有事の際の市民の避難についてのデザイン研究

提供: JSSD5th2021
2021年10月20日 (水) 17:05時点における土肥真維華 (トーク | 投稿記録)による版 (フィールド調査2 危機管理の専門家へのヒアリング調査)
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土肥真維華 / 九州大学大学院 芸術工学府
Maika DOI / Kyushu University
平井康之 / 九州大学大学院 芸術工学研究院
Yasuyuki HIRAI / Kyushu University

Keywords: ハザードマップ, 弾道ミサイル, 避難行動


Abstract
Many citizens are inadequately prepared in terms of awareness and information about evacuation actions in the event of an armed attack. From the perspective of communication design, this study tries to clarify the requirements for information that needs to be shared with citizens to take evacuation actions voluntary. In addition, a prototype hazard map designed to help citizens perceive a ballistic missile attack as their own will be developed and verified.



背景と目的

 内閣府によって実施されたアンケート調査において、2017年8月29日及び9月15日の北朝鮮からの弾道ミサイル発射を知った第一印象として「漠然とした不安を感じたが、身の危険や恐怖までは感じなかった」と回答した人が両日ともに約60%と最も多かった。このことから、多くの市民は武力攻撃を受けることについて自分ごととして捉えることができていないと考えられる。また、ミサイル発射を知って実際に避難した人は20%にも届かなかった。この結果から、多くの市民は弾道ミサイル攻撃の際の避難行動についての意識の面と情報の面で備えが不十分であると考えた。本研究において有事を弾道ミサイル攻撃の場合と定義する。  本研究ではコミュニケーションデザインの視点から、弾道ミサイル攻撃の際に自身の身を守る行動について把握できていない市民を対象に、避難行動を自発的に行うために共有する必要がある情報の要件を明確化することを目的とする。さらに、市民が弾道ミサイル攻撃を自分ごととして捉えやすくなるようにデザインしたハザードマップのプロトタイプを作成し、検証を行う。


研究の方法

 本研究では、まず文献調査として、防災ハザードマップや防災ブックから防災における文献を調査する。次に、弾道ミサイル攻撃における避難についての文献を調査する。以上2つの文献調査から要件を抽出する。  次に、ユーザー視点でマップを作成するため、市民にユーザーヒアリング調査を行い、弾道ミサイル攻撃に対する意識と避難行動に関する知識について現状の課題を抽出する。文献調査とユーザーヒアリング調査を元に掲載すべき情報を決定し、「弾道ミサイル攻撃におけるハザードマップ」を作成する。  作成したマップを元に、危機管理の専門家へのヒアリング調査を行い、ハザードマップの要件と掲載情報について意見を得る。



文献調査

 本研究では、まず文献調査として、防災ハザードマップや防災ブックから防災における文献を調査する。次に、弾道ミサイル攻撃における避難についての文献を調査する。以上2つの文献調査から要件を抽出する。まず、防災における文献として、「福岡県防災ハンドブック 防災の基礎を学ぶ」「福岡市浸水ハザードマップ[南区版]」「福岡市防災マップ[南区版]」「東京防災」を調査した。次に、弾道ミサイル攻撃における避難についての文献として、「内閣官房 国民保護ポータルサイト」「内閣官房 武力攻撃やテロなどから身を守るために」を調査した。  以上2つの文献調査から、利用者にとって、被害を受ける地域について分かる、避難場所について分かる、避難のリテラシーについて分かる、日頃からできる備えについて分かるというハザードマップの4つの要件を抽出した。[図1]


フィールド調査1 ユーザーヒアリング調査

 有事の際の市民の意識と行動について把握するため、20代男女8名にヒアリング調査を行った。ヒアリング調査では、被験者に「弾道ミサイルの発射を知らせる全国瞬時警報システム(Jアラート)の通知が来たとき、どう行動するか?」という質問をし、自らがとると想定される行動について聞き取った。

 被験者からまず最初の思考として最も多く挙がったのは、「デマなのではないかと考える」という意見だった。そして次に「どうすべきかが分からない」「とりあえずスマートフォンで調べる」「どこへ逃げれば助かるのかが分からない」といった行動の選択についてすぐには判断ができないという意見を得られた。加えて、内閣官房国民保護ポータルサイト内に「弾道ミサイル落下時の行動について」という掲載はされているが、それを知る者は被験者の中にはいなかった。このことから、状況に応じた行動の順序を示すことが重要であると分かった。本調査と文献調査を踏まえ、「弾道ミサイル攻撃におけるハザードマップver.1」を作成した。[図2,3,4,5,6]




フィールド調査2 危機管理の専門家へのヒアリング調査

 作成した「弾道ミサイル攻撃におけるハザードマップ」の掲載情報について危機管理の専門家である元陸上自衛官4名[表1]にヒアリング調査を行った。質問事項を[表2]に示す。

表1.ヒアリングを行った危機管理の専門家
専門家 陸上自衛隊最終階級 陸上自衛隊最終役職 専門
A 陸将 中央即応集団司令官
B 陸将補 陸上自衛隊化学学校長
C 一等陸佐 防衛大学校教授
D 一等陸佐 自衛隊体育学校企画室長 総合運用(陸上自衛隊普通科職種)


表2.ヒアリングでの質問事項
質問事項
1 どのようなマップを作るべきか
2 全体の構成はこれで十分か
3 ハザードマップ1(避難行動概要)に入れるべき項目とご意見
4 ハザードマップ2(避難行動中の突発的事項への対処)に入れるべき項目とご意見
5 ハザードマップ3(通常兵器以外の留意点)に入れるべき項目とご意見
6 ハザードマップ4(日頃からの備え)に入れるべき項目とご意見
7 ハザードマップ5(弾道ミサイル攻撃を自分ごととして捉えてもらうページを検討中。過去の戦争体験との関係)に入れるべき項目とご意見
8 その他お気づきの点について

 本調査によって、文献調査で抽出したハザードマップの4つの要件と掲載情報について検証をした。その結果、ハザードマップの4つの要件は妥当であると意見をいただいた。一方、掲載情報については、警報発令による避難に使うことができる目安の時間、優先度の高い避難行動、一時的に避難してから行政指示を得るまでの間にすべきことなど市民が知っておくべき追加情報を得られた。これを踏まえて「弾道ミサイル攻撃におけるハザードマップver.2」を作成した。[図7,8,9]




結果

 「武力攻撃におけるハザードマップver.2」について危機管理の専門家4名による評価を実施した。「武力攻撃におけるハザードマップver.2」はver.1と比べ、より具体的な時間感覚と市民がとるべき行動を示すことができており、掲載項目に関しても有用性の高いものになっているとの評価を受けた。


考察

 ハザードマップの4つの要件によってマップに必要な情報を網羅的に取り入れることができた。 コミュニケーションデザインの視点から、ユーザーヒアリング調査で得られた意見を取り入れた。さらに、情報をマップ化することで、時間空間をイメージしやすい可視化を行った。  具体的には、ユーザーヒアリング調査における、警報が鳴っても「デマなのではないかと考える」という意見について、警報が鳴る仕組みをマップに取り入れ、ユーザーが理解することで、それが冗談ではないと認識することができる。他にも、何が起こるか、何をすべきか、何を備えるべきかを明確に記載することで、行動の判断材料を示した。加えて、過去の事例を示すことで、被害規模が理解しやすいように表した。


まとめ

 本研究では、弾道ミサイル攻撃の際に自身の身を守る行動について把握できていない市民を対象に、避難行動を自発的に行うために共有する必要がある情報の要件として、ハザードマップの4つの要件を導出した。  危機管理の専門家の意見を取り入れ、「弾道ミサイルハザードマップ」に必要な情報を整理した。整理した情報をコミュニケーションデザインの視点からハザードマップに表すことができた。  今後の展望として、このプロトタイプについて市民によるユーザー調査を行い、評価を行う予定である。


脚注


参考文献・参考サイト

  • ◯◯◯◯◯(20XX) ◯◯◯◯ ◯◯学会誌 Vol.◯◯
  • ◯◯◯◯◯(19xx) ◯◯◯◯ ◯◯図書
  • ◯◯◯◯◯(1955) ◯◯◯◯ ◯◯書院