係者によって大きな価値が認識されるもので、かつシナリオの達成可能性が低いとは認識される時よりも、関係者の創造性発揮を、より動機づける。

3. 今後の予定

 今後は、仮説検証のために、シナリオの質を含めた統制条件を与える実験調査を実施する予定である。

参考文献

Amabile, T. M. (1988) "A Model of Creativity and Innovation in Organizations," Research in Organizational Behavior, 10, 123-167.
Deci, E. L. and Ryan, R. M. (1980) “The Empirical Exploration of Intrinsic Motivational Processes,” Advances in Experimental Social Psychology, 13, 39-80.
Dreborg, K. H. (1996) "Essence of Backcasting," Futures, 28(9), 813-828.
Kishita, Y., Harta, K., Uwasu, M., Umeda, Y. (2016) “Research Needs and Challenges Faced in Supporting Scenario Design in Sustainability Science: A Literature Review,” Sustainability Science, 11(2), 331-347.
Lewin, K. (1997) Field Theory in Social Science: Selected Theoretical Papers, American Psychological Association. (猪俣佐登留訳 (2017) 「社会科学における場の理論」 ちとせプレス。)
Quist, J., Thissen, W. & Vergragt, P. J. (2011) "The Impact and Spin-off of Participatory backcasting: From Vision to Niche," Technological Forecasting and social change, 78(5), 883-897.
Vergragt, P. J. & Quist, J. (2011) “Backcasting for Sustainability: Introduction to the Special Issue,” Technological Forecasting and Social Change, 78(5), 747-755.